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労災保険とは?加入条件と労災保険料の給与計算方法

2022/05/12 2024/08/05

給与計算システム

労災保険とは

労災保険は、従業員を1人でも雇えば強制加入となります。保険料は会社が負担し、正社員だけでなくパートやアルバイトなども対象です。今回の記事では、労災保険の加入条件や給与計算方法などについて解説します。計算時の注意点や補償内容も紹介するため、ぜひ参考にしてみてください。

労災保険とは?

労災保険とは、業務上の事故や災害による怪我、業務に起因する病気や障害などについて補償する保険のことです。正式名称は「労働者災害補償保険」で、労働保険に分類されます。

事業単位で加入し、1人でも従業員を雇用していれば原則として加入しなければなりません。通勤中や業務中の怪我や病気に対する補償だけではなく、その後の労働者の社会復帰の促進なども目的としています。

労災保険の加入条件

労災保険は、従業員を1人でも雇っていればそれだけで加入条件を満たしており、事業者は加入が義務付けられています。

加入対象となるのは、正社員・パート・アルバイト・派遣労働者、日雇いなど、労働や雇用形態に関係なくすべての労働者です。しかし、原則として事業主や以下の条件を満たす人は加入対象外となります。

  • 事業主の家族
  • 海外派遣中の従業員

例外として、事業主の家族でもほかの労働者と同様の就労実態や賃金の支払いがある場合は、加入の対象です。また、海外派遣中の従業員は、事業主や自営業者などが加入対象となる特別加入制度が利用できます。

労災保険の加入手続き

従業員を雇用して労災保険の適用事業所になった場合は、所轄の労働基準監督署へ以下の書類を10日以内に提出しなければなりません。

  • 保険関係成立届
  • 労働保険概算保険料申告書
  • 履歴事項全部証明書(写)

なお、労働保険概算保険料申告書の提出期限は、保険関係の成立翌日から50日以内です。

また、加入手続きの際は、その年度分の労働保険料を概算保険料として申告し納付します。労働保険料は、労災保険の成立した日から当該年度の末日までに会社が従業員に支払う給料などの見込み額に一定の保険料率を掛けて計算します。

労災保険が適用される災害

労災保険が適用されるのは、通勤災害・業務災害・複数業務要因災害の3つです。ここからは、それぞれの概要や具体例を詳しく解説します。

通勤災害

通勤災害とは、自宅から職場までの往復の通勤中に発生する傷病のことです。合理的な経路と方法を使用し、業務に必要な移動をしている場合に認められます。

例えば、以下のようなケースが対象です。

  • 自宅から職場までを就業のために移動した場合
  • 事業場から別の事業場へ移動した場合
  • 単身赴任先の住居と帰省先の住居間を移動した場合 など

業務に必要な移動のみが対象となるため、退勤後に友人と食事に行き、その帰り道に事故に遭った場合などは対象外となります。

通勤手当とは?課税・非課税や支給上限・計算方法ついて解説

業務災害

業務災害とは、業務中に生じた病気や怪我、障害や死亡などを指します。例えば、以下のような事例が対象です。

  • 倉庫の整理中に、棚から物が落ちてきて怪我をした場合
  • 高所作業中に転倒して怪我をした場合
  • 職場の階段で足を滑らせてしまい、落下して怪我をした場合 など

休憩時間や時間外労働中でも、職場の施設や設備が起因して事故が起きた場合は対象となります。一方で、勤務時間中に私用で外出して外出先で怪我をした場合など、業務が原因ではない傷病は対象にならない点に注意しましょう。

複数業務要因災害

複数業務要因災害は、事業主が異なる複数の事業場で働く労働者が、業務を要因とする傷病を負った場合を指します。脳・心臓疾患や精神障害などが対象の傷病となります。

労災認定においては、複数の事業場における業務上の負荷を総合的に評価される点が特徴です。

労災保険の補償内容

労災保険では、労災認定されると休業等給付や療養等給付など、さまざまな補償が受けられます。ここからは、それぞれの補償内容を詳しく解説します。

休業等給付

休業等給付は、労災の療養のために仕事を休み、賃金が受け取れない場合に給付される補償です。支給額は以下のとおりです。

  • 休業4日目から給付基礎日額の60%相当
  • 特別支給として4日目から給付基礎日額の20%

上記のとおり、4日目から実質80%が支給されます。3日目までは休業等給付はありませんが、有給休暇を取得することが可能です。

有給休暇を取得しない場合は、業務災害が休業の原因であれば事業主が休業補償を支払う必要があります。休業補償は、1日につき平均賃金の60%です。

療養等給付

療養等給付は、労災で負った傷病を治療する際に治療費が受け取れる補償です。

労働災害が原因の傷病は、健康保険ではなく労災保険を利用します。労災病院や労災保険指定医療機関であれば、労働災害であることを窓口で伝えると、自己負担なしで治療を受けることが可能です。

指定医療機関以外で治療を受けた場合は、所轄の労働基準監督署に請求することで実際にかかった費用を支給してもらえます。

遺族等給付

遺族等給付は、労災によって従業員が死亡した場合に遺族に対して支給される補償のことです。遺族等給付には、以下の2種類があります。

  • 遺族等年金
  • 遺族補償一時金

遺族等年金は、労災で死亡した従業員の遺族のうち、従業員の収入で生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹に支給される年金です。遺族の人数に応じて、給付基礎日額の153日分〜245日分の年金と算定基礎日額の153日分〜245日分の遺族特別年金、遺族特別支給金(一時金)300万円が支払われます。

遺族補償一時金は、遺族等年金を受け取る遺族がいない時に支給される補償です。配偶者や従業員の収入で生計を維持していた子、父母、孫、祖父母のほか、兄弟姉妹などが支給対象となります。

障害等給付

障害等給付は、労災が原因の病気や怪我によって障害が残った場合に受けられる補償です。障害等給付は、以下の2種類があります。

  • 障害等年金
  • 障害等一時金

障害等年金は、労災によって障害等級第1級〜第7級に当てはまる障害が残った場合に支給される年金です。障害等級に応じて、給付基礎日額の131日分〜313日分の年金と算定基礎日額の131日分〜313日分の障害特別年金、159万円〜342万円の障害特別支給金(一時金)が支給されます。

障害等一時金は、労災によって障害等級第8級〜第14級に当てはまる障害が残った場合に支給される一時金です。障害等級に応じて、給付基礎日額の56日分〜503日分の一時金と算定基礎日額の56日分〜503日分の障害特別一時金、8万円〜65万円の障害特別支給金(一時金)が支払われます。

葬祭料等

葬祭料等は、労災で死亡した従業員の葬祭を行う際に支給される補償です。

31万5,000円に給付基礎日額の30日分を加えた金額、もしくは給付基礎日額の60日分の金額のどちらか多い方が支給されます。

介護等給付

介護等給付は、障害等年金または傷病等年金を受け取っている人のうち、一定の障害があり介護を受けている人に対して支給される補償です。具体的には、以下のような場合に支給されます。

  • 障害等級が第1級または第2級の精神・神経障害
  • 胸腹部臓器の障害

常時介護と随時介護で支給額が異なり、常時介護の場合は17万7,950円を上限とする実際に支払った介護費用、随時介護は88,980円を上限とする実際に支払った介護費用が支給額です。

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傷病等年金

傷病等年金は、労災による傷病の療養を開始して1年6か月を経過しても治らない、または傷病による障害の程度が傷病等級第1級〜第3級に該当する場合に支給される年金です。

支給額は、障害等級に応じて給付基礎日額の245日分〜313日分の給付金(年金)、算定基礎日額の245日分〜313日分の傷病特別年金、100万円〜114万円の傷病特別支給金(一時金)となります。

労災保険料の計算方法

労災保険料は、「全従業員の賃金総額×労災保険料率」で計算を行います。ここからは、賃金総額や労災保険料率の概要と、労災保険料の計算例を紹介します。

賃金総額とは

賃金総額とは、事業主や法人役員などの賃金を除く、全従業員に支払った賃金の総額のことです。

しかし、全従業員に支払った賃金の総額のうち、賃金総額に含まれる項目と含まれない項目があるため注意しましょう。それぞれの項目は以下のとおりです。

【賃金総額に含まれる項目】

  • 基本給
  • 賞与
  • 通勤手当
  • 残業手当、休日手当、深夜手当などの各種手当
  • 前払い退職金
  • 労働者の負担分を事業者が負担する場合の雇用保険料や社会保険料 など

【賃金総額に含まれない項目】

  • 役員報酬
  • 出張・宿泊費
  • 結婚祝金、災害見舞金、私傷病見舞金、死亡弔慰金、退職金
  • 休業補償費、傷病手当金
  • 会社が全額負担する生命保険の掛金 など

労災保険率とは

労災保険率は、事業種別ごとに異なるため注意が必要です。業務の危険度などに応じて、以下のように定められています。

(単位:1/1,000)

事業の種類の分類業種番号事業の種類労災保険率
林業02または03林業52
漁業11海面漁業(定置網漁業または海面魚類養殖業を除く。)18
12定置網漁業または海面魚類養殖業37
鉱業21金属鉱業、非金属鉱業(石灰石鉱業またはドロマイト鉱業を除く。)または石炭鉱業88
23石灰石鉱業またはドロマイト鉱業13
24原油または天然ガス鉱業2.5
25採石業37
26その他の鉱業26
建設事業31水力発電施設、ずい道等新設事業34
32道路新設事業11
33舗装工事業9
34鉄道または軌道新設事業9
35建築事業(既設建築物設備工事業を除く。)9.5
38既設建築物設備工事業12
36機械装置の組立てまたは据付けの事業6
37その他の建設事業15
製造業41食料品製造業5.5
42繊維工業または繊維製品製造業4
44木材または木製品製13
45パルプまたは紙製造業7
46印刷または製本業3.5
47化学工業4.5
48ガラスまたはセメント製造業6
66コンクリート製造業13
62陶磁器製品製造業17
49その他の窯業または土石製品製造業23
50金属精錬業(非鉄金属精錬業を除く。)6.5
51非鉄金属精錬業7
52金属材料品製造業(鋳物業を除く。)5
53鋳物業16
54金属製品製造業または金属加工業(洋食器、刃物、手工具または一般金物製造業及びめつき業を除く。)9
63洋食器、刃物、手工具または一般金物製造業(めつき業を除く。)6.5
55めつき業6.5
56機械器具製造業(電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、船舶製造または修理業及び計量器、光学機械、時計等製造業を除く。)5
57電気機械器具製造業3
58輸送用機械器具製造業(船舶製造または修理業を除く。)4
59船舶製造または修理業23
60計量器、光学機械、時計等製造業(電気機械器具製造業を除く。)2.5
64貴金属製品、装身具、皮革製品等製造業3.5
61その他の製造業6
運輸業71交通運輸事業4
72貨物取扱事業(港湾貨物取扱事業及び港湾荷役業を除く。)8.5
73港湾貨物取扱事業(港湾荷役業を除く。)9
74港湾荷役業12
電気、ガス、水道または熱供給の事業81電気、ガス、水道または熱供給の事業3
その他の事業95農業または海面漁業以外の漁業13
91清掃、火葬またはと畜の事業13
93ビルメンテナンス業6
96倉庫業、警備業、消毒または害虫駆除の事業またはゴルフ場の事業6.5
97通信業、放送業、新聞業または出版業2.5
98卸売業・小売業、飲食店または宿泊業3
99金融業、保険業または不動産業2.5
94その他の各種事業3
船舶所有者の事業90船舶所有者の事業42

(令和6年4月1日施行)

[出典:厚生労働省「労災保険率表」]

労災保険料の計算例

ここまでご紹介した賃金総額や労災保険料率を基に、労災保険料の計算例を見ていきましょう。

例えば、全従業員数が40人で、退職金や一時金を除く平均年収が530万円の食品製造業の場合は、以下のように計算します。

  • 労災保険率:5.5/1000(表の業種番号41が該当)
  • 賃金総額:530万円×40人=21,200万円
  • 労災保険料:21,200万円×5.5/1000=1,166,000円

労災保険料率は、原則として3年ごとに改定されるため注意が必要です。改定を見逃してしまうと誤った労災保険料率で計算してしまい、納付する労災保険料の金額も間違えたままとなります。

すべて手作業で確認を行っていると細かな保険料率の改定などを見逃してしまいがちですが、給与計算ソフトを活用するとミスなく計算することが可能です。

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給与計算における労災保険料計算の注意点

ここからは、給与計算における労災保険料計算の注意点を5つ紹介します

注意点を見逃してしまうと労災保険料の計算を間違えてしまう可能性があるため、しっかり確認しておきましょう。

3年に1度保険料の見直しがある

労災保険料の料率は3年に1度の見直しがあり、会社の労災状況によって保険料が変わるため、会社の予算計上には注意が必要です。

実際に、令和6年には労災保険料率の見直しがあり、内容が改定されています。例えば、林業は60/1,000から52/1,000へ、船舶所有者の事業は47/1,000から42/1,000へ改定されました。

実務では、業態に応じてベースとなる労災保険料があります。会社の労災が多ければ労災保険料も割り増しとなることがあり、労災が少なければメリットとして労災保険料が安くなることもあります。

労災が多いと国の税金の負担も増えるため、労災保険料が上がり会社の費用負担も増えてしまうのです。

複数事業の場合、事業ごとの保険率で給与計算をする

会社では一つだけでなく複数事業を展開しているケースがあります。その際は、事業の内容に応じて労災保険料を計算しなければなりません。

労災保険料率は、労災の多い業界と少ない業界で異なっている場合があるため、どのような業種に当てはまるのか事業の区分には注意が必要です。

給与計算項目を正しく把握して賃金総額を出す

労災保険対象者の給料には、労災保険の賃金として含まれるものと含まれないものがあります。労災保険の賃金に含まれるものとして、基本給、賞与、通勤手当(定期券や回数券など含む)、残業手当や各種手当、社会保険料や雇用保険料で会社が負担した場合の料金、前払い退職金などが該当します。

また、労災保険の賃金に含まれないものは、役員報酬、慶弔金や退職金などの一時的に支払われるもの、出張費、休業補償や傷病手当金、会社が負担する生命保険料などです。

労災保険料を計算する際は、その対象となる賃金と対象とならない金額の1年分の総額を計算する必要があるため注意が必要です。

従業員に支払う賃金を全て労災保険料の対象として計算すると労災保険料が割高になってしまうケースがあります。また、労災保険料の対象となる賃金を対象としていなかった場合、本来納めるべき労災保険料より少なくなってしまいます。

労災保険料の納付の過不足は、行政により検査を受けることがあり、その際納付に不備が見つかれば追徴や還付となるため注意しましょう。いずれにしても給与計算項目をよく理解し、正確に賃金総額を計算することが求められます。

出向社員、派遣社員の給与計算に注意する

子会社に出向している社員や、人材派遣により派遣社員を受け入れている場合は、労災保険料の対象となるか注意が必要です。労災保険料は事業場で負担することが原則であるため、子会社に出向している社員の労災保険料は子会社で負担します。

しかし、派遣社員の場合は、派遣元が労災保険料を負担するので給与計算に注意が必要です。労働安全の指揮は派遣先に従いますが、労災保険料は派遣社員の給料を計算している派遣元が負担します。

このように、出向社員と派遣社員では労災保険料の負担先が異なっています。

保険料の納付は前年度の概算保険料と確定保険料の差額を精算

労災保険料を納付する際は、前年度の概算保険料と実際の保険料を比較し、その差額を納付し毎年精算します。ただし、労災保険料は次年度に同額になるとして、0円とすることは認められていません。

0円とすると労災保険が継続できず、会社が廃止の扱いとなってしまいます。

このような計算は、全従業員分を手作業で行っていると細かなミスが生じがちです。計算ミスが発生すると計算の確認や見直しに手間がかかってしまうため、給与計算ソフトで自動化しましょう。

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労災保険を理解し、正しく給与計算を行おう

労災保険は、従業員を1人でも雇えば強制加入となる点が特徴です。労災保険料を納付する際には、給与の支給項目によって対象となるものと対象とならないものがあります。給与計算の際、1年分の総額を支給項目により集計できるようにしましょう。

労災保険には対象者と、例外で非対象者が発生する場合があります。そのため、給与計算では対象者、非対象者と区別して集計できることも必要です。

そして、労災保険料は1年分を概算額と実際額で差し引きし、その差額を1年単位で精算します。健康保険や厚生年金は保険料を毎月納付しますが、労災保険料は毎年精算するのが特徴です。労災保険の加入条件をよく理解し、正確な保険料を計算するため給与計算をしっかり行いましょう。

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