【2024年】建設業界の働き方改革とは?現状の問題点や取り組むべき対策

最終更新日時:2022/06/28

働き方改革

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働き方改革関連法の適用に猶予期間が設けられている建設業界。しかし、猶予期間が終了する2024年は間近に迫っており、早急な対策が必要です。本記事では、そんな建設業界の働き方改革について、問題点や対策など詳しく解説していきます。

建設業界で行われる働き方改革とは?

大企業においては2019年4月、続いて中小企業では、1年間の猶予ののち2020年4月に適用されていた時間外労働の上限規制ですが、建設業界においては、5年間の猶予が与えられており、2024年4月1日から導入されることが決定しています。

5年間もの猶予が与えられた背景には、建設業界が抱える課題の大きさが影響しています。ここでは、建設業界で行われる時間外労働の上限規制について解説していきます。

2024年から時間外労働の上限規制が適用

建設業では、2024年4月1日から時間外労働の上限規制が適用されます。上限は、月45時間、年間360時間で、特別な事情がある場合でも、月100時間、複数月平均80時間、年間720時間の基準を超えた労働は認められません。

ただし、復旧・復興に関わる業務の場合については、月100時間未満、複数月平均80時間以内の条件は適用されません。

なぜ建設業界には5年の猶予期間があるのか

そのほかの企業においては、会社規模により2019年、2020年と相次いで適用されたのに対し、建設業界には5年間もの長期間にわたる猶予期間が設けられています。

その理由には、建設業界においてある意味「常態化」してしまっている人材不足と長時間労働については、短期間で解決することが非常に困難であると判断された点が挙げられます。

というのも、建設業には多くの専門的な技術者が関わっており、その育成は、一朝一夕にはいかないという背景から5年間の猶予が与えられたのです。

建設業界が抱えている現状の問題点

建設業界が抱える問題点の中でも「人材不足」は、ことのほか深刻な状況にあります。建設業界に身を置く技術者の年代別の割合は、60歳以上が全体の約25%を占めており、29歳以下の技術者の割合はわずか10%程度です。

そのため、10年以内には、さらに深刻な人材不足に陥ることが予想され、人手不足の悪化により、さらなる長時間労働が発生するといった負のループから抜け出せない状態にあるのです。

就業者数の減少

建設業界における問題の代表的な原因には、就業者数の減少が挙げられます。建設業界の就業者数は、ピーク時の1997年で約685万人にまで増加したのに対し、2017年では約498万人まで減少しています。

現職者の高齢者化、若い人材の割合減少により、若手人材の育成は建設業界の喫緊の課題といえますが、建設業界に対する「重労働に見合わない待遇」や「厳しい師弟関係」といったイメージは未だ根強く残っており、人材の確保すら厳しいのが現状です。

また、建設業界は離職率も高止まりを続けている状況にあり、年々改善はしているものの、特に1年目の離職率が高い結果となっている点も大きな課題となっています。

長時間労働と休日出勤の常態化

国土交通省「建設業における働き方改革」によると、建設業の年間実労働時間は、製造業や調査産業計に対し100時間以上も超過しています。

特に中小企業や下請け企業では短納期の対応に追われるケースも多いことから、長時間労働や休日を返上した働き方が当たり前になってしまっています。

実際の調査結果でも、週休2日を確保できている企業はわずか10%以下となっており、建設工事全体では、約65%が4週4休以下で就業している状況です。

労働時間の長さと休日出勤の多さからも長時間労働が常態化していることが読み取れます。

技能に見合わない給与・社会保険未加入

建設業界の賃金は上昇傾向にあるとはいえ、それでも製造業と比較すると約10%低い賃金になっています。

また、賃金の推移に関しても製造業が50代半ばまで上昇傾向が続くのに対し、建設業界では40代前半に賃金がピークを迎えた後は横ばいを続け、その後50代半ばから下降していきます。

このような結果から、建設業界での評価は、限定的な範囲での評価基準しか設けられていないことが伺える上に、管理職におけるマネジメントや指導育成などに対する評価が適切でないことが考えられるのです。

また、建設業界では日給制が多いことも問題です。日給制の技術者は、社会保険未加入のケースも多く、給与体系の見直しや待遇の改善も重大な課題とされています。

不適正な請負契約の締結

建設業界では、ゼネコンの略称でも知られる大手の「総合建設業者」があり、その下に1次下請け、2次下請け、さらには3次、4次の下請け業者がいることも珍しくありません。

各工程の技術や専門性が分化したことによる、このような構造は「重層下請け構造」とも呼ばれています。

この場合、下請けへの発注が発生するたびに、工期や請負代金の中間搾取による「しわ寄せ」が生じ、その結果、末端の下請け業者は、短期かつ安価での工事を強いられることになってしまいます。

さらに、パワーバランスからどんなに不利な取引であっても契約せざるを得ない状況であることも少なくないでしょう。

不適正な請負契約は、下請け業者における労働条件の悪化を招くだけでなく、最悪の場合、業務の質の低下も起こり得る、重篤な問題なのです。

高齢化による後継者不足

また先にお伝えした通り、技術者の高齢化と若手人材の不足も建設業界における切迫した問題です。

60歳以上の技術者が全体の4分の1の割合を占めているということは、その多くの従事者が10年以内に引退してしまう事態が予想されます。

現時点で後継者が不足していること、それに加えて、建設業は技術の継承に多くの時間が必要であることを考慮した場合、高齢者化や人材不足は、まさに危機が差し迫っている課題であるといえるでしょう。

[出典:国土交通省「(参考)建設業を取り巻く現状について」]

[出典:国土交通省「建設業における働き方改革」]

建設業界の働き方改革によって変わること

働き方改革によって建設業にも変化が求められています。

「労働時間の上限規制」では、時間外労働の上限時間が規制されるだけでなく、時間外労働に対する割増賃金率も引き上げられるため、長時間労働を抑制する効果も期待できるでしょう。

ここでは、2024年4月の建設業界への働き方改革関連法案の適用によって、具体的に何が変わるのかを詳しく解説していきます。

時間外労働の上限規制

「時間外労働時間の上限規制」は、労働基準法による規定のひとつであり、働き方改革を推進するための法改正において新たに設けられた規制です。

労働基準法第三十二条では、一般的な労働時間は以下のように定められています。

  • 1日8時間まで(休憩時間1時間除く)
  • 1週間40時間まで

この時間が法定労働時間となります。そして、法定労働時間を超過した時間が、時間外労働時間、いわゆる「残業時間」です。

今まで明記されていなかった「月45時間、年360時間」の残業時間上限が、改正により罰則付きで法律に規定されました。

ただし、臨時的な事情があり、かつ労働者と使用者の双方が同意する場合(特別条項)には、以下が上限となります。

  • 年720時間以内(休日労働を含まない)
  • 時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満
  • 2ヵ月平均、3ヵ月平均、6ヵ月平均が全て単1月当たり80時間以内(休日労働を含む)
  • 時間外労働が月45時間を超過できる月は年6回まで

なお、特別条項の有無を問わず、年間を通して「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満かつ2~6カ月の各平均が80時間以内」にする必要があります。

そのため、例え労使間の合意があったとしても、上記を超える労働を認められないことになります。

ただし、「災害の復旧・復興の事業」に関する業務においては以下の上限規制は適用されません。

  • 時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満
  • 2~6ヵ月の各平均が80時間以内

[出典:国土交通省「建設業界の現状とこれまでの取組」]

同一労働同一賃金の適用

「同一労働同一賃金」については、すでに建設業界においても適用されていますが、引き続き、法令に殉じた取り組みが必要といえます。

同一労働同一賃金とは、同じ職場で同じ仕事に従事している者に対しては、正社員や非正規雇用社員(パートタイム労働者や契約社員、派遣社員)などの雇用形態に関わらず、同一賃金を支払うこと、また不合理な待遇の格差を是正することなどを定めた法令です。

そのため、建設業においても雇用形態の違いにより、不合理な賃金や待遇の差があるのであれば、直ちに見直しをする必要があります。ただし、明確な基準やガイドラインがあるわけではないため、賃金改定をする際には慎重に検討しなければならないでしょう。

時間外労働の割増賃金率引き上げ

時間外労働の割増賃金率引き上げについては、上記の2つと違い「2023年4月から中小企業を対象」に、適用されるため注意が必要です。

この改正法の適用によって、月60時間超の時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられます。ただし、この対象は時間外労働のみとなっており、休日労働(現状35%)と深夜労働(現状25%)の割増賃金率はこれまで通りとなっています。

そのため月60時間までの時間外労働であれば、これまでの割増賃金と変わりませんが、60時間を超過すると、人件費は格段に上がります。つまり、割増賃金の値上げは、長時間労働を抑制する狙いがあるといえるでしょう。

建設業界で働き方改革を進める際の注意点

国土交通省は、受発注者が協力して取り組むべき指針をまとめた「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」を策定しました。ガイドラインには、工期設定の基準や必要経費のしわ寄せの防止策、契約に対する考え方といった内容について定められています。

ここでは、「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」を参考に、建設業界で働き方改革を進める際の注意点について解説していきます。

[出典:国土交通省「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」]

[出典:国土交通省「建設業働き方改革加速化プログラム」]

適切な工期を設定する

建設業界における働き方改革、特に下請け企業の労働環境の改善を進める際は、適切な工期を設定することが重要な意味を持ちます。

「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」では、適切な工期を設定するために、工事の特性を踏まえた上で、以下のことを考慮する必要があるとしています。

  • 建設工事従事者における週休2日の確保
  • 労務、資機材調達やBIM/CIM活用の準備期間
  • 現場の後片付け期間
  • 天候による作業不能日数の予測

また、さまざまな理由から発注者において適正な工期設定の発注関係事務を行うことが困難なこともあるでしょう。

そのようなケースでは、建設コンサルタント業務が可能な外部機関の活用や支援を受けることが推奨されており、発注者における適正な工期を設定できる体制づくりが求められています。

*BIM/CIMとは?

建設生産・管理システムの効率化・高度化を目的としたワークフロー計画。調査、設計段階から3Dモデルを導入することで、その後の施工や維持管理における関係者間の情報共有を容易にする目的において用いられている。

適切な労働時間かどうか把握する

労働時間の把握は、長時間労働を抑制する前提となる管理のポイントです。2024年4月から適用となる「労働時間の上限規制」によって残業時間の上限が規定されたものの、そもそも労働時間が適切に把握できていなければ、是正のしようがありません。

建設業界では、出勤簿や打刻式のタイムカードなどアナログな方法で労働時間を記録しているケースが多いだけでなく、職種によっては、会社外での業務が主体となることから、そもそも毎日適切な申告や記録がされていない場合も少なくないでしょう。

そのため、外勤が多い業務の特性に合った勤怠管理システムの導入が求められることになります。スマホなどのモバイル端末からも始業や終業の時間が打刻できるようになれば、労働時間が適切に把握できるだけでなく、透明性のある労働時間管理は、労使間の信頼関係の向上にもつながります。

給与や請負代金の適正化を行う

技能に見合わない給与や社会保険の未加入といった、待遇面の見直しも建設業界が取り組むべき対策です。給与の見直しに関しては、具体的には、能力評価制度の策定が求められることになります。

ちなみに制度を策定する際には、その基準が合理的であることのほかにも、「何が」「どのように」評価されるのかといった基準の「明確化」が重要であることも忘れないようにしましょう。

また、社会保険の未加入については、一般的に下請け業者に多いとされているため、国土交通省からは、2017年にすでに元請業者に対して、施工依頼は社会保険加入業者に限定するといった取り組みが要請されています。

生産性を向上させる

生産性向上も建設業界が取り組むべき対策のひとつです。

ICT建機を含むITツールの全面的な活用による人的リソースの最適化、必要書類の簡素化による事務作業の軽減、情報共有体制の見直しによる業務連携の円滑化など、建設業には、まだまだ改善できる余地のある領域が多く残されていると考えられていいます。

いずれにしても、人材や資材をいかに有効に活用するかがポイントになるといえるでしょう。

必要経費へのしわ寄せを徹底防止する

下請け企業における必要経費へのしわ寄せを徹底防止することもガイドラインで定められています。

公共工事設計労務単価の動きに配慮するだけでなく、下請け企業の適切な施工に向けた努力を考慮したうえで、想定される必要経費を含んだ積算と見積りを行い、適切な請負代金で契約を締結することが大切です。

発注者と受注者が相互に協力する

発注者と受注者が相互に協力することも求められています。下請契約における取り組みとして、以下の内容が求められています。

  • 週休2日の確保は、日給制の技能労働者などの処遇水準に留意すること
  • 手当の見直し効果が確実に行き渡るよう、適切な賃金水準を確保すること

下請は円滑な施工に向けて準備するため、工事着手前に工程表を作成し、工事の進捗状況を元請と共有する必要があります。予定通りに工事が完了しない場合は、元請けと下請けの双方で協議したうえで適切に工期を変更することが求められています。

労働環境を改善していくには、発注者と受注者の双方の協力と意識改革が必要であり、お互いが対等な立場で、工期と請負代金の適正化を目指さなければなりません。

建設業界における働き方改革の実施事例

ここでは、建設業界における働き方改革の事例を2つ紹介します。どちらも業務の仕組み化や働きやすい環境を整えることで、働き方改革に成功した事例です。

まず、石川県小松市にある株式会社丸西組では、特定の従業員への業務の集中が課題となっていました。

そこで情報システムを見直し、ワークシェアを取り入れることで、業務時間短縮を実現しています。さらに、福利厚生などの待遇を改善し、スポーツジムの利用を推進することで、従業員の健康増進を図っています。

また、女性従業員の活躍の場を増やすために、女性限定の研修や交流会も実施。女性従業員のスキル向上とともに、社内の雰囲気の活気づけといった効果を得ています。業務の仕組み化と福利厚生によるコミュニケーション増加により、社内の活性化に成功した事例です。

同じく石川県の金沢市に拠点を置くみづほ工業株式会社では、労働時間の削減を課題としていました。

そこで整理・整頓・清掃を掲げる3S活動を実行。それまで散乱していた、社員同士が共有すべき図面や備品の保管場所を決める「定位置管理」を実施することで、情報の共有をスムーズにしただけでなく、総務担当者の管理負担を軽減しています。

業務の時間が短縮されただけでなく、経費削減やコミュニケーションの活性化といった効果も得られるなど、働きやすい環境を整えることで業務効率化に成功した事例です。

建設業界の働き方改革に向けた早急な対策を!

主に2024年4月1日から対象となる建設業界における働き方改革について、詳しくお伝えさせていただきました。建設業界における「技術者の高齢化」「人手不足」「長時間労働の常態化」といった課題は、どれもが深刻な状態にあります。

そのため、政府からも解決に向けた、さまざまな指針が示されています。ここでもご紹介した「建設業働き方改革加速化プログラム」や「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」を理解し、建設業界における働き方改革に向け、早急な対策を講じていく必要があるといえるでしょう。

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ビズクロ編集部
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