テレワークで発生する費用はどこまで経費精算の対象?処理方法や注意点を解説
感染症の影響から普及が進んでいるテレワーク。通勤時間削減等メリットは多いですが、環境整備に意外とお金がかかったと感じている人も多いのではないでしょうか。本記事では、テレワークで発生した費用は経費精算の対象になるのか、処理方法や注意点とあわせて解説します。
目次
テレワークで発生した費用は原則企業負担
オフィスへの出勤であってもテレワークであっても、業務遂行のために発生した費用に関しては、原則企業が負担することが一般的です。
法律上、企業側の負担範囲は明確に定められていないものの、労働基準法の以下の条文より、原則全額負担であるという意向をくみ取ることができるためです。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
<中略>
労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
【引用:e-Gov法令検索「労働基準法第89条・第89条五項」】
また、就業規則の変更に関しても、労働契約法において以下のように定められています。
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。
【引用:e-Gov法令検索「労働契約法第9条」】
労働基準法や労働契約法は、労働者が劣悪で不利益な条件の下での労働を強いられることのないよう、労働者を保護する役割を担っています。
それらの法律において、「企業の都合」で「勝手に」労働者に費用負担を課してはいけないことが定められているのです。
働き方がオフィス勤務からテレワークへと変化しようとも、業務上必要とされる経費は原則企業が負担するという基本姿勢は変わらないはずです。
しかし現状は少し様相が異なるようです。
テレワーク勤務の約半数世帯が通信費等が増加
テレワーク勤務の約半数世帯が通信費等が増加しています。国土交通省による「令和3年度テレワーク人口実態調査」によると、全就業者に対するテレワーカーの割合は、令和3年度時点のデータで27.3%と最高値を更新しています。
およそ3割のビジネスパーソンがテレワークで仕事をしている中、経費の扱い方についてさまざまな問題が顕在化しているのです。別の調査では「テレワークにより通信費・光熱費が増えた」という回答が67.7%に達しています。
電気代が増えた理由としては、パソコンやWeb会議に使用するOA機器などへの電源供給にくわえて、部屋の照明やエアコン、さらには食事準備のため調理器具の使用頻度が増えたことがあげられます。
また、テレワークによって増えた負担額は、5,000円程度という回答が最も多く、テレワークによる家計負担が増加傾向にあることが見てとれます。
【出典:国土交通省「令和3年度テレワーク人口実態調査」】
【出典:ポート株式会社「【実態調査】在宅勤務(テレワーク)に伴う費用は個人負担? - 316名にアンケートを実施」】
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過半数は手当の支給なし
過半数は手当の支給なしという回答がありました。テレワークの導入による自宅での仕事時間の増加にともなう通信費や光熱費の自己負担増に対し、勤務先より手当が補助がある人は2割程度に留まっています。
そのため、テレワーク勤務をしている人のうち約8割が企業からの支援がないまま、さまざまな経費の自己負担を余儀なくされている状況にあるのです。
また、テレワークを導入することのデメリットとして、「仕事スペースやデスク用品、通信環境など、環境整備が不十分であるため不便」と感じている人が多いことが明らかになっています。
テレワークに関するさまざまな調査によって、本来オフィス勤務と同等の扱いを受けるべきテレワーク勤務に対する企業側の対応が追いついておらず、従業員の負担に頼っているという問題が顕在化しているのです。
【出典:国土交通省「令和3年度テレワーク人口実態調査」】
【出典:ポート株式会社「【実態調査】在宅勤務(テレワーク)に伴う費用は個人負担? - 316名にアンケートを実施」】
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テレワーク時の費用はどこまでが経費精算の対象?
業務を遂行する上で発生した費用に対し、どの範囲まで企業が負担すべきかという点については、明確に定められていません。
テレワークにおける企業負担の範囲についても同様で、企業がテレワークにかかる費用をどのように認識し、どこまで負担するかは企業ごとの判断によって異なってきます。
ただし税法上の観点から見ると、テレワークで発生するさまざまな費用は、企業は経費として計上することが可能であると考えられます。
ここからは、経費精算の対象として代表的な項目について、それぞれ解説していきます。
- パソコン・その他周辺機器
- 机・椅子
- 事務用品
- 通信費
- 水道光熱費
- 貸しオフィスの利用料
パソコン・その他周辺機器
パソコン・その他周辺機器は仕事上必要不可欠のツールのため経費として精算可能です。
周辺機器には、プリンターやスキャナーはもちろん、Web会議に必要なヘッドセットやカメラも含まれます。これら周辺機器のほとんどは、前述の「消耗品費」での計上が可能です。
消耗品費に該当する条件として、「1品あたりの金額が10万円以下」と定められているため、価格が10万円以下の機器の購入であれば、一括で「消耗品費」として処理します。10万円以上の機器であれば、「器具備品」という固定資産で計上し、減価償却の手続きを経て経費として計上されます。
ただし、企業がこれらの機器を従業員に「支給」するのであれば、その費用は給与課税対象となり、経費精算することはできません。
これらの機器を、企業から従業員への「貸与」品であるとして返還義務をともなうものとするならば、給与課税対象外となり経費として処理可能です。
くわえて、パソコンや周辺機器を経費として計上する際は、従業員個人の自費購入による立て替え精算は不可とする旨のルール設定をしておいた方が賢明です。
経費精算の原則として、「業務に必要な物は会社が購入する」ため、個人の感覚で選んで購入したパソコンに対しては、機能の必要性や金額の妥当性を証明することができません。
何より、個人で購入したパソコンや周辺機器のスペック、金額が異なっては、「業務遂行上の必要性があっての妥当な経費」であるのか疑問が生じます。パソコンや周辺機器にかかる費用については、企業の税務処理の観点などもふまえながら、明確なルール設定をおこなったうえで経費精算することが重要です。
机・椅子
机・椅子・仕事部屋に設置する冷暖房設備やパーテーションなど、仕事をするスペースとしての環境整備にかかる費用も原則経費として認められます。
このような環境整備品においても、パソコン同様、経費として計上するためには、企業からの貸与品として扱う必要があります。
「貸与品」という扱いですので、自費購入による立て替えではなく、企業が購入した物を使用するというルールを設定するようにしましょう。
事務用品
事務用品には、ボールペンやコピー用紙、ファイルや封筒などがあり「消耗品」に該当するため経費精算が可能です。
消耗品に関しては「貸与」し返却を求めることが困難であるため、「支給」という扱いになります。対象となる品目についてはリスト化するなどして、ある程度限定しておくことをおすすめします。
たとえば、コロナ禍であったとしても、自宅でテレワークをする従業員にとっては、マスクは業務上必需品としては認められません。反対に、サテライトオフィスやコワーキングスペースでのテレワークであれば、マスクが必要であることは自明であるため、経費での支給が可能となります。
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通信費
通信費も、テレワークで仕事をするにあたって不可欠なネットワーク回線料金や電話料金は、経費として計上することが可能です。しかし、ネットワーク環境の整備という観点では、企業によってその品質や内容にばらつきがあるのが現状です。
すでに通信関連費用を負担している企業の多くが、企業契約のモバイル回線を利用し、貸与している社用携帯電話でテザリングするという方法で通信費用を負担しています。
ブロードバンド回線の費用に関しては、費用の一部を企業が負担しているケースがほとんどです。
ただし、ブロードバンド回線はプライベートな利用との区別を把握することが難しいため、全額企業負担で対応していることは少なく、工事費についても自己負担となるケースが目立ちます。
そのため、テレワークにかかる諸経費を毎月定額で支給する「テレワーク手当」に通信費や電話料金を含むケースも散見されます。
水道光熱費
水道光熱費についても経費として精算することが可能ですが、テレワークによって発生する水道光熱費を明確にプライベート分と分けて算出することが難しいという問題が生じます。
そのため、「一部負担」もしくは「テレワーク手当」として一括支給としているケースが大半です。
貸しオフィスの利用料
貸しオフィスの利用料にかかる経費は原則経費として計上が可能です。
ただし、これらの臨時的なオフィススペースの利用料については、どこまで経費対象とするかの判断が難しいという問題があります。理由としては、各スペースの運営会社によって料金体系が異なり、料金に含まれるサービスにばらつきがあるためです。
料金体系は主に、基本料金と施設内の設備・サービスの使用がすべて含まれたオールインワン型と、会議室利用料やカフェコーナー利用料など発生ベースで料金を請求される加算型の2パターンが存在します。
税務上は、お茶代もロッカー代もフォンブース利用料も経費として計上が可能ですが、事後精算ベースで経費精算をおこなうと、企業が負担すべき費用の適正値を定めることができなくなってしまいます。
そのため、貸しオフィスなどの利用料を経費精算する場合は、企業が負担する範囲を明確に定め、経費精算に必要な書類や申請フローの整備が大切です。
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テレワーク時の経費の処理方法
テレワーク時の経費の処理方法について、2021年1月、国税庁は、在宅勤務手当などの税務上の取扱を示した「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」を公表しています。
これは、コロナ禍で急速にテレワークの導入が広がる中、企業のテレワークを基準とした管理体制の再構築における1つの指標とするための取り組みです。
この文書の中で、テレワークによる発生が想定される費用の算出方法が定められています。
前項で触れたように、プライベートでの使用分と業務上の使用分との区分けが難しいとされる通信費や水道光熱費を按分する方法についても触れられています。
ここでは、「通信費」と「水道光熱費」の算出方法について解説していきます。
通信費
業務で使用した通信量を合理的に算出するためには、以下のような算式を用います。
1ヶ月の通信費×(在宅勤務日数÷該当月の日数)×0.5
【参考:国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」P6】
11月に10日間テレワーク勤務をして、当該月のネットワーク通信費が5,000円だった場合を例に計算すると、以下のような答えになります。
834=5000円×(10÷30)×0.5 ※1円未満切上げ
水道光熱費
水道光熱費の算出には、自宅の総床面積に対し仕事スペースが占める割合を元に実際に発生した費用を按分するという、下記のような計算式で算出します。
1ヶ月あたりの電気代×(仕事部屋床面積÷床面数)✖︎(在宅勤務数÷該当月の日数)×0.5
【引用:国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」】
上記計算式で、11月に10日間テレワーク勤務をした場合の水道光熱費の計算をすると、以下のような答えが出ます。
条件A : 自宅床面積65㎡
条件B : 使用した部屋の床面積10㎡
条件C : 電気代10,000円
257円=10,000円×(10÷65)×(10÷30)×0.5 ※1円未満切上げ
テレワーク時の経費精算の注意点
テレワーク時の経費精算の注意点があります。経費はあくまで業務を遂行するうえでの必要な費用であり、業務に必要な物は企業が購入・準備することが原則です。
多様化するテレワーク関連製品やサービスをすべて経費精算対象とすることは、経費に求められる「業務上の必要性と妥当性」を担保することから遠のいてしまいます。
際限なく経費として認めてしまうと、企業内の管理体制にも問題が生じるうえ、税務調査の対象となるリスクを高めることにもつながるため、事前のルール設定が最善のリスクヘッジといえます。
そのため、経費精算の対象となる範囲を明確に示し、どのようなフローで精算業務を進めるかまでをしっかりと就業規則に明示しておくことが重要です。
経費精算ルールの設定は、税務上の観点や会社としての方針などを総合的に勘案しながら進めなければ、現状の実態からかけ離れた、実効性に乏しいルールとなってしまいます。
そのため、テレワーク対応の経費精算ルールを新設する際は、必ず関連部署との混合チームを組み、意見交換を重ねながら進めていきましょう。
▷経費精算はテレワークでも効率化可能!よくある問題と解決策を紹介
在宅勤務費用が経費精算されない場合の対処法
在宅勤務費用が経費精算されない場合の対処法について説明します。テレワークによって発生した費用に関して経費精算が認められない場合であっても、確定申告で控除を受けられる可能性があります。
それを「特定支出控除」といいます。
特定支出控除は、特定支出の額の合計額が給与所得控除額の2分の1(最高 125 万円)を超える場合、その超える部分について、確定申告を通じて給与所得の金額の計算上控除することができる制度です。
【引用:国税局「~給与所得者の特定支出控除について~〔平成 25 年分の所得税から適用〕」】
特定支出とされる対象費用は、研修費や資格取得費用、転居費などさまざまですが、テレワークに必要な費用としては、「勤務必要経費」に該当すると考えられます。
勤務必要経費に該当する費用の品目や詳細が不明であるため、テレワークの際にかかった費用も対象となる可能性は大きいのです。
特定支出控除の対象額は、以下の表を元に算出した給与所得控除額の半額にあたる金額が基準となって決定されます。
給与等の収入額 | 給与所得控除 |
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,000円〜1,800,000円 | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円〜3,600,000円 | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円〜6,600,000円 | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円〜8,500,000円 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
【引用:国税庁「No.1410 給与所得控除」】
たとえば、年収500万円の人なら給与所得控除が144万円なので、その半額の72万円以上テレワークによる費用が発生していなければ、特定支出控除の対象外となります。
テレワークの費用だけで年間72万円支出するというのも現実的ではないうえ、申告する費用がテレワークに必要な費用であることを、給与支払者に証明してもらわなければなりません。
このようなプロセスを経て、確定申告時には勤務先からの証明書と費用の明細書、各商品の領収書を添付して提出します。
これらの提出物をクリアしなければ控除を受けることができないため、申告前に一度勤務先に相談してみると、社内制度や自治体の助成金などで補助を受けられるようになるかもしれません。
経費精算を正しく理解しテレワーク環境を整えよう
テレワークは、ワークライフバランスの実現のために有効な働き方であり、企業は今後も積極的にテレワークの導入と環境整備を進めていかなければなりません。
従業員が快適な環境での仕事が可能となれば、業務効率や生産性の向上も期待できるでしょう。
ただし、そのような環境整備のためには、さまざまな備品が必要です。
経費精算対象となる基準を明確化したうえで社内ルールをしっかりと整備し、従業員にとっても企業にとってもポジティブな影響が及ぶよう、テレワーク推進に取り組んでいきましょう。
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