労災(労災保険)とは?申請内容や手続きの流れ・補償内容をわかりやすく解説

最終更新日時:2023/05/12

労務管理システム

労働保険とは

就業中のケガ・病気を補償する「労災」。すべての労働者が対象ですが、具体的にどのような条件が労災として認められるのかわからない人も多いのではないでしょうか。本記事では、労災(労災保険)とは何か?労災と認められた場合の補償内容や手続きの流れをわかりやすく解説します。

労災(労災保険)とは?

労災(労災保険)とは、業務上の事由または通勤中の事故による負傷、疾病、障害、死亡などを被った労働者や、その遺族を守るための公的保険制度です。正式名称は、労働者災害補償保険といいます。

なお、労災保険給付の対象である「労働災害」は以下の2つに分類されます。

  • 業務災害:労働契約を結んだ事業主の支配下で起こる災害
  • 通勤災害:就業のための移動時に起こる災害

労働災害に認定されるのは、例えば工事現場で荷物が落ちてきてケガをした場合や、仕事の帰りに自動車と接触したときなどです。また、働きすぎによる過労死やハラスメントによる自殺なども労災と見なされることがあります。

健康保険との違いとは?

健康保険はケガや病気などに備えるために加入する保険です。加入者は保険料を支払い、給付が必要になった場合には保険金が給付されます。

健康保険と労災保険の違いは補償の対象です。健康保険は、健康保険法に基づき労働災害とは無関係のケガや病気、出産、死亡などを補償します。一方、労災保険は労働者災害補償保険法に基づいて業務中や通勤中の災害のみに適用されるものです。

また、保険料の支払い額にも違いがあります。労災保険は事業主に保険料の納付義務が発生し、事業主が全額を負担します。労災に認定されれば保険給付時の自己負担分は発生しません。健康保険は、事業主と従業員が労使折半する仕組みになっており、通院した場合は1~3割の自己負担分が発生します。

労災になった場合には給料の何%給付される?

労働災害に認定された場合に受けられる給付金額は、ケガや病気の程度、普段の給料の金額などを基に計算されます。例えば、休業補償を受ける場合の計算式は以下の通りです。

給付基礎日額の80%=休業補償給付60%+休業特別支給金20%

給付基礎日額は、事故日の直前の3ヵ月間に労働者が得た給与の総額を、該当期間の歴日数で割った1日あたりの金額です。

給付基礎日額が1万円だったと仮定すると、労災認定された場合の給付金額は1日あたり8,000円が目安となります。

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労災(労災保険)の特徴

労災保険は企業に勤める従業員にとっても、従業員を雇う事業主にとっても重要な社会保険のひとつです。万が一の際に慌てないよう、労災保険の特徴についてしっかりと確認し、理解を深めておきましょう。

事業主には加入義務がある

事業主は従業員を雇ったら必ず労働災害補償保険に加入しなければなりません。たとえ労働者が一人であっても加入義務が発生します。

労災保険への加入は、労働災害補償保険法第3条に定められています。労災保険に加入しない場合は、指導やペナルティーを受けることがあるため注意しましょう。

すべての労働者が対象である

労災保険は、事業規模や職業の種類にかかわらず、すべての労働者に適用されます。また、労災保険の対象者は正社員だけでなく、パートやアルバイトも含めた事業に従事するすべての従業員です。

ただし、事業主は労働者にあたらないため、補償の対象にはなりません。

保険料は全額事業主が負担する

労災保険の保険料は全額事業主負担です。従業員の給与から天引きされることはありません。保険料は、事業主が従業員に支払っている賃金の総額に労災保険料率(労災保険率+雇用保険率)をかけて算出します。労災保険料率はあらかじめ決められており、業種によって異なります。

危険を伴う業種は保険料率が比較的高く設定されているのが特徴です。なお労災保険料率は厚生労働省のホームページから確認できます。

未加入の場合でも補償を受けられる

万が一、事業主が労災保険に加入しておらず、保険料を支払っていなかった場合でも、従業員への保険給付は行われます。

ただし、事業主においては保険給付にかかった費用の100%または40%が請求されるため注意が必要です。従業員を雇う場合は、必ず労災保険に加入する必要があります。

特別加入制度によって対象範囲が拡大されている

特別加入制度とは、本来は労災保険に加入できない条件の人でも実態として労働者と同じような役割を担っていれば、一定条件をクリアすることで特別に労災保険に加入できる制度です。特別加入制度が設けられたことで、中小事業主や一人親方、特定作業従事者なども労災保険に加入できるようになりました。

また、海外の事業場に所属して業務を行う海外従事者は、本来日本の労災保険法が適用されません。しかし、労災保険制度が整備されていない国や、日本の労災保険給付の水準より低い国などもあるため、海外従事者についても労災保険の特別加入が認められています。

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労災(労災保険)の対象と認められた場合の補償内容

労災に認定された場合、どのような補償が下りるのでしょうか。10種類の補償内容について詳しく解説します。

  • 療養補償給付
  • 休業補償給付
  • 障害補償給付
  • 遺族補償給付
  • 介護補償給付
  • 傷病補償年金
  • 葬祭料等給付
  • アフターケア制度
  • 特別支給金
  • 二次健康診断給付

療養補償給付

療養補償給付は、業務中または通勤中の事故を原因とする負傷や病気により、入院・手術といった療養が必要な際に受けられる補償です。

補償の内容は「現金給付」「現物給付」の2種類です。労災によって入院や通院をした場合は、手続きを行うことで、支払った医療費が現金で還付されます。また、労災病院・労災保険指定医療機関であれば、現物給付により無料で治療や薬剤の支給を受けることも可能です。

休業補償給付

休業補償給付は、労働災害によりやむを得ず休業しなければならなくなった場合に、休業4日目から給付金を受け取れる補償です。支給額は以下の計算式で算出されます。

  • 休業補償給付=(給付基礎日額の60%)×休業日数
  • 休業特別支給金=(給付基礎日額の20%)×休業日数

休業初日から3日目までは待機期間のため、休業補償給付は支給されません。しかし、業務災害により休業する場合は、事業主から労働基準法にもとづく休業補償が支給されます。

障害補償給付

障害補償給付は、業務または通勤を原因とする負傷や疾病により、体に障害が残った場合に受けられる制度です。障害等級第1級から第7級に該当するときは「障害(補償)等年金」「障害特別支給金」「障害特別年金」の3種類の給付を受けられます。

また、障害等級第8級から第14級に該当するときに受け取れる給付は「障害(補償)等一時金」「障害特別支給金」「障害特別一時金」の3つです。労災が認定され支給要件に該当することとなった月の翌月より、年に6回支給されます。

遺族補償給付

労働者が亡くなり労災に認定された場合は、遺族にも給付が支給されます。受け取れる給付は、「遺族補償年金」か「遺族補償一時金」のいずれかです。遺族補償年金は受け取り条件が細かく定められており、遺族であれば誰でも受け取れるわけではありません。

また、同一生計の家族がいない、配偶者がいないといったケースでは、その他の遺族に遺族年金に代わって遺族補償一時金が支払われます。

介護補償給付

介護補償給付は、障害補償年金または傷病補償年金受給者のうち一定の条件に合致する人に支払われる給付です。障害等級・疾病等級第1級、または第2級(精神神経・胸腹部臓器の障害がある人)に認定されており、介護が必要な場合が対象となります。

入院していたり介護老人保健施設などに入所していたりすると介護補償給付を受けられないため注意しましょう。給付金額は常時介護・随時介護、親族や知人の介護を受けているかどうかによって異なります。

傷病補償年金

傷病補償年金は、労災により受けた傷病の治療を開始してから、1年6ヵ月が経過しても治らず障害が認められた場合に受けられる補償です。「傷病特別支給金(一時金)」と「傷病特別年金(年金)」の2種類があり、1〜3の等級別に金額が異なります。

傷病補償年金が支給される際には、休業給付から切り替えが行われるため、休業給付の支給は終了します。傷病補償年金の条件に該当することになった月の翌月より支給されます。

葬祭料等給付

葬祭料等給付は労働災害によって労働者が亡くなり、葬祭を執り行う際に支給される補償です。この給付を受けるのは必ずしも遺族とは限りません。遺族がおらず、企業が葬儀を執り行った際は企業に対して支給されます。

給付金額は、315,000円+給付基礎日額の30日分です。また、この計算式で算出した金額が給付基礎日額の60日分未満であるときは、給付基礎日額の60日分の支給を受けることができます。

アフターケア制度

アフターケア制度とは、ケガや病気が治った後でも、再発・新たな病気の発症防止のためにアフターケアを受けられる制度です。対象となるケガや病気は全部で20種類あり、労災保険指定医療機関であれば無料でケアを受けることができます。

なお、アフターケア制度の対象者には「健康管理手帳」が交付されます。アフターケアを受ける際は指定医療機関の窓口で手帳を提示する必要があるため、忘れずに持参しましょう。

特別支給金

特別支給金は、労働者の早期社会復帰を目的として支給される全9種類の補償です。通常の給付金に上乗せして支給されるもので、金額は支給金の種類によって異なります。

特別支給金の受給には申請書の提出が必要です。所轄の労働基準監督署に必要書類を提出しましょう。申請書は厚生労働省のホームページで入手できます。

二次健康診断給付

二次健康診断給付は、職場で行った定期健康診断などで異常が見られた場合に支給される給付です。脳血管・心臓の状態を確認するための二次健康診断や、発症予防のための特定保健指導が対象となります。給付の対象になるのは1年に1回のみで、この制度を利用すれば無料で病院を受診できます。

ただし、労災保険の特別加入者や一次健康診断ですでに異常が確認されていた場合などは給付の対象外となります。給付金の申請を行う前に、支給条件をしっかりと確認しましょう。

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労災(労災保険)を請求するまでの手続きの流れ

労働災害に遭ったときの手続き方法を、流れに沿って紹介します。

労働災害発生の旨を企業に報告する

まずは労働災害に遭ったことを上司に報告しましょう。保険の申請は従業員が行うのが一般的ですが、自身で申請を行うのが難しい場合は企業が代わりに行ってくれることもあります。

また、入院や通院に伴い業務を代わってもらうこともあるでしょう。まずは企業に報告し、事情を説明しておくのが得策です。

医療機関を受診する

医療機関を受診し、医師の診断と適切な治療を受けます。労災指定病院を受診するか、その他の病院を受診するかで手続き方法が異なるため注意しましょう。

労災指定病院を受診する場合

労災指定医療機関を受診する場合は、厚生労働省のホームページで近くの病院を検索できます。自宅や会社から近い病院を探しましょう。

労災指定病院に到着したら、まず窓口で「労災であること」を伝えます。療養の給付請求書を記載し提出しましょう。なお、労災指定病院であれば治療費は原則無料です。

労災指定病院以外を受診する場合

労災指定病院以外を受診する場合は、風邪などで通院するケースと同じように医師の診察や治療を受けます。その後、窓口では一旦自身で費用を立て替え、後日労働基準監督署に療養の給付請求書を提出し、治療費の還付を受ける仕組みになっています。

療養内容によっては治療費が高額になることもあるため注意しましょう。窓口での治療費の支払いに不安がある方は、労災指定病院を受診すると安心です。

労働基準監督署へ労災保険の給付申請をする

労災保険の給付を受ける際は、労働基準監督署に申請書類を提出します。給付の種類によって提出先が異なるため、事前に確認しておくことが大切です。

治療を受けた際に作成した療養の給付請求書は、病院に提出します。一方、休業補償給付や障害補償給付、遺族補償給付といった給付の申請書は労働基準監督署への提出が必要です。窓口へ持参するか、郵送によって提出できます。

また申請書の提出期限は2~5年程度です。給付の種類によって時効期限や起算日が異なります。期限を過ぎると給付が受けられなくなる可能性もあるため、早めの提出を心がけましょう。

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労災(労災保険)が発生した場合の注意点

いざというときに慌てないようにするためには、ポイントを押さえ、事前に対策を立てておくことが大切です。ここでは、労災が発生したときの注意点を紹介します。

  • 労働基準監督署長への報告義務がある
  • 場合によっては併給調整の対象となる
  • 企業が労災を認めない場合がある

労働基準監督署長への報告義務がある

会社で労災が起きると、報告義務が発生します。従業員が休業・死亡した場合には、必要書類を労働基準監督署長に提出しなければなりません。具体的には、労働者死傷病報告や労災の再発防止に関する書類などです。

なお、労働者死傷病報告は労働災害が発生した後、遅滞なく届け出る必要があります。報告しない場合や虚偽報告を行った場合には刑事責任が問われることもあるため、労働災害が起こったら速やかに提出するようにしましょう。

場合によっては併給調整の対象となる

併給調整とは、労災保険の年金と厚生年金などの年金のどちらも受け取れる場合において、労災年金の受給額を調整することです。労災保険の年金額に調整率をかけて、労災年金の金額を再計算します。

この場合、労災保険の受給額が減額される点に注意が必要です。年金制度は一人一年金が原則とされており、二重で受け取ることはできません。

企業が労災を認めない場合がある

企業が労働基準監督署への報告を避けたいと考えた場合、労災を認めない可能性があります。しかし、実際に労災認定をするのは企業ではなく労働基準監督署です。企業が労災を認めない場合、労働者は労災保険審査制度を利用して不服申し立てができます。

また、労災が発生すると、労働者から損害賠償請求が行われるケースもあります。企業が適切に対処できていなかった場合や業務上の安全配慮を怠っていたときなどは、民事責任が問われるため注意しましょう。損害賠償請求に発展した場合は示談交渉を行い、示談が成立しなければ裁判(訴訟)に進みます。

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労災(労災保険)を理解し必要に応じた適切な給付を受けよう

労災保険とは、業務上の事由または通勤中の事故による負傷、疾病、障害、死亡などを被った労働者や、その遺族を守るための公的保険制度です。労働災害が発生し、労災保険の対象に認定されると、治療費や休業中の費用などが給付されます。

事業主は、たとえ労働者が一人であっても必ず労災保険に加入しなければなりません。労災保険に加入しない場合は、指導やペナルティーを受けることもあるため注意しましょう。労働災害や労災保険についてまとめた今回の記事をぜひ参考にしてみてください。

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