労務とはどんな仕事?人事との違いや役割・業務内容を簡単にわかりやすく紹介
企業の生産性向上や労働環境に大きく貢献できる労務。しかし、労務とは具体的にどのような仕事を行っているのかわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、労務管理の仕事内容からやりがいまで詳しく解説していきます。
・労務とは、ヒト(人的資源)に関連する入社・退社の手続きや労働時間の管理、給与計算、社会保険の手続きなどを行う業務
・労務と人事では、対象となる業務範囲に違いがある
監修者
八木 香苗
ウッドエイト社会保険労務士事務所 代表
公認会計士事務所、税理士事務所での長年にわたる税務・財務戦略支援の経験を活かし、全員経営で利益体質の強い組織作りに力を入れた、経営目標作成支援、風土醸成型就業規則作成、人事制度構築、各種研修、採用定着支援等を行う。
東洋哲学をベースに、長寿企業の暗黙知として承継されるノウハウを体系的に就業規則の形に纏める100年就業規則の作成をライフワークとする。
著書:IPOの労務監査標準手順書(共著)
DVD:世界が驚く!100年企業の人材育成プログラム
公式サイト:ウッドエイト社会保険労務士事務所
目次
労務とは?
労務とは、経営資源と呼ばれるヒト・モノ・カネ・情報のうち、ヒト(人的資源)に関連する管理や事務を行う業務のことです。
具体的な業務として、入社・退社の手続きや労働時間の管理、給与計算、社会保険の手続きなどがあげられるでしょう。また、健康診断やメンタルヘルス対策など、従業員の健康と安全を守ることも重要な業務です。
労務の質を向上して働きやすい職場環境を構築することで優秀な人材が定着しやすくなり、労務は企業の生産性向上に貢献できる大切な業務といえるでしょう。
労務と人事の違い|それぞれの役割や仕事内容
企業の資産であるヒトに関わる業務として、労務のほかに人事もあげられます。では、労務と人事の違いはどこにあるのでしょうか。
ここでは、労務と人事の違いとそれぞれの役割・仕事内容について解説します。
労務管理と人事管理の違い
労務管理と人事管理とでは、業務の主な対象範囲が異なります。
人事管理とは、企業内の人材を管理し、それぞれの従業員が高いパフォーマンスを発揮できるように支える業務です。具体的には、人材の採用・育成や人材配置、人事評価といった、従業員個人への影響が大きい業務があげられます。
労働や雇用の事務手続きなど、主に組織全体に対して行う労務管理に対し、人事管理は従業員1人ひとりに直接働きかける業務を主軸とするのが大きな違いです。ただし、人事のなかに労務が含まれていることもあり、企業によっては担当者が同じ場合もあります。
▷人事管理と労務管理の違いとは?目的や具体的な業務内容もあわせて解説
労務管理の具体的な仕事内容
労務管理には、具体的に以下のような仕事内容があります。
- 勤怠管理
- 給与計算
- 福利厚生の適用
- 規則・規程の管理
- 労働安全衛生の確認
ここでは、労務管理のそれぞれの仕事内容について解説します。いずれも企業運営において欠くことのできない、重要な業務ばかりです。
勤怠管理
勤怠管理は出退勤や労働時間、休憩時間、休日取得といった就業状況を把握し、従業員が正常に働いているかを管理する業務です。勤怠管理を行うことで、労働に見合った適切な給与計算が可能になります。
また、長時間労働を防ぎ、従業員の健康を守るためにも勤怠管理は重要です。法令違反を予防する観点からも、労務における勤怠管理は不可欠な業務といえます。
▷勤怠管理とは?目的や重要性・管理項目や方法をわかりやすく解説!
給与計算
給与計算は、雇用契約や自社の規程にのっとり、従業員の勤怠状況に応じて給与を算出する労務管理業務です。基本給や各種手当てのほか、社会保険や税金、控除項目も算出します。
万が一、給与額に間違いが発生してしまった場合、従業員のモチベーションや企業に対する信頼の低下に繋がるでしょう。丁寧な計算が求められることはもちろん、月によって金額が変動するため、状況に合わせた正確な処理が欠かせません。
福利厚生の適用
労務管理のうち、福利厚生の適用も重要な業務です。代表的な福利厚生に、社会保険料を企業が半分負担する法定福利があります。正しく適用し、給与計算に反映しなくてはなりません。企業が独自に設けている法定外福利も、従業員の労働を支える重要な制度です。
通勤手当、住宅手当、社内託児所、資格取得費用の援助など、企業によって多様な施策が実施されています。労務管理では、従業員のニーズに合わせて福利厚生を利用できるよう、制度の周知や内容の改善などを行う必要があるのです。
規則・規程の管理
就業規則や各種規程の作成・管理も労務管理に含まれます。就業規則をはじめ、人事評価規程や育児・介護休業規程、就業規則以外の賃金に関する規程などが具体的な業務例です。
なお、労務管理においては、法律に基づいた規則を作成して従業員への正しい周知を徹底する必要があるため、ルールが不十分であったり、適切に伝わっていなかったりすると、従業員の不満やトラブルに繋がる恐れもあります。そのため、規則・規定の内容を改善する際も同じく、労務が中心となってルールを浸透させることが大切です。
労働安全衛生の確認
従業員が身体的・精神的に健康な状態で働けるように、労働安全衛生の確認が必要です。労務では、健康診断の手配や結果の管理、従業員への通知と保健指導、労働基準監督署長への報告といった業務を行います。年に1度の実施が必要な健康診断も代表的な労働安全衛生施策でしょう。
近年は精神面の健康管理としてストレスチェックの実施も広まっているほか、パワハラ・モラハラといったハラスメント問題への対策も不可欠です。場合によっては医師との連携を行うほか、健康に関する相談窓口を設置するなど、労務管理における具体策が求められます。
労務管理では多くの個人情報を扱うため、情報管理やセキュリティ対策の強化も重要になってきます。また、生産性向上を図るためには、日々の労務管理業務にシステムの活用やペーパレス化の検討を行うなど、業務の効率化を行うことも必要です。
人事管理の具体的な仕事内容
人事管理には、具体的に以下のような仕事内容があげられます。
- 人材の採用・育成
- 人材の評価・人事考課
- 人材の配置・異動
人事管理の仕事内容について詳しく知ることで、労務管理との主な違いが見えてくるでしょう。
人材の採用・育成
企業の戦力となる人材の採用・育成は、人事管理の業務です。
採用業務では、企業の経営目標を達成するための採用計画を立て、優秀な人材を確保するための準備を行います。競争が激化しやすい新卒採用では入念なプランで自社をアピールする、中途採用では求める人材を的確に把握しておくなど、人事管理の働きによって採用効率が変わるのです。
教育では、従業員の能力・スキルを伸ばすためのさまざまな施策を行います。具体的には、新人研修やマネジメント研修、各種セミナーなどがあげられるでしょう。これらを人事管理が主導となって実施することで、必要な能力を持った人材を確保できるのです。
▷人材確保を成功させるには|取り組みの事例や参考にしたいアイデア・定着させる秘訣
人材の評価・人事考課
人材の評価や人事考課の策定、運用も人事管理業務に含まれます。従業員の能力や勤務態度、仕事の成果などを評価する取り組み全般です。
評価は給与や賞与に大きく影響を与え、従業員のモチベーションにも密接に関わります。公正・公平で誰にとっても納得感の得られる制度を策定し、わかりやすく伝えなければなりません。人事管理にて評価の基準やプロセスを具体的に可視化し、従業員へ正確に周知するよう努めましょう。
人材の配置・異動
従業員1人ひとりが最大限能力を発揮し、高いモチベーションで働けるようにするために、人材の配置・異動を行うのも人事管理の業務です。従業員の能力やスキル、キャリア志向だけではなく、組織全体のバランスを考えた人材配置を行う必要があります。
人材の配置や異動を適切に行うには、人事管理による従業員への理解と把握が欠かせません。部署内に問題がある場合も、人事管理業務で適切に配置・異動を実行することで、解消に役立ちます。
労務担当者が感じるやりがいとは?
労務はフロントオフィスを支えるバックオフィスの業務です。では、労務担当者はどのような部分にやりがいを感じるのでしょうか。
ここでは、労務担当者が感じるやりがいについて解説します。
従業員の労働環境を守ることができる
労務でやりがいを感じられる点に、従業員にとって安全・健康な労働環境を守ることがあげられます。
基本的に、部下の労働環境は上司である役職者が把握しています。しかし、役職者の意識が低く、適切に管理できていない現場では、長時間労働やサービス残業などが発生しやすいでしょう。
労務担当者が勤怠管理を行うことで、こうした現場の問題を早期に発見できます。問題のある部署に制度の説明や指導を行うほか、労働安全衛生や福利厚生の確保なども、従業員の労働環境を守ることに繋がっているのです。
労働に関するトラブルを防止・解決できる
企業と従業員の間で起こる労働トラブルを防止・解決できるのも、労務担当者のやりがいの1つです。労働基準法をはじめとする法令知識をもとに、企業が正しい対応を取れるように促せます。
従業員が不当な扱いを受けたり企業が法令違反を起こしたりすると、企業イメージの低下は免れません。また、労働基準監督署から指導が入る可能性もあるでしょう。このような事態を防ぐためにも、労務担当者の存在は重要です。
▷労務でありがちなトラブルとは?事例や対応方法・予防策を紹介
労務管理を通じて従業員をサポートできる
労務管理を通じて従業員の不安を解消し、サポートできるのもやりがいの1つとしてあげられるでしょう。
日本では、傷病や出産・子育てなどで働けなくなってしまった方向けの手当てなど、さまざまな状態の従業員を助ける制度が充実しています。しかし、どのような制度があるのか知らない、手続きがわからない従業員も多いため、それをサポートするのも労務担当者の仕事です。
また、福利厚生の拡充などで、従業員が働きたいと思う企業にすることもできます。このように、労務管理を通じて従業員をさまざまな形でサポートできるのが魅力です。
労務担当者のもとには様々な問題や相談が持ち込まれます。労務担当者が自社にあった労務管理の構築・運用を行うことで、従業員の労働環境を守ったり、直接サポートしたりすることができます。業務を通じて従業員に気持ちよく働いてもらえると、やりがいを感じ、さらにモチベーションが向上するでしょう。
労務管理の効率化におすすめのツール
労務管理業務は、便利なITツールを使うことで効率化が可能です。労務管理の効率化におすすめのツールを紹介します。
Chatwork 労務管理
Chatwork 労務管理は、給与や賞与の計算業務を中心としたアウトソーシングサービスです。Chatworkグループである株式会社ミナジンの専門チームが幅広い業務に対応してくれます。
利用開始までに入念なヒアリングがあるので、疑問や不安を解消したうえで労務管理を依頼可能です。人事データを安全に取り扱うためのISMS認証(ISO/IEC 27001:2013)を取得しており、セキュリティ体制が整っているのも大きなポイントといえるでしょう。
提供先 | 株式会社Kubell |
初期費用 | 無料 |
料金プラン | 要問い合わせ |
機能・特徴 | 勤怠〆代行/年末調整/賞与計算/社員情報管理/有給日数管理など |
URL | 公式サイト |
jinjer人事労務
jinjer人事労務は、従業員データを一括管理でき、集めた人事情報をもとに業務を効率化できる人事労務管理ツールです。人事・労務業務それぞれに特化したオプションが展開されています。
労務関連業務には社保手続きオプションをつけるのがおすすめです。労務関連書類を自動作成するので、業務を大幅に効率化できるでしょう。また、e-Gov電子申請に対応しているため、ペーパーレス化も実現できます。
提供元 | jinjer株式会社 |
初期費用 | 要問い合わせ |
料金プラン | 要問い合わせ |
機能・特徴 | 従業員データの一括管理/労務関連書類を自動作成/e-Gov電子申請対応/使いやすい操作画面/万全なセキュリティ体制 |
URL | 公式サイト |
HRBrain労務管理
HRBrain労務管理は、必要な機能だけを選んで導入できる労務管理ツールです。導入準備から運用まで専任サポートによる支援も受けられるので、初めてでも安心して導入できます。
必要な情報はオンラインで従業員から直接収集でき、データの一元管理が可能です。入退社などの雇用に関する機能、給与明細書の作成など、代表的な労務管理業務に対応しています。また、マイナンバー情報も収集可能で、セキュリティ性の高い環境で管理できます。
提供元 | 株式会社HRBrain |
初期費用 | 要問い合わせ |
料金プラン | 要問い合わせ |
導入実績 | 累計導入企業数2,500社以上(※2023年9月時点) |
機能・特徴 | 必要な機能だけを選んで導入可能/従業員から直接必要な情報を収集可能/マイナンバー管理/専任サポートによる運用支援 |
URL | 公式サイト |
SmartHR
人事・労務からタレントマネジメントまで、人材管理に幅広く活用できるツールがSmartHRです。雇用契約といった基本的な労務機能のほか、年末調整や人事評価など負担の大きな作業を軽減する機能も搭載しています。
スマートフォン向けアプリにも対応しているので、従業員から必要な情報を集めやすいのも特徴です。さらに、40以上の外部サービスとも連携可能なため、労務管理業務を大幅に効率化できます。
提供元 | 株式会社SmartHR |
初期費用 | 無料 |
料金プラン |
|
導入実績 | 登録社数60,000社以上 |
機能・特徴 | 人事データの一元管理/データ分析/スマートフォン向けアプリ対応/外部サービス連携 |
URL | 公式サイト |
クラウドハウス労務
労務業務のペーパーレス化にこだわるなら、クラウドハウス労務がおすすめです。労務関連書類や年末調整を電子化し、効率的に業務を進められます。入社手続きの自動化も可能で、書類の抜け漏れやミスなどを減らせるのも特徴です。
従業員情報は一元管理できるので、集約したデータを人事戦略に役立てられます。労務管理はもとより、人事管理もあわせて強化したい場合に重宝するツールでしょう。
提供元 | 株式会社Techouse |
初期費用 | 要問い合わせ |
料金プラン | 要問い合わせ> |
機能・特徴 | 入社手続きの自動化/労務関連書類の電子化/年末調整の電子化/従業員情報の一元管理/スマートフォン対応 |
URL | 公式サイト |
freee人事労務
freee人事労務は、労務にまつわるさまざまな業務を一気通貫で管理できる人事労務管理ツールです。最新の法令・税制に自動で対応するので、情報収集にかかる手間や時間を削減できます。
タスクを可視化するアラート機能を搭載しており、今やるべきことが明瞭になるのも特徴です。必要なデータを共有して繰り返し使えるため、給与や社会保険料などの入力効率が上昇し、転記ミスの削減にも役立ちます。
提供元 | フリー株式会社 |
初期費用 | 無料 |
料金プラン | ◼︎ミニマム
◼︎スターター
◼︎スタンダード
◼︎アドバンス
アウトソースプラン:要問い合わせ ※ミニマム~アドバンスプラン最小利用人数:5名 |
機能・特徴 | 最新の法令・税制に対応/タスクを可視化するアラート機能/外部サービス連携/安心のセキュリティ/充実のサポート |
URL | 公式サイト |
労務管理の能力を高められるおすすめの資格
労務管理を行うには、労働にまつわる法律や社会保険の知識、事務処理能力など、さまざまなスキルが求められます。労務管理の能力を高めるのに役立つおすすめの資格について知り、実際の業務に役立てましょう。
労務管理士
労務管理士は、一般社団法人日本人材育成協会が認定している民間資格です。資格を取得することにより、採用から退職までの就業管理能力が十分あると認められるため、労務管理における専門的職務能力が身についている証となります。
資格取得方法は、公開認定講座・通信講座・書類審査・Web資格認定講座の4つです。それぞれ試験や審査に合格することで、2級労務管理士として認められます。さらに、資格者研修を受講し、昇級審査試験に合格すると1級労務管理士の資格が得られます。
[参考:日本人材育成協会「労務管理士受験方法」]
社会保険労務士
社会保険労務士は、社会保険労務士法に基づいた国家資格です。社会保険労務士にのみ認められた独占業務として、労働社会保険諸法令に基づいた申請書・帳簿書類の作成や申請書の提出代行、申請の事務代理などがあげられます。
当資格では労働および社会保険に関する一般常識のほか、労働基準法・労働安全衛生法・雇用保険法などさまざまな法律科目の受験が必要です。より高度なコンプライアンス知識が身につくため、認定者は労務管理の実務以外に、労務や人事のコンサルティング業務を担うケースもあります。
受験資格は学歴・実務経験・厚生労働大臣の認めた国家試験合格の3つのうち、いずれか1つを満たしていなければなりません。試験では、選択式試験と択一式試験の両方を受験し、総得点と両方の成績すべてが基準点を満たした場合のみ合格となります。
[参考:全国社会保険労務士会連合会試験センター 社会保険労務士試験オフィシャルサイト「社会保険労務士試験のご案内」]
労務とはどのような仕事なのか押さえておこう
労務は職場環境を整備し、企業の生産性向上に貢献できます。法令や税制、社会保険などに関する専門知識を活用しながらフロントオフィスを支え、従業員が働きやすい職場を整える重要な仕事です。労務の仕事を理解し、企業活動をより円滑にしていきましょう。
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労務は、給与や労働時間の管理などの基本的な活動について改善を含めた管理コントロールをしていく、いわば経営管理の中枢機能であるといえます。法令を遵守した労務管理体制の整備と運用を行うことが、企業価値の向上や従業員からの信頼構築に繋がります。逆に労務管理を疎かにしていると、法令違反や従業員からの信頼を失うリスクに繋がります。