働き方改革のメリット・デメリットとは?推進する背景や効果について
働き方改革の施行はもとより、優秀な人材確保の面においても企業には労働環境の改善が求められています。そこでここでは、働き方改革を推進する背景や効果、具体的なメリット・デメリットについて解説します。
目次
なぜ「働き方改革」が必要なのか?その背景とは
なぜ、現代社会において「働き方改革」が重要視され、求められるようになったのでしょうか。
まずは、その背景について主な3つの理由をもとに解説します。
深刻な労働力人口不足
働き方改革が必要な理由として、解決の見えない労働力人口の不足が挙げられます。
日本の労働力人口は2019年の6886万人をピークに下がり始め、2021年には6860万人と、わずか2年間で26万人減少しています。この状況は将来的にも続くと予想されており、すぐに解決できる問題ではありません。
そのため、従業員一人当たりの生産性向上のほか、幅広い人々への労働機会の提供を目指す働き方改革が必要とされているのです。
多様化したライフスタイル
社会のデジタル化、女性の社会進出などの変化により、人々のライフスタイルは大きく変わりました。
データを活用したパーソナライズされた製品・サービスが日常に浸透し始め、さらに「男性は外で仕事をして、女性は家庭を守る」といった性別による役割分担などの考え方も旧来のものになっています。
また、「超高齢化社会」とも呼ばれる、要介護者の急激な増加もライフスタイルや仕事への価値観の変化に影響を与えていると言えるでしょう。
家庭や個人の事情などを抱える労働者が、仕事とプライベートを「両立」できる柔軟な働き方の導入は、企業がこのような人材の離職を防ぐための有効な手段となるのです。
変化したワーカーの意識
人々の価値観の変化も重要な要素です。
かつて戦後の経済成長を支えた「企業戦士」「モーレツ社員」など、家庭や私生活を犠牲にしてまで企業の利益のために働くといった価値観が、当たり前とされていた時代もありました。
しかし近年は、仕事を優先したい人もいれば、そうでない人もいるなど、仕事に対しても人それぞれの価値観の違いが認められています。
長時間働くことが優秀な人材の基準ではなくなった今、労働時間や休日といった労働環境において、企業にも多様で柔軟な形が求められています。
▷【簡単】働き方改革とは?目的・取り組み背景・内容をわかりやすく解説
働き方改革で推進すべき3つの取り組み
次に働き方改革の柱とも言える、3つの重要な取り組みについて確認していきましょう。
長時間労働の是正
第一に長時間労働の是正です。
長時間労働は十分な休息が取れないことから、労働者の心身の健康を脅かします。
しかしながら、日本国内のフルタイム勤務労働者の労働時間は、90年代から大きな変化はなく、いまだに長時間労働が続いている状態です。
このような問題を解消するには、IT化などの抜本的な業務改善や人材育成による1人当たりの生産性向上、組織・体制の見直しによる「休むことのできる体制づくり」が求められます。
▷働き方改革における長時間労働の是正とは?原因・問題点・対策について
雇用形態による格差の解消
雇用形態による不合理な待遇格差の解消も重要な取り組みです。
正規雇用と非正規雇用の従業員には、同じ業務を行なっているにもかかわらず、給与や教育・福利厚生などの制度において不合理な「差」があることも珍しくありません。
労働に見合わない待遇の格差は、労働者から仕事に対する意欲を奪い、生産性が低下したり、不公平さへの不満からチームとして機能しなくなったりするなどのリスクを生じさせます。
そのため働き方改革では、同一労働同一賃金の実現に向け、正規雇用と非正規雇用の不合理な格差の是正を目指しています。
自社で雇用形態による格差是正を目指す上では、厚生労働省が公開している同一労働同一賃金ガイドラインが参考になるでしょう。
[出典:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」]▷【要点まとめ】働き方改革のガイドラインとは?4つの重要ポイントについて
柔軟な働き方の導入
柔軟な働き方の導入は労働環境の改善だけでなく、企業の長期的な成長の上でも重要な取り組みと言えます。
たとえば、テレワークや時短勤務の導入などにより、従来の「オフィス出社・定時勤務」以外の働き方を認めることで、就労機会の幅を大きく広げることが可能となります。
柔軟な働き方の導入は、ライフステージが変化した従業員の離職を防ぐだけでなく、新たな人材確保のうえでも、有効な取り組みとなるでしょう。
働き方改革をおこなうメリット
ここからは働き方改革に取り組むことで得られるメリットついてみていきましょう。
人材不足や離職率の改善
経験豊富な従業員の離職は、さらなる人手不足を招くのはもちろん、新たな人材採用や教育のための時間やコストが発生します。また、残った従業員のモチベーション低下も懸念されるでしょう。
就労意欲があるにもかかわらず、勤務形態などがマッチせず離職を余儀なくされる労働者は少なくありません。
柔軟な働き方の提供によって、このような離職を防げるのは、離職による悪循環を防ぐといった大きなメリットにつながります。
生産性や創造性の向上
長時間労働の是正による十分な休息と充実したプライベートの時間は、従業員のワークライフバランスに対する満足度を向上させます。
多くの場合、その満足度の高さは仕事に対する意欲として還元されるため、ポジティブな状態で仕事に取り組むことができるようになり、生産性や創造性の向上が期待できます。
▷働き方改革の推進で企業がワークライフバランスを整える方法とメリット
コストの削減
業務改善により労働時間を減らすことで、残業代などの人件費が削減できるほか、オフィスの電気代などの光熱費を抑えることも可能になるでしょう。
そのほかにも、テレワーク導入により、従業員の交通費やオフィススペースを最小限にして、賃料や管理費を抑えるといったコスト削減も実現可能です。
企業イメージの向上
企業イメージの向上も大きなメリットです。
働き方改革に取り組むことで、労働環境の改善、生産性の向上、従業員エンゲージメントの向上などさまざまな効果が期待できます。
これらは働きやすい職場、生産性の高い企業といったポジティブな印象を与え、企業イメージ向上につながるでしょう。
働き方改革の主なデメリット
働き方改革には注意すべきデメリットもあります。
勤怠管理の複雑化
多様なワークスタイルを受け入れることで、自ずと勤怠管理は複雑化してしまうでしょう。
労務管理の負担が大きくなりすぎないよう、勤怠管理ツールの導入などで可能なかぎり業務を自動化し、効率的に運用するためのルールの見直しなどが必要となります。
人事評価の見直しが求められる
テレワークや裁量労働制などの画一的ではない働き方を導入した際には、人事評価基準を見直すことも重要です。
とりわけ、上司がその働きぶりを直接見る機会が減ってしまうテレワークなどでは、勤務態度の把握がむずかしくなるなど、従来の評価方法が適切でない場面がでてきます。
そのため、新しい働き方に合わせた評価基準、評価方法が求められるでしょう。たとえば、客観的に判断できる明確な業務目標を設定し、評価項目に反映させる、定期的な面談やミーティングを実施するなどの方法が挙げられます。
さらなる効率化が求められる
働き方改革は、単に労働時間を減らして、従業員に「好きなように働いてもらう」ための取り組みではありません。
そのため、労働力や労働時間を最適化し、効率よく高い成果を出すための業務効率化を同時に進めることが必要です。
そのような業務改善を推進するには、計画から実行、検証によるさらなる改善など、過程においては、多くの負担と作業工程が発生するのも事実です。
一時的とはいえ、このような作業負荷が増えることはデメリットと言えるでしょう。
▷【解説】働き方改革の問題点とは?企業が直面する課題と解決策について
▷働き方改革が逆効果に?負担が増えたと感じる原因や給与に関する問題
働き方改革として効果的な施策とは?
続いて、働き方改革として効果が期待できる具体的な施策を3つご紹介します。
テレワークへの移行
テレワークの導入は、さまざまな理由から働き方が制限されてしまう労働者の就労機会を広げ、離職の防止につながります。
また、オフィス出社という物理的な条件がなくなることから、全国各地はもとより、海外での採用活動も可能になるなど、新たな人材確保の幅も広がります。
テレワークの導入にあたっては、業務のクラウド化、社内規則の見直しといった準備が必要になるため、十分な期間を確保して取り組みましょう。
休暇が取得しやすい労働環境の整備
ワークライフバランスの実現に向けては、必要なときに休暇が取得できる職場環境の整備も重要となります。
休暇制度が用意されていても、人手不足により取得できなかったり、休暇を取ることに後ろめたさを感じるような職場では、制度が浸透することはありません。
適切な休暇が取得できる業務体制の構築を進めるとともに、上司が率先して休暇制度を利用するなど、不安なく休暇が取得できる社内風土の醸成にも努めましょう。
フレックスタイム制度や時短勤務制度の導入
フレックスタイム制度や時短勤務制度など、勤務時間の柔軟性も有効な施策の一つです。
フレックスタイム制度は、あらかじめ決められた一定期間の総労働時間の範囲内において従業員が自分で出退勤時間帯を選べる制度です。
総労働時間は変わりませんが、プライベートの予定に合わせて、始業・終業の時間を自分で決めることができるため、生活と仕事のバランスがより図りやすくなります。
さまざまな事情を抱えた人たちが働き続けられる「選択肢」を用意することで、組織に対するエンゲージメントの向上や離職防止、業績の維持などの効果が期待できます。
▷働き方改革の現状とこれからの働き方とは?振り返りと今後の変化について
働き方改革における注意すべきポイント
続いて、実際に働き方改革を推進する際の、注意すべきポイントについても確認しておきましょう。
高度プロフェッショナル制度の悪用
高度プロフェッショナル制度は、金融商品開発、アナリスト、研究開発業務など、高度な専門的知識や経験が求められる職種に対して、条件を満たしたうえで労働時間に縛られない働き方が認められる制度のことです。
そのため、残業代、休日及び深夜の割増賃金の支払義務など労働基準法による規定の適用外とされていますが、これらは、あくまで制度の要件を満たした雇用条件や働き方が実行されていることが前提となります。
要件を満たしていない場合は、「労働基準法による規定の適用外」とは見なされず、規制や罰則の対象となる点に注意しましょう。
▷高度プロフェッショナル制度とは?対象者やメリット・デメリットを解説
IT化に伴うコストの発生
テレワーク導入や業務自動化に向けたシステム導入などのIT化には、相応のコストがかかります。
ただし、もちろん効率化による人件費の削減、ペーパーレスによる消耗品費や管理コストの削減など、IT化によって抑えられるコストもあります。
IT化による初期費用やランニングコストは、どのような製品・サービスを導入するかによって大きく異なるため、削減できるコストとかかる費用のバランスを考慮した見極めが重要です。
一時的な生産性の低下
たとえば、アナログ作業のIT化などの抜本的な業務改革をおこなう場合、システムの選定や業務フローの見直し、使用方法の説明から運用の定着に向けた検証・改善など、多くのプロセスと手間が発生します。
そのため、その間の生産性が一時的に下がってしまうこともあるでしょう。
システムの選定には必ず現場の従業員が参加し、導入後のミスマッチを抑える・スモールスタートで着手し混乱を招かないようにする・適宜PDCAを実行して改善しながら改革の範囲を広げていくといった、変化による混乱を招かないための計画性が求められます。
社員のモチベーションが下がることもある
長時間労働が是正され、残業代が減ることをデメリットに感じる従業員もいるかもしれません。
また、従来のやり方に大きな問題が露呈していなければ、業務改革に一定の反発や不満を露わにする従業員がいてもおかしくはないでしょう。
さらに業務の自動化にあたって、「自分の仕事がなくなるのでは?」と不安にかられる人もいるかもしれません。
業務改革を推進する際には、目的や期待できる効果、進め方などの計画を丁寧に共有しておくことが大切です。
働き方改革を推進する際の進め方とコツ
では、実際に働き方改革を推進する際には、どのような進め方が適切なのでしょうか。ここからは、働き方改革に取り組む先の進め方とコツをご紹介します。
自社の問題点を洗い出す
はじめに自社の現状と問題点を把握しましょう。
非効率な業務、ミスやトラブルの多い作業、制度や組織の風土への意見など、全社的なヒアリングやアンケートを通じて「社員の声」を集めます。
また、就業記録などのデータから長時間労働が常態化してしまっている部署やチームがないかなどの調査もおこない、業務・待遇・組織・制度などにおける、問題点を洗い出していきます。
働き方改革の目的を明確にし共有する
働き方改革は、従業員の協力なくして実現することはできません。
そのため、なぜリソースを割いてまで働き方改革に取り組むのかという理由と目的を共有し、意識の統一を図るとともに協力体制を構築していきます。
特に、働き方改革に取り組むメリットが明確であればあるほど、従業員の協力は得やすくなるはずです。
改善案を出してワークフローを見直す
洗い出した問題点を「重要度」や「優先度」で整理し、重要かつ優先的な問題から、ワークフローを見直しつつ、具体的な改善案を提案していきます。
ワークフローの見直しでは、まず「不要な作業」の排除と「非効率な作業」の洗い出しをしていくと良いでしょう。
重複作業や形骸化した「不要な作業」と業務を見直したり、ツールを利用したりすることで効率化が狙える「非効率な作業」を改善するだけでも、生産性が大きく向上することもあります。
ロードマップを作成する
ワークフローを見直し改善案が固まったら、実際に新しいワークフローに移行するまでのロードマップを作成しましょう。
ロードマップは、必ず現場の従業員に参加してもらったうえで手順・人員・期間などの詳細部分を検討していきます。
実務とは離れた管理職のみで作成してしまうと、実現性の低いものになってしまい、計画が頓挫したり思わぬトラブルが発生したりすることもあるため注意しましょう。
補助金・助成金を積極的に活用する
働き方改革に向けた施策については、国や自治体の補助金や助成金が利用できるケースもあります。
IT導入補助金、業務改善助成金のほか、キャリアアップ助成金や働き方改革推進支援助成金など、多種多様な支援が用意されています。
これらの補助金・助成金は、組織における業務改善や働き方改革の計画実行前の申請および承認が必要な場合もあるため、利用を検討する際には、しっかりと要件を確認しておくようにしてください。
▷【2023年】働き方改革推進支援助成金とは?申請方法やコース内容を解説
働き方改革の具体的な取り組み事例を紹介
最後に、働き方改革に取り組む企業の事例をご紹介します。
朝残業で20時以降の残業を廃止/UQコミュニケーションズ株式会社
UQコミュニケーションズ株式会社は生産性向上のため、朝型勤務を推奨しています。
まず、7時30分までに出社した従業員には朝食を提供することで、早朝出勤のモチベーション向上を図りました。
そして、朝の労働時間を残業としてカウントし、夜の残業を20時までに設定することで、従業員の生活リズムが早寝早起きへとシフトするように支援しています。
その他にも、会議を30分までに設定する、集中ブースや立ち会議スペースの新設などによって業務の効率化を実行し、年休取得率の向上促進などにつなげています。
6時間で退社OKの「ろくじろう」/株式会社ZOZO
株式会社ZOZOでは、午前9時から午後3時までの6時間を集中して働く、「ろくじろう」という制度を導入しました。
同社では、就業規則上は8時間勤務ですが、やるべき仕事を6時間で完了できるのであれば、8時間の勤務として記録してもいい決まりになっています。
ろくじろうを導入してから、どのようにすれば業務を効率的におこなえるか、従業員が自主的に考える土壌が生まれました。
その結果、今までは平均して9時間だった労働時間が、7時間台にまで減少しています。
子育て支援で育休取得率100%を維持/医療法人辰川会
福山市初となる事業所内保育園「おひさま保育園」を開設した医療法人辰川会では、子育て支援に力を入れた、下記のような制度により働き続けやすい職場環境づくりをおこなっています。
- 保育手当支給
- 育児を理由とする夜勤の免除
- 男性の育児休業の促進
- 育休中の従業員同士の交流会の開催
このような環境づくりの成果もあり、同法人は出産した女性従業員の育児休業取得率100%を維持しています。
「昼寝」で集中力をアップ/株式会社OKUTA
株式会社OKUTAは従業員の集中力アップのために、POWER NAP(パワーナップ)制度を導入しています。
POWER NAPは、15分から30分程度の短い仮眠のことで、疲労を回復させ、集中力を向上させる効果が期待できるとされています。
熟睡前に睡眠を切り上げるため、寝ぼけることなく業務を再開できることが大きなメリットです。
昼休憩中に仮眠を取ることは珍しくありませんが、同社は時間に関係なくPOWER NAPを取ることが認められています。
この他にも、趣味やスポーツの活動費を支援するアクティビティクラブ制度や、自転車通勤手当など、従業員の健康活動を促進する制度を多数導入しています。
週休3日制もOK!えらべる勤務制度/ヤフー株式会社
ヤフー株式会社では、多様な働き方を支援する「えらべる勤務制度」を導入しています。
これは、小学生以下の子どもの養育や、家族の介護・看護をおこなう従業員が、週休3日を選択できる制度です。月単位での利用が可能なため、必要に応じて柔軟に取得できるのも特徴と言えるでしょう。
また、同社は有給の取得を積極的に推進しており、有給取得率は80.7%という高い水準になっています。
▷働き方改革のユニークな事例15選!企業の面白い取り組み事例まとめ
働き方改革は自社に合った施策と効果測定が重要
働き方改革は効果的な施策の実行により、従業員の労働時間の短縮、大幅な生産性のアップ、従業員エンゲージメントの向上など、さまざまな効果が期待できる取り組みです。
しかし、企業によって抱えている問題はさまざまであることから、成果につながる改革を実行するには、自社に最適な目標設定と手段の見極めが重要となります。
また、働き方改革は一度で完結するものではありません。多くの企業において、検証と改善を繰り返して、効果を高め続ける長期的な取り組みとなるはずです。
今回ご紹介したポイントや注意点を参考にしていただき、まずは自社の問題点の洗い出しから始めてみましょう。
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