働き方改革が管理職の仕事に及ぼす影響は?変更点や役割・注意点を解説

最終更新日時:2022/08/15

働き方改革

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働き方改革により一般社員の労働環境は改善されようとしていますが、一方で管理職にしわ寄せがきているケースがあるのも事実です。本記事では、働き方改革が管理職に及ぼす影響について、関連法の変更点や管理職が果たす役割の変化などとともに詳しく解説していきます。

知っておきたい管理職の法的な定義とは?

管理職とは、社内でチームのメンバーを管理する立場にある人のことで、企業によって管理職の基準はさまざまです。一方、管理職と混同されがちなのが「管理監督者」です。管理職が企業ごとに課長や部長などのポスト名を自社の基準で適用しているのに対して、管理監督者は法的に定義されています

労働基準法における「管理監督者」は下記のように定義されています。

事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

[出典:e-Gov 労働基準法 第四十一条第二号]

上記の定義では、現場・社員の監督・管理を行う人や、社内の機密情報を取り扱う人物が管理職者に該当することがわかります。また、厚生労働省による管理監督者の定義は、下記のようになっています。

「管理監督者」は労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。

[出典:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署 「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」]

上記の定義で注目すべき点は、すべての管理職が管理監督者に該当するわけではない点と、管理監督者は労働基準法に定められた時間や休日の制限がないという点です。

働き方改革による関連法の改正によって、管理職および管理監督者双方の仕事に影響を及ぼすことが考えられます。

働き方改革による管理職の変更点

2019年4月から順次、「働き方改革関連法」が施行されています。管理職(および管理監督者)にかかわる変更点が下記の3つです。

  1. 残業時間の上限設定
  2. 勤務時間の状況把握
  3. 有給休暇の時季指定義務

それぞれの変更点について詳しく解説をしていきます。

残業時間の上限設定

2019年4月の法改正によって、残業時間の上限規制が定められました(大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用)。

これにより、事業者と労働者の間でサブロク協定(36協定)を結んでいたとしても、残業は「月45時間、年360時間」(月45時間を超えられるのは年6回まで)までとなり、臨時的な特別な事情がない限りこれを超過して働かせることはできなくなりました。

臨時的な特別な事情があり労使間で合意が得られた場合の上限規制は次の通りです。

  • 時間外労働 :年720時間以内
  • 時間外労働+休日労働:月100時間未満、2〜6ヶ月平均80時間以内

法改正により罰則規定も設けられ、時間外労働の上限規制を守らない場合には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるおそれがあります。

なお、労働基準法で規定されている「管理監督者」に関しては上記の残業時間の上限規制は適用範囲外となります。そのため過重労働が常態化している職場においては、業務量の調節などが必要になるでしょう。

勤務時間の状況把握

これまで、裁量労働制の従業員の勤務時間は、みなし労働時間に基づいて割増賃金の算定を行っている企業が多かったため、労働時間の適正な把握は義務化されていませんでした。

しかし、働き方改革関連法の施行によって、健康管理の観点から、今後事業者は裁量労働制の従業員や「管理職監督者」を含め、すべての従業員の勤務時間の状況を客観的に把握することが義務付けられました。

また、労働安全衛生法に基づいて、残業が一定時間を超えた労働者から申し出があった場合、医師による面接指導を実施することも義務化されているため、残業時間と合わせてより細かい勤務時間の管理が求められます。

有給休暇の時季指定義務

厚生労働省の資料によると、日本企業における有給休暇の取得率は49.4%と半数を切っており、海外企業に比べて有給取得が進んでいないという実態があります。

しかし、働き方改革関連法の施行によって、企業は年間10日以上の有給休暇が付与されている従業員に対して、年間5日の年次有給休暇を取得させることが義務化されました。

対象は、「管理監督者」も含まれます。企業は、従業員の希望を踏まえて時季を指定して取得させなくてはいけません。

法改正により、企業は就業規則に有給休暇に関する項目を記載することや、従業員ごとに年次有給休暇管理簿を作成して3年間保存することも義務化されました。

上記の義務を守らなかった場合は従業員1人につき、30万円の罰金が科せられる可能性があるため、注意しましょう。

[出典:「厚生労働省資料」]

働き方改革によって管理職にしわ寄せがきている?

働き方改革関連法の施行によって、管理職は従業員に対して今まで以上に細かい管理が求められるようになりました。

組織・人事コンサルティング事業を行っているパーソル総合研究所が「管理職の業務量の増加」に関して調査した結果が次の表です。

【管理職の業務量の増加】

働き方改革が進んでいる企業62.1%
働き方改革が進んでいない企業48.2%

[出典:株式会社パーソル総合研究所「中間管理職の就業負担に関する定量調査」]

企業規模50人以上の会社の管理職2,000人にアンケートを行った同調査では、働き方改革が進んでいない企業よりも、働き方改革が進んでいる企業の管理職のほうが業務負担が増しているという結果が出ました。

こうした状況を改善するためにも、企業は管理職に対する負担を減らすための対応が求められています。

働き方改革によって変わった管理職の役割

上述のような業務負担が増えている背景には、働き方改革関連法の施行にともなう、管理職の役割の変化が考えられます。具体的には次の4点です。

  1. 部下の労働時間の把握
  2. 部下の有給休暇日数の把握
  3. 業務の効率化
  4. 業務の現状把握

それぞれの役割について詳しく解説をしていきましょう。

部下の労働時間の把握

働き方改革によって、管理職は今まで以上に部下の労働時間の把握・管理が必要になりました。マネジメントによって部下の労働量を適切に管理する必要がある一方で、人事部と連携しながらシステムなどを導入し、労働時間の把握や管理をすることが必要でしょう。

企業は働き方改革によって、「始業時間・就業時間の記録」「労働時間を記録した情報を3年間保存」することが義務化されたので、管理職と企業が協力して労務管理に臨むことが大切です。

特に、テレワークの普及によって一人ひとりの働く時間の管理がより複雑化しているという現状もあります。

管理職が一人でコントロールするのには限界があるため、人事部などとの協力はもちろん、従業員一人ひとりが働き方改革によって取り組むべき内容を理解し、労働時間に対して意識して働くことが重要になるでしょう。

そうすることで管理職の負担が減ると同時に、長時間労働の削減や生産性向上までつなげられる可能性があります。

部下の有給休暇日数の把握

働き方改革の推進によって、働き手が仕事とプライベートを両立できる働きやすい職場の整備が求められています。これまで低かった有給休暇の取得率を改善させるために、働き方改革関連法によって年次有給休暇の取得が義務化されました。

適切に運用するためにも、管理職は部下の有給休暇取得日数の把握が必要です。繁忙期が続いて有給休暇を取り忘れたりすることがないように、注意しましょう。

また、有給休暇の取得に関しても、年次有給休暇管理簿の作成と3年間の保存が必要になるため、労働時間や残業時間の管理と合わせて対応しましょう。

業務の効率化

働き方改革によって、残業時間や労働時間が短くなることで業務に支障が出ないように管理する必要も出てくるでしょう。労働時間を短くしながらも、アウトプットの量を維持するためには生産性の向上や業務の効率化が必要になります。

業務の効率化に関しては管理職の努力だけでは、なかなか進められないため、チーム全体で協力して取り組む必要も出てきます。

そのため管理職は、チームのメンバーや関連部署を含めて改善するためのミーティングを開催するなどして、具体的な改善策の立案と実行を積極的に行っていくことが必要になります。

業務の現状把握

業務の効率化と合わせて意識する必要があるのが、業務の現状把握です。業務効率化のプロセスの一部である、見える化を行うことで、現状で抱えているボトルネックが見えてきます。

前述のように、働き方改革の推進によって労働時間が減ると、成果の量に影響が出てくる場合があります。そうなると、サービス残業や隠れ残業などの問題が発生する可能性もあります。

具体的に業務の現状を把握することにより、無駄になっている・改善可能な部分が見えてくるため、課題を発見するためにも一度業務プロセスの見直しを行うのがおすすめです。

働き方改革により管理職の負担を増やさないための注意点

管理職者の業務負担を増やさないためにできる施策・注意点は下記の3つです。

  1. 管理職の裁量権を拡大する
  2. ITツールの導入
  3. 業務の効率化

管理職の裁量権を拡大する

管理職の業務負担を減らすだけでなく、業務効率化にもつながる可能性があるのが「裁量権の拡大」です。

多くの管理職はある程度の裁量権が与えられていますが、重要なシーンでは自身の上司や他の部署の担当者に確認を行う必要があるため、意思決定からアクションまでに手間がかかってしまうことがあります。

管理職の意思決定権や行動権限を拡大させることにより、現場の状況に合わせた素早い立回りが可能になります。迅速な判断と行動ができることによって、業務量や時間の削減が可能になるため、管理職の負担軽減が期待できます。

ITツールを導入する

働き方改革によってテレワークを実施する企業が増え、従業員の労働時間や残業時間の管理がより難しい状況となっています。

管理職の業務負担を減らすためにも、離れている場所でもスムーズに労務管理ができる、勤務管理システムをはじめとしたITツールを導入するようにしましょう。

ITツールを導入することにより、今までタイムカードやICカードでチェックしていた手間や時間の、大幅な削減効果が見込めます。

業務の効率化を図る

最も重要な注意点として、業務の効率化が挙げられます。裁量権の拡大やITツールの導入も効果的ですが、業務プロセス全体の改善を行うことで、より効果的に管理職の負担を軽減できるでしょう。

前項でも触れた通り、一度すべての業務の棚卸しを行い、ボトルネックになっているフローを抽出し、業務改善によってどのくらいの成果が出るかシミュレーションを行うと良いでしょう。

ITツールの導入により一部の業務を自動化できれば、従業員を他のコア業務に集中できるようになるため、生産性向上も期待できます。

働き方改革を進める際に管理職が取り組むべき4STEP

管理職の負担を軽減させながら働き方改革を進めていくために、下記の4STEPを意識するようにしましょう。

  • STEP1.現状の把握
  • STEP2.課題解決に向けた施策検討
  • STEP3.施策の実施
  • STEP4.実施した施策の見直し

それぞれのSTEPについて詳しく解説していきます。

STEP1.現状の把握

まずは業務の棚卸しを行い、現状どのような状態で業務を回しているかを確認しましょう。業務の見える化は表面上のものだけでなく、ミーティングやヒアリングによってより細かい業務も見えるようにし、フローチャートを作ればより一層課題が見つけやすくなります。

中でも管理職は下記の項目について特に意識すると良いでしょう。

  • 従業員の残業時間・労働時間の現状
  • 労働時間・残業時間の管理・保存状況
  • 一つひとつの業務プロセス
  • 意思決定から実施までの時間
  • 有給休暇の取得状況

一つひとつ細かく分析することにより、長時間労働の発生原因や休みづらい職場になっている原因などが見えてくるでしょう。

STEP2.課題解決に向けた施策検討

企業が抱えている課題を発見できた後は、解決に向けた施策・検討が必要になるため、下記のような点を意識しましょう。

  • 人材配置の見直し
  • ITツール導入の検討
  • アウトソーシングの検討
  • 勉強会や研修会の実施
  • 従業員のワークライフバランス改善への取り組み
  • 有給休暇を申請しやすい環境構築
  • 成果や効率に合わせた評価制度の導入

従業員の働き方に関わる課題を解決することによって、エンゲージメントの向上が図れるほか、生産性のアップも期待できます。

他にも、離職率の低下やチームワークの向上も期待できるため、働き方改革を推進することでさまざまなメリットを享受できるでしょう。

STEP3.施策の実施

実際に検討した施策を実施する工程では、評価も必要不可欠です。実施を行った後は、実施前と実施後でどのような変化があったのかを確認する必要があるため、従業員と管理職の間で密なコミュニケーションをとることが必須です。

STEP4.実施した施策の見直し

実施をして改善できるポイントがないか見直しを行い、柔軟に施策を修正していくことも重要になります。見直しをせずにそのまま続けてしまうと、逆に業務負担が増えたり、生産性が低下してしまうおそれもあります。

施策による効果をデータ化し、改善できるポイントがないか分析し修正を加えるPDCAサイクルを回していくことが重要です。

管理職の負担も考えた働き方改革を推進していこう

働き方改革は長時間労働の是正やワークライフバランスの改善、自由な働き方の実現など、働き手にとって多くのメリットが期待できます。一方で、職場によっては、管理職の負担が大きくなってしまう場合もあります。

働き方改革関連法の内容を管理職が把握しておくことは必要です。同時に、企業や従業員も理解を深めることで、より効果的な施策が可能になります。

管理職の業務負担を減らしながら働き方改革を進めていくためにも、社内全体で一度業務の見直しを行い、改善策を実行しながら、多くの従業員が満足できる職場環境の構築を目指しましょう。

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