日本で人手不足が深刻化しているのはなぜ?現状と原因・対策を紹介
日本国内において年々深刻化を増す「人手不足」。とくに中小企業を中心に人手不足が進んでいると考えられています。本記事では、日本における人手不足の現状と原因をはじめ、解消するための対策もあわせて紹介します。
目次
日本における人手不足の現状
日本における人手不足は深刻化し、さまざまな業界で対策が講じられています。2020年以降は新型コロナウイルス感染症の拡大により、人手不足の割合は一時的に下降していました。しかし、2022年の後半以降に行動制限が緩和されるのに伴い、再び人手不足が大きな社会問題となっています。
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)」によると、2023年4月時点で人手不足と感じる企業の割合は、正社員で51.4%、非正社員で30.7%といずれも高水準をキープしています。
[出典:株式会社帝国データバンク「特別企画: 人手不足に対する企業の動向調査(2023 年 4 月)」]
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人手不足が深刻化している業界
人手不足がとくに深刻化している業界は次の通りです。
建設・製造業界
建設業や自動車などの製造業は、肉体労働がきつく危険性があるというイメージを若年層に持たれています。また、残業が多く給与が低いという労働条件も敬遠される理由のひとつです。
現在建設業界で働く労働者の高齢化も進んでいるため、今後はさらに人手不足が深刻化すると予想されます。
医療・介護業界
高齢化が進み介護需要が拡大していることもあり、介護業界は慢性的に人手不足の状況です。医療業界については、コロナ禍の影響もあり人材供給が追いついていません。
どちらの業界も人手不足が慢性化しているため、従事者の負担が重くなり、さらなる離職を招く悪循環に陥っているのが現状です。
飲食業界
非正規雇用が多い飲食業界では、一時的な仕事と捉えて働く人が多いため、離職率が高く人手不足が常態化しているようです。
また、高いレベルの接客を求められるのに対し、報酬が低いことなども人手不足が深刻化する原因だと考えられます。
運送・流通業界
近年、ECサイトなどでの買い物やフリマアプリの普及が拡大したことから、物流業界の需要が増加しています。
しかし、ドライバーの高齢化は進み、人材不足が進む一方です。今後人手不足が解消されなければ、これまでと同様のサービスの質を保つことは難しくなるでしょう。
IT業界
近年急成長を遂げているIT業界では、人材育成が追いつかずエンジニアなどの人材が不足しています。高度な技術が求められる分野になるほど、人手不足が顕著になっているようです。
今後もIT人材の需要は高まることが予想されるため、さらに人手不足の状態が続くとみられています。
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日本における人手不足の原因
日本における人手不足の原因は、どのような理由が考えられるのでしょうか。少子高齢化が進み、働き手の数が減っていることは容易に想像がつきますが、それだけが原因ではありません。ここからは、日本における人手不足をもたらしている4つの原因について解説します。
少子化・高齢化が影響しているため
日本では少子化と高齢化が急速に進行し、総人口は2008年の1億2,806万人をピークに減少を続けています。人口が減少していく中でも、75歳以上の数は一定数を保っていて、15〜64歳の生産年齢人口の数は大幅に減少しています。
日本の生産年齢人口のピークは1995年の8,716万人であり、2021年には7,450万人となりました。この傾向は今後も進んでいくと考えられているため、人手不足はますます深刻化していくでしょう。
[出典:厚生労働省「人口減少の見通しとその影響」]
雇用のミスマッチが起っているため
雇用のミスマッチとは、企業のニーズと求職者のニーズが合っていない状態のことです。たとえば、建設業や介護業では人手不足が進む一方で、事務職や清掃などにおいては人手が余っています。
これは、求職者が求める労働条件での求人が不足していることや、企業が求める能力や資格を持つ人材が足りていないというのが原因です。
給与を上げたり、肉体労働や残業を減らすなど、労働条件を改善すれば人手不足の解消はできると考えられますが、企業にとっては難しい問題といえるでしょう。
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人材獲得競争が高まっているため
有効求人倍率とは、ハローワークにおける求職者数に対してどの程度求人があるかを示す指標のことです。「有効求人倍率=求人数/求職者数」という式で計算されます。
有効求人倍率が1よりも大きい場合には、求人のほうが多く人手不足状態であると言えます。反対に1よりも小さければ、求職者のほうが多く、人手が余っている状態ということです。
有効求人倍率は、近年高い水準を維持していて、求職者数よりも求人数が大幅に上回っています。企業による人材獲得競争が高まっている状況といえるでしょう。
都心部へ人口が流出しているため
日本全体が人口減少している中でも、地方と都市では状況が異なります。三代都市圏などの都心部への移住者が多いために、地方での人口減少は顕著です。とくに東京へは、年間10万人以上もの人が地方から移住してきています。
地方企業の求人は多くあるのにもかかわらず、若年層の都心部への流出は止まりません。その結果、都心部と比較して地方の人手不足の深刻化が進んでいるのが現状です。
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人手不足による企業への影響
ここでは、人手不足が企業に与える影響について解説します。
労働環境の悪化につながる
本来であればもっと多くの従業員に働いてもらいたいのにもかかわらず、人手不足のために限られた人員で業務をこなさなければならなくなります。
一人ひとりの業務負担は大きくなり、残業時間の増加にもつながるでしょう。また、休暇日数も減少してしまいます。
人手不足の状態が続けば労働環境は悪化し、従業員のモチベーション低下にもつながります。その結果、ますます人材の集まりにくい職場になってしまうという悪循環に陥る可能性もあるでしょう。
業績不振のリスクがある
人手不足の中で経営を続けていくと、生産性や提供するサービスの品質が低下することがあります。その結果、売り上げの減少や業績不振につながることも考えられるでしょう。
また、優秀な人材を教育し、新商品や新サービスの開発を行うなどの展開も難しくなります。このような状態が続けば、事業縮小や倒産などの可能性も出てきます。
人手不足を解消するための対策
人手不足の状態を放置しておいても、企業経営にメリットはありません。ここでは、人手不足を解消するための対策を紹介します。
労働条件・労働環境を見直す
労働条件・労働環境を見直すとは、以下のようなことを指します。
働き方を見直す
これからの時代は時短勤務やテレワーク、フレックスタイム制など、多様な働き方を認めていくことが求められます。また、有給休暇の取得のしやすさも重要となるでしょう。産休・育休についても、男女ともに取得しやすいよう整備しておく必要があります。
職場環境を改善する
人手不足解消には、職場を快適な状態に保つことも重要です。空調や照明の改善、休憩室を設置するなど、従業員が過ごしやすい環境を整えましょう。また、健康診断やストレスチェックなどを定期的に行い、従業員の健康管理を行う必要もあります。
労働条件を改善する
賃金の引き上げや福利厚生の充実など、従業員が働きがいを感じられるような労働条件にしていきましょう。また、従業員の定着率を高めるには長時間労働の改善やハラスメント対策なども重要な課題です。
副業を許可する
これまで禁止されることの多かった副業を認めることで、人材の確保・定着を図ります。副業をすることによって、本業で活かせるスキルを習得できる可能性もあるため、企業にとってプラスに働くこともあるでしょう。
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女性・高齢者・外国人が働きやすい環境を整える
女性や高齢者、外国人など新たな働き手に目を向けることも有効です。このような人材が働きやすい環境を整えるためには、正社員やフルタイム勤務以外の雇用を積極的に取り入れることが求められます。
また、仕事をしながら育児・介護にも携われるような勤務体制の整備も必要となるでしょう。テレワークを導入することによって、柔軟な働き方が可能になり、多様な人材が活躍できる場が広がります。
外国人を雇う場合は、文化の違いについても理解しておくことが重要です。日本のような察する文化がない国も多いため、伝えたいことは言葉で説明するということを社員に周知しておく必要もあるでしょう。
多様な人材を雇用することで、人手不足の解消だけでなく、企業のイメージアップにもつながります。また、外国人の雇用により訪日外国人への多言語対応が可能になったり、海外とのビジネスチャンスを広げられる点もメリットです。
業務にIT・AIを取り入れる
在庫管理や発注、問い合わせへのチャットボット対応など、業務にITやAIの技術を取り入れるのも重要です。省力化して業務を効率化できる部分にITやAIを活用することで、人手不足の解消につながります。
ITやAIの技術を取り入れることで、業務の正確性が向上したり、現場に人がいなくても作業ができるというメリットもあります。
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アウトソーシングを利用する
アウトソーシングとは、業務の一部を外部に委託・発注することです。アウトソーシングしやすい業務は、事務や受付、コールセンターなどさまざまなものがあります。
人手不足のため社内の人材で業務を回せない場合にも、アウトソーシングを活用することによって生産性を向上させられます。また、委託先は、それぞれの分野に特化していることが多いため、専門的知見を活用して、業務の質を高めることも期待できるでしょう。
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ブランディングを強化する
ブランディングとは、マーケティング戦略の一つであり、企業の価値向上や差別化を目指してブランドを作る取り組みのことです。
ブランディングを強化すると、企業イメージが改善し、価値が向上します。これまで肉体労働、長時間労働、低賃金などのマイナスイメージが浸透してしまっている業界においても、前向きな印象を与えられるでしょう。
もちろん、イメージだけではなく、実際に労働環境の改善を進めていかなければなりません。
M&Aを実施する
M&Aとは「企業の合併と買収」のことであり、複数の企業が1つになったり、他の会社を買収したりすることを指します。
M&Aによって、これまで個別であった複数の企業内の人材を活用できるようになります。買い手側であれば、買い取った企業の人材を配置転換によって業務に割り当てることも可能です。
また、売った側であれば、買い手側企業から人材を補充することもできるでしょう。結果として、人手不足の解消につながります。
最適な対策を実施し人手不足を解消しよう
日本では、今後も人手不足が深刻化することが予想されます。人手不足は少子高齢化とも密接に関係しているため、簡単に解決できる問題ではありません。ただし、業務にITを取り入れて効率化したり、アウトソーシングを活用するなどの対策を行うことで、人手不足を解消することは可能です。
まずは、労働環境・条件の見直しを行うなど、できるところからはじめてみましょう。
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