デジタル社会に必要な人材と組織とは?現状と実現に向けた課題を解説
デジタル社会を実現するためにはどのような人材や組織が求められるのでしょうか。本記事では、デジタル社会の現状と課題、必要な人材や組織を紹介します。デジタル社会を実現するために必要な事項も複数記載しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
デジタル社会とは
デジタル社会とは、ものや体験、サービスをデジタル化していき、デジタル化されたものを集約してできた社会を指します。
デジタル化が進むことで人々の生活が改善したり、できなかったことができるようになり、テクノロジーの力を使って進化していくことができるようになります。
デジタル社会の現状と実現に向けた課題
デジタル社会を実現するために立ちはだかっている課題と現状について5つのポイントにまとめているため、順番に説明していきます。
「失われた30年」がある
「失われた30年」というものをご存じでしょうか。
平成が始まる元年に、世界の時価総額トップランキングに日本企業は32社もランクインしていました。それが平成30年にはトヨタ自動車(35位)のみという結果に終わっています。
この30年デジタル化への移行が、世界と比較しても遅れを取っており、日本経済の成長が鈍化したと言われています。
デジタル投資が他国に比べ行われていない
日本がなぜ世界と比較してデジタル化が進まないのかという理由の1つに、投資不足があります。デジタル社会を作るためには新しいシステムを開発するための費用や、移行するための資金が必要になります。
日本人はそもそも投資を好まない堅実な国民性が強く、長期的に見てメリットを多く生み出すデジタル化に対して投資を行うことに、二の足を踏んでいる経営者が多いのが現状です。
デジタル人材の量も質も他国より劣っている
更に大きな要素として、デジタル人材の不足・質の低下も課題です。
IMDデジタル競争力ランキング2021(※)では、世界64か国中、日本は「人材」で47位、「デジタル・技術スキル」で62位という結果を出しており、先進国のみならず世界から大きく遅れをとっています。
有力な人材の育成や、支援体制が整っていないため有力な人材が育たなかったり、海外企業へ引き抜かれてしまったりします。
[※参照:事務局説明資料(デジタル社会の実現について)]
付加価値をもたらすビジネス投資を行えていない
海外のデジタル化への投資先は、新規システムの開発や新しい人材の育成など価値を生み出すために投資されることが多いのですが、日本のデジタル投資は既存のシステムのメンテナンス・維持管理など保守的なものに割かれています。
付加価値をもたらす新たな技術やビジネスへの投資ができていないために、新たな変革や進化が生み出せず、現状がなかなか変わらないというのが日本の特徴です。
「2025年の崖」問題
「2025年の崖」と呼ばれる問題も大きな課題としてあります。2025年にサポート終了・老朽化・複雑化したレガシーシステムが6割を超えると言われており、大幅な見直しもしくは乗り換えを検討せざるを得ないタイミングがやってくることを指しています。
中身がブラックボックスと化した、サポートやメンテナンスの行われない基幹システムを使い続けることは不可能です。このタイミングで最大で年間12兆円経済損失が起きるという見立てもあります。
また同時に、既存システムを開発してきた人材が2025年に定年を迎えるという時期でもあります。そのため人材不足に陥り、デジタル化に大きく遅れをとってしまう可能性があります。
▷2025年の崖とは?経産省のレポートの要点やDX推進のシナリオについて
デジタル社会に必要な人材
では、デジタル社会を作り上げていくにはどのような人材が必要なのか、順番に解説していきます。
(1)デジタルビジネスデザイナー
デジタルビジネスデザイナーとは、デジタル化を企画したり、推進していく業務を行う人材のことです。ユーザーがどのような体験を求めていて、どのような形にしていくのかを考えるため、マーケティング能力・デザイン能力が問われます。社内外を繋いで、より良いものを作り上げていくための折衝力や調整・交渉力が必要になります。
(2)デジタルエンジニア
デジタルエンジニアとは、デジタル情報を活用してどんなシステムを作り上げるのか、考え設計・実装していく人材です。高いスキルを持ちつつ、きちんとユーザーのニーズに答えられるようなデザイン力やその思考を実際のシステム開発に落とし込む能力が問われます。
(3)データサイエンティスト
データサイエンティストとは、集約したデータを元に分析を重ねることで、意思決定の際に合理的な判断を下せるよう、必要なデータや助言を行う職種のことです。意思決定を行う最終決裁者のために判断材料を集める仕事を行います。
(4)サイバーセキュリティスペシャリスト
サイバーセキュリティスペシャリストは、ITシステム及びセキュリティシステムを外部の侵入や攻撃から守り、セキュリティ管理作業を技術的な側面から支援する職務を指します。
デジタル化促進の懸念の1つにあるセキュリティリスクは、デジタル化の浸透と共にリスクも拡大していきます。強固なセキュリティを担保するために間違いなく必要な人材です。国家資格「情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)」という資格もあります。
(5)UI/UXデザイナー
UI/UXデザイナーはシステムのユーザー設計を行う仕事です。UIとUXは時に混合してしまいがちですが、微妙に違っています。
UIデザイナーとは「ユーザーと製品やサービスとの接触を円滑にするデザイン」「ユーザーにとって使いやすいデザイン」を設計する仕事で、UXデザイナーとはユーザーの顧客体験そのものをより良く感じてもらえるデザインやプロダクトを設計する仕事です。
サービスがユーザーにとって満足のいくサービスとするには、UIだけでなく、サービスやプロダクト全体を通した顧客体験を設計していくUXの向上が欠かせないのです。
▷DX人材に必要なスキルや知識とは?育成方法やマインドセットも解説
デジタル社会に必要な組織
デジタル社会に必要な組織と、従来の組織の違いについて特徴をまとめています。
従来の組織 | デジタル社会に求められる組織 |
---|---|
縦割り型組織 | フラットでオープンな組織 |
ウォーターフォール | アジャイル |
マスマニュファクチャリング | マスカスタマイゼーション |
効率性を重視 | 創造性を重視 |
モノ思考 | 体験思考 |
コントロール | 自律性 |
画一性 | 多様性 |
デジタル社会で必要な人材のところで紹介した、デジタルビジネスデザイナ、デジタルエンジニア、データサイエンティストの3つの職種が三位一体となって組織を作っていくことがデジタル化の促進に重要です。
また今まで以上にオープンな文化で、より多様性を受け入れていくことで、新たな創造性を組織内で培っていく必要が現代のデジタル社会では求められているのです。
▷DX推進の鍵となるアジャイル型組織とは?重要な理由やメリットについて
デジタル社会を実現するには
デジタル社会を作り上げていく上で重要な9つのポイントがあります。順番に解説していきますので1つずつクリアしていくことが必要です。
(1)産学連携による人材育成
デジタル社会を作り上げるために必要な人材は今後より必要となってきますが、育成するためには「産学連携」の仕組みを作っていくことが重要です。
#1: デジタルビジネスデザイナー
大学や企業では、専門的な知識やビジネススキルしか身に付けることができず、ユーザーの行動を洞察して、何かを生み出す力を養う場が不足しています。革新的な考え方ができる人材というのは、訓練や体系化されたプログラムをもってはじめて育成されていきます。
場当たり的に大学や企業が取り組んでいるワークショップではなく、1人前のデジタルビジネスデザイナを育てることを目的とした、お互いの脳を刺激し、五感をフルに活用しながら議論できる空間を産学連携で創り出していくことが重要です。
#2: データサイエンティスト
日本企業の経営者は、データを元に判断を下すことに慣れていないケースが多いです。それまでの経験や過去に積み上げてきた知識を参考にすることが多く、現在のデータや将来の可能性を上手く判断材料に組み込むことが苦手です。
そこで、データサイエンティストの支援が必要となります。ただ、人材は不足しており、育成するプロセスも整っていないのが現状です。
なぜかというと、大学でのプログラムでは教育上の小規模データしか扱うことができず、実際に企業で即戦力になるために必要なビックデータでの訓練が積めないからです。
また企業に入っても、ビックデータはあるものの、圧倒的に数学、統計学を教育できる人材が不足しており、持て余しているケースが多いからです。
そこで、企業が持っているビックデータを使用して、大学で身に付けられる知識を実戦形式で伸ばしていくという産学連携の仕組みをとりながら人材育成をしていくことが必要です。
(2)新たな働き方を取り入れる
日本では地方と首都圏のデジタル化の差も激しいのが課題にあります。そこで新しい働き方としてテレワークなどを導入していき、どこにいても同じパフォーマンスができる世界を目指すことが重要です。
デジタルの力を活用して新しい産業支援を行ったり、地方に完全に移り住みながら首都圏の会社に在籍しつづけることなど、新しい働き方の推進が急務となります。
(3)離島も含め、全国的に光ファイバー整備を推進
働き方改革を全面的に進めていくためには、日本のエリア間での通信環境の差をなくす必要があります。離島を含めた日本列島すべてに光ファイバーを網羅させ、どこにいても同じ速度でインターネット通信を利用できるインフラを整えるのが理想です。
(4)5Gの普及率を高める
都市や地方を問わず、5G などの高度なネットワークの整備も必要となります。より高速で大容量のデータをどこにいても扱えるようになり、デジタル社会を実現するための基盤を作ることができます。
こうした動きは1つの市町村でどうにかできる問題ではありませんので、国が一斉に各地へ基地局の設置をすべく動かしていく必要があります。
(5)サイバーセキュリティ対策の強化
デジタル化を推し進める上でサイバーセキュリティ対策を強化することは非常に重要です。デジタル社会では個人の情報はオンラインで管理されることになり、脆弱なセキュリティシステムでは個人情報の漏洩にも繋がります。
まずは国がサイバーセキュリティ攻撃に備えた投資を行うこと、それに対応できる人材の設置・育成を強化する必要があります。都市部だけではなく、地方を含めた日本国すべてで隙のない体制を整えることが必要となります。
(6)マイナンバーカードを普及させオンライン申請を可能に
現在、ポイント付与サービスなどを取り入れながら推進しているマイナンバーカードの普及ですが、さらに促進していく必要があります。交付率は2022年4月現在 43%となり、政府は2022年度末に国民のほぼ全員がマイナンバーカードを保有することを目標としています。
国民がマイナンバーカードを保有していることで、行政手続きなどがオンライン上で可能になり、より早く正確な情報連携が可能になります。
住民票の写しや印鑑登録証明書をコンビニで手に入れることができたり、確定申告をオンライン化することができたり行政機関・個人ともに負担軽減や人的ミスを減らすことにも繋がります。
(7)オープンデータの質を向上させる
国や行政が保有しているオープンデータを企業が有効的に活用できるように、クオリティをあげる必要があります。データを整備し、見やすく使いやすく統一させることで、地域間の課題抽出や、新しいシステムやサービスの開発に繋がります。
また対象とするデータの範囲、流通の仕組み等を整備することで、長期的に持続可能なオープンデータとすることができるようになります。
(8)デジタルデバイド対策を行う
デジタルデバイドとは、インターネットリテラシーがある人とない人の格差のことを言います。インターネットを使いこなせない人に機会創出を行ったり、差を生まないためにできる主な対策としては下記のようなものがあります。
- ITについての勉強会の開催
- シンプルなシステム・デバイスを開発する
- 様々な種類のスマート端末の普及
- インターネット上でコミュニケーションを取り合う
- 無料で利用できる端末を設置していく
- テレワーク可能な求人を掲載することで雇用を創出する
以上の対策を強化していくことが求められます。
(9)教育にICTを用いる
デジタル社会を実現させるためには、1人1台以上の端末を駆使してデジタル社会に皆が参加している必要があります。そこで考え方も柔軟な児童の頃から教育にデジタルについての知識を装着していきましょう。
既にコロナ禍が後押しとなり、オンライン授業や課題の提出など馴染みを持ちやすい環境ができつつありますが、更に情報通信学習を促進していくことで、知識足着だけではなく教育現場の負担軽減にも繋がります。
▷デジタル化が生活にもたらす影響や変化とは?身近な例や現状と今後について
デジタル社会に必要な人材育成と組織作りを進めよう
デジタル社会を作り上げるには、高いスキルをもった人材の育成と組織作りが鍵となります。日本が世界から遅れをとっている今、企業の1社1社が当事者意識をもって動き始めることが重要です。
これから更に加速していくデジタル化に対応していけるように、個人の意識改革、社内の推進強化が急がれています。
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