労働基準法に違反するとどうなる?違反となる具体例や対策方法
事業者が労働者を雇用する上で遵守しなければならない労働基準法。労働者の権利などを守るために定められていますが、違反した場合どのようなリスクがあるのでしょうか。本記事では、労働基準法に違反するとどうなるのか、違反の具体例や対策などとあわせて紹介します。
目次
労働基準法とは?
労働基準法とは、事業者と労働者の契約関係を定めた法律です。
具体的には、さまざまな労働条件に関する最低基準が記されており、賃金や労働時間などの健全性を担保し、労働者が不当な扱いを受けないようにするのが主な役割です。
また、働き方改革の推進により、残業時間の上限規制や同一労働同一賃金という改正が行われるなど、時代の変化に応じて定期的に見直されています。
労働基準法の対象となる事業者
労働基準法における事業者とは、事業主あるいは労働者を使用する立場にあるすべての人です。
そのため、必ずしも経営のトップ層だけを指すわけではなく、会社の立場で労働者を使用できる方であれば全員が事業者に該当します。
労働基準法の対象となる労働者
労働基準法における労働者は、原則として事業主に労働の対価として賃金を受け取る方を指します。
業種や職種、雇用形態(正社員、契約社員、パート、アルバイト)は問いませんが、フリーランスや業務委託などの雇用契約と異なる契約形態の該当者は例外です。
使用従属性などの細かな条件はありますが、一般的に雇用契約と異なる契約形態の方は、労働基準法上の労働者に該当しません。
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労働基準法違反の具体例
労働基準法では、具体的にどのような行為が労働基準法違反になるのでしょうか。
ここでは、労働基準法違反となる14の行為を紹介します。
労働者の意思に反する強制労働
労働者への暴行・脅迫・拘束などの不当な手段で労働を強制することは、労働基準法違反です。
強制労働を行った事業者は、労働基準法のなかでも最も重い1年〜10年以下の懲役または20万円〜300万円の罰金に処されます。
国籍・身分・性別等による差別
労働者の生い立ちや社会的・政治的な価値観などを理由として、労働条件の変更や解雇という不当な差別を行うことは労働基準法で禁止されています。
この行為を行った場合、事業者は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
就業規則の作成・提出違反
10人以上の労働者を常時抱えている場合、事業者は就業規則を作成したうえで行政官庁に提出しなければなりません。
また、行政官庁に提出するだけでなく、厚生労働省が定める方法で労働者に就業規則を周知する義務があります。
これらを怠った場合、事業者は30万円以下の罰金に処されます。
中間搾取
中間搾取とは、労働者の賃金の一部を不当に搾取する行為です。これは労働基準法において禁止されています。
ただし、派遣事業や職業紹介など、厚生労働省の許可を得て派遣や紹介を行う行為は例外です。
中間搾取を行った場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
違約金の要求・違約金を含む雇用契約の締結
労働契約の不履行などを理由に労働者に対して違約金の支払いを迫る、あるいは給与から天引きすることは、労働基準法で禁止されている行為です。もちろん、これらの内容を雇用契約書に記すこともできません。
違約金の内容を記載して雇用契約を行った事業者は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
予告なしの不当解雇
労働者の解雇には、最低でも30日前の解雇予告が必要です。30日前に予告できない場合、足りない日数分の平均賃金を支払わなければなりません。
これらに違反した場合、事業者は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
法定労働時間の超過
労働者に対して1日8時間、週40時間という基準を超えて労働を指示することは原則できません。
この基準値を超えて労働者に働いてもらいたい場合は、36協定という労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
しかし、36協定は上限を引き上げるものであり、無制限化するものではありません。36協定を結んだ場合は月45時間、年360時間という上限値に変更されます。
これらに違反すると6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
休憩・休日・有給休暇をあたえない
事業者は特定の条件を満たした労働者に対して、休憩・休日・有給休暇を与える義務があります。
休憩の場合、1日6時間〜8時間の労働で45分以上、8時間以上の労働で1時間以上の休憩が必要です。
休日については、最低でも週1回の法定休日を与えなければなりません。
また、勤続期間が6ヶ月に達した労働者の出勤率が8割を超えていた場合、10日分の有給休暇を付与することが義務化されています。
これらの条件を満たせなかった場合、事業者にはそれぞれ6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
産休・育休取得申請の拒否
産前・産後休暇や育児休暇が申請された場合、事業者は申請を拒否できません。
産後6週間が経過した労働者から申し出があり、医師からの承認も得ている場合は就業が可能となります。
育児時間は満1歳に達していない子どもがいる場合、1日2回30分以上の育児時間を取得することが可能です。
これらの申請を拒否した場合、事業者はそれぞれ6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
賃金支払いの5原則が遵守されていない
賃金支払いにおいて、労働基準法では5つの原則が定められています。
- 通貨払の原則
- 直接払の原則
- 全額払の原則
- 毎月払の原則
- 一定期日払の原則
事業者は労働者に対して、賃金の全額を通貨で直接支給するだけではなく、一定期日を定めたうえで毎月1回以上の支払いが必要となります。
賃金支払いの5原則が遵守されていない場合、30万円以下の罰金に処されます。
割増賃金の不払い
労働者に対して時間外労働や深夜勤務、休日出勤を求める場合には割増賃金を支払わなければなりません。
時間外労働や深夜労働は25%以上、休日労働は35%以上の割増賃金の支払いが求められます。
割増賃金を支払わなかった場合、事業者は労働者から未払い分を請求されるだけでなく、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
療養・休業・障害補償が支給されない
労働者が業務上の労災に遭った場合、事業者は労働者に対して療養・休業・障害に関する補償を支払う義務があります。
労働者は加入義務のある労災保険から給付を受ける権利があるため、この権利を阻害するなどの違反が発生した場合、事業者が6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
遺族への補償がない
労災が原因で労働者が死亡した場合、事業者は遺族に対して葬祭費の支給や生活補償を行う義務があります。
遺族への補償を怠った事業者は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
妊娠中の女性に対する坑内労働の強制
道路のトンネルや鉄道・水路など、地下構造物での作業を妊娠中の女性に強制することはできません。
これは坑内の労働環境が妊娠中の女性や胎児に与える影響が大きく、大きなリスクを孕んでいるからです。
妊娠中の女性に坑内労働を強制した場合、事業者は1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
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労働基準法に違反しないための対策
労働基準法違反は、懲役刑や罰金刑といった刑罰を受ければ済む話ではありません。
事業者としての社会的信用を失墜させる重大な違反行為です。
労働基準法に違反しないためには、以下2つの対策を講じるとよいでしょう。
- 労働基準法について理解を深める
- 労務管理の徹底・適正化
労働基準法は、経営のトップが知っているだけでは不十分です。労働基準法は定期的に改正が行われるため、役員や管理職などの指揮命令権を有する立場の人材に最新の情報を伝えておく必要があります。
また、労働者の勤怠や給与計算などを適切に管理できていない職場ほど、賃金の未払いが起きやすくなります。勤怠管理などのシステムを導入して、ミスが起きない職場づくりを進めていくことが重要です。
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労働基準法に違反した場合の罰則
労働基準法違反に伴う事業者への罰則は、4つの種類が定められています。ここでは、罰則の種類ごとにどのような行為が該当するのかを見ていきましょう。
1年以上10年以下の懲役または20万以上300万円以下の罰金
労働基準法違反として最も重い罰則は「1年以上10年以下の懲役または20万以上300万円以下の罰金」です。この罰則には、「労働者の意思に反する強制労働」が該当します。
1年以下の懲役または50万円以下の罰金
2番目に重い罰則は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。この罰則の対象となるのは、以下の2つが挙げられます。
- 中間搾取
- 妊娠中の女性に対する坑内労働の強制
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
3番目に重い罰則は「6か月6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」です。この罰則の対象となるのは、現場の管理不足がきっかけで起きやすいものを中心に構成されています。
- 国籍・身分・性別等による差別
- 違約金の要求・違約金を含む雇用契約の締結
- 予告なしの不当解雇
- 法定労働時間の超過
- 休憩・休日・有給休暇をあたえない
- 産休・育休取得申請の拒否
- 割増賃金の不払い
- 療養・休業・障害補償が支給されない
- 遺族への補償がない
30万円以下の罰金
最も軽い罰則は「30万円以下の罰金」です。早期改善が期待される場合、この罰則が適用されるケースがあります。ただし、これらの罰則対象も労働基準法違反であることは変わりないため、軽視してはいけません。
- 就業規則の作成・提出違反
- 賃金支払いの5原則が遵守されていない
労働基準法違反が発覚してから罰則を受けるまでの流れ
労働基準法に違反する疑惑が浮かび、事実確認や罰則が適用されるまでには主に4つのプロセスがあります。
労働基準監督官による調査
まず労働基準法違反の疑いがある事業場に、労働基準監督官が調査に訪れます。
労働基準監督官は厚生労働省所属の国家公務員で、労働関連法令の違反事象に対する捜査権や逮捕権をもつ特別司法警察職員です。
労働基準監督官による事情聴取や書類・システムの検査などを通じて、労働基準法違反の疑いが事実であるかを確認します。
調査を受ける際は、事実に基づいて回答することが重要です。書類の改ざんや隠蔽など、調査に非協力な姿勢を示してしまうと、罰金が科せられる場合があります。
違反が認められた場合は是正勧告
労働基準監督官の調査によって労働基準法違反が認められた場合、事業者は是正勧告を受けます。
これは、是正勧告書の交付を通じて事業者に通達され、事業者に対して違反行為を正すための改善を求めます。
事業者は是正勧告書の内容に従い、速やかに違反事項の改善を進めることが必要です。この取り組みを怠ると、業務停止命令などの行政処分を受ける可能性があるため、注意しましょう。
是正されない場合は司法処分
労働基準法に違反する項目が改善されない場合、労働基準監督官は特別司法警察職員としての権利を行使し、逮捕・起訴をふまえて刑事手続きに移行します。
刑事事件による立件が進んだ場合、行政罰による業務停止命令だけでなく、懲役や罰金などの刑事罰が適用される可能性が高まるでしょう。
このような事態に陥ると、事業者としての信用は失墜します。また、刑事責任に加えて経済的な損失を生むリスクがあるため、是正勧告が行われたらすみやかに事業場を改善することが重要です。
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労働基準法違反にあった場合の対処法
労働者が労働基準法に違反する行為を受けた場合、適切な窓口への相談・通報を行うことが重要です。ここでは、労働基準法違反にあった場合の対処法について紹介します。
労働組合等の窓口へ相談する
労働組合は、労働者の意見を代弁するために、同じ会社の労働者あるいは同じ産業内の労働組合が集まって結成される組合です。
自身が属する労働組合の窓口に相談すると、労働組合は同じような違反行為を受けた事例を集めて、会社に対して団体交渉を行うことができます。
団体交渉にいたるような違反行為の場合、労働者が相談した内容は個別の事象ではなく、事業場にて蔓延している重大な問題となり、事業者は軽視できません。
また、団体交渉が難しい場合でも組合の専門家が適切にアドバイスしてくれるため、労働基準法に関する問題を抱えている場合は相談してみるとよいでしょう。
労働基準監督署へ通報する
労働基準法の違反行為に対して、専門家のアドバイスなどで違反性の高さを確信した場合、労働基準監督署への通報が有効です。
労働基準監督署は法律に基づいた調査を経て、事業者に対して是正勧告を行えます。
調査や是正勧告が行われることで、労働環境が改善することもあるでしょう。ただし、是正勧告を無視するなど事業者が悪質な場合には、送検され罰則が適用されることがあります。
総合労働相談コーナーに相談する
総合労働相談コーナーは、労働関連法令に関する専門的なアドバイスを求めたい際に有効な公的機関です。全国の労働局や労働基準監督署に設置されています。
相談内容に明らかな法令違反がある場合、労働基準監督署による立ち入り検査などにつながります。
そのため、違反行為と思われる内容に対して、違反性の確認や今後の対応などのアドバイスを受けたい方に適した相談先といえるでしょう。
労働問題に強い弁護士へ相談する
労働基準法違反に対する損害を受け、事業者への適切な改善交渉や損害賠償請求を検討している場合、弁護士への相談が有効です。
労働問題に強い弁護士であれば、労働関連法令の専門知識や過去の違反例などの情報を保有しており、個別性の高い事象にも対応できます。
一般的な回答よりも個別の解決策を求めている場合や、事業者との交渉を代行してほしい場合などは、弁護士に相談してみてください。
早めに退職する
労働基準法における違反行為の深刻性が高い場合、改善には多くの時間が必要です。
しかし、違反行為による労働者への被害が大きい際は、改善を待つほどの余裕がない可能性もあるでしょう。
優先すべきなのは、事業場よりも自身の健康状態の改善です。心身への影響が大きい場合は無理せず退職し、落ち着いたタイミングで労働基準監督署や弁護士に通報・相談しても問題ありません。
▷労務業務を効率化させる方法!業務改善のポイントとツール活用のすすめ
労務管理を適正化しコンプライアンスを遵守しよう
労働基準法は事業者の些細な発言・行動、不適切な情報管理など、日常の意識や管理方法によって守れるものが多くあります。
労働基準法の違反は社会的ダメージも大きいため、労務管理の適正化を通じてコンプライアンスを強化していくことが重要です。
本記事を参考に、事業場の認識や状態を見直し、適切な労働環境を作っていきましょう。
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