地方自治体で電子契約を導入が進んでいる背景とは?法改正の影響や導入事例

最終更新日時:2022/12/23

電子契約システム

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昨今、電子契約は地方自治体における契約業務においても導入が進められています。 この記事では、自治体で電子契約の導入が実行された背景と具体的な法改正の内容について解説します。自治体が電子契約サービスを導入するメリットや今後の課題も解説しますので、ぜひ参考にしてください。

地方自治法施行規則が改正!自治体も電子契約サービスが使えるように

2021年1月に地方自治法と同施行規則が改正され、これまで自治体との電子契約で必須とされていた「電子証明書」の送信が不要となりました。

そのため、自治体と民間企業の間での電子契約のハードルは、実質的に大きく下がったことになります。

地方自治法施行規則の改正前の状況

法改正前の地方自治体との契約締結においては、以下のいずれかの電子証明書が必要でした。

  • 地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が発行したもの
  • 認定認証事業者が発行したもの
  • 登記官によって作成されたもの

電子証明書を要する電子契約は、一般的に「当事者署名型(当事者型)」と呼ばれ、電子証明書の発行だけでなく、契約当事者である双方が同じ電子契約サービスを使用する必要があるなど、実用的ではない点が多かったのです。

実際に、民間企業における電子契約では、上記の実用性における課題から、当事者の電子証明書を必要としない「事業所署名型(立会人型)の電子契約がより多く利用されている状況にあります。

当事者署名型と事業所署名型の違い

電子契約には、当事者署名型(当事者型)と事業所署名型(立会人型)の2種類の方法があります。

当事者署名型では、第三者機関である認証局で、契約当事者の厳格な本人確認を行ってから発行される電子証明書を以って電子署名を付与します。

これらは紙ベースの契約における「電子署名=実印」「電子証明書=印鑑証明書」と考えると分かりやすいかと思います。

一方の事業所署名型は、電子契約サービス事業者が、契約当事者からの依頼のもと、メールアドレスなどにより本人確認を行う電子契約です。

こちらの電子契約では、契約当事者の電子証明書は不要となるため、当事者署名型に比べて手続きが簡素化され、利便性が高い点が特徴です。

そのため、現在の電子契約サービスでは、この事業所署名型(立会人型)が、より多く利用される傾向にあります。

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法改正で自治体も電子契約サービスが使えるように

法改正により、新たに利用が可能になったのが、電子契約サービスにおける「事業者署名型」の電子署名と、マイナンバーに基づく当事者署名型の電子署名です。

同時に、地方自治体と企業で契約を締結する際の電子署名において認証レベルが緩和されました。そのため要件を満たす電子署名を用いることで、民間企業と地方自治体とが電子契約を締結できるようになります。

電子契約の仕組みと導入方法とは?サービスを選ぶポイントも簡単に解説

法改正が実施された背景

法改正前の地方自治体では、電子契約を結ぶ際に下記の2つが要件として定められておりました。

  • 総務省令で定める電子証明書を取得すること
  • 改ざん検知機能・なりすまし防止機能が備わっている電子契約サービスを利用すること

2つの要件が定められていたことにより、電子証明書を発行するまでの手間やコストが発生するなどの理由で、なかなか自治体での導入は進まみませんでした。

この状況である自治体から、クラウド型の電子契約書を使えるようにして欲しいと国に要望を出し、総務省は法改正に踏み込んだのです。

法改正によって下記2つの要件を満たす電子契約サービスであれば、自治体でも利用することが可能となっています。

  • 電子署名が本人によって作成されたことを証明するもの(本人性)
  • 電子署名が改ざんされていないことを証明するもの(非改ざん性)

地方自治体が電子契約サービスを導入するメリット

一般的に電子契約サービスを導入すると、FAXや郵便で書類をやり取りする手間やコストを削減することができ、社内の業務効率化につながるといわれています。

地方自治体が電子契約サービスを導入した場合のメリットについて見ていきましょう。

(1)契約書類の検索性&閲覧性の向上

自治体では、おおよそ3年程度で担当部署を移動するのが通例となっています。

膨大な紙の契約書を整理して保管するには、相応の手間と時間がかかるでしょう。

ただでさえ、大量の書類の中から目的の書類を見つけ出すことに苦労する中で、業務に慣れていない担当者が過去の契約書を探すとなれば、当然、業務の生産性は低下してしまいます。

その点、電子契約に切り替えることで、検索機能により過去の書類をスムーズに探し出せるようになります。契約書類を探し出す時間と手間が減るだけでなく、書類を探し出す手間を嫌って過去の資料を確認せずに、不確かなまま契約を進めることもなくなるため、ミスを減らすことも可能です。

さらに、電子契約サービスを導入すれば、万が一監査を受けることになった際も、大量の書類を持ち運ぶ必要がなくなります。

電子契約サービスによって、「業務の効率化」と「業務の正確性」が両立でき、かつ削減した時間を、より重要度の高いコア業務にあてることができるようになるのです。

(2)承認プロセスの簡略化

自治体の中での承認プロセスは、全体的に複雑で時間がかかります。

庁舎が離れていたり、出先機関など複数課に渡っての承認が必要な場合にも、通常は、書類を回覧して承認を得ることが慣習となっていました。

そのため、全員の承認が下りるまでに1週間〜2週間以上かかってしまうことも少なくありません。急ぎの案件だからと、持ち回りで決裁を仰ごうとしても、1日では終わらないこともあり得るのです。

片や、電子契約システムでは、オンライン上で承認が行えるため、出先や移動中にも作業が可能となり、大幅な業務の効率化を実現できます。

(3)契約書作成の効率化

電子契約では、契約書の印刷や製本作業は一切不要です。契約書を作成する際にも、テンプレート機能を使うことで、契約書をゼロベースで作る必要がなくなり、業務の大幅なスピードアップを実行できるでしょう。

また、電子署名は、オンライン上で付与できるため、署名・捺印のために、書類を郵送でやり取りすることもなくなります。そのため、これまで契約締結に1週間以上を要していた契約業務を、最短1日に短縮することも不可能ではありません。

電子契約のメリット・デメリットとは?導入前に知っておくべき注意点も解説

地方自治体が電子契約サービスを導入することの課題

国のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進政策により、電子契約は地方自治体へも広まりつつあります。

電子契約サービスは業務の効率化や経費の削減などのメリットがありますが、一方でセキュリティ面でのリスクと、なりすましによる不正行為などの課題もあるのです。これらのリスクについて見ていきましょう。

(1)セキュリティ面でのリスク

地方自治体の担当者が最も心配するのが、情報漏えいなどのセキュリティ面でのリスクです。

サイバー攻撃によるリスク

ネットワークを通じて、データの漏えいや破壊、改ざんなどを行うサイバー攻撃には、パスワードを盗んで行うなりすましによるものと、セキュリティパッチの穴を突いた不正アクセスがあります。

サイバー攻撃を受けると、データが破壊・改ざんや、電子契約サービスのシステムがダウンなど、契約関連の情報が流出するリスクがあります。

コンピューターウイルスはその対策に対して、いたちごっこともいえるように高度化・巧妙化し続けています。よく知られているのは、メールの添付ファイルやWebサイトへの訪問を感染経路にした手口で、これらを介して不特定多数にばらまいたり、ひとつの企業や団体にターゲットを定め、ウイルスを送り付けたりするケースです。

また、問い合わせなどを装って特定の従業員と何度かメールのやり取りを重ねた後にウイルスを仕掛けた添付ファイルを送り感染させたり、不正送金をさせたりする手口もあるので、細心の注意を払わなければなりません。

自治体は、機関によっては個人情報を多く取り扱うため、特定の組織を集中して狙う「標的型サイバー攻撃」の対象になりやすい面があります。

普段使用するパソコンや通信環境のセキュリティ対策はもちろんのこと、使用するシステムに関しても、万全のセキュリティ体制を構築しておくことが求められます。

情報漏えいのリスク

サイバー攻撃やコンピューターウイルスへの感染などでは、外部に情報が漏れてしまうリスクも発生します。

個人情報の塊ともいえる自治体のデータを守るためには、セキュリティ対策が何よりも重要です。

一方で職員によるデータの持ち出しも、起こりえるトラブルのひとつとして見逃せません。データの持ち出しや不正使用を防ぐために閲覧権限やアクセス制限といった設定をし、管理面でのセキュリティを万全にしておくことも必要です。

(2)第三者によるなりすましのリスク

電子契約で気を付けなければならないのが、当事者になりすました第三者による契約の締結です。

なりすましのリスクは、自治体における電子契約に限ったことではありませんが、いずれにせよ被害を防ぐためには、本人確認が重要となります。

しかし、自治体が1年間に交わす契約は膨大な数に上り、すべての契約に電子証明書付きの当事者型の電子署名を求めるのは、あまり現実的な対策とはいえません。

そのため、重要性が高く身元確認の必要性もある契約には当事者署名型、過去に複数回の契約実績があり、すでに本人性が担保されている企業との契約であれば事業所署名型というように、使い分ける運用にするのも一つの方法といえるでしょう。

電子契約における本人確認の重要性となりすまし防止への対策について

地方自治体の電子契約サービス導入事例

地方自治体の中には既に電子契約サービスの実証実験を済ませ、本格稼働に踏み切っている自治体があることをご存じでしょうか。ここでは、異なる電子契約システムを導入した、3つの自治体の導入事例についてご紹介します。

(1)新潟県三条市

金属加工の中小企業が数多くある新潟県三条市では、他自治体に先駆けて2021年4月に工事や物品納入などの民間業者との契約に電子契約を導入しました。

三条市が導入して利用しているサービスは、GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社の「電子印鑑GMOサイン」です。

三条市は、市の契約書作成などの事務作業にかかる時間や費用削減と共に、契約締結までの一連の工程が速やかに行われると見込んでおり、印紙税が不要になることで相手方がコストカットできることも電子契約導入の恩恵だとしています。

(2)茨城県笠間市

茨城県の中央部にある笠間市では、電子契約の導入や文書の電子化の推進、プリンターの廃止などを盛り込んだ「デジタルトランスフォーメーション(DX)計画」を策定しています。

この取り組みの一環として、2021年7月に売買契約や業務委託契約、請負契約などのほか、協定書や覚書も対象とした電子契約サービスを本格導入しました。

導入されたのは、弁護士ドットコム株式会社の「クラウドサイン」で、約9カ月間の実証実験を経て本格稼働へと移行しています。

笠間市は、この電子契約への移行により、出先機関が公印を使用する際に本庁を往復する移動時間の削減や、契約書の郵送にかかる費用の削減などをメリットにあげています。

さらに、相手方にとってもスムーズに契約できる上に、郵送代や印紙代などコストカットができるとしているのです。

(3)宮崎県都城市

牧畜業を始めとした農業が盛んな宮崎県都城市では、2019年8月にデジタル化推進宣言をし、2020年9月に電子契約および見積書の電子化に係る実証実験を開始しました。

導入したのは、株式会社インフォマートの電子契約のクラウドサービス「BtoBプラットフォーム契約書」。このサービスによって、契約から見積もりまでの一連の商取引をデジタル化することを目指しています。

BtoBプラットフォーム契約書では、見積書の作成・発行、受け取った見積書の保管や開封状況の確認、企業とのやり取りの履歴管理などをWeb上で一元化することが可能です。

そのため、契約業務の簡素化はもちろんのこと、自治体が行う監査業務のスマート化も期待されているメリットのひとつです。

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自治体での導入に適している電子契約サービス4選

行政サービスの高度化に対応するため、自治体では申請や届出などの手続きがオンライン化されると共に、電子契約サービス導入の検討が積極的に行われるようになりました。

民間企業とは異なる課題のある自治体でも、電子契約サービスの実証実験を始めたり、本格導入に踏み切ったりする自治体は増加傾向にあります。ここでは、自治体への導入実績がある電子契約サービスをご紹介します。

(1)マネーフォワードクラウド契約

マネーフォワードクラウド契約は簡単かつシンプルな操作性で、大企業から中小企業まで様々な導入実績を誇っている電子契約サービスです。

初めてツールを活用する場合でも問題なく使えるため、IT化のハードルが高い傾向がある地方自治体での導入にも非常におすすめできます。

申請から承認までのフロー・契約締結・保管・管理など、契約に関わる全ての作業を一つの画面上で確認でき、システムを分断しないために業務効率化とガバナンス強化の両立が可能です。

資料請求はこちら

(2)GMOサイン

GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社の「電子印鑑GMOサイン」は、導入企業50万社以上のクラウド型電子契約システムです。

GMOグローバルサインではデジタル・ガバメント支援室を設立して、官公庁や地方自治体特有の課題も検討しながら、デジタル技術の活用を支援しています。

契約印&実印プランは、月額税込9,680円で、実印タイプの電子契約サービスを利用することが可能。さらに、「さよなら印鑑~1億総デジタル化プロジェクト~」では、1年間の実証実験期間中は無償でシステムが提供され、DX支援隊の派遣サポートも受けられます。

グレーゾーン解消制度により、デジタル庁・法務省・財務省から適法性を確認済みのサービスとなっているため、官公庁・自治体でも安心して使えるでしょう。実際に、100以上の自治体が、電子印鑑GMOサインの実証実験に参加し、新潟県三条市が本格導入に踏み切っています。

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(3)CloudSign(クラウドサイン)

弁護士ドットコム株式会社の「CloudSign(クラウドサイン)」は、地方自治法をはじめ法律への知見がある弁護士が監修した、クラウド型の電子契約システムです。

導入実績は、すでに30万社を超え、複数の部署での利用にも適したハイレベルな内部統制機能を搭載したプランは、規模や機能に合わせた月額固定費用があり、ユーザー数無制限で利用できます。

送信件数は1万書類まで無料で、1万書類を超えた場合も1万書類ごとにインポート書類保管費用、税込11,000円/月で利用することが可能です。

さらには、100以上の外部サービスと連携させることが可能であり、契約の締結だけでなく、契約業務を包括的に効率化することができるのもクラウドサインの特徴です。

公式サイトはこちら

(4)BtoBプラットフォーム 契約書

BtoBビジネスを切り開く株式会社インフォマートの電子契約のクラウドサービス「BtoBプラットフォーム契約書」は、契約の締結や管理を電子データ化して一元管理するための電子契約システムです。

現時点(2022年3月)で、70万社以上(約137万事業所)で導入されています。

従来の契約業務にかかっていた手間とコストを削減するのはもちろん、社内承認をWeb上で行うことができるワークフローシステムがあるため、出先機関の多い自治体にもおすすめのサービスです。

紙の契約書を電子データ化し、アップロード登録ができる「自社保管」機能の他、ブロックチェーン技術による契約内容の信用性・機密性の保持など、業務のデジタル化やDXを安心して実現することができます。

公式サイトはこちら

電子契約を導入する自治体は今後加速度的に増えていく

地方自治法と同施行規則の改正により、自治体における電子契約は、「当事者型」のみから、「当事者型」と「立会人型」の両方が利用可能になりました。

電子契約サービスを導入する際には、サイバー攻撃やコンピューターウイルスなどのセキュリティ面でのリスクもあることは事実です。

しかし、地方自治体が電子契約サービスを導入することで得られる、契約書類の検索や閲覧性の向上、契約業務にかかわる事務作業と費用の削減、承認プロセスの効率化などのメリットはリスクを考慮した上でも大きい利点であると考えられます。

これらを踏まえ、まずは既に自治体への導入実績がある電子契約サービスの利用を検討してみてはいかがでしょうか。

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