ガバナンスとは?意味や企業事例・強化するための具体的な施策を簡単解説
企業の発展に必要な「ガバナンス」。企業の不祥事が相次いだ社会背景をきっかけに注目され、取り組みを強化する企業が増えたガバナンスとはどのような意味を持つのでしょうか。本記事では、ガバナンスの意味やコンプライアンスとの違いを、ガバナンスを強化するための施策等とあわせて解説します。
目次
ガバナンスの意味とは
ガバナンス(governance)は、「支配」「統治」「管理」などを意味する言葉です。ビジネスシーンにおいては「コーポレートガバナンス」とも表現され、「企業が健全な経営を行うために管理・監督する仕組み」と定義されます。
企業におけるガバナンスは、2000年代ごろから普及しました。バブル崩壊後、企業による不正や不祥事が多発したことにより、経営体制の監督強化が叫ばれるようになったためです。
ガバナンスは、企業が健全に発展するために不可欠な要素です。企業のガバナンスは、従業員だけでなく、ステークホルダーとの信頼関係にも影響を与えます。近年は、投資家や株主も企業のガバナンス体制を重要視しており、ガバナンスの強化に注目が集められています。
上場企業が守るべきガバナンス・コードとは
ガバナンスコードとは、上場企業においてコーポレートガバナンスを実現するための指針を示したものです。企業の持続的な発展を目的に、株式会社東京証券取引所と金融庁によって取りまとめられています。
ガバナンスコードにおいて、コーポレートガバナンスは以下のように定義されています。
「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」
[引用:株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」]
ガバナンスコードは2015年に設定された後、定期的に改訂が行われています。2021年に改訂されたガバナンスコードでは、以下の5つの基本原則が定められています。
1.株式の権利・平等性の確保
2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働
3.適切な情報開示と透明性の確保
4.取締役会等の責務
5.株主との対話
[引用:株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」]
ガバナンスコードには法的拘束力はありません。しかし、違反した場合は東京証券取引所による公表措置の対象となります。社会的信用の失墜にもつながるため、企業はガバナンスコードの遵守が求められます。
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ガバナンスに似た言葉との違い
ガバナンスと混同しやすい言葉として以下の4つがあります。
- コンプライアンス
- 内部監査
- リスクマネジメント
- ガバメント
それぞれの意味を解説するので、違いをしっかり理解しましょう。
コンプライアンス
コンプライアンス(compliance)は、「法令遵守」を意味する言葉です。ビジネスシーンにおいては、法令に限らず、社会的規範や倫理観、企業理念などを遵守しながら業務を行うことを指します。
たとえば、横領やデータ改ざんなどの不正行為、ハラスメント、情報漏えいなどはコンプライアンス違反に該当します。コンプライアンス違反は、ステークホルダーからの信頼喪失や、社会的イメージの失墜につながるため、ガバナンスと同様に重要視されています。
では、コンプライアンスとガバナンスの違いは何かというと、コンプライアンスが「企業が守るべきルール」を指すのに対し、ガバナンスは「ルールを守るための管理体制」を指します。すなわち、ガバナンスはコンプライアンス強化のための仕組みと言えるのです。
内部監査
内部監査とは、企業の経営体制について監督・検査することを指します。不正防止や業務改善、企業目標の達成が目的であり、社内の独立した部門によって客観的に評価されます。
内部監査では、会計や業務状況のほか、ガバナンスやリスクマネジメントの有効性なども評価します。ガバナンスをはじめとする社内体制が適切かどうかを監査するのが内部監査であり、ガバナンスを正常に機能させるための仕組みと言えるでしょう。
リスクマネジメント
リスクマネジメントとは、企業が直面し得るリスクに対して事前に対策をし、損害を最小限に抑えるための管理プロセスです。リスクマネジメントの例としては、情報漏えいリスクの管理、コンプライアンス違反の管理、災害リスクの管理などがあります。不確実性が高く予測が難しい現代において、企業が長く存続するために、リスクマネジメントの重要性が増しています。
リスクマネジメントは、リスクの管理や分析、対策など、リスク管理における一連のプロセスを指します。対してガバナンスは、管理するための仕組みであり、リスクマネジメントとは意味が異なります。
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ガバメント
ガバメント(government)とは、「政治」「政府」を意味する言葉です。
ガバメントもガバナンスも、「統治する」を意味する「govern」から派生した言葉ですが、意味や使用方法はまったく異なります。
ガバナンスは主に企業や組織に対して、ガバメントは国家に対して使用されることが多い用語です。
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ガバナンスが機能している場合のメリット
ガバナンスが機能している企業では、以下の3つのメリットが得られます。
- 企業の価値が向上する
- 企業の持続的成長と競争力強化が期待できる
- 企業内の不正防止につながる
それぞれ詳しく説明します。
企業の価値が向上する
ガバナンスが機能していることで、企業価値の向上が期待できます。その理由は、ガバナンスが適切に機能していると、透明性のある健全な経営が行われている企業であると評価されるためです。社内だけでなく、株主や取引先などのステークホルダー、求職者などからのイメージアップにもつながるでしょう。
企業の価値が向上することで、社会的な信頼度も向上します。それにともない、金融機関からの融資が受けやすくなったり、人材確保がしやすくなったりするというメリットが期待できます。
企業の持続的成長と競争力強化が期待できる
企業の持続的な成長と競争力の強化も期待できるでしょう。ガバナンスの強化は、不適切な会計処理や品質管理、労働環境などの改善につながります。その結果、生産性や社員のエンゲージメント、サービスの品質などが向上するため、企業の中長期的な成長が期待できるのです。
健全な企業経営を行うことは、対外的な信頼獲得にも大きな影響を与えます。不正がなく透明性の高い企業は、中長期的な成長が見込まれるため、株主や投資家からも評価を得やすい傾向にあります。外部からの信頼が得られると資金調達もしやすくなり、さらに事業を成長させることができます。
企業内の不正防止につながる
ガバナンスの強化は企業内の不正防止につながり、健全な企業経営が実現します。
健全な企業経営とは、不正や不祥事がなく、公平かつ透明性の高い経営状態のことです。監視体制が整えられていなければ、隠ぺいや改ざん、情報漏えい、横領などの不祥事が発生しやすく、問題の発見も遅れてしまうでしょう。
そこでガバナンスを強化することで、不正を防ぐことができ、透明性の高い経営を行うことができます。
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ガバナンスが機能していない場合のリスク
ガバナンスが機能していない企業では、以下の2つのリスクが生じる可能性があります。
- 社会的な信用を失う可能性がある
- 企業のグローバル化が遅れる
ガバナンスが機能していないことは、企業の存続や成長の妨げとなる可能性があります。それぞれのリスクを詳しく解説します。
社会的な信用を失う可能性がある
ガバナンスが適切に機能していないと、社会的な信用を失う可能性が高まります。なぜなら、監視・管理体制が不十分であると、経営陣や社員による不正や不祥事が発生しやすくなるためです。さらに問題を発見できないと事態はさらに深刻化し、顧客やステークホルダーからの信頼を喪失してしまいます。
不正を未然に防ぎ、問題が発生した際に迅速な対応をするためにも、ガバナンスの強化が大切です。
企業のグローバル化が遅れる
近年は企業の海外進出が拡大していますが、ガバナンスが機能していなければ、企業のグローバル化が遅れるリスクがあります。
社内で統制が取られていないと、透明性のある経営ができないだけでなく、業務の効率化が進まない、スピーディーな意思決定ができないなどの弊害も生じます。そのため、世界規模で社会が急速に変化するなか、柔軟な対応ができずに、市場競争に勝てなくなるのです。
また海外進出をすると、異なる文化や価値観を持つ従業員やクライアントなどとの調整が必要になりますが、それらにも対応ができずに経営が悪化する恐れがあります。
コーポレートガバナンスを強化するための具体的な施策
コーポレートガバナンスを強化するためにはどうしたらよいのでしょうか。具体的に取るべき4つの施策を詳しく見ていきましょう。
内部統制を構築・強化する
コーポレートガバナンスを強化するために、内部統制を構築・強化しましょう。
内部統制とは、企業の目標を達成するために、仕組みやルールを整備・運用することを意味します。まずは組織の現状や課題を分析し、自社に求められるルールの策定や、管理体制の見直しを行います。
監査体制を整備する
監査とは、社内における経営状況を監督・検査することです。第三者の目線から客観的に組織の状況を評価してもらうことで、問題の早期発見や不正の防止が期待できます。
監査体制の整備方法としては、社内で内部監査部門を設置する方法があります。新たに内部監査を設置する際には、評価項目の策定や人選、監査実施計画の立案などを行いましょう。このとき、監査担当者は監査対象部署以外の人材にするなどし、公平に監査できる体制を整えます。
また社内だけでなく、社外取締役を設置するなど、外部からの監査体制を整えることも有効です。
コンプライアンスを遵守する
対外的・対内的ルールであるコンプライアンスを従業員に遵守させましょう。
コンプライアンスを遵守させるためには、社内の仕組み作りが必要です。行動規範の策定や監査部門の設定などを行い、コンプライアンスを遵守しやすい環境を整えます。
また、社員教育や外部研修による意識改革も効果的でしょう。社員一人ひとりのコンプライアンス意識を高めることが、ガバナンスの強化につながります。
コーポレートガバナンスを社内に浸透させる
コーポレートガバナンスが構築できても、社内に浸透しなければ意味がありません。従業員がコーポレートガバナンスを体現できるようになるまで、しっかりと浸透させる必要があります。
コーポレートガバナンスを浸透させるためには、従業員に対して行動指針を明確に示すことが有効です。意思決定を行う際の基準を共有し、最適な行動が取れるようにしましょう。
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ガバナンスを強化した企業の事例
最後に、ガバナンスを強化した企業の成功事例を3つ紹介します。取り組み内容や効果などを解説するので、ぜひ参考にしてください。
大和ハウス工業株式会社
大和ハウス工業株式会社は2019年、「大和ハウスグループ ガバナンス強化策」を公表し、取り組みを行っています。
同社はガバナンス強化に向け、以下の4つの基本方針を定め、経営体制の再整備や体制の見直しを行いました。
- 経営体制及び管理・監督のあり方の再検討
- 業務執行の機動性及びリスク対応体制の強化
- リスク情報の収集と共有の強化
- 持続性・実効性を支える環境の強化
具体的な施策として、社外取締役比率を3分の1以上に変更、業務執行体制の再編成、内部通報の外部窓口設置などがあります。体制の再構築で経営の透明性を図り、またリスク対策を強化することで、持続可能な組織を築いています。
[出典:大和ハウス工業株式会社「『大和ハウスグループ ガバナンス強化策』の実施状況について」]
株式会社ダイフク
株式会社ダイフクは、社長・CEOの選任・後継者計画で先進的な取り組みをしているとして、「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021」において経済産業大臣賞を受賞しました。
同社では、取締役会のうち独立社外取締役が3分の1以上を占め、経営陣の選解任や報酬審議を行う「諮問委員会」も設置。経営を客観的に評価し、透明性の高い経営を目指しています。
さらに執行役員制度の導入により意思決定の迅速化を図るほか、監査役員制度によって監査機能を強化。後継者育成にも尽力しており、中長期的な成長を実現しています。
[出典:株式会社ダイフク「コーポレートガバナンス」]
パナソニック ホールディングス株式会社
パナソニックホールディングス株式会社では、「企業は社会の公器」という基本理念の下、公正で正直な事業運営を行うことを重要視しています。
コーポレートガバナンスの強化に向けて、具体的に以下の取り組みを行っています。
- 株主の権利を尊重し、平等性を確保する。
- 従業員、顧客、取引先、地域社会などのステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果が企業の持続的な成長につながることを認識し、ステークホルダーとの適切な協働に努める。
- 会社情報を適切に開示し、企業経営の透明性を確保する。
- 取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、企業戦略等の大きな方向性を示し、適切なリスクテイクを支える環境整備を行い、独立した客観的な立場から経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行う。
- 持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、株主と建設的な対話を行う。
当社は2022年4月に事業会社制に移行したことを機に、現在のコーポレートガバナンス体制を採用しました。監査役会や内部監査部門が連携しながら、成長戦略の実現を目指しています。
[出典:パナソニックホールディングス株式会社「コーポレート・ガバナンス」]
企業の継続的な成長にはガバナンスの強化が重要
ガバナンスについて、企業の成功事例とともに紹介しました。企業の継続的な成長のためには、ガバナンスの強化が重要です。健全な企業経営に向けて、ガバナンスの必要性や構築の仕方を理解し、ガバナンスの強化に努めましょう。
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