ワークライフバランスにおける目標の考え方と意識すべきこと

最終更新日時:2022/12/23

ワークライフバランス

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仕事と生活の調和を目指すワーク・ライフ・バランスは、働き方改革との親和性や価値観の多様化などの背景から、年々、企業において取り組みの重要性が高まっているテーマの一つと言えるでしょう。本記事では、そんなワーク・ライフ・バランスについて、目標設定における考え方や意識すべきことなどを解説します。

ワーク・ライフ・バランスにおける目標の考え方とは?

そもそもワーク・ライフ・バランスとは、仕事と生活の調和が取れた状態を意味する言葉です。

さらに「仕事と生活の調和が実現した社会」については、政府による「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」において、以下のように定義されています。

「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」

[引用:内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」より]

これらの定義により、ワーク・ライフ・バランスを実現した状態とは、「就労によって経済的に自立でき」、「健康で豊かな生活のための時間を確保しつつ」、「多様な働き方生き方を選択できる社会」であり、施策を策定する際の目標・目的になると考えることができます。

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ワーク・ライフ・バランスの取り組みにおいて意識すべきこと

組織においてワーク・ライフ・バランス向上に向けた施策に取り掛かる前に意識しておきたいポイントがあります。

以下の2点については、施策や制度の円滑な運用にかかわる、注意点ともなるため、必ず確認しながら進めるようにしましょう。

目的・目標の正確な共有を徹底する

ワーク・ライフ・バランスに関する取り組みの多くは、社員の働き方に大きく影響するため、社員の協力なくして、実現や定着を目指すのは困難と言えます。

経営層やマネジメント層だけで「トップダウン」で進めるのではなく、目的や目標を社員に共有し、取り組みに対する全社的な理解を得た上で進めるようにしましょう。

できるかぎり制度の「例外」を設けない

ワーク・ライフ・バランスの実現に向け、「残業時間の削減」や「有給休暇の取得促進」を進める場合、忙しい部署や人を例外にしてしまうと、再び元の状態に戻ってしまうことは目に見えています。

もちろん「帰れる状況・休暇が取れる体制」の構築が優先される取り組みとなりますが、全社員が例外なくワーク・ライフ・バランスを実現させるという意識のもと取り組むことも重要であると言えるでしょう。

経営側が率先して取り組む

ワーク・ライフ・バランスの向上を目指した「残業時間の削減」や「休暇取得」などの取り組みは、経営層やマネジメント層が率先して実行しましょう。

特に、休むことに対して、「後ろめたさ」を感じるような職場の風土がある組織においては、リーダーによる実践が何より有効であることをマネジメント層が理解しておくことが大切です。

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組織におけるワーク・ライフ・バランスの進め方とは?

ここからは、組織においてワーク・ライフ・バランスを推進する際の進め方についてご説明します。

現状の把握

まずは全社的なヒアリングやアンケートなどにより、制度や労働環境、キャリアに対する不安など、働く環境に関する意見を吸い上げ、現状を把握します。

その際、ワーク・ライフ・バランスに対するイメージや認識などもヒアリングしておくと、のちの目的や目標の共有にも役立ちます。

目標と施策の設定

次に、現状の課題のうち、重要かつ優先度の高い問題から改善案を立てて目標値を設定します。

目標は、定性だけでなく、有給取得率や残業時間など、定量でも設定しておくと、施策の効果測定がしやすくなります。また、施策による成果が可視化しやすくなるため、社員のさらなる協力も得やすくなるでしょう。

施策を実行する

施策と目標の設定が完了したら、計画にそって実行します。

施策は必ずしも一度で成功するとは限りません。適切な評価ができるよう、しっかりと記録を付けておきましょう。実行段階においても、定期的なヒアリングなどにより経過にも目を向けることが大切です。

評価・改善する

実行後は、施策の内容に応じて適宜評価のタイミングを設けましょう。

新たな制度の評価であれば、運用は適切か、新たな課題が発生していないかなどのほか、制度を利用した社員の声などを参考におこないます。

「実行して終わり」ではなく、改善が必要であれば、再度検討して改善案を実践できる体制を整えておきましょう。

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個人でできるワーク・ライフ・バランスの取り組み

組織において、ワーク・ライフ・バランスを実現するには、「個人の意識」も重要になります。ここでは、個人ができる取り組みを2つご紹介します。

価値観の違いを理解し尊重する

そもそも理想のワーク・ライフ・バランスは、人によって異なります。仕事に注力し、成果をあげることに集中したい人もいれば、子育てを優先したバランスを望む人もいるでしょう。

しかし、その違いをお互いに理解し、尊重できなければ、どちらにとっても「働きにくさ」を感じてしまう職場になってしまいます。

同じように働くことを目指すのではなく、同じ目的・目標を目指す意識を持ち、協力し合える環境の構築に貢献しましょう。

ワーク・ライフ・バランスを正しく理解する

リモートワークやフレックスタイム制などの柔軟な働き方に対して、「社員が好きなように働く」ための制度といった、間違った認識をしてしまうことがあります。

しかし、そもそも企業は「営利」を目的とした経済活動をおこなう組織であり、利益をあげることができなければ、活動を継続することはできません。

そのため、どのような施策においても、最終的には「労働力の最大化・最適化による生産性の向上」が目的の一つとなっていることを理解しておきましょう。

【解説】ワークライフバランス実現に向けて個人が実践すべきこと

企業においてまず実践すべき取り組みとは?

ワーク・ライフ・バランスを向上させようにも、業務量が多く残業を減らすことはできないといった状況であれば、実現が遠のくだけでなく、社員の反発をも招きかねません。

そのような状況であれば、ワーク・ライフ・バランスの施策を講じる前に、まず以下のような取り組みから着手してみましょう。

無駄な業務の可視化

既存業務を洗い出し、習慣となっているだけの業務や出席しているだけの会議や不必要な書類作成など、「生産」に貢献しない無駄な業務がないかを確認します。

無駄な業務については、思い切って廃棄するなどの判断も時には必要です。

ITツールによる自動化・効率化

業務を「人にしかできない業務」と「システム化が可能な業務」に分け、ITツールによる業務の自動化・効率化を検討するのも一つの手段です。

業務の自動化は、ヒューマンエラーの削減だけでなく、単純作業から解放されることによる社員のモチベーションのアップ、生産性の向上も見込めます。

柔軟な働き方の推進

働き方が選択できる体制を整えることも重要です。

ただし、テレワークやフレックスタイム制などの柔軟な働き方は、勤怠管理が煩雑になる、人事評価が不透明になりやすいといった側面もあります。

しっかりと環境や体制を整えたうえで、導入を進めるようにしましょう。

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ワーク・ライフ・バランスの取り組み事例

続いて、実際に企業で実施されたワーク・ライフ・バランスの取り組み事例をみていきましょう。

SOMPOホールディングス

三メガ損保の一つといわれるSOMPOホールディングス(旧損保ジャパン日本興亜ホールディングス)では、生産性の向上を目的に働き方改革を実施しました。

具体的には、シフト勤務制度やテレワークの導入、業務へのAIやIoTの活用などが挙げられます。

また、家庭やプライベートと仕事の両立ができるよう、特別休暇や連休取得の促進など、休暇が取得しやすい環境づくりにも取り組んでいます。

第一生命保険

保険や金融商品を提供する第一生命保険株式会社は、「両立支援制度の充実」と「柔軟な働き方の推進」の2つを目的にワーク・ライフ・バランスの推進に取り組んでいます。

また、2022年度からは男性社員の育休取得100%を目指し、男性が育児に参加することの必要性などを解説するセミナーなどを実施。

他にも、テレワークの導入をはじめ、育児サービス経費補助や不妊治療に使用できる休暇制度の整備、介護サポート休暇などの多様な制度を設けました。

これらの取り組みは、2021年度の男性社員の育児休業取得率は92.3%、年次有給休暇の平均取得率が70.1%、育児休業後の復職率が96.9%といった実績へとつながっています。

日立ソリューションズ

ソフトウェア・サービス事業や情報処理機器販売事業などを展開する株式会社日立ソリューションズは、コミュニケーションの活発化など、さまざまな取り組みにより労働時間の削減を目指すとともに、タイム&ロケーションフリーワーク制度の導入などをおこなっています。

その結果、2015年から2018年にかけて月平均残業時間が約7時間減少、年休取得率を77%まで上げるとともに、男性育児休業取得率も14.6%まで向上させています。

資生堂

株式会社資生堂はスキンケア用品やフレグランスなど、化粧品の製造販売などを展開している会社です。

女性社員の比率が高い同社では、女性の働き方は改善されていく一方で、男性社員の制度がなかなか進まないことを課題としていました。

その中で、男女どちらとも育児・介護しながらキャリアアップできる組織の実現を目的にワーク・ライフ・バランスの取り組みを実施。具体的には、男性社員の育児休暇取得を促進し、育児休暇を条件付きで繰り返し取得できるようにしました。

その結果、2017年度には、18名の男性社員が菊次休暇を取得するなどの実績を獲得しています。

TRIPORT

主に労務管理にかかわるクラウドサービスを提供するTRIPORT株式会社では、事業が急成長する一方で、人材の確保に課題を抱えていました。

そこで優秀な人材確保の機会を広げるため、テレワークをはじめ、1日4〜6時間勤務の「短時間正社員」などの雇用形態を導入しました。

その結果、採用の機会を広げるだけでなく、社員満足度向上などの成果にもつながっています。

富士フイルム

オフィス用複合機やプリンターなどの開発・生産・販売をおこなう富士フイルム株式会社は、「働きがいにつながる環境づくり」と「多様な人材の育成と活用」の2つを重点課題として、ワーク・ライフ・バランスを実現するための取り組みを実施しました。

具体的には、産前産後期における支援制度・ストック休暇制度・介護休職制度・自己啓発目的による休暇利用などが挙げられます。

なかでも、ストック休暇制度では、失効した有給休暇を60日までストックし、利用目的に応じて必要な時に利用できる制度となっています。

クボタ

農業機械や建設機械などを製造する機械メーカーの株式会社クボタは、退社時間の見える化と業務の効率化を目的にワーク・ライフ・バランスの取り組みを実施しました。

具体的には、自分のPCの横に退社予定時間を書いた紙を貼り、周りに周知させるといったことをおこないました。

その結果、遅い時間に業務の依頼を出し合うことが減少したり、時間内に仕事を終わらせるために無駄な業務を省いたりするようになるなど、組織としてのワーク・ライフ・バランスの向上、意識の変革に成功しています。

TOTO

TOTO株式会社は、特に水回りを中心とした住宅設備機器の製造販売をおこなう会社です。

同社では、ワーク・ライフ・バランスの実現に向け、課ごとにノー残業デーによる定時退社の取り組みを実施していましたが、定着しませんでした。

その失敗を踏まえ、その後、帰宅時間を見える化して他社員にも提示する「帰ります宣言」を実践。その結果、退社時間を意識して業務を処理するようになったことで、個人・チーム両方における生産性向上を達成しています。

関電工

株式会社関電工は、オフィスの電気設備や家庭用コンセント、衛生設備など幅広い領域を展開している会社です。

同社では、長時間労働の慢性化が大きな課題となっていました。

そこで有給休暇の一斉取得や、毎月半ばに時間外労働が増えている社員の見える化と、具体的なサポート策の導入などの取り組みを実施。複数の施策によるワークライフバランスの向上に取り組んでいます。

リコー

家具や産業用インクジェットヘッド・プリンターなどを製造販売するリコー株式会社では、業務プロセスの改善に向けて、まずは各自の業務を可視化し、日々の業務計画と実績を入力することから業務改善を開始しました。

無駄な業務や時間のかかる業務が見える化されたことで、具体的な解決策の検討が可能となり、業務の大幅な効率化を実現しています。

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仕事と家庭が両立できる職場づくりを支援する助成金

仕事と家庭生活を両立させるための取り組みについては、両立支援助成金などの国の助成金が適用されるケースもあります。

この両立支援助成金には、「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」・「育児休業等支援コース」、「介護離職防止支援コース」・「不妊治療両立支援コース」などいくつかのコースが設けられています。

要件が合致する場合には、積極的に活用すると良いでしょう。

ワーク・ライフ・バランスを実現させよう

ワーク・ライフ・バランスの実現に向けては、まず経営層やマネジメント層と社員、両方において、目的を正しく理解することが鍵となります。

せっかく設けた制度や施策が形骸化して終わることのないよう、他社の成功事例も参考にしつつ、ぜひ自社ならではのワーク・ライフ・バランスの実現を目指しましょう。

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