給与計算の差引支給額とは?~総支給額との違いや計算方法を解説~
従業員の手取り額となる差引支給額は、総支給額から控除を差し引いた分の金額です。本記事では、なぜ総支給額がそのまま給料にはならないのか、控除として差し引かれている内訳には何が含まれているのかを解説します。計算式も分かりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
差引支給額とは「手取り額」のこと
差引支給額とは、総支給額から各種控除が引かれた金額で、従業員が実際に受け取る給与額のことを指します。つまり、「差引支給額=手取り額」となります。
差し引かれる控除は、健康保険料や厚生年金保険料、所得税や住民税などさまざまです。細かな内訳は給与明細に記載されているため、毎月の明細を必ず確認しましょう。
また、会社の規定によって欠勤控除や遅刻早退控除などが差し引かれる場合もあります。控除の詳しい計算方法は就業規則の給与規定に記載されているため、確認して計算ミスなどがないかをチェックしてみてください。
▷無料で使える給与計算ソフトおすすめ10選!機能や選び方も解説
▷【2024年最新版】給与計算ソフトおすすめ11選!タイプ・規模別に徹底比較
差引支給額と総支給額との違い
そもそも総支給額とは、会社側が従業員に対して支払った金額の合計のことで、額面給与とも呼ばれています。
従業員の雇用形態によって支払われる基本給のほかにも、残業手当や住宅関連手当といった各種手当をすべて加えているものが総支給額です。また、総支給額は年末調整にも使用します。
差引支給額は、従業員が実際に受け取ることになる金額のことで、「基本給+各種手当-欠勤控除」で計算が可能です。手取り給与とも言われており、この金額が従業員の手元に入る給料となります。
基本的に、会社の紹介時やハローワークなどで紹介されている企業の年収は、差引支給額ではなく総支給額が紹介されています。仕事を探す時は、紹介されている年収から控除が引かれるということを前提に考えておきましょう。
給与明細によって総支給額と差引支給額を把握することは、従業員が「自分がどれだけの給与を受け取っているか」の確認になり、会社側もきちんと給料を支払っていることの証明書にもなります。
給与明細をもらった時に総支給額と差引支給額を確認して、手取り額がいくらになるのかを把握しておきましょう。
▷基本給とは?給与や手取りとの違いは?低い場合のデメリットも解説
差引支給額の給与計算方法
差引支給額が何円になるかは、総支給額から各種控除を差し引くことによって分かります。雇用条件や地域によって差異はありますが、差引支給額は基本的に総支給額の8割程度の金額です。
しかし、初任給であれば社会保険料や住民税といった控除が差し引かれないため、計算方法に注意する必要があります。差引支給額を導き出すための計算式自体は簡単で、次のとおりです。
総支給額-控除額=差引支給額
計算式自体はシンプルとなっていますが、差し引く控除額の内訳は細かく、給与計算をしたことがない方から見ると少しややこしく感じるかもしれません。しかし、控除額に何が含まれているかを把握することで、自分の手取り額がいくらになるかが明確になります。
給与計算における控除額の内訳
給与計算をする際は、社会保険料や雇用保険料、所得税などさまざまな控除も計算する必要があります。ここからは、各控除額の内訳や計算方法などを詳しく解説します。
社会保険料
従業員がけがや病気などを負ったことで仕事ができなくなった時のために加入している社会保険等の保険料も控除額に入っています。社会保険には、以下の3種類があります。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
怪我や疾病、出産の際などは、社会保険から保険料が支払われます。社会保険料は、以下の式で計算が可能です。
社会保険料=標準報酬月額×各種社会保険料率÷2
標準報酬月額を決定する方法として、定時決定や随時決定などの方法を選ぶ会社がほとんどです。定時決定では、毎年4〜6月の3カか月間の賃金をベースとして、同年の9月に見直しを行います。
標準報酬月額の改定は年に一度なので、9月〜翌年の8月までは同じ標準報酬月額を使用して社会保険料を計算します。
また、随時決定の方法では、従業員の昇給や降給といった給与体系が変更した時や通勤手当が変わった時など、賃金の変動があった際に次月以降に継続した3か月間の報酬平均月額を標準報酬月額の区分とする点が主な違いです。
そこから現在使用している標準報酬月額との間に2等級以上の差が発生した時、随時改定が行われます。社会保険は会社と従業員が半分ずつ支払うため、2で割って従業員が支払う保険料を算出しましょう。なお、介護保険料は40歳から65歳の人が支払い対象となるため、間違えて計算しないように注意が必要です。
雇用保険料
雇用保険とは、従業員が失業ややむを得ない事情で雇用の継続が難しくなった場合に、再就職するまでの生活を支援する保険のことです。以下の加入要件を満たしていると加入対象となります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
雇用保険料は、以下の式で計算を行います。
雇用保険料=総支給額×従業員が負担する雇用保険料率
雇用保険料率は、会社側と従業員側で利率が異なります。毎年改定されるため、厚生労働省のホームページから確認しましょう。
[出典:厚生労働省「雇用保険料率について」]
所得税
所得税は毎年1月1日から12月31日までの所得に対してかかる税金のことで、従業員の所得額によって税率は変動します。所得税は、支給額のすべてにかかるのではなく、「課税所得額」のみに課税される点に注意が必要です。
課税所得額は、「総支給額-必要経費-各種所得控除額」で計算します。次に、導き出した課税所得額に所得税率をかけて、所得税の額を算出しましょう。所得税率は、平成27年分以後は以下のように定められています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
[出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」]
住民税
住民税は、従業員の居住地域に納める税金のことです。前年度の所得額を基にして金額の計算がされ、毎月の総支給額から差し引かれます。そのため、前年度に所得がない場合は、住民税は発生しません。
住民税は、所得に応じて決まる「所得割」と、所得に関わらず一定額が課される「均等割」の2つがあります。
所得割は、「課税所得金額×税率(10%)-税額控除額」で計算します。
均等割は4,000円とされていますが、2014年~2023年までは各自治体の防災費として合計1,000円が徴収されて5,000円、2024年からは森林環境税1,000円が徴収されるため、徴収額は5,000円です。
上記の金額を基に、住民税は以下の計算式で計算を行いましょう。
住民税=所得割額+均等割額(5,000円)
[出典:総務省「個人住民税」]
財形貯蓄・積立金
財形貯蓄や積立金は法律によって定められている控除ではなく、会社の規定により差し引かれる場合がある控除です。
財形貯蓄は、財形貯蓄制度を設けている会社で、福利厚生の一環として従業員が利用できます。会社と提携している金融機関で従業員が給与の一部を積み立てて、確実に貯蓄することが可能です。
会社との規定や契約期間によって、貯蓄していたお金の払いだしや積み立ての中断時期について個別の条件が設けられている場合もあるため、事前に会社の規定を確認しておきましょう。
差引支給額を計算する際の注意点
差引支給額を計算する際は、正確な計算や残業手当の割増率への注意など、さまざまな注意点があります。ここからは、具体的な注意点を3つ紹介します。
正確に計算を行う
給与計算は、ミスが許されない業務です。もし計算ミスが発生すると、従業員の生活にも大きく関わるだけではなく、信頼を失ってしまう可能性もあります。また、税額に誤りがあると罰則や追徴課税が課される恐れがあるため、特に注意が必要です。
そのため、給与計算は何度も繰り返しチェックしたり、ダブルチェックの体制を整えたりするなどして、正確に計算を行うようにしましょう。
残業手当の割増率に注意する
残業手当などの各種手当を計算する際は、割増率に注意しましょう。時間外労働・休日労働・深夜労働などは、条件によって割増率が変動します。
労働した日や時間などによって、割増率が絡み合って計算が複雑になる場合もあるため、計算ミスをしないように入念にチェックしましょう。具体的な割増率は、以下のとおりです。
種類 | 条件 | 割増率 |
時間外手当・残業手当 | 1日8時間または週40時間を超えて労働した時 | 25%以上 |
時間外労働が限度時間(1か月45時間、1年360時間など)を超えた時 | 25%以上 | |
1か月の労働時間が60時間を超えた時 | 50%以上 | |
休日手当 | 法定休日(週1日)に労働させた時 | 35%以上 |
深夜手当 | 22時から5時までに労働させた時 | 25%以上 |
[出典:厚生労働省「しっかりマスター 割増賃金編」]
▷給与計算のミスを防止するには?5つの原因と対策方法を徹底解説
マイナス控除が発生した場合は適切に対処する
マイナス控除とは、給与明細の控除額がマイナスになることです。原因としては、年末調整の還付や給与計算のミスなどがあげられます。
マイナス控除が発生した場合は、従業員への返金を行わなければなりません。速やかに対応して、該当する従業員へ謝罪しましょう。誠実に対応すれば大きな問題に発展することはないため、冷静かつ適切な対処が必要です。
給与計算を効率化する方法
給与計算は、従業員一人ひとりの賃金や税金に関わってくる大切な業務であり、計算ミスが発生すると信頼関係に亀裂を入れるだけでなく、大きなトラブルにつながる可能性もあります。
効率化するためにも、給与計算ソフトの利用を検討しましょう。給与計算ソフトは、全従業員の給与計算を一括で行えるツールで、自動で勤怠情報を抽出して計算を行うため、計算ミスが発生することはありません。給与計算業務の自動化が実現するため、担当者の負担を大幅に軽減できる点もメリットの一つです。
また、給与明細をメールで配信することもでき、印刷するコストや手渡しする手間も削減可能です。ペーパーレス化も促進できるうえに、ほかの従業員の給与明細を誤って手渡しするトラブルも防げます。
▷給与計算を自動化・効率化するには?メリット・デメリットを徹底解説
差引支給額の仕組みを理解し、給与計算のミスを防ごう
総支給額から控除額を引いて算出できる差引支給額が、従業員の手取り額です。どんな控除が総支給額から引かれているのか把握することで、自分に関わる控除について理解できます。
自分の手元に入る給料がどうしてこの金額になるのか確認したい方は、今回紹介した計算式を活用して控除や差引支給額の算出を行ってみてください。
おすすめのお役立ち資料
給与計算システムの記事をもっと読む
-
ご相談・ご質問は下記ボタンのフォームからお問い合わせください。
お問い合わせはこちら