労働生産性の計算式は?正しい計算方法や指標・判定方法について解説
働き方改革の推進により、さらに重要性を増した労働生産性。人手不足の解消などを理由に労働生産性の向上に取り組む企業も増加していますが、自社の労働生産性について適正かどうかを判断するにはどのような方法があるのでしょうか。ここでは、労働生産性の計算式や判定方法について詳しく解説していきます。
目次
そもそも労働生産性って何?
働き方改革の影響により、「労働生産性」というキーワードを耳にする機会が増えました。労働生産性の向上には、利益拡大以外にも、労働環境の改善、長時間労働の是正、コスト削減といったメリットがあります。
なぜ労働生産性を向上することにより、このようなメリットが得られるのか、まずは「生産性」の意味から確認していきましょう。
そもそも生産性とは?
「労働生産性」の「生産性」とは、モノを作る際に必要な要素がどれだけ有効利用されているかといった度合いを指します。有形・無形にかかわらず、何かを生み出す際には、原材料やエネルギー、機械や場所などの設備、人手、時間などが必要です。
一般的には、これらのモノを作るのに必要な要素(資源)を「投入」といい、投入によって生産されたモノは「産出」と呼ばれています。そして、生産性とは、投入に対して生まれた産出の割合を表すものです。
労働生産性とは?
労働生産性とは、投入に対して生まれた産出の割合で算出された「生産性」を労働人口や労働時間などの労働量で割った指標を意味しています。そのため、より少ない人員と労働時間で作られたモノほど、労働生産性が高いことになります。
労働生産性の計算式
労働生産性は厳密には「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2つに分けられます。
ここからは「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」、そして生産性と極めて関連性の高い「人件費」について、それぞれの計算方法を解説します。
物的労働生産性の計算式
物的労働生産性とは、製品の個数や重量を産出した成果物とする労働生産性のことです。
この物的労働生産性は、「生産量 ÷ 労働量(労働者数×労働時間)」の計算式によって求めることができます。
例えば、ある製品を1,000個製造するのに必要な労働量が10人×5時間の労働であれば「1,000÷50=20」で、労働者1人当たり・1時間の労働生産性は20個となります。一方で、同量の製品を製造するのに必要な労働量が、10人×2時間だった場合は「1,000÷20=50」となり労働者1人当たり1時間の労働生産性は倍以上の50個となります。
このように、物的労働生産性は、数値が高ければ高いほど、効率的な生産体系であると言えます。
付加価値労働生産性の計算式
付加価値労働生産性における付加価値は、概ね「粗利」をイメージするとよいでしょう。
そのため、付加価値は「売上高 − 諸経費(原材料ほか、外部調達分の費用など)」によって算出し、付加価値労働生産性は、この付加価値を労働量で割った「付加価値÷労働量」の計算式にて求めることができます。
例えば労働者1人当たりの付加価値労働生産性を知りたい場合は、「付加価値 ÷ 労働者数」となり、数値が大きいほどに、1人当たりで生み出す付加価値(粗利)が大きいということになるのです。
人件費の計算式
また、「売上高 − 諸経費(原材料ほか、外部調達分の費用など)」によって算出された付加価値には、付加価値には以下の要素が含まれています。
- 人件費
- 企業運営費
- 経常利益
- 減価償却費
そのため、人件費は、付加価値から、 そのほかの企業運営費 、 経常利益、 減価償却費を引くことで算出することができます。
なお、人件費は給与だけでなく、社会保険料などの福利厚生にかかる費用や交通費、会議費などの諸経費も含めて計算する必要があるため、算出する際は計上漏れがないよう注意しましょう。
労働生産性をエクセルで計算する方法
エクセルで労働生産性を求める場合は、以下のような方法で行います。
エクセルで1人あたり物的生産性を計算する方法
ある製造ラインの従業員1人あたりの物的生産性を求めるケースを例にご説明します。各製品の製造ラインの生産量と従業員数を以下の通り入力します。
次に、生産性のセルに「生産量÷従業員数」の関数(計算式)を入力します。
さらにオートフィル機能(セルの右下に表示される■にマウスを合わせると出る+を該当のセルにドラッグしてコピー)を使用して、B〜Dの製品の生産性も一気に計算します。
すると「生産性」が最も高いのは、「生産量」が最も少ないCの製品であることがわかります。
エクセルで1人あたりの付加価値生産性を計算する方法
次に、従業員1人あたりの付加価値生産性を求めるケースをご説明します。
例えば、原価(その他諸経費含む)1000円、販売額2000円のAの付加価値額は、販売額から原価(その他諸経費含む)を引いた、差分の1000円となります。
付加価値生産性は「付加価値額÷従業員数」で求められるため、Aの生産性のセルは「=C3/D3」の計算式となり、生産性は100ということになります。
そのほかの製品も同様に計算すると、付加価値額が最も高いのはAですが付加価値生産性が最も高いのはCであることがわかります。
労働生産性の判定方法
労働生産性が算出できても、判断基準がなければ、自社の生産性が適正かどうかを見極めることはできません。
ここからは、労働生産性の良し悪しを判断する方法について解説します。
適正かどうかの判定方法
現在の労働生産性が適正かどうかは、まず自社の過去の労働生産性と比較してみることをおすすめします。前年だけでなく、前期・後期や四半期などのタイミングで過去の数値と比べ現状を把握することで、適切な生産体系が確保できているのかが判断できます。
また、上場している企業であれば、財務諸表などの数値から同業他社の生産性を知ることも可能です。企業規模が似た他社のデータを参考にするのも良いでしょう。
労働生産性向上のポイント
自社の生産性が同規模の同業他社と比べて著しく低い、あるいは、過去データと比べ生産性が低下しているといった場合には、以下の4つのポイントを意識した上で、生産性向上に取り組みましょう。
- 業務フローの「ムリ・ムラ・ムダ」を洗い出す
- 人材育成に積極的な投資を図り、1人当たりの生産量を上げる
- ボトルネックとなっているプロセスの手順や人員配置を見直す
- ツールやシステムなど新技術の積極的な導入
労働生産性を向上させるメリット
続いて、労働生産性を向上させるメリットも見ていきましょう。
ワークライフバランスの向上
労働生産性の向上は、労働時間の短縮につながるため、残業時間の低減にもつながります。残業時間が減ることによる円満なワークライフバランスは、その成果として、職場への満足度を高めることにも貢献します。
その結果、仕事へのやりがいの創出や離職率の低下も期待できるなど、企業にとっても大きなメリットとなります。
人手不足に対応できる組織力の向上
日本の少子高齢化の社会状況を考えるのであれば、既存の生産量を将来的に確保していくために、生産性の向上が必要不可欠な課題であることは明らかです。
早期に生産性向上の取り組みを実施し、人的リソースを最適化した組織を構築しておくことは、今後さらに深刻化するであろう「人手不足」に対応するための組織力となり、市場競争を勝ち抜くための大きな強みとなるでしょう。
優遇措置の適用
労働生産性の向上を実現するための、有効な施策を実行していると認められた企業に適用される優遇措置もあります。具体的には、以下のような優遇措置を受けることができます。
- 中小企業経営強化税制(法人税などの税額控除による優遇)
- 金融支援(資金調達に関する支援など)
助成金の割増
厚生労働省が定めた条件を満たすことで、助成金の割増が適用される制度もあります。主に、以下の助成金制度などで割増が適用を受けられる可能性があります。
- 労働移動支援助成金
- 地域雇用開発助成金
- 人材確保支援助成金
- 65歳超雇用推進助成金
- キャリアアップ助成金
- 人材開発支援助成金
- 業務改善助成金 など
これらの助成金は、条件を満たした上で併用して受給できるものもあるため、積極的に活用するのがおすすめです。
労働生産性を向上させる方法
最後に労働生産性を向上させる具体的な手順や方法を紹介します。
現在の労働生産性を把握する
まずは、自社の労働生産性の現状を把握しましょう。注意点として、労働生産性は、必ず「労働生産性の計算式」で紹介した計算式により、定量的なデータ(数値)によって可視化するようにしてください。
指標となるKPIを設定する
現状の労働生産性を定量的に把握したら、次に指標となるKPI(目標)を設定します。KPIを設定する際は「明確性」「計量性」「達成可能性(現実性)」「関連性」「期限」といった5つの要素を意識しましょう。
KPIを設定しておくことで、社員の意識を統一化することが可能になり、かつ、指標を明確にすることで、モチベーションも向上します。なお、KPIの設定は、自社の過去の労働生産性や企業規模が似ている企業、競合他社の成功事例を模倣することも有効な手段です。
生産性向上の改善策を実行する
現状を把握し、目標が決まったらいよいよ施策を実行します。生産性向上の改善策としては、生産性の妨げとなっている原因の解消、従業員のスキルアップなどが挙げられるでしょう。
従業員のスキルアップには、資格取得の支援などもありますが、例えば、生産性の高い従業員のスキルや知識の共有といった手段でチームの生産性を底上げする方法もあります。
なお、これらの取り組み、とりわけ人材育成は、短期的な成果を期待しすぎないようにしてください。長期的な視点を持つことが大切です。
ITツールを導入する
生産性の妨げとなっている原因の根本的な解消には、手作業で行っていた業務へのITツールの導入も、大幅な生産性向上が望める取り組みです。
ITツールによる効率化は、品質を落とさずに作業スピードを確保できるだけでなく、ヒューマンエラーの解消、単純作業から解放されることによる従業員のモチベーション向上といったポジティブな副産物ももたらします。
利用できる制度を確認する
生産性向上の取り組みは、施策と検証および改善を繰り返し実行していかなければなりません。そのため、先にご紹介した政府が実施する助成金・補助金などの制度は積極的に利用し、さらなる生産性向上へと活用することも大切です。
助成金や補助金の内容によっては、設備投資費用に関する補助金を受ける場合などは、購入前の申請が必要なケースもあります。利用を検討する制度がある場合には、必ず事前に要綱を確認しておくようにしてください。
労働生産性を計算して現状を把握しておこう
労働生産性の改善は、現状を定量的に把握することから始まります。また、労働生産性の向上は、少子高齢化や市場競争の激化が進む社会環境において、企業規模や業種に関わらず、必須の取り組みとなるはずです。
ここでご紹介した生産性向上のポイントや方法を参考に、いち早く生産性向上を実現し、人材不足にも対応できる組織力を高めていきましょう。
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