インクルーシブデザインの意味とは?事例やユニバーサルデザインとの違い

最終更新日時:2023/10/04

ダイバーシティ

インクルーシブデザインとは

様々な商品や施設に採用されている「インクルーシブデザイン」。多様性の実現が叫ばれる昨今注目を集めていますが、インクルーシブデザインとは何をさす言葉なのでしょうか。本記事では、インクルーシブデザインの意味を筆頭に、ユニバーサルデザインとの違い等とあわせて解説します。

インクルーシブデザインの意味とは?

インクルーシブデザインとは、商品やサービスのユーザー対象から外されてきた人々の声を反映させたデザインのことです。

インクルーシブは「包括的」という意味の言葉であり、「排除(エクスクルード)」の対義語「包括(インクルード)」に由来しています。

障がい、年齢、性別、経済力、国籍などさまざまな理由により、ユーザー対象から排除されてきた人たちを包括するためのデザインなのです。従来のままでは使えない・使いにくい商品やサービスのデザインを変更して、あらゆる人が受け入れられる使いやすいもの作りを目指しています。

インクルーシブデザインの歴史

インクルーシブデザインは、ロンドンの国立美術大学であるロイヤル・カレッジ・オブ・アートのロジャー・コールマン教授によって、1990年代に提唱された概念です。

コールマン教授は、友人である車椅子ユーザーから、キッチンのデザインを頼まれました。車椅子でも使いやすいデザインを提案したところ、友人からは「他人がうらやましいと思うようなキッチンにしてほしい」と言われ、機能性だけを追求していた自分の考え方を改めたそうです。

ユーザーが本当に望んでいることに応えるデザインが大切だと気づき、インクルーシブデザインを提唱しました。

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インクルーシブデザインと似た用語との違いとは?

インクルーシブデザインと似た用語としては、ユニバーサルデザインやバリアフリーなどがあります。それぞれどのようなものなのか、インクルーシブデザインとの違いは何かについて解説します。

ユニバーサルデザインとの違い

ユニバーサルデザインとは、年齢、性別、国籍、障がいの有無などにかかわらず、すべての人が利用できるようにデザインすることです。

例えば、駅における横幅の広い改札は、車椅子のユーザーや盲導犬を同伴している人にとって使いやすいデザインです。同時に、障がいのない人にとっても不便のないデザインといえます。

インクルーシブデザインとの違いは、対象者やデザインプロセスです。排除されてきた特定層をターゲットとするのがインクルーシブデザインであり、顧客の具体的な意見を反映しつつ完成させます。一方、ユニバーサルデザインはすべての人を対象と考え、デザイナー主体で作るデザインのことです。

双方のデザイン手法には、ターゲットとなる対象者や制作過程に大きな違いがあります。

バリアフリーとの違い

バリアフリーとは、すべての人が暮らしやすくするために、社会の中にあるさまざまな「障壁(バリア)」を取り除くことです。元々は段差を取り除く意味の建築用語でした。バリアフリーという言葉が普及した現在は物理的なバリア以外に、社会制度上や文化・情報、心理的なバリアなどの排除も意味しています。

バリアフリーとインクルーシブデザインの違いは、障壁へのアプローチ方法です。バリアフリーがすでに存在しているものから障壁を取り除くのに対し、インクルーシブデザインはデザインの段階から障壁のないように商品やサービスを作ります。

障壁を取り除く意図は共通ですが、あるものに対してアプローチするのか、創造プロセスで行うのかの違いがあるのです。

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インクルーシブデザインの7原則

ここからは、インクルーシブデザインの7原則を紹介します。

  1. 同等の体験を提供する
  2. 状況を考慮する
  3. 一貫性を保つ
  4. 利用者に制御させる
  5. 選択肢を提供する
  6. コンテンツの優先順位を付ける
  7. 価値を付加する

それぞれについて、詳しく解説していきましょう。

1.同等の体験を提供する

すべてのユーザーに同等の体験を提供することが、インクルーシブデザインの原則のひとつです。使う人の状況・環境に左右されないユーザーインターフェースを準備する必要があります。どのようなツールを用いてアクセスしたとしても、同等の体験ができるように整えましょう。

具体的には、代替テキストや音声解説といった代替コンテンツ、字幕の提供などが該当します。

2.状況を考慮する

コンテンツをチェックするユーザーの置かれている状況は、それぞれ異なるため、ユーザーの状況を考慮することがインクルーシブデザインの原則です。

ユーザーは新規の人であったり、リピーターであったりするかもしれません。オフィスや自宅といった場所別の状況も想定し、等価値の体験を提供しましょう。

具体的には、室内でも屋外でも見やすいような配色、操作方法に関するヘルプを表示させるかどうかを選択できる機能などが該当します。

3.一貫性を保つ

デザインに一貫性を保つこともインクルーシブデザインの原則に当てはまります。一貫性のあるデザインはユーザーに意味や目的を明確に伝えるため、エンゲージメントを高めることが可能です。

例えば、ボタンを同色で統一する、どのWebページにも右上にメニューを配置するといったことが挙げられます。幅広く親しまれている図形やパターンの活用も有効です。

4.利用者に制御させる

コンテンツを利用者に制御させることも重要です。

ユーザーの希望しないコンテンツの変化を防ぐ一方で、フォントサイズやコントラストなどの設定は柔軟に変更できるようにしましょう。利用者に制御を促すデザインの例に、アニメーションを停止させられる機能や、スクロールの制御機能があります。

5.選択肢を提供する

選択肢を提供することが、インクルーシブデザインの原則のひとつです。ユーザーが複数の手段から選択して、タスクをやり遂げられるようにしましょう。手段の選択肢がないと、ユーザーがタスクを完成させる前に挫折してしまうケースもあります。

複数の表示レイアウトの用意や、削除方法をクリック・ドラッグ&ドロップのどちらにも対応させるなどが重要です。豊富な選択肢はユーザーの行動を支援し、状況や好みに合った取捨を促します。

6.コンテンツの優先順位を付ける

インクルーシブデザインにおいて、コンテンツの優先順位を付けることは欠かせない原則です。優先順位が不明瞭だと必要な情報に集中できなくなり、目的を達成できません。重要なタスクや機能は強調し、ユーザーにわかりやすく提示しましょう。

例えば、メインの機能を担うボタンを目立つ位置に配置し、視認性を高めるなどが考えられます。メールアプリであれば作成ボタン、ニュースサイトであれば記事タイトルやサムネイルを目立たせるべきでしょう。

7.価値を付加する

価値を付加することは、インクルーシブデザインの原則において不可欠です。コンテンツを良質にする要素など、さまざまな価値を付けることでユーザー体験を向上しましょう。

具体的には、各種API連携や音声機能の活用、位置情報との連携などによって、ユーザーの使い勝手や利便性を上げることが該当します。

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インクルーシブデザインの事例

インクルーシブデザインの事例を参照することによって、より理解を深められるでしょう。9つの事例を紹介するので、デザインの創出に役立てて下さい。

ジョンソン・エンド・ジョンソン|バンドエイド

多様な肌色に対応する5色の絆創膏を開発したのが、ジョンソン・エンド・ジョンソンです。これまで絆創膏のバリエーションは、形、サイズ、材質などでした。色についてはキャラクター柄のものなどがありましたが、多様な肌の色に対応した商品はなかったのが実情です。

さまざまな人種からの声を受け、同社から濃淡の異なる5色のバンドエイドが誕生しています。「肌に馴染み、絆創膏が目立たなくなった」と評価され、ユーザー層が広がりました。

シチズン|腕時計

シチズンは、視覚視覚障がい者の方が本当に求める腕時計を追求し、新製品を開発しました。タイにある複合視覚障がい学校の生徒や学校関係者の意見をもとに作られた「触って時間を知る時計」です。

文字板を触ったときの判読性の高い構造や、弱視の方でも見やすい色を採用しています。デザイン性にもこだわっており、性別やTPOを選ばないビジュアルに仕上げられました。

Microsoft|ゲームコントローラー

Microsoftが開発したゲームコントローラー「Xbox Adaptive Controller」は、通常のコントローラーでは操作に不便を感じる人でも、使いやすいようにカスタマイズできる製品です。

障がい者支援団体などと連携して意見提供を受け、コントローラーやパッケージのデザインにも反映させました。

スイッチ、ボタン、マウント、ジョイスティックといった補助デバイスのハブとして機能し、ユーザー一人ひとりの状況に合わせたコントローラーにカスタマイズできます。

NIKE|シューズ

NIKEのハンズフリーシューズ「ゴー フライイーズ」は、手を使わずに着脱できる画期的なシューズです。

「ダイビングボード」に足を踏み入れるとロックされ、かかとの「キックスタンド」を踏めばロックが解除できます。手が不自由な人、しゃがむのが困難な人の間で好評を博している商品です。

開発の経緯は、脳性麻痺の少年から「靴紐を他人に結んでもらう心配をせずに大学に通いたい」というメールが届いたことでした。デザイナーと少年が協力して、ゴー フライイーズが生み出されました。

SOLIT|ファッション

SOLITは、どれも誰も取り残さない「オール・インクルーシブ」な社会の実現を目指しているブランドです。自然や動物を含めた多様性の価値を尊重し、インクルーシブデザインのファッション開発を進めています。

対象者の趣味趣向、身体の特徴に合わせて衣類のカスタマイズを行うのが強みです。ファッション関係者、医療・福祉従事者などがチームとなって、見た目と機能性を両立したファッションを提供しています。

片手でも着脱できるボタンや、座ってもウエストに布が余らないデザインなどを制作し、ファッションにおける多様性を選択肢の拡大をもって示して自由と幸福を得る手段として提案し続けています。

ユニクロ|インナー

従来のインナーに一石を投じたのが、ユニクロの「前あきインナー」です。かぶるタイプのインナーが脱ぎ着しづらい全ての人のために開発されました。

医療機関や施設を訪問し、対象者からのヒアリングをもとに前が開く作りを採用し、着脱を簡単にする強度のスナップボタンを使うほか、肌に当たらないぬいしろやタグ、かがんでも背中が見えにくい工夫を取り入れました。

前開きインナーは、乳がん手術を受けた人や高齢者、通院が必要な人などの意見を受け止めて作られた製品でしたが、現在では子ども向けにボディスーツタイプも用意しており、幅広い層から支持されるシリーズとなっています。

山形児童遊戯施設|シェルターインクルーシブプレイス コパル

インクルーシブデザインに基づいた建築物に、山形市南部児童遊戯施設「シェルターインクルーシブプレイス コパル」があります。

性別や年齢、人種・国籍の違い、障がいの有無などにかかわらず、多くの子どもたちが一緒に遊べるスペースとして作られました。

バリアを解消するためのスロープや手摺、誘導ブロックなども、新しい遊びや学びのきっかけになるようにデザインされているのが特徴です。音、手触り、光、香りなど、運動機能よりも五感重視で楽しめる設備があります。

都立砧公園遊具広場|みんなのひろば

都立砧公園遊具広場「みんなのひろば」は、障がいの有無にかかわらず遊びの場を提供する広場です。多様な子どもたちが同じ場所、同じ遊具で遊べるようにデザインや設計がなされています。

車椅子でも通りやすいゆとりのある迷路、歩行器のままでも乗れる船型遊具など種類が豊富で、遊具周りにはゴムチップ舗装が敷かれており、転倒時のけがを予防にもつながります。高さや形が異なるベンチ、車椅子のままで囲めるテーブルもあり、多様な交流を促すスポットとして親しまれているのです。

セブン銀行|ATM

セブン銀行のATMは、音声案内とテンキー式のボタンを使って、画面をタッチしなくても操作ができます。視覚障がい者からのヒアリングや、金融機関へのリサーチを重ねて開発されました。

音声案内があることでボタン操作がしやすくなり、希望する手続きができるようになっています。ATMでの補助はセキュリティへの配慮が求められますが、インクルーシブデザインによって対象者が安心・安全に使えるようになりました。

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インクルーシブデザインの必要性を理解しさまざまな活動に取り入れよう

インクルーシブデザインとは、さまざまな理由により商品やサービスのユーザー対象から外されてきた人々の声を、制作プロセスの初期から反映させたデザインのことです。

インクルーシブデザインに必要な7原則を理解し、対象者の満足を第一に考えたもの作りを追求しましょう。企業が実践するインクルーシブデザインも参考にすれば、より良い社会のための創造に役立ちます。インクルーシブデザインの本質を忘れずに、製品・サービスの制作に反映してください。

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