給与計算の賃金支払基礎日数とは?基礎知識から算出方法を解説
給与計算における賃金支払基礎日数や算出方法について、項目別に解説しています。また月給や日給など、従業員の働き方によって算出方法が変わる複雑な仕組みを深く理解するためにイレギュラー時まで個別で紹介しています。経営者はもちろん労務担当者にもお役に立つ情報が満載です。
目次
給与計算における賃金支払基礎日数の基礎知識
給与における賃金支払基礎日数は、給与担当者にとって知っておくべき知識です。賃金支払基礎日数とは、働いた賃金や報酬の支払対象の労働日数のことです。
例えば失業保険の受給資格を確認したりする際に、社会保険料の計算で用いる「標準報酬月額」を決める際に必要となるため、給与計算担当者は正しい理解が必要です。
今回は、賃金支払基礎日数の定義や数え方だけでなく、控除・免除が適用される場合や有給休暇を取得した際などのイレギュラー時の扱いまで見ていきましょう。
賃金支払基礎日数とは
賃金支払基礎日数とは、そもそもどう言ったことを指すのでしょうか。これは給与を支払うために計算する際に、基礎となる日数のことを指します。
最近ではさまざまな働き方があり、月給制や日給制、時間給制とで日数の数え方が異なるため、個別で注意が必要になります。では具体例を用いて、解説していきましょう。
パターン①雇用(失業)保険の受給資格を確認する際
現在、日本での失業保険の受給資格は、「離職日以前の2年間に、被保険者期間が12か月以上あること」ですが、この被保険者期間は賃金支払基礎日数をもとに考えられています。
具体的な計算方法は、「賃金支払基礎日数が11日以上である月を1か月と計算する」という取り決めとなっています。
なお、現在この計算方法は2020年8月に改正され、上記の文に加筆されており、「賃金支払基礎日数が11日以上ある月、または、賃金支払の基礎となった労働時間数が80時間以上ある月を計算する」というようになっているので、担当者は計算する際に注意が必要です。
パターン②社会保険料の計算で用いる「標準報酬月額」を決める際
社会保険料の計算をする際の標準報酬月額は、例えば4月から6月までといったように3ヶ月間の報酬で計算します。
もしも該当する3ヶ月の賃金支払基礎日数が17日未満の場合は、標準報酬月額の計算を下回った月は使えません。そのためこのような場合は、条件を満たしている2か月間で標準報酬月額を求める形となります。
給与計算における賃金支払基礎日数の数え方
では基本となる賃金支払基礎日数の数え方について見ていきましょう。支払基礎日数とは前述したとおり、賃金や報酬の支払対象となった日数のことを指します。
賃金支払基礎日数は雇用保険の基本手当(失業手当)の支給要件の基準として用いられるため、ミスのないように計算する必要があります。
基本手当(失業手当)は、賃金支払基礎日数が原則11日以上ある月の「被保険者期間」が、基本的に離職の日からさかのぼって2年間である「算定対象期間」のうち、通算12か月以上であった場合に条件を満たして支給されます。
この賃金支払基礎日数の数え方は、働き方によって完全月給制や日給月給制、日給制、時給制など賃金形態ごとに異なります。では、それぞれの働き方別で見ていきましょう。
完全月給制の場合
完全月給制とは、1ヵ月の賃金が決まっていて、たとえ欠勤しても給与が減額されない賃金形態のことです。
完全月給制の賃金支払基礎日数の数え方は、休んだ日も含め「30日」あるいは「31日」などの月ごとの暦日数を賃金支払基礎日数とするという形式です。例えば、4月21日から5月20日までの期間であれば、賃金支払基礎日数は30日となります。
日給月給制の場合
日給月給制とは、1ヵ月の賃金が決まっていて、欠勤をすると欠勤日数に応じた分の減額がされる賃金形態のことをいいます。この日給月給制の場合、一般的には下記のように計算する場合が多いです。
賃金支払基礎日数=就業規則で定められている「企業が定めた勤務日数」から「欠勤日数」を差し引いた日数
このように月給制と言っても、日給月給制と完全月給制とでは考え方がまったく異なるため、計算する際には担当者の注意が必要です。
時給制・日給制の場合
賃金形態が時給制や日給制の場合は、出勤した日数がそのまま賃金支払基礎日数となります。そのため、有給休暇は賃金の支払いの対象になります。
有給休暇で休んだ日があっても、賃金支払基礎日数に加算することを忘れないように担当者は注意が必要です。時給制や日給制は、1時間や1日あたりの賃金の単価が決められていて、働いた時間や日数によって賃金が支払われるしくみです。パートやアルバイトなどの賃金形態がそれに当たる場合が多いです。
給与計算における賃金支払基礎日数で気を付けるポイント
これまで賃金支払基礎日数の計算にあたって解説してきましたが、注意すべきポイントがいくつかあります。中でも特別休暇や有給休暇、休職の扱いなどは人によってさまざまなケースがあるため複雑な場合も多く、特に注意が必要と言えるでしょう。
休暇に該当する日に労働しないという点では同じですが、賃金の支払対象であるか否かで、賃金支払基礎日数に算入するものとしないものにわかれることが注意点となります。
基本的に雇用保険の基本手当は、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が2年間のうちに通算12か月以上ある場合に支給されるものであるため、賃金支払基礎日数の算出の際に注意すべきポイントを詳しく見ていきましょう。
特別休暇の扱い
特別休暇は有給休暇や結婚休暇と同様に賃金支払基礎日数に含まれます。賃金支払基礎日数に含まれる要件として現実に労働したかは問われないため、賃金支払いの対象となった日であれば算入されます。
そのため、「休暇」という名称がついている場合であっても、特別休暇や有給休暇は賃金支払基礎日数に入れることを忘れないように注意が必要です。
休職の扱い
一般的に休職中の期間は賃金の支払いが発生しないため、賃金支払基礎日数をカウントする際には含まれません。これには休職の事由として、業務外の事故や病気などが挙げられるからです。
これらを事由とした休職と先にお伝えした特別休暇や有給休暇とは、会社を休んでいるという点では同じなのですが、賃金支払いの有無において異なるため、担当者がとても間違えやすいです。休暇と休職を区別して算出する点に注意してください。
雇用保険の扱い
賃金支払基礎日数が雇用保険の基本手当(失業給付)を支給する際の要件として基準で用いられることは、既にお伝えしたとおりです。
具体的には、原則、離職の日からさかのぼった2年間のうち算定支払基礎日数が11日以上ある月が、通算12か月以上あれば雇用保険の基本手当が支給されます。
さらに2020年8月以降は、雇用保険法の改正により、離職日から1ヵ月ごとに区切った期間に賃金支払日数が11日以上なくても、被保険者期間として通算されるようになりました。
1ヵ月ごとに区切った期間に「賃金支払の基礎となった労働時間が80時間以上」あれば、カウントされるようになっている点も留意して、担当者は業務を進める必要があります。
土日の扱い
では土日の扱いについては、一体どうなっているのでしょうか。詳しく見ていきましょう。土日の扱いについては、日にち単位で数えるか月・週単位で数えるかによって異なってきます。
例えば日給制などの日にち単位で考える場合は土日に働いた際は含めますが、働いていなければ当然含めません。その一方で、週・月単位で考える場合は、暦日数がそのまま基礎日数になり土日に働いていないとしても含めるため、この点を留意しておく必要があると言えます。
欠勤控除が適用される場合の扱い
では続いて欠勤控除が適用される場合について詳しく見ていきましょう。欠勤控除が適用される場合は、週給制・月給制の計算方法が変わります。
これまでは暦日数を基礎日数としていましたが、欠勤控除が適用される場合、企業の就業規則等に基づき定められた「所定労働日数」から「欠勤日数」を引くことによって賃金支払基礎日数を算出できます。
例えば、所定労働日数が22日、欠勤日数が4日である場合は、賃金支払基礎日数は18日です。ここで起きやすいのは、暦日数から欠勤日数を引いてしまうというパターンです。注意すべき点は、「ベースとなる日数が、暦日数から所定労働日数に変わる」ということを覚えておき、算出しましょう。
所定労働時間に満たない場合
では所定労働日数に満たない場合の対処について、詳しく見ていきます。勤務時間が所定労働時間を満たさず、遅刻や早退、または半日の欠勤で欠勤控除がある場合、1時間でも勤務をしていれば支払基礎日数は1日として計算します。
有給休暇を利用した場合は、前述したとおり出勤したものとしてみなされるため、支払基礎日数としてカウントします。
また、欠勤や育児休業、介護休業などで給与の支払いがなく、報酬や支払基礎日数がゼロになることがありますが、標準報酬月額で決定する保険者算定という方法をとるため、例え労働した日がゼロ日であったとしても、算定基礎届には必ず記載することを忘れないように注意しましょう。
支払基礎日数が17日未満の月がある場合
基本的な標準報酬は、例として4月から6月までの3カ月間の報酬でカウントします。ただし、それは4、5、6月の支払基礎日数がそれぞれ17日以上であることが条件です。
では17日未満の月がある場合はどのように処理するのでしょうか。17日未満の月がある場合は、その該当する月を除いた残りの月の報酬で算定します。3カ月間とも17日未満の場合は、報酬月額で算定することになるため留意しておきましょう。
パートタイマー従業員の賃金支払基礎日数の数え方
現在の規定では、短時間就労者(アルバイトやパートタイマー)の場合には今までとは扱いが異なるため、以下の内容を参考にする必要があります。
例として4月〜6月の場合、
- 4から6月すべての月の支払基礎日数が15日未満の場合は、報酬月額によって標準報酬の算定を行います。
- 4から6月の間に支払基礎日数が15日以上で17日未満の月がある場合には、その該当する月の報酬月額、その平均で標準報酬の算定を行います。
- 4から6月の3ヶ月間のうち支払基礎日数が17日以上の月がある場合は、該当する月の報酬月額の平均によって標準報酬を算定することになります。
途中入社従業員の賃金支払基礎日数の数え方
では中途採用などで給与の締め日から締め日の間に途中入社をした場合はどのようにカウントするのか、詳しく見ていきましょう。
途中入社の場合には、入社月は給与が日割りで計算されることがほとんどです。そのため1か月分の給与としての支給はされないことがあります。
例えば4月、5月に途中入社で、入社月の給与が1か月分支給されなかった場合は、支払基礎日数が17日以上あってもその月は算定対象月に入れません。途中入社の翌月からが算定対象月になるため注意が必要です。
つまり、4月1日入社であっても、企業の給与締日が15日の場合には、初回の給与は15日分しか支給されません。このため、初月については、算定対象から外す必要があるため留意しておく必要があるでしょう。
給与計算における賃金支払基礎日数の数え方を確認しましょう
これまで詳しく解説してきたとおり、賃金支払基礎日数とは賃金や報酬を支払う対象となった日のことを指します。
これは失業手当の受給資格の確認で使用したり、社会保険料の計算で用いる標準報酬月額を決める際に用いられることから、担当者は必ずよく理解しておかなければならないと言えます。
働き方や賃金形態によってその計算方法が異なるだけでなく、有給休暇や休職などがカウントしたり除外されたりと複雑な仕組みになっているため、内容をよく理解して留意することが重要になってきます。担当者は各事案ごとのケースを把握して、賃金支払基礎日数の算出方法を正しく理解しましょう。
まとめ
前述してきたとおり、賃金支払基礎日数は、基本手当(失業給付)を計算する際にも必要となる重要な計算です。昨今の働き方改革によってさまざまな就業形態があることからさまざまなケースが想定されます。
担当者は各項目別にきちんと算出方法を理解して、作業にあたることが望まれます。こういった仕組みをきちんと理解することで業務上での迷いやミスが軽減し、作業効率がアップします。
そのために内容を把握しておくことは、労務担当者として心がけておくべきことと言えるでしょう。
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