労働安全衛生法とは?目的や事業者の義務・改正のポイントをわかりやすく解説

最終更新日時:2023/12/22

労務管理システム

労働安全衛生法とは

労働者が安全・快適に働くための法律、労働安全衛生法。健康障害や労働災害を防止するためのさまざまなルールが定められていますが、具体的な内容はどのようなものでしょうか。本記事では、労働安全衛生法における事業者の義務や、労務管理のポイントをわかりやすく解説します。

この記事の要約

・労働安全衛生法は、労働者の健康被害や労働災害を抑えるために事業者への義務が記されている法律のこと
・労働安全衛生法が労働災害の防止に焦点が当てられているのに対し、労働基準法労働者の権利を守るためにあるもの

労働安全衛生法とは?

労働安全衛生法は、労働者の健康と安全を守るための法律です。労働者の労働災害や健康被害を最小限に抑えるうえで、事業者に対する義務が記されています。

労働安全衛生法における労働者とは、同居の親族のみで運営される事業所の雇用者や家事使用人を除き、対価を得るために事業者の指揮命令を受けて事業に従事する方を指します。

一方、労働安全衛生法における事業者とは、何かしらの事業運営のために労働者を使用する法人や事業経営者を指します。したがって、労働安全衛生法は原則としてすべての企業に適用され、遵守しなければならない法律です。

労働安全衛生法の目的

労働者の保護を実現するうえで、労働安全衛生法には次の3つの目的があります。

  • 労働災害を未然に防ぐための基準の確立
  • 事業場内における責任体制の明確化
  • 職場環境の主体的な改善促進

労働安全衛生法と労働基準法の違い

労働安全衛生法と労働基準法は、どちらも労働者の権利や安全を守るための法律ですが、それぞれ異なる目的で制定されているものです。労働安全衛生法の制定経緯は、技術革新や生産設備の高度化が急激に進んだ高度経済成長期までさかのぼります。

当時の日本は特需景気による海外輸出が好調な反面、労働災害の多発という深刻な問題を抱えていました。この問題の解決に向け、労働基準法第5条の安全配慮義務をより明確に定義するために、1972年に制定されたのが労働安全衛生法です。

このような経緯から、労働条件に関する労働者の権利を守る労働基準法に対して、労働安全衛生法では労働災害の防止に焦点が当てられています。

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労働安全衛生法における事業者の義務

労働安全衛生法では、主に6つの事業者の義務を定めています。

安全衛生管理体制の整備

労働災害を防止するための環境整備には、方針や計画を決める責任者や安全衛生をモニタリングする管理者、安全衛生水準の向上を推進する安全衛生委員会の設置が欠かせません。

このことから、事業者は安全衛生管理体制に必要な以下の責任者・管理者の選任が求められています。

  • 安全衛生責任者
  • 安全管理者
  • 衛生管理者
  • 産業医

安全衛生教育の実施

労働者や設備の稼働状況など、常に変化する職場の安全性を確保するためには労働者への安全衛生教育が不可欠です。

安全衛生教育は実施が義務付けられている法定教育と、努力義務に分類されます。うち、法定教育は次の3種類です。

教育内容実施時期
従事業務に関する作業手順、安全装置等の取り扱い方法など雇入れ時や作業内容変更時
危険を伴う機械・設備の取り扱いなど危険有害業務への着任時
職長等に対する現場の指導・監督や安全衛生管理の進め方など初任時や体制変更時

努力義務になっている安全衛生教育は、次の2種類です。

教育内容実施時期
安全衛生管理者等の能力向上初任時に加え、定期的な実施を推奨
労働者に対する健康教育定期的な実施を推奨

労働災害の防止措置

危険物や有害物に対する労働災害の防止措置も事業者の義務です。危険物に関しては、以下のようなものが挙げられます。

  • 機械、器具その他の設備
  • 爆発性・発火性・引火性のある物等
  • 電気、熱その他エネルギー
  • 掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法
  • 労働者が墜落する可能性がある場所や土砂等が崩壊する可能性のある場所等

また、健康被害のリスクがある有害物に関しては、以下のような具体例が示されています。

  • 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等
  • 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等
  • 計器監視、精密工作等の作業
  • 排気、排液又は残さい物

健康保持・健康増進のための措置

どれだけ労働環境の改善を進めたとしても、労働者の健康が損なわれている状態では労働災害を防ぎきれません。

特に日本では業務に対して不安や悩み、ストレスを抱えている労働者の割合が高い水準となっていることが問題視されています。

このような状況から、労働者の心身における健康問題に対して早期から予防対策に取り組むことが求められているのです。

ここでは健康保持・健康増進で義務付けられている4つの対策を解説します。

健康診断の実施

事業者は労働者を1人でも雇用している場合、年1回の健康診断の実施が義務付けられています。

また、常時50人以上の労働者を使用する事業場は、健康診断の結果を労働基準監督署に提出しなければなりません。

ストレスチェックの実施

労働者のメンタルヘルスケアをおこなうために、業務で蓄積したストレスの度合いを把握するのがストレスチェックです。

常時50人以上の労働者を使用する事業者は、産業医や保健師によるストレスチェックを年1回の頻度で実施しなければなりません。

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長時間労働者に対する面接指導

月間残業時間が80時間を超える労働者は健康障害リスクが高いことから、労働者の申し出に応じて医師による面接指導が義務付けられています。

具体的には問診などによって対象となる労働者の心身状況を把握し、その結果に応じて適切な指導をおこなわなければなりません。また、事業者も就業場所や業務内容の変更などを通じて、根本的な再発防止に取り組む必要があります。

疾病による就業禁止

インフルエンザなどの感染力の強い疾病にかかった労働者を就業させた場合、発病者への安全配慮義務だけでなく、職場全体の安全衛生管理にも問題が生じます。

このことから厚生労働省が定めた疾病に罹患した労働者を就業させることは禁止されており、強制的に就業させた場合は6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます。

快適な職場環境の形成

労働者向けの教育や健康管理に加えて、事業者は職場環境の安全性・快適性を保つ義務があります。

どれほど労働者の健康が維持され、業務に対する意識が高まったとしても、危険と隣り合わせな職場環境では労働者のストレスは軽減されず、本質的な改善にはなりません。

だからこそ、快適な職場環境を形成するための具体的な対策を施すことが重要です。

作業環境の改善

労働者の健康管理や労働災害の防止には、作業環境の改善が欠かせません。

具体的には視認性の確保や温度調整、悪臭の防止や騒音の遮断など、五感に負担をかけない環境づくりが効果的です。

作業方法の改善

肉体的・精神的な負担がかからない作業方法を構築することも、快適な職場環境において欠かせない要素です。

具体的には辛い姿勢や緊張感を維持する作業や、重量物の反復的な運搬などは、役割分担を細分化する、機械との分業を図るなどの工夫によって個々の負担軽減が求められます。

疲労回復施設・設備の設置

労働安全衛生法では、労働者の健康を守る一環として疲労回復のための施設・設備の設置が求められています。

これは長時間労働やストレスが蓄積した労働者に対して、安心してリラックスできる場を提供することによる健康の維持が期待されているからです。施設・設備の例としては、休憩室やシャワー室、心身の健康促進を図る運動施設が挙げられます。

その他の施設・設備

労働者の衛生的なニーズを満たし、心身の健康を保つうえでトイレや洗面所、更衣室や給湯設備などの施設・設備の清潔さを保つことは重要です。

これらの施設・設備は職場とのハブ的な役割を担うだけでなく、ストレスや疲労の低減にも影響を与えます。したがって、事業者は清潔で十分な広さや設備を備え、利用しやすい状態に保たなければなりません。

労働時間の把握・保管

2019年の労働安全衛生法の改正により、事業者には労働時間の把握・保管が義務付けられました。

これは長時間労働を改善するうえで、労働時間の正確な把握が必要だからです。このことから、事業者が責任をもって労働時間を把握・保管することが求められています。

具体的な労働時間の管理方法としては、従業員の自己申告ではなく、タイムカードでの打刻やPCの使用履歴、勤怠管理システムなどの客観的な手段による記録が原則とされています。

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2023年法改正に伴う労務管理の注意点

化学物質による労働災害の防止を目的に、2023年に労働安全衛生法が改正されています。具体的な改正ポイントは次の通りです。

  • リスクアセスメントの対象となる化学物質の製造・取り扱い
  • 譲渡提供を行う事業場ごとに化学物質管理者の選任・管理体制の強化
  • 化学物質のSDS(安全データシート)等の定期的な確認・見直しによる情報伝達の強化
  • リスクアセスメント対象物に対する労働者のばく露低減措置の義務化
  • 化学物質の管理状況に関するモニタリング強化
  • 特定の業種で一部免除されていた教育項目の義務化

この法改正により、リスクアセスメント義務化の対象となった化学物質が大幅に増加し、化学物質を扱う仕組みの改善が求められています。

法改正に伴う労務管理においては、化学物質の危険性や有害性を特定し、リスク低減措置の検討・実施を経て、労働者に結果を周知します。なお、法改正では周知に加えて、記録の作成・保管も義務付けられているため、注意が必要です。

労働安全衛生法違反による罰則

労働安全衛生法に違反した場合、その内容に応じて懲役あるいは罰金の罰則が科せられます。

違反内容罰則
政令で制限されたものを許可なく製造・輸入・譲渡・提供・使用した3年以下の懲役又は300万円以下の罰金
特定の機械や化学物質などを許可なく製造した1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
・安全衛生教育の未実施

・疾病者の就業禁止違反

6ヶ月以下の懲役、または50万円以下の罰金
・健康診断の未実施

・管理者、衛生委員会、産業医などの未選任

50万円以下の罰金

労働者の安全・衛生確保のためには適切な労務管理が必要

労働災害を防止し、労働者の健康と安全を守るためには、労働安全衛生法に準じた労務管理が欠かせません。

基準や責任体制の明確化に加え、職場環境を主体的に改善していくためにも、本記事を参考に労働安全衛生法のポイントを理解し、具体的な対策を講じましょう。

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