管理監督者とは?役割や業務内容・管理者との違いをわかりやすく解説
企業の経営方針決定など、重要な役割を担う管理監督者。一般従業員とは労務管理も異なります。そのため、現在の勤務状況が管理監督者に該当するのか否か、疑問に感じている人もいるのではないでしょうか。本記事では、管理監督者についての理解が深まるように、その役割、管理者との違いも含めて解説します。
監修者
八木 香苗
ウッドエイト社会保険労務士事務所 代表
公認会計士事務所、税理士事務所での長年にわたる税務・財務戦略支援の経験を活かし、全員経営で利益体質の強い組織作りに力を入れた、経営目標作成支援、風土醸成型就業規則作成、人事制度構築、各種研修、採用定着支援等を行う。
東洋哲学をベースに、長寿企業の暗黙知として承継されるノウハウを体系的に就業規則の形に纏める100年就業規則の作成をライフワークとする。
著書:IPOの労務監査標準手順書(共著)
DVD:世界が驚く!100年企業の人材育成プログラム
公式サイト:ウッドエイト社会保険労務士事務所
目次
管理監督者とは?
管理監督者とは、労働基準法第41条2号には「監督もしくは管理の地位にある者」と定義されています。また、厚生労働省の資料では、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日の規定に制約を受けない従業員」と説明されています。
参考:厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」
管理職との違い
労働基準法に「管理の地位にある者」と記載されているため、部長や店長など管理職に就いている人が管理監督者であると、誤解されがちです。
しかし、管理監督者に該当するのは、労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者であり、部長、店長などの役職や肩書きとは関係がありません。そもそも役職は、企業それぞれの基準で設定した立場です。
経営者と同じ立場にある管理職であれば管理監督者といえますが、管理職イコール管理監督者ではないことを、おさえておきましょう。
参考:日本労働組合総連合会「労働基準法の「管理監督者」とは?」
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管理監督者の役割・業務内容
では管理監督者は、具体的にどのような役割、業務を担当するのでしょうか。主なものとして、次の2点が挙げられます。
- 経営方針や重要事項の決定
- 労働者に対する指揮監督
経営方針や重要事項の決定
管理監督者の役割のひとつは、経営者と一体的な立場で経営に参画することです。具体的な関わり方は企業によって異なりますが、例えば経営会議への参加、経営方針に関わる予算や人事への発言および判断など一定の権限を委ねられています。管理監督者は、経営に関するあらゆる重要事項の決定に関与すると言い換えてもよいでしょう。
労働者の経営上の管理・監督
管理監督者は、労働者の採用や解雇、昇給や昇格など、経営に関わる人事の管理や監督も任されています。例えば、単に採用面接に単に立ち会うだけでなく採否を判断したり、解雇か雇用継続かの意見を述べたりするといったことも、そのひとつ。もちろん、その分の責任も生じます。
管理監督者と判断するための基準
では、何をもって管理監督差と判断するのか、もう少し具体的に掘り下げてみましょう。基準としては、以下4点が挙げられます。
- 経営に関わる重要な職務内容を有していること
- 重要な責任、権限を有していること
- 労働時間等の制約がないこと
- 賃金が相応の待遇になっていること
経営に関わる重要な職務内容を有していること
判断基準のひとつは、経営者と同等の職務を担っているかどうかです。例えば経営方針や予算の決定、人事に関する判断など経営に関わる重要事項は、本来であれば経営者の職務です。この職務に、経営者と同じように全面的に関わっているのであれば、管理監督者といってよいでしょう。
重要な責任、権限を有していること
経営者が判断、決定をするような重要な責任、権限を委ねられている場合も、管理監督責任者と判断できます。例えば、「従業員の賃金や配置を決める」「採用の合否を判断する」「予算管理を一任されている」といったことが挙げられます。
労働時間等の制約がないこと
管理監督者は、経営上の要請があった場合、労働時間に関係なく対応しなければなりません。そのため、労働基準法で規定された労働時間や休憩、休日に関する制約を受けず、自分の裁量で勤務時間や休みを決めて働くことができます。
このような働き方をしているかどうかも、管理監督者であるか否かを判断する要素です。
賃金が相応の待遇になっていること
経営者と同等の立場にある管理監督者は、非常に重要な職務に就いているといえます。一方で、労働基準法の制約を受けないため、残業代の支給がなく、給与面では一般労働者よりも不利になる可能性が否定できません。
定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があります。
労基法上の管理監督者に該当するか否かにおいて、裁判では、①経営者と一体的な立場にあるといえるほど重要な権限と責任のある職務に従事していたか、②出退勤について厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量権を有していたか、③地位に相応しい処遇を受けていたか等を考慮要素として判断しています。裁判例の一貫した傾向として、管理監督者は労基法の定める例外であることを正面から捉え、過度に広範に認めることには否定的であることが分かります。
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管理監督者と一般従業員との共通点
では、管理監督者と一般従業員に共通点はないのでしょうか。じつは次のような共通点があります。
- 深夜労働に対しては割増賃金が支払われる
- 年次有給休暇が与えられる
深夜労働に対しては割増賃金が支払われる
労働時間を拘束されない管理監督者は、基本的に残業代が支給されません。しかし、22時から5時(ケースによっては23時から6時)までの深夜労働に対しては、一般従業員と同様に、通常の2割5分以上の率で割増賃金が支払われます。
[参考:e-Gov 労働基準法 第三十七条]
年次有給休暇が与えられる
管理監督者に年次有給休暇が与えられる点も、一般従業員との共通点です。雇入れの日から6ヶ月間、継続的に勤務し、出勤日数が8割を超える場合、継続もしくは分割した10日間の有給休暇が与えられます。
また、2019年4月、労働基準法が改正され、年間10日以上の有給休暇が与えられる従業員(管理監督者を含む)に、年間5日の時季指定有給休暇を取得させることが、すべての企業に義務づけられました。この改正も、一般労働者同様、管理監督者に適用されます。
[参考:e-Gov 労働基準法 第三十九条]
参考:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得」
管理監督者と一般従業員との相違点
管理監督者と一般従業員に共通点はあるものの、次のようにさまざまな違いもあります。
- 残業代が支払われない
- 法定休日、休憩の適用がない
- 休日手当が支払われない
- 労働者代表になれない
- 36協定の対象外
残業代が支払われない
一般労働者に対しては、労働基準法第37条において、所定労働時間を超えた労働に対して割増賃金を支払うことが義務づけられています。いわゆる残業代の支給です。しかしこの規定は、所定労働時間の定めがない管理監督者には適用されません。
ただし、管理監督者に対して残業代を支払うことを禁じているわけではなく、企業によっては管理監督者に対して残業代を支払うケースもあります。
法定休日・休憩の適用がない
法定休日と休憩に関しては、労働基準法第34条と35条に以下のような定めがあります。
- 週に1日、もしくは4週間に4日以上の休日を与えること
- 労働時間が1日6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えること
一般労働者には適用されるこの規定は管理監督者には適用されないため、管理監督者には法定休日も休憩もありません。この点も、一般労働者との違いです。
[参考:e-Gov 労働基準法 第三十四条]
[参考:e-Gov 労働基準法 第三十五条]
休日手当が支払われない
管理監督者は、所定労働時間の枠にとらわれず業務を行います。そのため法定休日がなく、一般従業員が休日出勤した場合に支払われる休日手当も支払われません。ただし、管理監督者に対する休日手当の有無は、企業の判断に委ねられています。そのため、すべての管理監督者に支払われないというわけではありません。
労働者代表になれない
会社に労働組合がない場合、従業員の意見をまとめたり会社に提言したりする「労働者代表」が、従業員の過半数で選出されます。
しかし、労働者代表になるには「管理監督者でないこと」という条件があるため、管理監督者にあたる従業員は、労働者代表にはなれません。この点も、管理監督者と一般従業員の違いです。
36協定の対象外
36協定の対象外であることも、一般労働者とは異なる点です。
36協定は、正式には「時間外労働・休日労働に関する協定」といい、法で定められた労働時間を超えた労働や休日出勤を要求する場合に締結しなければならない協定です。しかし、管理監督者には、労働時間や休日に関する規定がないため、対象外となります。
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管理監督者に対する労務管理のポイント
管理監督者は、経営に関わる重要性の高い業務を担っています。部下である従業員の管理や監督もそのひとつ。例えば複数人の部下に残業を依頼した場合、ひとりが仕事を終えて退社しても、残っている部下がいれば帰るわけにはいきません。
休日出勤も同様です。休日の規定がない管理監督者ですが、部下の休日出勤に同行しなければならないこともあるでしょう。
このような点から、管理監督者は長時間労働に陥りやすい傾向にあるため、労働安全衛生法などに則り、管理監督者の健康と安全を確保、管理することが大切です。
また、2019年4月の労働基準法改正では、管理監督者の労働時間を適切に把握することが義務づけられました。出勤簿やタイムカードで正確な労働時間を記録し、3年間は保存することとなっています。
労働時間や休日が法で定められていない管理監督者だからこそ、企業が配慮して労務管理をする必要があるということです。
参考:厚生労働省「【労務】2019年4月から管理監督者の労働時間の把握が義務化されます」
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管理監督者を置く際の注意点
社内に管理監督者を置く際に注意したいことを2点、確認しておきましょう。
管理監督者の定義を就業規則に記載する
前述したとおり、管理監督者の定義は、労働基準法に記載されています。しかし、具体的なことにまで踏み込んだ内容ではありません。そのため、人によって解釈や考え方にズレが生じがちです。管理監督者と企業で、認識が異なり、トラブルに発展した事例もあります。
そのような食い違いを避けるためにも、自社における管理監督者の定義や待遇について、就業規則に明記することが大切です。
例えば、法律上は残業代の支払いはしなくてもよいとされていますが、一定の労働時間を超えた場合には残業代を支払うといったことが考えられます。また、「部長以上は管理監督者とする」など、管理監督者の職位を明らかにしておくことも方法のひとつです。
管理監督者としての職責を果たしていない場合の対処法を定める
管理監督者は、重要性の高い業務を担う反面、労働時間、休憩、休日に関する定めがないため、「出勤日数が少なすぎる」「休憩が長い」などの理由で、管理監督者としての職責を果たさないケースがあります。
また、「ノーワークノーペイの原則」といって「労働していない従業員に対して賃金を支払う義務はない」という概念もあります。管理監督者も例外ではありません。
管理監督者が自らの職責を果たさないと、業務に支障が生じるだけでなく、ほかの従業員が不満を感じたり、モチベーションの低下を招いたりする恐れがあります。そういった状況に備え、管理監督者が職責を果たしていないときの対処法まで定めておくとよいでしょう。例えば、減給や解雇などの対処法が考えられます。
上場審査では、申請会社における労働基準法上の管理監督者の範囲の基準について、参考にした通達や裁判等における基準と照らして会社が妥当と判断した理由を問われることが考えられます。「会社で決めた管理監督者の範囲」が会社独自のルールで定義して運用され、指針や裁判例等の基準に依拠するものでない場合には、当該管理監督者に対する割増賃金の未払い問題が浮上するおそれがあります。
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適切な労務管理のために管理監督者の定義を明確にしよう
管理監督者とは、労働基準法の定めにとらわれず、重要性の高い職務を担う従業員のことです。経営者と同等の権限や責任を持ち、相応の待遇を受けることができます。ただし、管理職が管理監督者というわけではないので、その点は注意が必要です。適切な労務管理を行うためにも、自社における管理監督者の定義や待遇を明確にしておいてください。
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業務が自然条件に影響される農業や水産業の労働者が労働時間規制の適用外となるように、管理監督者も職務の性質上、早朝や深夜、休日でも必要に応じて活動しなければなりません。これにより賃金等の待遇は優遇される一方、労働時間について使用者から拘束を受けず、自己の裁量で出退社を決めるため、労基法上の保護に値せず、労基法41条により労働時間等に関する規定の適用除外とされていると思われます。