ワークライフマネジメントとは?考え方や実現方法・企業の事例を解説

近年、一部の企業で進められているワークライフマネジメント。ワークライフマネジメントとは、一体どのような考え方で、ワークライフバランスとは何が違うのでしょうか。本記事では、ワークライフマネジメントについての基本的な考え方やメリットなどを詳しく解説していきます。3つの先進事例も合わせて紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
ワークライフマネジメントとは?
ワークライフマネジメントとは、仕事(Work)と私生活(Life)を適切にマネジメントすることで、どちらも充実させていくという考え方です。
働き手の主体性が重要で、実現させていくためには仕事や私生活における状況の洗い出し、分析・改善を積極的に行っていく必要があります。
仕事と私生活の両者を積極的にマネジメントしていくことで、働き手は仕事で成果を出しやすくなり、豊かな人生の実現も可能になります。
また、企業側としてもワークライフマネジメントの導入を進めることで、生産性向上や企業業績の拡大につながるものと期待されています。
注目される背景について
ワークライフマネジメントが注目を集めている背景には「労働人口の低下」があげられます。日本は少子高齢化の影響を受け、労働人口が減少しています。特に地方にある企業や中小企業においては、人材の確保が大きな経営課題となっています。
人材不足に陥ると一人ひとりの業務負担が増し、労働環境が悪化して私生活とのバランスが崩壊してしまうおそれがあります。また、競争が続くビジネス環境においては、人手を確保しつつ生産性も上げていく必要があります。
この状況に対応すべく、人材不足の解消や従業員の定着、生産性向上などを目的として「フレックス制度」や「テレワーク」といった柔軟な働き方を導入している企業が増加しています。
ワークライフマネジメントの導入によって、柔軟な働き方が可能になり、同時に仕事にも注力できることから生産性向上にもつながります。
人手不足という課題に直面している現在の日本企業においては、プライベートと仕事の両軸を同時に充実させることが求められているのです。
ワークライフマネジメントとワークライフバランスの違い
ワークライフバランスとワークライフマネジメントの違いは「自発的な考え方」であるかどうかです。
元々、ワークライフバランスは、企業がフレックス制度や短時間勤務、テレワークといった働き方を導入し、各自で仕事や私生活のバランスを調整していくという意味合いでした。
しかし、勤務時間や勤務条件といった労働環境に注目され、勤務時間が短い企業や労働条件が良い企業がワークライフバランスの良い企業、逆に労働時間が長かったり、労働条件が悪い場合にはワークライフバランスが悪い企業というイメージで定着していきました。
一方、ワークライフマネジメントは、仕事や私生活のバランス・充実を自分で管理していく考え方になるため、自ら主体的に考えて行動していく必要があります。同時に、仕事も私生活も相互に向上させていく視点が重要となります。
ワークライフバランスが労働量を減らす、休みを増やすといった制度の充実に偏りがちであるのに対して、ワークライフマネジメントは私生活の充実はもちろん、業務のパフォーマンスレベルを落とさず企業の成長も同時に達成することを目的とする考え方です。
ワークライフマネジメントの基本的な考え方
ワークライフバランスの考え方がある程度社会に普及している一方で、ワークライフマネジメントの導入はこれからという企業も多いでしょう。ここではワークライフマネジメントの基本的な考え方を、以下の3つのポイントから解説していきます。
- 自己マネジメント
- 仕事と生活の両方の充実性を重視
- ワークライフバランスとの差別化が目的
自己マネジメント
ワークライフマネジメントは私生活や仕事を自己管理していくことが大切です。そのため、従業員ごとの自己管理能力を把握しておかないと意味がありません。
企業側がワークライフマネジメントを導入すると伝えても、従業員が自己管理ができなければ生産性が低下します。ワークライフバランスが会社主導であるのに対して、ワークライフマネジメントは自主性が問われる考え方です。
育児や介護、趣味などとの両立をはじめ、従業員自身が働き方を明確に定め、それに応じて自己マネジメントを発揮することが、個人と会社の両方の成長につながるのです。
仕事と生活の両方の充実性を重視
ワークライフマネジメントで重要視すべきなのは、仕事と生活の両立です。日本では従来仕事を大切にするという意識が強く、私生活を犠牲にして仕事に打ち込む人も少なくありませんでした。
しかし、ワークライフマネジメントは私生活を犠牲にすることなく、仕事と両立を図りながらどちらも充実させていく必要があります。そのため、今までの仕事や私生活に対する価値観を変えていくことが大切です。
ワークライフバランスとの差別化が目的
前述したように、ワークライフバランスの実現に積極的なのは、勤務時間が短く勤務条件が良い企業といったイメージが定着しています。
ただし、これは単純に労働時間が短いだけであったり、業務に振り分ける労力が少ないといったことであり、本来の意味とは異なるケースもあります。
一方、ワークライフマネジメントは仕事と私生活を両立させることが大切です。つまり、両方のパフォーマンスレベルを損なわないことが重要になるのです。
私生活と仕事の両方を充実させるためには、従業員自身の自発的な管理が必須になるため、目的をしっかりと認識してもらいましょう。
ワークライフマネジメントを導入するメリット
導入するメリットは下記の5つがあげられます。
- 生産性の向上
- 仕事と生活の充実感向上
- 優秀な人材の確保
- 女性の社会進出の促進
- 出産や育児への対応実現
それぞれのメリットについて詳しく解説をしていくので、ワークライフマネジメントの導入を検討している人は参考にしてみてください。
生産性の向上
ワークライフマネジメントを実施することによって、従業員が率先して仕事に打ち込んでくれるようになるため、生産性向上が期待できます。
例えば、仕事を早く終わらせて趣味を楽しみたいと考えた場合は、仕事をどのように効率的に進めるかを自主的に考えるようになるため、自然と仕事に対する意識が高まります。
個人の工夫や生産性向上がチーム内にも好影響を及ぼし、全体の生産性も高まっていくため、企業側としても大きなメリットを享受できるでしょう。
仕事と生活の充実感向上
ワークライフマネジメントの推進は、私生活と仕事の両立によって、両者をこれまで以上に充実させる考え方です。
仕事を充実させた場合は、自分に対しての自信が向上するほか、生きがいややりがいにつながります。一方、私生活が充実すると心が安定しやすく、仕事に対する意欲が湧きやすくなります。
仕事一辺倒やプライベートの充実に時間を割きすぎていたケースに比べ、仕事と私生活どちらも充実させることは、高いモチベーションの維持や心身の健康なども実現でき社内の雰囲気も良好になることが期待できます。
優秀な人材の確保
オフィスへの出勤が当たり前であった従来の働き方では、介護や育児に専念しないといけない人は働きたくても働けない状況でした。また病気で休職が必要になるケースでも、復職が難しくなるといったこともありました。
さらに、企業にとっては地方在住者や遠隔地に住んでいる人は採用しづらく、それが人手不足の遠因になっているという実情もありました。
しかし、ワークライフマネジメントを導入することによって、さまざまな働き方ができ、性別や年齢、健康状態や居住地に左右されることなく、多様な人材がそれぞれの事情に応じて仕事を選べる、もしくは仕事を続けられるようになります。
既存社員の離職を防止するだけでなく、魅力的な職場環境を作ることは新たな人材を確保する上でも有利に働くでしょう。
女性の社会進出の促進
従来の考え方では、女性が家事や育児をしながら時短で仕事をし、男性が会社で働くというのが主流でした。この場合女性の負担が大きく、離職につながるケースも多いのが課題となっていました。
しかし、男女問わず仕事と私生活の充実を積極的に推し進めるワークライフマネジメントの考え方を導入することで、柔軟な働き方が可能となり、男性も家事や育児をサポートしやすくなります。
これによって、女性の負担も大幅に減り、会社で働き続けられるようになったり、新たに仕事を始めることも可能になります。
女性が働きやすい職場環境を構築できるため、新たな人材確保はもちろん、多様な人材が活躍できる場として、企業イメージも向上するでしょう。
出産や育児への対応実現
多くの女性は今まで出産を機に退職し、育児に専念をしてから復帰するような流れでした。
しかし、ワークライフマネジメントで柔軟な働き方を取り入れることにより、出産や育児に取り組みながら仕事を続けられるようになります。
出産や育児の状況は会社側からすると見えにくい点ですが、従業員自らマネジメントを行いながら業務にあたるため、無理のない範囲で業務を進めてもらえることが期待できます。
業務経験が豊富で、会社のことをよく知っている人材の離職を防ぐという意味でも、女性のライフイベントに対応した制度設計や考え方の導入は、企業にとっても大きなメリットがあると言えるでしょう。
ワークライフマネジメントを実現する方法とは?
ワークライフマネジメントを実現するためには、企業側と社員側で個別にアプローチする必要があります。それぞれどのような方法でワークライフマネジメントを実現するのか、解説していきます。
企業の場合
実現するために企業側が行うべき行動が下記の4ステップです。
- 調査(約1カ月)
- 導入(約1カ月)
- 実行(約8カ月)
- 定着
※()内の期間は目安
[出典:福井市/合同経営社会保険労務士法人「女性が働きやすい環境をつくるための実践ガイド Work Life Management」]
企業側がワークライフマネジメントを実現したいと考えていても、従業員の状況や会社の体質に合わなければ高い効果が出にくいでしょう。そのため、まずは企業側は状況把握や課題の洗い出しといった分析を行いましょう。
課題の発見や状況把握ができ、ワークライフマネジメントを導入しても問題がなさそうであれば管理職や社員に周知していきます。
納得してもらうことによって、継続的な取り組みが行いやすい上に、全体がワークライフマネジメントに意識が向いている状態でスタート可能です。
その後は、チーム体制の構築を行い、ゴールの設定、ツールの導入、スモールスタートの手順で進めていき、評価と改善を行っていきましょう。
個人の場合
在籍している企業がワークライフマネジメントを導入する場合、自分自身がどのくらいマネジメント能力があるのかを考える必要があります。さらに、自分がどのような働き方をしたいのかについて明確化させることが重要です。
例えば、「本当はもっと働きたいのに育児や介護に追われて短時間しか働けていない」「仕事ばかりで育児に参加できていない」といった悩みや課題から、理想の働き方を導き出します。
このような状況把握を行いながら、自分が考える理想に近づけるような働き方を自発的に行っていくのがワークライフマネジメントになります。
ワークライフマネジメントの企業の取り組み事例3選
ワークライフマネジメントに実際に取り組んでいる企業の実例を紹介していきます。
- 永森建設株式会社
- ジャパンポリマーク株式会社
- 森川不動産株式会社
永森建設株式会社
永森建設株式会社は以前まで長時間労働が大きな課題となっていました。社員の4割が女性であり、その大半が子育て期や今後子育て期になる女性たちであることからも、長時間労働を減らし、私生活に使える時間を増やす働き方である「ワークライフマネジメント」に注目しました。
同社では、これまであまり活用されていなかったスケジューラーを使ったタイムマネジメントによって、業務にかかる時間を意識し、効率性向上を目指しました。これにより、集中して仕事ができる時間の確保に成功しました。
さらに、仕事の都合上、平日の夜や土日に顧客対応が集中しがちでしたが、平日日中の打ち合わせを顧客に推奨し、子育てや家事を行いやすい環境に変えました。
家事や育児に取り組みやすい環境ができたことにより、従業員のモチベーションも高くなり、良い結果へとつながっています。
[出典:福井市/合同経営社会保険労務士法人「女性が働きやすい環境をつくるための実践ガイド Work Life Management」
ジャパンポリマーク株式会社
ジャパンポリマーク株式会社は業務の属人化が起きてしまい、休みづらい職場環境という点が課題でした。
女性が活躍できるような職場環境を作りたいという考えや、ダイバーシティ経営の推進に向けてすべての社員が能力を発揮できる制度を作りたいと考えていました。
管理職や経営者側はワークライフバランスに対して意識は高かったものの、上手く実現できていなかったため、ワークライフマネジメントにも注目し、管理職や経営者に向けてセミナーを実施しました。
同社では、営業と製造の人材を組み合わせたチームを構築し、短いミーティング・業務進捗が見えるボードの活用・仕事の細分化、業務の多能工化といった取り組みを行いました。
結果、業務フローの見直しや情報共有をしっかり行うことにより、社内全体で状況把握がしやすくなり、自発的にサポートし合える職場環境の構築を実現しました。
[出典:福井市/合同経営社会保険労務士法人「女性が働きやすい環境をつくるための実践ガイド Work Life Management」
森川不動産株式会社
森川不動産株式会社は、育児休業明けの社員が働きやすい職場を作るために、ワークライフマネジメントを導入しました。
不動産業はどうしても1人で顧客に対応しがちですが、他の人もサポートできるようにチーム体制を構築し、育児による時間制約のある社員が働きやすい多様な働き方を目指しました。
今までは情報共有が上手くできていない状況でしたが、朝礼や終礼で情報共有がしやすいシートを導入することで、業務の効率化と働きやすい環境作りに役立てています。
同社では、さらに育児休業体験をヒアリングし、ロールモデルとして社内に共有し、育児休業などの社内制度がわかりやすく理解できる子育て応援ブックの作成なども進めました。
育児休暇明けでも働きやすい体制づくりを行った成功事例と言えるでしょう。
[出典:福井市/合同経営社会保険労務士法人「女性が働きやすい環境をつくるための実践ガイド Work Life Management」
ワークライフマネジメントで理想の環境を目指そう
ワークライフマネジメントを実現することにより、私生活と仕事の両立が可能になり、人生をより豊かなものにできるでしょう。
ワークライフマネジメントは従業員の自主性や積極性が重要になります。そのため理想の環境を作るためには、企業側だけでなく個人の意識も高めていく必要があります。
ワークライフマネジメントは、人材確保や生産性向上、多様な働き方の実現など企業と従業員にとって多くのメリットがある考え方のため、ぜひ導入を検討してみましょう。
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