バリアフリーとは?4つのバリアや種類・ユニバーサルデザインとの違いを簡単に解説
高齢者や障害を持った方が社会で生活するために、バリアフリーの導入は欠かせません。本記事では、バリアフリーへの理解を深めたい方向けに、障壁の種類やユニバーサルデザインとの違いを簡単に解説します。バリアフリーとは何かを知って、取り組みに役立てましょう。
目次
バリアフリーの意味とは?
バリアフリーとは生活の中での障壁を取り除き、年齢による衰えや障害の有無などに関係なく、誰でも快適に過ごせる環境を整えることです。バリアフリーは元々建築用語で、狭い通路や滑りやすい床など、物理的な障壁を取り除く意味の言葉でした。
現在の社会は外見や性別、能力などが異なる人々から形成されています。生まれ育った環境や価値観も異なるため、多様性を尊重する姿勢が必要です。一方、身体に不自由のない人が多数派とされてきたのも現実で、少数派は不便を感じる場面も多々ありました。
内閣府の調査によると、2021年時点で身体障害や知的障害、精神障害を抱えている方は、日本の全人口のうち約7.6%でした。さらに高齢者人口の増加も踏まえると、バリアフリーの重要性は決して低くないといえます。
少数派に入る人は、何も高齢者や障がい者だけではありません。怪我や病気など、生活で不自由さを感じる理由は人それぞれなのです。バリアフリーとは、本当の意味で多様な人々が暮らしやすいよう、障壁を取り除くことにあります。
[出典:内閣府「令和3年版障害者白書(全体版)-参考資料 障害者の状況」]
ユニバーサルデザインとの違い
バリアフリーと似た言葉に、ユニバーサルデザインがあります。両者の違いはその目的です。ユニバーサルデザインとは、障害の有無や言語の違いなどを問わず、誰でも利用できるように設計されたデザインを指します。「誰でも」には、心身に不自由のない大多数の人も含まれるのです。
一方、バリアフリーとは、既に認知されている障壁を取り払うのが目的です。認知されている障壁とは、高すぎる段差や車椅子に対応していない通路など、心身に不自由がある人が不便を感じる要素を指します。
バリアフリーは少数派の人にとっての障壁を取り除くことが目的であり、ユニバーサルデザインはバリアフリーの目的を内包した上で、多数派の人も問題なく使えることを目的としているのです。
バリアフリーに取り組むべき理由
バリアフリーへ積極的に取り組むべき理由は以下の3つです。
- 高齢者が増加しているため
- 障がい者雇用が広がっているため
- ユニバーサル社会の実現が進んでいるため
さまざまな現代事情から、バリアフリーの推進が求められています。
高齢者が増加しているため
バリアフリーを導入すべき理由に、日本全体で少子高齢化が加速している点が挙げられます。未婚率の上昇や晩婚化、経済的不安などが原因で、年々出生率は低下しています。2022年の出生率は過去最低の1.26でした。今後も劇的な改善は難しく、高齢者に配慮した環境整備が求められます。
なかでも地方における高齢化は問題視されており、該当エリアでの公的機関におけるバリアフリー化は急務です。都市部と違って整備が遅れやすいため、高齢者が住みやすい環境づくりが急がれます。
[出典:厚生労働省「結果の概要」]
障がい者雇用が広がっているため
障がい者の雇用機会が拡大しているのも、バリアフリーを進めるべき理由です。民間企業や地方公共団体には、従業員数に応じて一定数障がい者を雇用する障がい者雇用率制度が設けられています。一般企業の場合、2023年の2.3%から段階的に上がり、2026年までに2.7%となる予定です。
従業員を常時44人以上雇用している企業は、少なくとも障がい者を1人雇用しなければなりません。法定雇用率を下回った場合は行政からの指導を受け、企業名の公表といった措置を取られるケースもあります。常時雇用数100人以上の企業が障がい者雇用率を満たせない場合、納付金の支払い義務が生じるため注意しましょう。
また、2018年からは精神障がい者の雇用も対象に含まれるようになっており、従来より採用の幅は広がります。バリアフリーの必要性がより高まるため、企業として求められる対応に努めることが大切です。近年は障がい者雇用向けの助成金を活用することも可能なので、受給要件などを確認しておきましょう。
ユニバーサル社会の実現が進んでいるため
バリアフリーに取り組むべき大きな理由に、ユニバーサル社会への実現推進があります。2006年の「バリアフリー新法」、2018年の「ユニバーサル社会実現推進法」の成立など、すべての人々が暮らしやすい社会を実現させる動きが加速しているのです。
ユニバーサル社会実現推進法においては、障がい者や高齢者にとって利用しやすい商品やサービス、施設の開発が含まれています。同時に積極的な社会参加を促すため、交通機関や周辺施設の安全性・利便性の確保も求めています。
法整備からも多様性受容の流れが進んでおり、バリアフリー化とユニバーサルデザインの重要性が一層高まっているのです。
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バリアフリーを阻む4つのバリア
高齢者や心身に障害を抱えている方にとって、生活に支障を及ぼすバリアは以下の4つに分けられます。
- 物理的バリア
- 制度的バリア
- 文化・情報面バリア
- 意識的バリア
具体例を交えながら各バリアの特徴についてみていきます。
1.物理的バリア
物理的バリアとは、道路や交通機関、建物などを利用する際の物理的な障壁を指します。以下に物理的バリアの例をまとめました。
- 駅のホームと電車の隙間
- バスの乗降口に生じている段差
- 道路の段差
- 急こう配の坂道
- 道幅が狭い通路
- 滑りやすい床
- 座ったままでは届かない位置に設置されたボタン
通り道に段差や隙間があると転倒リスクが高まります。エレベーターに設置するボタンの位置や、道幅・傾斜などにも注意すべきです。身体に不自由がある人、車椅子を利用している人でも安全に使える状態が求められます。
2.制度的バリア
制度的バリアとは、社会のルールや制度が原因で障害を持つ方が十分に機会を得られない状態を指します。制度的バリアの該当例を以下にまとめました。
- 身体的な障害を理由に高校の入試試験受験を拒否される
- 精神障害を理由に企業の採用試験受験を拒否される
- 盲導犬と一緒での入店を拒否される
能力の有無を見極めず、障害を理由に生活のさまざまな局面で制限を受けることが、制度的バリアの問題点です。
3.文化・情報面バリア
社会活動を営む上で、身体的障害を持つ方が必要な情報を十分に得られない状態を文化・情報面バリアと呼びます。文化・情報面バリアに該当する例を以下のとおりです。
- タッチパネル式のみの操作版
- 音声案内のみの駅構内および車内アナウンス
- 音響機能を搭載していない信号機
- 点字ブロックが設置されていない交差点
- 字幕や手話がないテレビ番組
視覚や聴覚に障害を抱える方が、制限なく情報を得られる環境が求められます。情報発信の方法に配慮し、さまざまな工夫が必要です。
4.意識的バリア
意識的バリアとは、高齢者や心身に障害を持つ方々を受け入れない姿勢を指します。偏見や差別、無関心といった以下の要素が例です。
- 点字ブロックの上に立ち視覚障がい者の進行を邪魔する
- 電車やバスの車内で車椅子スペースを占拠している
- 緊急時のアナウンスを聴覚障がい者に伝えない
- コンビニやスーパーにある車椅子使用者用のスペースに駐車する
個人及び社会全体の理解不足が原因で、高齢者や心身に障害を持つ方々との間に障壁が発生します。
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バリアフリーを必要とする障害の種類
バリアフリーを必要とする障害の種類は、以下の2種類に分けられます。
- 身体的な障害
- 内面的な障害
外見からは判別が付きにくい障害もあるため、症状や不便さに理解を深めることが重要です。
身体的な障害
身体の一部がうまく機能しないため、日常生活でさまざまな不便さや困難に直面します。身体的な障がいに分類される内容を以下にまとめました。
- 視覚障害
- 聴覚障害
- 肢体不自由
- 身体内部の機能異常や虚弱
視覚・聴覚に関する障害は、全盲や弱視、難聴者など個人によって度合いに差があります。肢体不自由とは腕や足、指など、身体の一部分がまひして動かしにくくなる状態のことです。
また、外部から判別の難しいものに身体内部の機能異常や虚弱があります。身体の内部にある器官に障害が発生し、疲れやすさや生理機能の低下を抱えている状態です。
バリアフリーには、いかなる身体的不自由に対応できるデザインや構造が求められます。
内面的な障害
内面的な障害に分類されるのは以下の3つです。
- 知的障害
- 発達障害
- 精神障害
知的障害とは認知能力や社会への適応能力の発達に遅れが出ており、日常生活に支障が生じている状態を指します。先天的に脳機能の発達に偏りが生じているのが発達障害です。ADHDや自閉症、学習障害などが該当します。
精神障害は、強いストレスや環境の変化などが原因で精神機能に異常が生じ、日常生活が困難になる状態です。統合失調症やうつ病、パニック障害などが該当し、治療や服薬によって症状をコントロールします。
いずれの障害も外部から判別しにくいため、特徴や症状の理解を深めた上でバリアフリーに反映することが重要です。
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バリアフリーが抱えている課題
早急な改善が求められるバリアフリーの課題は以下の2点です。
- 整備が徹底されていない
- 心のバリアフリーが浸透していない
物理的な環境整備に加え、人々が障害に関して理解を深めなくてはなりません。
整備が徹底されていない
バリアフリー新法の成立にともない、各市町村はバリアフリーを前提とした街づくりに取り組む必要があります。しかし、予算や人材不足などが原因で、バリアフリーの整備が遅れている地方自治体も少なくありません。
景観や伝統を守るため、バリアフリー化を進めるのが難しい地域もあります。さまざまな事情により、バリアを最小限に抑えるには多くの時間と費用が必要になるでしょう。
心のバリアフリーが浸透していない
障害を持つ方や高齢者への偏見をなくすには、心のバリアフリーを浸透させる必要があります。心のバリアフリーとは相手の立場になって考え、声がけや手助けをする姿勢です。
積極的に手助けをする人がいる一方、対応方法がわからず何もできない人も少なくありません。障がい者がどのような部分に障壁を感じるか、理解する意識や機会を持つことが重要です。
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バリアフリーの身近な導入例
身近に導入されているバリアフリーの事例を5つ紹介します。
- 傾斜路・スロープ
- 視覚障がい者用誘導ブロック
- 音響式の信号機
- 多目的トイレ
- エレベーター
設備を利用する際は、障がい者の方への配慮を心がけましょう。
傾斜路・スロープ
スロープとは、階段や段差を解消した緩やかな傾斜路を指します。車椅子に乗っている方や、杖を突いて歩いている方が移動しやすいバリアフリー構造です。段差がないため、転倒するリスクが低くなるといったメリットがあります。
学校や病院・老人ホームの新築や増改築などを行う場合、バリアフリー法に基づいてスロープを設置しなければなりません。すべての方が利用できるよう、幅や勾配、手すりの設置といった基準も設けられています。
視覚障がい者用誘導ブロック
視覚障がい者の安全に配慮した道路に設置される点字ブロックです。点字ブロックには、線状と点状の2種類が存在します。
線状ブロックは、誘導する方向の道筋を示すのが役割です。進行方向と平行に線状の突起を4列以上設置します。一方、点状ブロックは危険個所を知らせるのが役割です。点状の突起を5列以上設置し、一時停止や歩行スピードの減速を促します。
また、駅のホームには内方線と呼ばれるブロックが設けられています。ホームの内側・外側の判別に役立ち、線路への転落予防にもなるブロックです。
音響式信号機
音響式信号機とは、信号が青になっていることを音声やメロディーで通知できる信号機です。視覚障がい者が横断歩道を渡る目安になるほか、音で横断する方向を示す役割も担っています。
音響の流し方によっても、安全策が取られているのが特徴です。例えば、交差点の端で異なる音響を時間差で流すことで、横断時の方向性・誘導性をより高める整備が行われています。
多目的トイレ
多くの異なる事情を抱えた人のために、多目的トイレが設置されています。車椅子に乗っている方や高齢者、膀胱に障害を抱えている方など、対象者はさまざまです。駅やショッピングモール、病院などにあり、手すりの設置や広いスペースの確保といった基準を満たさなければなりません。
オストメイトと呼ばれる人工肛門の保有者向け流し台のほか、ベビーチェアやおむつの交換台の設置も進んでいます。心身に不自由がある人だけでなく、子ども連れでも安心して使える代表的なバリアフリースポットです。
エレベーター
病院や学校、ホテルなど、特別特定建築物に該当する建物には、エレベーターのバリアフリー化が義務付けられています。設置自体はもちろん、幅や奥行きなどにもバリアフリーデザインを適用しなくてはなりません。
具体的なバリアフリーデザインとしては、開閉ボタンや階数ボタンを大きくし、低い位置に配置する例が挙げられます。ボタンの機能を点字や音声案内で説明するといった施策も必要です。また、2方向に出入口を設けると、車椅子利用者の負担を大幅に軽減できます。
身体的・内面的な障害があっても不自由なく使えるような、バリアフリーデザインのエレベーターが不可欠です。
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バリアフリーとは生活の支障になる障害を取り除く施策
少子高齢化の加速や障がい者雇用増大などによって、バリアフリーの重要性は高まっています。バリアフリー化を進めるには、バリアの種類や障害に対する理解を深めることが重要です。
意識的バリアは多くの費用をかけなくても、除去できる障壁です。社会のルールや認識を変えるためにも、障がい者や高齢者への理解・許容が必要となります。身近なバリアフリーから学び、意識を変えるきっかけとしていきましょう。
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