ワークシェアリングとは?注目される背景やメリット・デメリットを解説

ワークシェアリングとは、雇用を創出することを目的に行われる手法のことです。近年働き方改革の一環として注目されていますが、一体どのようなメリットがあるのでしょうか。本記事では、そんなワークシェアリングについて解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
ワークシェアリングとは?
ワークシェアリングという言葉はなんとなく知っているが、詳しくはよくわからないという人もいるかと思います。ここでは、ワークシェアリングの意味について解説します。
ワークシェアリングの意味
ワークシェアリングとは、労働者を増やすことで仕事を広く分け合う取り組みのことです。
近年の働き方改革の推進にともない、企業は従業員が働きやすい環境と、多様な働き方の受け入れが求められています。ワークシェアリングは雇用を増加させ、一人当たりの負担を軽減させる効果があるため、働き方改革に効果的な施策として注目されています。
ワークシェアリングの種類
ワークシェアリングには、大きく分けて4つのタイプがあります。それぞれについて解説します。
雇用維持型(緊急避難型)
雇用維持型の一つである緊急避難型は、所定の労働時間を短縮する方法です。一時的に景況が悪化した際に、人件費などの諸経費を削減するためにおこなわれます。
緊急避難型では新規雇用や解雇をおこなわないため、人材の流動はありません。そのため、必要に応じてすぐに元の稼働状態に戻せるというメリットがあります。業績悪化が一時的なもので、今後回復する見込みがある場合に有効な手法です。
雇用維持型(中高年対策型)
雇用維持型の一つである中高年対策型は、中高年の雇用機会創出を目的とした方法です。定年退職後も、労働時間を減らして継続して雇用をおこなうことで、雇用を維持します。
企業側には、定年退職による人手不足を防ぐというメリットがあり、従業員側はやりがいを得られる、老後資金を確保できるというメリットがあります。
雇用創出型
雇用創出型は、社員の労働時間を短縮し、その分を新規雇用に割り振る手法です。今まで少数の従業員でおこなっていた業務を多数で分担することで、従業員の負担軽減、新たな雇用の創出というメリットがあります。
多様就業促進型
多様就業促進型は、さまざまな働き方を認めることで、就業が困難だった人材を活かす方法です。
育児や介護などさまざまな理由で、能力はあるがフルタイムでは働けないという人がいます。そのような人は休職や退職で職場を離れてしまいますが、それは従業員も企業も望んではいません。
そこで効果を発揮するのが多様就業促進型です。パートタイムやフレックスタイム、在宅勤務など多様な働き方を取り入れることで、様々な事情を抱えた人々に就業機会を提供できます。
ワークシェアリングが注目されている背景
ワークシェアリングはなぜ注目されるようになったのでしょうか。この背景には、失業者の増加・過重労働があります。
日本では、経済市況の悪化によって、多くの人々が失業し、職を得ることがむずかしくなりました。一方、企業の従業員は長時間労働を強いられ、うつ病や過労死が社会問題化しています。
このような状況を打開すると期待されているのが、ワークシェアリングです。労働を広く提供するワークシェアリングは、従業員の負担を軽減し、多くの雇用を創出できます。
失業問題と過労を同時に解決できることから、ワークシェアリングは今後もますます広がっていくと予想されています。
ワークシェアリングを導入するメリット
ワークシェアリングには、企業と従業員双方にメリットがあります。具体的にどのようなメリットがあるのか、それぞれ見てみましょう。
企業にとってのメリット
企業にとってワークシェアリングはコスト削減、適切な人材配置、企業のイメージアップ、従業員の満足度上昇といったメリットがあります。一つずつ解説していきます。
生産性向上・コスト削減
ワークシェアリングは人件費などのコスト削減に繋がります。業務負担が大きいと、従業員は残業や休日出勤などで業務時間を確保する必要があります。この場合、企業は割増賃金を支払わなければなりません。
また、長時間の就業は作業効率を下げることが知られています。労働者健康安全機構の調査では、年間総労働時間が増加するほど、生産性が低下することがわかりました。
そのため、割増分の賃金を払っているのに、時間あたりの生産性が落ちるという事態が発生してしまいます。これらの理由から、少ない従業員に多量の業務を割り振ると、結果的に多額の人件費を支払うことになります。
ワークシェアリングでは、従業員を新しく雇用し、業務を分散させます。一人当たりの業務負荷が下がるため、時間外労働が必要なくなり、時間あたりの生産性が向上します。
そのため、同じ生産量であっても、コストが削減された分だけ高い利益が得られるでしょう。
迅速な人材配置
ワークシェアリングによって、人材配置が容易になります。職場全体の作業負荷が高いと、人材配置の変更がむずかしくなります。
なぜなら、どの従業員も自分の業務に手一杯で、現在の業務を他に任せることも、引き継ぎ作業をすることもできないからです。
ワークシェアリングでは、多くの従業員を確保して、業務を広く分散させます。そのため、従業員の作業負荷が低く、他のチームや部署への異動作業が容易になります。
適切な人材配置をおこなうことで、より生産性の高い業務体制を築けるでしょう。
企業のイメージアップ
ワークシェアリングの実施は、企業のイメージアップに繋がります。
ワークシェアリングは働き方改革の推進にともない、大きく注目されるようになりました。ワークシェアリングを積極的におこなっているとアピールすることは、以下のような印象を与えます。
- 積極的な雇用をおこなっている。
- 経営状況が悪化しても、リストラを避けるよう努める。
- 従業員の業務負担に配慮している。
- 従業員のライフバランスを尊重している。
ワークシェアリングを導入することで、求職者だけでなく、同じく方針を持つ企業、顧客などに対して、広くイメージアップを図ることができます。
従業員の満足度上昇
ワークシェアリングは従業員の満足度にもよい影響を与えます。
ワークシェアリングでは、業務負荷を分散させることで従業員への負担を軽減します。そのため、従業員は心身の健康を維持し、プライベートを充実させることができるでしょう。
また、ワークシェアリングは、景況が悪化しても、雇用を維持したまま業務時間を減らすという方法をとります。この方法ではリストラをおこなわないため、従業員に安心感を与えます。
働きやすい職場に安定して就業できることは、従業員の満足度アップに繋がります。結果として、従業員のエンゲージメントと職場定着率を大きく上昇させるでしょう。
従業員にとってのメリット
ワークシェアリングは従業員側にも大きなメリットがあります。2つに分けて解説していきましょう。
安心して働くことができる
ワークシェアリングは雇用の安定に繋がるため、安心して働くことができます。
従業員には、いつ職を失うかわからないという心配が常にあります。リストラだけでなく家庭の事情などで、今までのように働けなくなるということは珍しくありません。
ワークシェアリングでは、景況悪化時には雇用を維持したまま労働時間を下げることで対応します。このような対応をおこなうと企業が示せば、従業員がリストラを心配する必要はありません。
また、多様な働き方を認めることで、フルタイムで働けない人でも就業できる機会を提供できます。もしも従業員が今までと同じように働けなくても、就業形態を変更することで継続して働くことが可能です。
このような理由から、従業員は職を失う心配をせずに、安心して働けるようになるのです。また、雇用を広げることは、求職者が職を得る機会を増やすことに繋がります。
そのため、社会全体がワークシェアリングに取り組むことで、働き口を見つけやすい社会を実現できます。
ワークライフバランスが実現できる
ワークシェアリングは、ワークライフバランスの実現を可能にします。
ワークシェアリングは労働を多くの従業員で分担するため、従業員の作業負荷が下がります。そのため、従業員は自由な時間を確保できるようになり、プライベートを充実させることができます。
また、多様な雇用形態を認めることで、それぞれのライフスタイルに合った働き方が可能になります。育児や介護、持病などさまざまな理由でフルタイムでの就業・通勤がむずかしい人がいます。
それぞれの事情に合った働き方を可能にすることで、ワークライフバランスが実現できるでしょう。
ワークシェアリングを導入するデメリット
ワークシェアリングにはいくつかのデメリットが指摘されています。それぞれについて説明します。
企業にとってのデメリット
企業側のデメリットを3つに分けて解説します。
制度の見直しが必要
ワークシェアリングの実施にあたって、従来の制度を大きく変更する必要があります。
既存の制度はフルタイムでの勤務が基準になっているため、従業員の労働時間がバラバラになると対応できないものが出てくるでしょう。現状を整理した上で、さまざまな変更が必要になります。
もっとも大きな見直しが求められるのは業務フローでしょう。統一された勤務時間を前提に考えられた業務フローは、フレックスなどの柔軟な勤務体系に対応できない可能性があります。
そのため、時間をかけて業務を洗い出し、ワークシェアリングに合わせた変更が必要になります。また、従業員の評価は、異なる働き方の従業員でも公平におこなわなければなりません。
長時間労働時間を「頑張り」と評価するようなところもあるため、評価基準や評価の仕方を見直す必要があります。このような見直しをさまざまな観点からおこなう必要があるため、制度の導入には大きな労力がかかります。
給与計算の作業コスト増大
ワークシェアリングの導入によって、給与計算の作業コストの増大が想定されます。理由は大きく分けて2つです。
1つ目の理由は、従業員の増加です。ワークシェアリングは雇用を広げ、労働時間を分散させるため、従業員の数は増加します。それに合わせて、給与計算の作業量も増加します。
2つ目の理由は、働き方の多様化です。今までは、ほとんどの従業員が画一的な雇用形態でした。計算・処理が統一されていたため、作業は比較的シンプルでした。
しかし、さまざまな雇用形態を認めることで、従業員ごとに違った処理が求められます。結果、業務が複雑になり、ミスも生まれやすくなります。
これらの理由から、給与計算など人事業務の見直しが必要になります。対策としては、給与計算システムなどを利用して、処理を自動化することが有効でしょう。
人数増加に伴うコストの増加
ワークシェアリングでは、生産性の増加によるコスト削減をメリットとして挙げましたが、場合によっては、人数の増加によってコスト増加に繋がります。
その原因は、雇用する従業員の増加です。社会保険料は従業員の数に応じて増加します。また、社員の教育にかかるコストも増加するでしょう。このような、従業員の数に応じて増加するコストは、一人あたりの労働時間を削減しても減ることはありません。
しかし、前述した通り、ワークシェアリングにはコスト削減効果もあります。たとえば、時間外労働の減少による割増賃金の削減や、作業負担軽減による従業員の健康被害リスクの低下などです。
ワークシェアリング導入のためには、メリット・デメリットを踏まえて最終的なコストの推定が必要になります。
従業員にとってのデメリット
従業員にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。2つのデメリットを解説します。
給与の減額
ワークシェアリング導入によって、従業員の給与の減額が懸念されます。
ワークシェアリングは、業務を多くの人に分散させます。これは従業員の負担軽減に繋がりますが、一人当たりの生産量の低下を招きます。それに合わせて、給与が低下してしまうおそれがあるのです。
ただし、ワークシェアリングでは業務負担の軽減によって、従業員の生産性が向上するメリットがあります。そのため、時間あたりの生産量が向上し、従業員の給与がそれに合わせて増加するケースもあります。
ワークシェアリングを有効に活用できるなら、給与水準を維持したままの従業員の負担軽減も可能でしょう。
賃金格差の発生
ワークシェアリングの導入により、賃金格差が発生するおそれがあります。これは、従業員ごとに労働時間が異なること、雇用形態が多様化することが理由です。
基本給以外にも、待遇や手当に差が生まれることも想定されます。たとえば、資格手当が固定の場合、労働時間が通常の半分以下であっても全額が支給されます。これを公平ではないと考える従業員からの不満が出てくるかもしれません。
企業は可能な限り、すべての従業員が納得できる公平な賃金制度を考える必要があります。
ワークシェアリングを導入する方法とは?
ワークシェアリングを導入するにあたって、必要な手順を5つに分けて紹介します。
1.現状の把握
はじめにおこなうのが現状把握です。現在の業務内容、業務フロー、組織体制、コストなどを調査します。この現状把握作業は、ワークシェアリング導入の上で重要な判断材料になります。
2.業務工程の見直し
次に、現状の業務工程を見直します。不要な作業や、作業手順が煩雑化している作業を取り除きましょう。業務が効率的でシンプルなものになれば、ワークシェアリングへの移行がスムーズになります。
3.導入する範囲の決定
ワークシェアリングを導入する範囲を決定します。はじめは、下記のような作業から導入するといいでしょう。
- 分担が可能なもの
- 作業手順が統一されているもの
- 必要なスキル習得に時間を要しないもの
4.マニュアルの作成
次にマニュアルの作成をおこないます。マニュアルを導入することで、教育時間の削減、作業の均一化が期待できます。
マニュアル作成にあたって、誰が統括をおこなうのか、マニュアルでどこまで共有するのかを決めておきましょう。
5.運用・効果測定
準備が整ったら、ワークシェアリングを実際に運用します。大事なことは、常に効果測定を実施することです。期待した効果を発揮しているか、可能なかぎり正確に記録しましょう。
効果測定をしていく中で、思うように運用できていないなどの問題が次々に見つかるはずです。その都度改善していくことで、効果的な運用が可能になります。
ワークシェアリングの導入事例
ワークシェアリングは企業の経営を維持しつつ、従業員の雇用を守ることができます。ここでは、実際にワークシェアリングを導入した企業の事例や国としての取り組み事例をご紹介します。
トヨタ自動車
トヨタ自動車株式会社は2009年に、アメリカの6つの工場で働く約1万2000人に対して、労働時間と賃金を減らすことを発表しました。
同社は業績の悪化に悩まされており、固定費の削減を余儀なくされていました。このままではリストラで人員削減をしなければなりませんでしたが、同社はワークシェアリングの導入を決定しました。
従業員の労働時間を週80時間から72時間に短縮し、賃金の1割をカットしました。この対策によって、従業員の雇用を維持することに成功しました。
ベネッセ
株式会社ベネッセコーポレーションでは、従業員の半数以上が女性社員であり、ワーキングマザーの働き方改善が課題となっていました。
問題となっていたのは、育児休業から復帰するまでの期間です。子どもが幼稚園や学校に通うようになっても、完全に復帰はできません。
子どもが家にいる間は一緒にいないといけませんし、送り迎えも必要です。そのため、復帰後もフルタイムでの就業はむずかしいという実情がありました。
そこで導入されたのが短時間正社員制度です。この制度は通常よりも短い時間での就業を可能にし、育児をしながら働けるようになりました。
この短時間正社員制度は育児休業から復帰までをスムーズにすることで、長期的なキャリア形成が可能になると期待されています。
オランダ
オランダは国家としてワークシェアリングを推進しました。1982年、オランダは失業率12%という深刻な状況に直面しました。この問題を打開するために政労使で締結されたのが、「ワッセナー合意」です。
この合意のもと、政府は減税の実施、労働組合は賃金抑制への協力、企業は雇用の維持と時短労働を実施しました。くわえて、オランダはパート労働者を増やすことで、雇用の拡大に努めました。
それぞれの努力の結果、20001年には失業率が2.1%まで減少し、ワークシェアリングの成功例として知られるようになりました。
ドイツ
ドイツは1980年代に、産業ごとに労使協約が結ばれ、ワークシェアリングが推進されました。ドイツのワークシェアリングの目的は、時短労働の導入によるリストラ回避が主なものです。
くわえて、ドイツは雇用創出のためにパートタイム労働者の待遇改善もおこなっています。ドイツでは、パートタイム労働者は正社員に比べて、賃金や処遇に差がありました。そこで、2001年にパートタイム労働及び有期労働契約法が施行されました。
この法律によって、パートタイム労働者への不当な扱いが禁じられました。具体的には、以下のことが定められました。
- 同一労働、同一賃金
- 労働協約でパートタイム労働者への差別禁止を定める。
- パートタイム労働者のフルタイム労働者への転換の容易化
- 有期契約雇用者に対する差別禁止
このような取組の結果、ドイツではパートタイム労働者が増加し、とりわけ女性の社会進出が増加しました。
ワークシェアリングを導入して新しい働き方の実現へ
ワークシェアリングには企業、従業員双方にメリットがあります。企業は割増賃金の削減、そして多くの求職者への門戸を広げることが可能です。一方、従業員は労働時間短縮によるワークライフバランスの実現、雇用の安定化という利点があります。
ワークシェアリングは、雇用を創出し、従業員の生活を充実させる取り組みです。人手不足が深刻化する我が国では、重要性がますます大きくなると考えられます。
そのため、早くからワークシェアリングを導入する準備をおこなうことが大切です。まずは、自社の業務を把握・整理するところから始めてみましょう。
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