リスクマネジメントとは?手法やリスクの種類・事例を簡単に解説

最終更新日時:2023/07/18

組織・マネジメント

リスクマネジメント

社会の急速な変化によって注目されるようになった「リスクマネジメント」。事業を行う上で自然と行われてきたものですが、なぜ今注目されているのでしょうか。本記事では、リスクマネジメントの目的や手法、事例などを紹介します。

リスクマネジメントとは?

リスクマネジメントとは、リスクを組織的に管理して損失を避ける、または低減を図る経営手法のことです。従来から企業では、リスクマネジメントを行っていました。しかし、時代の流れの変化により新たなリスクが顕在化していることもあり、近年その重要性が高まってきています。

ここでいうリスクとは、事故や災害、犯罪被害、訴訟、不祥事などさまざまです。また、最近ではコンプライアンス違反やサイバー犯罪なども含まれます。これらリスクは部門によっても捉え方が変わるため、組織として対応していくのは難しい部分もあるのが実情です。

リスクマネジメントを実施していくには、各担当者や異なる部門でリスクに対する認識を合わせて取り組むことが大切になります。

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リスクマネジメントとリスクヘッジの違い

リスクヘッジとは、今後発生する可能性のあるリスクを回避するための施策そのものを指す言葉です。一方、リスクマネジメントは、企業経営に影響を与える問題や、不祥事を起こさないために事前に対応策をマニュアル化するなど、影響を最小限に抑えることをいいます。

リスクヘッジはリスク回避の備えに利用される対策、リスクマネジメントはトラブルを起こさないための対策と管理体制を整えるものと捉えるとよいでしょう。

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リスクマネジメントと危機管理の違い

危機管理は、既に発生した問題やトラブルを悪化させないために行う対処のことです。対象となる危機は、企業経営に悪影響を及ぼす自然災害や事故、不祥事など多岐にわたります。この点については、リスクマネジメントと共通しているといえるでしょう。

危機管理は、事態が発生してからの対応策やリカバリーに焦点を当てていて、被害を最小限に抑えるための手段を講じるのが特徴です。

リスクマネジメントとクライシスマネジメントの違い

クライシスマネジメントは、「危機は必ず発生するもの」という前提に基づき、危機管理を行うことです。また、通常のリスクマネジメントでは想定できないような、深刻な状況に対応するための対策を指します。

クライシスマネジメントでは、予測困難かつ大規模な災害や緊急事態に対処するための計画や手順を策定し、それをもとに迅速かつ適切な行動を取ることが重要です。なかにはリスクマネジメントの一部という意見もありますが、より重大な事態に対応するという点が違いといえるでしょう。

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リスクマネジメントの目的

リスクマネジメントの目的は、問題が発生した際に事業の存続を図ることです。想定されるリスクやその影響を把握し、対策を講じておくことで自社の損失を最小限に抑えることができるでしょう。

また、最近ではグローバル化やSNSの台頭により、組織内で発生する問題が社会全体にも大きな影響を及ぼすという認識が広まっています。リスクマネジメントを行うことで、事業の安定性と持続可能性が向上し、企業への信頼にもつながるでしょう。

Pマーク・ISMSとは?

PマークとISMSは、情報セキュリティに関する認証制度を指します。自社がリスクマネジメントに取り組んでいることを証明するには、これらの取得が有効です。

Pマーク(プライバシーマーク)は、一般財団法人 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が運営する制度です。日本国内の規格である「JISQ15001」に適合しています。Pマークの保護対象は、個人情報のみに限定されているのが特徴です。個人情報の取り扱いが適切かを審査し、合格した場合にPマークの使用が認められます。

一方ISMS( Information Security Management System )は、企業全体の情報資産を保護対象としています。日本語では、「情報セキュリティマネジメントシステム」と呼ばれることもあるようです。世界的に通用する「国際標準規格ISO27001」に適合しているため、グローバルなビジネス展開を行う企業に向いている認証制度といえるでしょう。

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リスクマネジメントで管理するリスクの種類

リスクは大きく分けると、純粋リスクと投機的リスクの2つがあります。ここでは、それぞれについて詳しくみていきましょう。

純粋リスク

純粋リスクとは、企業に損害や損失のみをもたらすリスクのことです。主に災害や事故、情報漏えいなどが該当します。

純粋リスクの種類とそれぞれの具体例は以下の通りです。

純粋リスクの種類具体例
財産リスク地震による建物の損傷、盗難による財産の喪失
費用・利益リスク天候不良による農作物の収穫減少、売上減少、競合他社の新製品による売上低迷
人的リスク従業員の突然の退職やボイコット、重要な社員の病気や事故
賠償責任リスク不良品による顧客への補償責任、プライバシーの侵害等による顧客からの訴訟

純粋リスクでは、事態の発生を防止または抑制することが重要であり、損害を回避するための対策が求められます。純粋リスクへの対策としては、損害保険などを活用することが一般的です。

投機的リスク

投機的リスクはビジネスリスクとも呼ばれ、損失だけでなく利益を生み出す可能性も含むのが特徴です。経済や政治の変動、法的規制の変更、技術的な進歩などが投機的リスクに該当します。

投機的リスクの種類と具体例は以下の通りです。

投機的リスクの種類具体例
経済的情勢変動リスク株価の変動、為替・金利の変動
政治的情勢変動リスク戦争による流通の停滞、政権交代、政策の変更
法的規制の変更に関するリスク税制の変更、法改正、規制緩和
技術的情勢変動リスク他社製品の成長、新技術の登場、特許

投機的リスクでは、企業に損失をもたらす純粋リスクとは異なり、利益の追求に向けてリスクを取る必要があると考えられています。

投機的リスクへの対策としては、損失が発生する可能性を極力小さくするためのリスク管理や、適切な戦略の策定などが重要です。

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リスクマネジメントの具体的なプロセス・手法

リスクマネジメントを実施する際には、6つのステップを踏む必要があります。それぞれの手順を詳しくみていきましょう。

1.リスクを洗い出す

リスクを洗い出すには、利害関係者からの意見やフィードバックを収集し、組織内外の情報を分析します。過去の事例や業界のトレンドを考慮しながら、潜在的なリスクを特定しましょう。

ヒアリングなどで浮かび上がったリスクには、些細なことだと感じるものもあるかもしれません。しかし、企業にとって大きな損害を与えるケースもあるため、考えられるリスクすべてを洗い出す必要があります。そのため、リスクの洗い出しを行う際は、複数人で対応して抜け漏れがないように取り組むことが大切です。

2.リスクマネジメントの基準を定める

リスクマネジメントの基準を定めるには、洗い出されたリスクの重要度や影響度、対応策の優先順位などを明確化します。

これにより、リスクの取り扱い方針や対応策の判断基準を統一し、組織全体での一貫性を確保することが可能です。自社にとって最もリスクとなりうるものから考えて、基準を選定することが重要といえるでしょう。

3.リスクを分析する

リスク分析では、特定したリスクの発生確率や影響度を評価し、リスクの重要性を把握しましょう。リスクは、数値として表せる「定量的リスク」と数値で表すことが難しい「定性的リスク」の2つに分けられます。

定量的リスクについては、特定したリスクを発生確率と影響度に分類し、マトリックスを利用して把握するのが一般的です。定性的リスクに関しては、弁護士などの専門家の意見や統計などを用いて評価します。

4.リスクを評価する

リスクを評価する際には、まず初めに優先順位を決めることが大切です。企業にとってのリスクは数多くあるため、すべてに対応することができません。そのため、優先度の高いものから取り組んでいくのが効果的です。

評価方法は、マトリクスで分析されたリスクに対して、対応する優先順位を付けていくのが有効です。基本的には、発生確率や影響度の大きいものが優先順位が高いといえるでしょう。ただし、社内外の状況などに合わせて優先順位をつけていく必要があります。

5.リスク対策を実施する

リスク対策の実施では、特定されたリスクに対して適切な対策を計画し、実行していきましょう。リスク対策方法は大きく分けて以下の2つに分類されます。

リスクコントロール

リスクによる損失の発生頻度と大きさを抑える方法です。以下4つの対応方法が該当します。

  • 回避:リスクを伴う活動自体を取りやめる
  • 損失防止:損失の発生を未然に防ぐ
  • 損失削減:発生時の損失を最小限に抑える
  • 分離/分散:リスクの発生源が集中するのを防ぐ

リスクファイナンシング

リスクによる損失を補填するために金銭で補填する方法です。以下2つの対応方法が該当します。

  • 移転:保険などにより損害の補填を受ける
  • 許容:損失が発生した際に自社で損失を負担する

上記の中から適切な対策を選択し、具体的な内容やスケジュールを決定していきましょう。

6.リスク対策をモニタリング・評価する

実施した対策が期待通りに機能しているかを確認し、必要に応じて修正や改善を行います。モニタリングではリスクの状況や対策の進捗を定期的に監視し、変化や新たなリスクの発生を把握することが重要です。

評価では対策の有効性や費用対効果を評価し、改善の必要性を判断します。リスク対策のモニタリングと評価は定期的に行い、適切な対策の遂行と改善を促進しましょう。

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リスクマネジメントの事例

ここでは、実際に企業がリスクマネジメントを実施した事例を4つ紹介します。

【事例1.】石坂産業株式会社

石坂産業は、1999年に所沢産の農作物からダイオキシンが検出されたという報道をきっかけに、焼却処理事業から転換し、リサイクル事業に取り組みました。

その後、見学者の受け入れやISO認証の取得を通じて企業イメージ向上を図り、売上高の増加につなげています。外部認証の活用による業務改善を行い、社外からの信頼獲得と事業成果の向上を実現しています。

【事例2.】株式会社カネキ吉田商店

宮城県南三陸町で水産加工業を営む株式会社カネキ吉田商店は、東日本大震災をきっかけにリスクマネジメントを実施しました。震災が発生した3月は原料の入荷時期で、すぐに発注しなければ次シーズンまで事業を再開できない可能性があったそうです。

そのため、商社に早急に連絡を取り、3月末までには原料を確保しました。その後、生産ができなくなった工場の代替拠点をすぐに決定し、3月下旬には顧客への発送を再開しています。代替生産は約半年間続き、売上は2011年1月期の22億円には届かなかったものの、2012年1月期には14.8億円を維持することができたそうです。

【事例3.】株式会社東研サーモテック

株式会社東研サーモテックは、マレーシア進出時のアジア通貨危機と中国での受注減少という2つの想定外の苦境の経験から、リスクマネジメントを実施しました。

その後のメキシコ進出では、顧客との事前の覚書締結や、中長期的な採算性の考慮、法務リスクへの対処といった具体的な対策を行いました。さらに、欧米企業との取引で想定される法務リスクについても、事前の検討をはじめています。

【事例4.】株式会社ホスピタリティ・ワン

訪問看護サービスを提供する株式会社ホスピタリティ・ワンは、カルテなどの個人情報を取り扱っています。同社は、業界内での個人情報の誤送信事故が多発したことをきっかけに、日本情報経済社会推進協会のPーク取得を目指しました。

これにより、情報セキュリティ上のリスク評価と対策の策定、従業員への情報セキュリティ教育や意識付けにつながったそうです。Pマークを取得することで、行政担当者や患者からの信頼を得られるだけでなく、将来的なICTサービスの展開においても攻めの要素として機能できると期待されています。

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企業経営におけるリスクマネジメントの必要性を理解しよう

リスクマネジメントは、企業の経営を継続させるための重要な取り組みです。適切に運用することで、想定されるリスクを未然に防いだり、実際に起きた場合の損失を最小限にとどめることが可能になります。

今回紹介した手法や事例をもとに、自社に適したリスクマネジメントを取り入れていきましょう。

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