【要点まとめ】働き方改革のガイドラインとは?4つの重要ポイントについて

最終更新日時:2023/01/23

働き方改革

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厚生労働省が公開している働き方改革のガイドラインには、働き方改革の全容が記載されていますが、調べるには情報が膨大で労力を伴います。そこで本記事では、ガイドラインの重要なポイントを4つにまとめました。ガイドラインに違反した場合の罰則についても紹介します。

厚生労働省が定める働き方改革のガイドラインとは

厚生労働省が定める働き方改革のガイドラインとは、一般的に、厚生労働省が公表している働き方改革のポイントがまとめられた資料のことを指します。

本来、ガイドラインは指針、つまりどのようにすれば良いかの「よりどころ」です。法令をわかりやすく解説することを目的とする資料(パンフレット)とは厳密には異なるものですが、この記事ではガイドラインと呼んで解説を進めていきます。

(1)ガイドラインにおける働き方改革の全体像

働き方改革のガイドラインにおいて、働き方改革の全体像は、「個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で『選択』できるようにするための改革」だと説明されています。

働き方改革が実施されている背景として挙げられているのが、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少と労働者ニーズの多様化です。

そこで就業機会の拡大を図ったり、就業意欲や能力を存分に発揮できる環境をつくったりするために、さまざまな法改正が実施されています(下図)。

労働基準法改正の概要

[出典:厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)」]

(2)働き方改革関連法とは?

働き方改革関連法とは、正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)」のことです。

2018年7月6日に公布され、2019年4月1日から順次施行されています。なお「関係法律」とは、具体的には以下の法律などのことです。

  • 労働基準法
  • 労働安全衛生法
  • 雇用対策法
  • 労働時間等設定改善法
  • パートタイム労働法
  • 労働契約法
  • 労働者派遣法

(3)働き方改革ロードマップとは?

働き方改革ロードマップとは、政府が設置した働き方改革実現会議のなかで2017年3月28日に決定された重点的に推進する課題について、次のポイントがまとめられた樹形図(ツリー図)です。

  • 働く人の視点に立った課題
  • 検討テーマと現状
  • 対応策

中小企業が働き方改革を進めるためのポイントを4つ紹介

中小企業で働き方改革を進めるためのポイントを4つ紹介します。

  1. 同一労働同一賃金
  2. テレワークの推進
  3. 副業・兼業の推進
  4. 労働時間法制の見直し

(1)同一労働同一賃金

同一労働同一賃金とは、大まかに言うと、正社員とそうでない社員との間で不合理な待遇差を禁止するものです。

改正前は法令上の明確な定義がなく裁判上で争われていたところ、本改正において裁判における判断基準が法令やガイドラインに盛り込まれた形となります。

裁判の際に判断基準となる「均衡待遇規定」「均等待遇規定」を法律に整備します。

ガイドライン(指針)を策定し、どのような待遇差が不合理に当たるかを明確に示します。

[出典:厚生労働省「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」]

不合理を認めない旨が明文化されたことにより、これまで法令を適用して裁判で争うことが難しかった労働者は、法令を根拠として裁判で争いやすくなりました(労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備)。

パートタイム労働者や有期雇用労働者について、ガイドラインの内容を簡単にまとめると次のとおりです。

  • 基本給:能力や経験、業績、成果に応じて支払うものは、実態に違いがなければ同一の支給を、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない
  • ボーナス(賞与):同一の貢献には同一の支給を行わなければならない

あわせて、非正規社員は正社員との待遇差について説明を求めることができる「権利」が、事業主からすれば求めに応じて説明する「義務」が規定されました。これには、労働者が協議や訴訟の際に不利にならないよう保護する意図があります。

もし非正規社員がその説明に納得がいかない場合、費用のかかる裁判や調停手続によらず、都道府県労働局による裁判外紛争解決手続(行政ADR)を無料で利用することができます。

労働者からすれば、無料な上に裁判手続よりも迅速に解決に至る見込みがある反面、あくまでも話合いによって解決を図る手続であるため、不調に終わると裁判手続に移行せざるを得ません。

なお同一労働同一賃金とありますが、実際には賃金だけでなく教育訓練や福利厚生等も「待遇」に含まれることに注意が必要です。

(2)テレワークの推進

働き方改革では、テレワークの推進も図られています。なお、テレワークとはICTを活用してオフィスから離れて働くことです。

テレワークとは「情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」のこと。Tel(離れて)とWork(仕事)を組み合わせた造語です。要するに本拠地のオフィスから離れた場所で、ICTをつかって仕事をすることです。

[出典:厚生労働省(テレワーク総合ポータルサイト)「テレワークとは」]

働き方改革実行計画においてテレワークの推進は、柔軟な働き方がしやすい環境整備のための施策として位置付けられています。

テレワークの推進に関してはさまざまな施策が進められていますが、具体例を挙げると次のとおりです。

テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインでは、テレワークの導入と推進のための留意点や望ましい取組などがまとめられています。

例えば、時間外に行われるメールや電話での業務に関する指示や報告は自粛したり、所定外時間のシステムへのアクセスは制限したりすることがテレワークによる長時間労働対策として有効だと説明されています。

他にも、テレワークにおけるセキュリティ対応を含めさまざまなポイントが紹介されているので、一度目を通しておくと良いでしょう。

(3)副業・兼業の推進

副業や兼業の推進も、柔軟な働き方がしやすい環境整備のための施策として位置付けられています。副業や兼業が推進されている背景の1つは、副業・兼業のニーズが増加する一方、認める企業が少ないためです。

具体的な推進施策として、厚生労働省が策定・公表するモデル就業規則では原則として副業・兼業ができること(権利)を明示しています。加えて、これまでの裁判例などをもとに副業・兼業に関するガイドラインが改定されました。

(副業・兼業)

第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

[出典:厚生労働省「モデル就業規則」]

ガイドラインでは裁判例を踏まえて副業・兼業を認める方向とするのが適当であり、労働契約上の安全配慮義務や秘密保持義務、競業避止義務、誠実義務に留意するとともに、労働時間の通算が必要となることなどについて触れられています。

[出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」]

(4)労働時間法制の見直し

今回の働き方改革関連法においては、労働時間法制の見直しが行われています。

特に残業時間の上限を法律で規制することは、1947年に制定された労働基準法において初めての大改革となるなど、働き方改革の目玉政策と言っても過言ではない見直しです。

労働時間法制の見直しについて、主なポイントを解説していきます。

  • 残業時間の上限を規制
  • 「勤務間インターバル」制度の導入
  • 1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得を企業に義務付け
  • 月60時間を超える残業は割増賃金率を引上げ
  • 労働時間の状況を客観的に把握するよう企業に義務付け
  • フレックスタイム制の拡充
  • 高度プロフェッショナル制度の新設
労働時間法制の見直し

[出典:厚生労働省「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」]

#1: 残業時間の上限を規制

労働基準法では、法定労働時間は1日8時間と1週40時間が原則とされています。また、法定労働時間を超える法定時間外労働については、36協定の締結と届出が必要です。

言い換えると、36協定の手続きによれば残業時間に厳格な上限がありませんでした(行政指導のみ)。この点、改正後は36協定で定めることのできる時間外労働の上限が原則として月45時間、年360時間と明確な上限が罰則付きで示されています(下図)。

残業時間の上限規制見直しの概要

[出典:厚生労働省「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」]

なお臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)は、例外として年720時間以内などの上限も規定されました。

#2: 「勤務間インターバル」制度の導入

労働時間設定改善法の改正により、2019年4月1日から、勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務とされています。

勤務間インターバル制度とは、勤務終了後から翌日の出社までに一定時間以上の休息期間(インターバル)を確保する仕組みです。例えば、インターバルを11時間として23時に勤務が終了したのであれば、翌日10時までの休息期間を確保します。

具体的には、仮に8時が始業時刻であれば8時から10時までを勤務したものとみなしたり、始業時刻を繰り下げたりする制度です。なお本制度は努力義務規定なので、罰則はありません(2022年6月現在)。

#3: 1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得を企業に義務付け

1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得が、企業(使用者)に義務付けられました。この改正のポイントは、有給休暇の取得促進のため、労働者からの自発的な取得ではなく、使用者が労働者の意見を聴いたうえで取得時季を指定するという点です。

なお、使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿(システムでも可)を作成して3年間保存する義務が規定されました。

#4: 月60時間を超える残業は割増賃金率を引上げ

月60時間を超える残業(法定時間外労働)について、割増賃金率が25%から50%に引き上げられます。なお、ここまでは2019年4月1日から施行(適用)されていた改正を紹介してきましたが、この改正は2023年4月1日から適用されるものです。

ちなみに、大企業についてはすでに60時間超えの法定時間外労働について割増賃金率は50%でした。これまでは中小企業について適用が猶予されていたところ、改正法の施行によってその猶予規定(労働基準法第138条)が削除されることになります。

#5: 労働時間の状況を客観的に把握するよう企業に義務付け

労働時間の状況を客観的に把握するよう企業(使用者)に義務付けられました。なお、改正法が施行される前は厚生労働省による通達によって規定されていましたが、裁量労働制で働く人や管理監督者については対象外でした。

裁量労働制で働く人はみなし労働時間によって割増賃金を算定すること、管理監督者については割増賃金の支払義務がかからないことを背景に対象外としていましたが、健康管理上の問題などがかねてより指摘されていました。

そこで使用者は、タイムカードやICカード、PC使用時間の記録など客観的な方法により、すべての労働者の労働時間の状況を把握しなければならないこととされました。

#6: フレックスタイム制の拡充

労働者が自ら始業時刻や終業時刻、労働時間を決めることによってワーク・ライフ・バランスがとれるフレックス制度について、清算期間が従来の1ヶ月から3ヶ月に延長されました。

これによって、労働者は1ヶ月だけでなく3ヶ月という長いスパンで、より柔軟に労働時間を定められた範囲内で自由に配分することができます。

そのほか、次のような変更点があるため把握しておきましょう。

  • 1ヶ月超えの清算期間とする場合は、所轄労働基準監督署長への労使協定の届出が必要となった
  • 1ヶ月超えの清算期間では、単月で週平均50時間を超えたときも時間外労働として割増賃金の支払対象となった

#7: 高度プロフェッショナル制度の新設

高度の専門的知識等を有する労働者などについて、一定の前提によって法定労働時間や法定休憩、法定休日、深夜業などの規定の適用対象外とする高度プロフェッショナル制度が創設されました。

対象となる労働者は、合意により職務が明確に定められており、確実に支払われると見込まれる年間賃金額が少なくとも1,075万円以上であり、対象業務に常態として従事している労働者です。

対象業務には、金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発業務や資産運用の業務などが挙げられています。

高度プロフェッショナル制度の導入には労使委員会の設置と決議、当該決議を労働基準監督署長に届け出るなどのプロセスを踏まなければなりません。健康管理時間の把握や休日の確保など、健康確保措置も必要です。

ガイドラインを守らなかった場合どうなるのか?

これまでに紹介してきたガイドラインの内容を守らなかった場合、罰則の対象になることもあるので注意が必要です。守らなかった場合にどうなるのかについて、大まかに下表にまとめました。

【表:働き方改革関連法案に関する主な罰則規定など】

状況罰則等
36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
36協定で定めた時間を超えて時間外労働をさせた場合6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
時間外労働と休日労働の合計時間が月100時間以上となった場合6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合30万円以下の罰金
勤務間インターバル制度を導入していない場合罰則規定なし

※2022年6月時点

なお同一労働同一賃金については、最終的には司法の場において待遇差が不合理かどうかが判断されます。

どうすればガイドラインを遵守できるか?

どうすれば働き方改革のガイドラインを遵守できるのかについて、いくつかの具体策を簡単に紹介します。

  • 勤怠管理システムを導入する
  • 働きやすい環境の整備やテレワークを推進する
  • 業務の効率化を図る
  • 女性や高齢者の就労を推進する
  • ITツールやクラウドソーシングを導入する

(1)勤怠管理システムを導入する

勤怠管理システムを導入していない場合、導入を検討してみましょう。労働時間法制の見直しについて紹介してきましたが、まずは労働者の労働時間を適正に把握することが重要です。

人為的なミスを防ぐためにも、勤怠管理システムを導入して活用することをおすすめします。

(2)働きやすい環境の整備やテレワークを推進する

働きやすい環境の整備やテレワークを推進しましょう。具体的には、フレックスタイム制の導入や副業・兼業の促進、テレワークの推進、勤務間インターバル制度の導入などが挙げられます。

いずれも義務ではありませんが、積極的に自社への導入を検討し、生産性向上を図るべきでしょう。

なおテレワークに関しては、テレワーク用通信機器の導入や運用などの経費について30%が支給される「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」も一定の要件を満たすことで活用できます。

[出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」]

(3)業務の効率化を図る

業務の効率化を図ることで、働き方改革を推進することもできます。例えば、現状の業務を「見える化」し、無駄な仕事を削減する方法や、人材の適切な配置によって、業務量を均すことで組織全体の業務効率をアップさせる方法などが考えられます。

また業務マニュアルやノウハウの共有と、それを活用できる仕組みを作ることで、従業員のスキルの平準化も図れます。そうすることで、属人化が原因の長時間労働を是正することにもつながります。

(4)女性や高齢者の就労を推進する

女性や高齢者の就労を推進することも意識してみましょう。少子高齢化の進展による生産年齢人口が減少するなか、女性や高齢者の労働参加が期待されています。

正規・非正規の差をなくすことはもちろん、他社の成功事例も踏まえつつ、柔軟な働き方が可能となるよう取組を進めていきましょう。

(5)ITツールやクラウドソーシングを導入する

ITツールやクラウドソーシングを導入することもおすすめです。ITツールの活用・運用を推進すると、労働生産性を大きく向上できるかもしれません。

デジタル・トランスフォーメーション(DX)を意識し、思い切った改革に踏み切るのも重要です。また、クラウドソーシングを活用すれば、優秀な人材に業務を委託することも可能です。

これにより、業務が集中している特定の担当者の負担を軽減させることにつながるでしょう。さらに、社内リソースをコア業務に集中できる効果も期待できます。

ガイドラインに沿って働き方改革を着実に進めること

2019年4月から順次施行されている働き方改革関連法ですが、改めてそのポイントについて紹介しました。

中小企業にとっては、これまで適用が猶予されてきた月60時間超えの割増賃金率50%について、2023年4月1日の施行が控えています。

働き方改革の趣旨を把握したうえで、自社でできることを着実に進めることを検討してみてはいかがでしょうか。

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ビズクロ編集部
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