発達指向型組織とは?目的や組織の特徴・3つの発達段階について解説
社会情勢や労働環境の変化によって、企業は多種多様な組織形態を取り入れるようになりました。なかでも、成人発達理論の原則に沿う形で運営されている組織が「発達指向型組織」です。当記事では、発達指向型組織とはどのような組織形態なのか、その目的や特徴について解説します。
・発達指向型組織では、新たなスキルの習得・自己実現を図ることで組織の柔軟性や競争力が高まる
・発達指向型組織には3つの核となる知性(マインド)がある
目次
発達指向型組織とは?
発達指向型組織(Deliberately Developmental Organization)とは、ロバート・キーガン氏とリサ・ラスコウ・レイヒー氏が提唱した成人発達理論に根差した文化を持つ組織を指します。発達指向型組織では、従業員が新しいスキルを習得し、自己実現を図ることで、組織の柔軟性や競争力が高まるとされています。
従業員のモチベーション向上や人材育成に焦点を当てることで持続可能な成長を目指すのが、この組織形態の核心です。また、従業員が主体的に学び、成長する文化が醸成されることで、組織全体のイノベーションや適応能力が向上します。
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発達指向型組織のベースとなる成人発達理論とは
成人発達理論は、成人期の学習と成長の過程を探究して導き出された理論です。この理論は、人が経験を通じてどのように成長し、発達するかを明らかにしています。
ここでは、発達指向型組織の核となる3つの知性(マインド)をご紹介します。
環境順応型知性(ソーシャライズド・マインド)
環境順応型知性(ソーシャライズド・マインド)とは、周囲の人々や環境に適応し、協力する能力を指します。つまり、他人の意見や社会的規範を重視し、それに応じて行動を調整するのです。
この知性を持つ人は、周囲と良好な関係を築き、共通の目標を達成するために貢献する傾向があります。チームワークやコミュニケーション能力が重要とされる現代のビジネス環境においては、このような適応力や協調性は非常に高く評価されるでしょう。組織内での協力的な姿勢は、全体の成果に寄与し、効率的な運営を促進します。
自己主導性知性(セルフオーサリング・マインド)
自己主導性知性(セルフオーサリング・マインド)は、個人が自らの信念や価値観を基に決断し、行動する能力を指します。社会的影響や外部の意見に左右されず、自己の内面的な基準や目標に基づいて選択を行うと考えるとわかりやすいでしょう。
このような人は、自信を持って自分の道を歩み、困難に直面しても自らの判断で解決策を見つけ出すことができます。ビジネスの世界では、この自己主導性はイノベーションやリーダーシップを発揮するために不可欠であり、組織の成長に大きく貢献するとされています。自己主導性を持つ従業員は、組織に新たな視点をもたらし、変化を積極的に推進する力を持っているのです。
自己変容型知性(セルフトランスフォーミング・マインド)
自己変容型知性(セルフトランスフォーミング・マインド)は、常に変化、または進化する自己の認識を受け入れる能力を指します。この知性を持つ人々は、自己の信念や価値観を柔軟に見直し、多様な視点を受け入れることができます。そのため、固定的な枠組みにとらわれず、状況に応じて考え方や行動を変化させていけるのです。
このような柔軟性は、特に不確実性が高いビジネス環境において価値があり、組織やチーム内での新しいアイデアの生成や問題解決に寄与します。自己変容型知性を持つ人は、変化を恐れず、組織の進化と成長を促進する重要な役割を果たすでしょう。
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発達指向型組織に注目が集まる理由
ここからは、現代において、なぜ発達指向型組織に注目が集まっているのかを説明していきます。
変化が激しいVUCA時代に突入したため
現代は、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑さ(Complexity)、曖昧さ(Ambiguity)が特徴から「VUCA時代」と呼ばれ、日常的に急速な変化を繰り返しています。このような時代においては、新しい状況に迅速に適応し、未知の課題に対応できる能力が極めて重要になります。
発達指向型組織は、従業員の学習能力と柔軟性を育てることに重点を置くため、変化に富んだVUCAの環境に最適です。従業員が持続的に成長し、新しい技能を習得することで、組織は未来に生じ得る不確実な環境に対応しやすくなります。こうした組織は、変化を恐れずに新しい挑戦を受け入れ、長期的な成功を目指すことができるのです。
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少子高齢化が進んでいるため
少子高齢化によって働き手が減少している現代では、各従業員の能力を最大限に活用することが必須です。発達指向型組織ならば、従業員一人ひとりの成長とスキルアップを促進し、この課題に対応することができます。
具体的には、経験豊富なベテランが若手に知識を伝え、若手が新しいアイデアや技術を導入することで、世代間のバランスを保ちながら組織全体の能力を高めていけるでしょう。少子高齢化社会においては、各従業員のポテンシャルを引き出し、多様な世代が協力することが不可欠です。
発達指向型組織の特徴
発達指向型組織には、ホーム・エッジ・グループの3つの考え方があります。ここからは、それぞれの考え方について紹介していきます。
発達を後押しする「ホーム」
発達指向型組織には、「ホーム」という重要な概念があります。これは、従業員が安心して学び、成長できる環境を意味します。この環境では、従業員は新しいスキルを学ぶ機会を豊富に提供され、失敗を恐れずに挑戦することが奨励されます。
組織は、個々の従業員が自らの可能性を最大限に引き出せるよう支援し、成長のためのリソースを割いたり、指導を提供したりします。この「ホーム」の文化があることで、従業員は自己実現を追求することができ、結果として組織全体も発展していくのです。
発達を強く欲求する「エッジ」
発達指向型組織における「エッジ」とは、従業員が自己成長と組織の進化の2つを強く求める精神状態を指します。従業員が自らのキャリアと能力の向上に積極的に取り組むために、この「エッジ」は欠かせない考え方です。
個人が新しい挑戦を受け入れ、限界を超えて成長しようとするこの姿勢は、組織全体の革新と発展になくてはならないものです。従業員が自己の可能性を追求し、常に成長を目指すことで、組織はより競争力を高めることができます。従業員は自分自身の発展と同時に、組織の成功にも貢献していくものなのです。
発達を実現するための「グルーヴ」
「グルーヴ」とは、発達指向型組織において、個人の成長をサポートする流れやリズムを指します。この概念は、従業員が自らのスキルやキャリアを順調に発展させるための組織的な支援にも当てはまります。つまり組織は、適切なトレーニング、メンタリング、そしてキャリア開発の機会を提供することで、「グルーヴ」をつくり出すのです。
「グルーヴ」の考えに基づく環境では、従業員は自己の目標に向かってスムーズに進むことができ、その過程で組織の目標達成にも寄与します。組織全体の協力とサポートによって、個々の従業員は自分自身を発達させることができるのです。
発達指向型組織を導入するメリット
ここからは、発達指向型組織を導入するメリットについて紹介していきます。
余分な労力を削減できる
発達指向型組織ならば、従業員の能力を最大限に活用することで、無駄な労力の削減が可能です。従業員が自身のスキルと知識を高めることで業務の効率化が進むため、時間やリソースの無駄遣いが減少するのです。
また、それぞれの従業員が問題に対して改善策を提案する能力を身に付けることによって、組織全体の業務プロセスがスムーズになります。このように、従業員の成長が直接的に業務効率の向上につながり、余分な労力やコストを削減できるのです。
組織を通して成長できる
発達指向型組織では、従業員は自身の能力とキャリアを積極的に発展させることができます。このような組織文化においては、個人の成長と組織の目標が密接に結びついており、従業員は自己の成長を通じて組織全体の発展に貢献します。
また、個々のスキルアップは組織の効率性と革新性を高めるための鍵であり、従業員は自らの仕事を通じて新たな知見や経験を積むことができます。組織全体が成長を支え合う環境であるからこそ、従業員は自らのポテンシャルを最大限に発揮し、組織の成功に寄与するのです。
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従業員に心理的な報酬をもたらす
発達指向型組織では、従業員が自己実現と成長を達成することで、心理的な報酬を得ることができます。この組織形態においては、個々のスキルアップやキャリア発展が重視されるため、従業員は自らの努力が認められることや、価値ある成果を出すことに喜びを感じるようになるでしょう。
また、個人の成功が組織全体の成長に直接寄与することを実感することで、従業員は自身の役割に満足を感じ、自信を深めます。このような心理的報酬は、モチベーションの向上や職場での幸福感につながり、結果として組織の生産性や従業員からの信頼を高める効果があります。
発達指向型組織を実現させる手段とは?
発達指向型組織を実現するには、従業員の成長を支援する具体的な方法が必要です。ここでは2つの方法をご紹介します。
客観性のある公平な人事評価を導入する
発達指向型組織で重要なのは、客観的で公平な人事評価システムの導入です。つまり、従業員の成果や貢献を正確に評価し、それらに基づいて適切な報酬や昇進を行うのです。公平な評価は従業員に対して明確な目標と成長の方向性を示し、モチベーションを高める効果があります。
また、個々の能力や努力が正当に評価されれば、従業員は自身のキャリアを積極的に築くようになります。公平な評価システムには、従業員の成長を促進し、組織全体の生産性を向上させる効果があるのです。
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書籍や講座で関連する情報を集める
発達指向型組織を実現するためには、書籍や講座から関連知識を積極的に学ぶことが重要です。最新のビジネス書籍や専門の研修講座を通じて、組織開発や人材育成に関する理論や実践方法を理解するようにしましょう。
このような学習は、従業員個々のスキル向上だけでなく、組織全体の成長戦略を考えるうえでも重要です。また、最新の情報やトレンドを把握することで、ビジネス環境の変化に柔軟に対応し、組織の競争力を維持することもできるでしょう。知識の習得と共有は、発達指向型組織の基盤を強化する重要なステップなのです。
発達指向型組織は変化の激しい時代に対応できる組織構造の1つ
発達指向型の組織形態では、従業員の個人的な成長と組織の目標が密接に結びつくことから、従業員が自己のスキルを向上させ、新しい挑戦に積極的に取り組むことで、組織全体がより柔軟で革新的なものになっていきます。
また、従業員のモチベーションと満足度を高く保つことで、組織の生産性が高まり、長期的な成功にもつながっていくのです。発達指向型組織は、変化の激しい現代において、従業員と組織が共に成長し、新たな課題に対応する力を持つ組織構造の1つとして今後もますます注目される組織のあり方となるでしょう。
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