人事評価の不服申し立てへの対応方法|不満の原因や事例・トラブルを防止するポイント
昇進・昇給などの待遇に結びつく「人事評価」。従業員の成長を促し生産性を向上させる人事評価ですが、運用形態が不適切な場合は従業員から不服を申し立てられるリスクがあります。本記事では、人事評価の不服申し立てへの対応方法を、不満の原因などとあわせて詳しく解説します。
・人事評価の不服申し立てが起きるケースとして、評価基準が不明確、評価結果が昇進や昇給に反映されないなどがある
・不服申し立てを放置すると、従業員のモチベーション低下や離職につながるリスクがあるため、早期の対応が必要
目次
人事評価に対して不満を抱えている人は多い
人事評価とは、従業員の業績や勤務態度などを評価する取り組みです。人事評価の結果は給与や昇進に影響を与えるため、会社側は正当な評価を下す必要があります。
しかしながら、人事評価に対して不満を抱えている人は少なくありません。組織コンサルティング事業などを展開する株式会社識学が、全国の従業員400人に行った調査によると、人事評価に対して不満を感じている人の割合は44.6%でした。つまり、従業員の約半数が人事評価に満足していないことが分かります。
人事評価を不満に感じる主な理由は、以下の通りです。
- 評価基準が不明確
- 評価結果が報酬に反映されない
- 上司によって評価が左右される
- 現場を知らない上司に評価される
- 人事評価がどう活用されるのか分からない
このように、評価基準が不明瞭で従業員の不満が高い状態では、エンゲージメントの低下や離職を引き起こす可能性が高まります。
[出典:株式会社識学「人事評価の不満要因、圧倒的1位は「基準の不明確さ」
▷人事評価の不満は退職につながる!原因や退職を防ぐポイント・公平な人事評価にする方法
人事評価への不服申し立てが起きるケース
人事評価に対して不満が募ると、従業員から不服申し立てが発生する場合があります。人事評価への不服申し立ては、5つの原因から発生することが多いです。
評価基準が明確に設定されていない
人事評価の評価基準が明確に設定されていなければ、人事評価自体が従業員から信用されなくなるため、不服申し立てにつながる可能性が高いと言えます。
たとえば、仕事で成果を出したのにも関わらず評価が低く設定されていたら、自分がなぜこの評価なのかが分からず、不信感を抱くでしょう。また、仕事を改善したいと思っても、基準が分からなければ、何をどのように改善すればよいのか困惑してしまいます。
従業員が人事評価に納得できるよう、売上や販売数目標を可能な限り数値化するなどして、透明性の高い評価基準を設定しましょう。
▷人事評価制度とは?目的や導入方法・メリットとデメリットを解説
評価結果が昇進・昇給に反映されない
人事評価は、従業員の給与や等級などの待遇を決定するために行われるものであり、一般的には高評価が昇進や昇給へとつながります。
しかし、どれだけ高い評価を得ても給与が低いままであったり、昇進に反映されなかったりしては、人事評価が意味をなしていません。成果に対して正当な報酬がなければ、従業員のモチベーションも低下してしまうでしょう。
形だけの人事評価にならないよう、人事評価の目的を再確認する必要があります。
評価に関する説明・フィードバックがない
評価についての説明やフィードバックがないことも、従業員が不満を抱く要因の一つです。特に、評価結果が低かった場合、何が原因で低評価に至ったのかが不明瞭であれば、従業員は納得がいかないまま仕事に取り組むことになります。
また、たとえ高評価を受けたとしても、評価内容に対するフィードバックがなければ、従業員は次回の評価に向けて仕事をどのように改善したらよいかが分かりません。評価者は従業員に評価を下して終わりではなく、従業員に対してその後のフォローをすることも会社側の大切な務めです。対策としては、低評価の従業員に限らず、すべての従業員に対して説明やフィードバックの時間を設けることなどが挙げられます。
評価者によって評価基準に差が出る
評価者によって評価基準に差が生じてしまうようでは、公平な評価とは言えません。
もちろん、評価者も人間であるため、評価基準のブレをまったく生じさせないことは難しいものです。しかし、客観的な成果を無視し、先入観や一時の感情に任せた評価をすることは、評価者として不適切と言わざるをえないでしょう。同時に、評価指標が実態とかけ離れている場合にも不満が高まります。
評価者に対する教育や適切な評価基準の設定などによって、評価者によって評価基準に差が生じないように、人事制度の責任者は常に工夫をする必要があります。
法令に違反した評価が含まれている
評価基準が法令に違反している場合にも、不服申し立てが起きる可能性が高いでしょう。
法令に違反する評価基準の例は、以下の通りです。
- 性別を理由に評価を分ける(男女雇用機会均等法第六条)
- 国籍や身分を理由に低い評価を付ける(労働基準法第三条)
- 育児休業を取得したことなどを理由に不当な評価を付ける(育児・介護休業法第十条)
そのほかにも、飲み会や社内イベントなど、業務外の付き合いを評価に反映させることも不当な扱いとされています。業務と関係のない事項を評価基準に組み込んでないかを今一度確認し、従業員に対して不当な扱いをすることのないよう気を付けましょう。
人事評価に対する不満を放置した場合のリスク
人事評価に対して従業員が不満を抱いているのにも関わらず、対処しないまま放置しておくと、企業側は次のリスクを負う可能性が高まります。
- 従業員のモチベーションが下がる
- 離職率が高くなる
なぜ上記のリスクが高まるか、理由を説明します。
従業員のモチベーションが下がる
従業員が「会社が正当な人事評価をしてくれない」と感じると、仕事に対するモチベーションが下がることは自然な成り行きだと考えられます。
どんなに成果を出しても評価されなかったり、業務とは関係のない要因で不当な評価をされたりしては、真面目に仕事をする意味を感じられなくなってしまいます。そして「評価されないなら必要以上に頑張らなくてもいいや」と意欲が失われ、それにともない生産性も低下してしまうでしょう。
従業員のモチベーションや生産性が低下すると、当然ながら会社全体としての生産性も低下します。不当な人事評価は、水面下で従業員だけでなく会社側へも大きなデメリットを与えています。
離職率が高くなる
会社の人事評価に納得できず、改善される見込みがないことが分かると、離職を選ぶ従業員も出てくるでしょう。
特に、優秀な人材ほど、公正な評価を求める傾向があります。同じ仕事をするならば、自分の努力や成果を評価してくれる会社のほうが、やりがいを持って働けると考えるのは当然でしょう。不当な評価が改善されなければ、その会社で働く意義を感じられず、より良い待遇を求めて離職を決断してしまいます。
従業員の離職率が高まり人材流出が進むと、やがて組織は弱体化します。組織力を高めるためにも、働く従業員の声を聞き、改善に努めることが大切です。
▷人事評価に納得できないと言われたらどうすべき?不満を抱える原因や制度を見直すポイント
人事評価に対する不満が不服申し立てに発展した事例
過去の事例として、人事評価に対する不満から不服申し立てに発展したケースがいくつかあります。そのなかから、2つ事例を紹介します。
育休後の降格・減給が違法とされた「A社」
A社で働いていた従業員Cは、育児休業から復帰後に時短勤務を希望したことで担当業務が変更され、役割グレードが引き下げられました。さらに、グレードの引き下げにともなう役割報酬の減額、および成果報酬がゼロであると査定されたことに対し、人事権の濫用として不服を申し立てました。
これに対して裁判所の判断では、業務変更にともなう役割グレードの変更や役割報酬の減額は人事権の濫用に当たらないとしました。ただし、成果報酬ゼロ査定に関しては、年俸査定期間の業績を考慮していないことから違法であるとし、慰謝料等35万円の支払いをA社に命じました。
評価者の裁量権の逸脱による不当評価「B社」
B社で業務課主任として働いていた従業員Dは、勤務中に経営陣を批判したことで上司から叱責を受けたものの、謝罪を拒否していました。その結果、監督職から一般職への大幅な降格と、昇給査定が4年にわたって最低ランクに位置づけられ、賞与も減額となり、従業員Dは、降格処分と昇給差別は違法であるとして不服を申し立てました。
裁判所の判断では、降格に関しては会社に裁量があるとして違法性はないとされました。しかし、降給と賞与の減額に関して、当事件と関係ない評定期間における査定は違法性があると認めました。
このように、会社側は正当な理由をもって人事評価を行ったと考えていたとしても、適応範囲や期間が適切でないと判断される場合があります。裁判所への不服申し立てに発展しないよう、会社側は慎重に人事評価をしなければなりません。
人事評価に対する不服申し立てへの対応方法
従業員から人事評価に対する不服申し立てが起きた際、会社側は迅速に対処しなければなりません。
人事評価に対する不服申し立てへの対応方法は、主に以下の3つです。
- 従業員と評価者から話を聞く
- 「個別労働紛争解決のあっせん」を受ける
- 弁護士に相談する
それぞれの方法を詳しく説明します。
従業員と評価者から話を聞く
人事評価の実情を把握するために、従業員と評価者双方の話を十分に聞きましょう。なぜ不満を感じているのか、なぜその評価を下したのか、を具体的に把握することで、評価の正当性を客観的に判断するのに役立ちます。
もし、評価者が不当な評価をしていた場合には、会社側の非を認めて早急に改善しなければなりません。従業員が不当な評価であったことを納得できるよう、なにがどう問題であったかを詳しく説明しましょう。
「個別労働紛争解決のあっせん」を受ける
「個別労働紛争解決のあっせん」とは、従業員と事業主との間で労働条件に関わるトラブルが発生した際、労働問題の専門家が双方の間に入り、トラブルの解決を図る制度です。厚生労働省によって提供されるサービスであり、各地域の総合労働相談コーナーにて、無料で相談できます。
あっせんの申請は、従業員と事業主のどちらからでも行えます。賃金や解雇、パワハラなど、さまざまな分野の労働問題において、当事者間の解決が難しい際に利用可能です。
弁護士に相談する
話し合いによる人事評価制度の改善や、個別労働紛争解決のあっせんを受けても問題が解決しない場合には、裁判に発展する可能性があります。その際は弁護士に相談し、対応を考えなければなりません。
裁判にて会社に非があると判断された場合には、損害賠償請求などが発生するのに加え、会社のイメージダウンにもつながるでしょう。トラブルの深刻化を防ぐためには、問題が発生する前に、評価の正当性について弁護士などの第三者から意見を聞いておくことをおすすめします。
人事評価トラブルを防止する方法
従業員と会社間の人事評価トラブルを回避するためには、事前に対策をすることが大切です。人事評価トラブルを未然に防止する方法は、以下の7つです。
それぞれのポイントを解説します。
人事評価の基準・制度を見直す
まずは、自社の人事評価の基準や制度を改めて見直しましょう。
人事評価の評価基準は以下の3つに分けられます。
業績評価 | 一定期間内における個人やチームの業績を評価 |
能力評価 | 従業員個人のスキルや能力を評価 |
情意評価 | 勤務態度や業務への意欲、努力の過程を評価 |
評価項目ごとに、A・B・Cなどの評価を下す場合には、評価基準は評価者に任せるのではなく、会社側で各ランクにおける基準を明確に示しておきましょう。評価のプロセスや正当性を明示できるようにすることが大切です。
情意評価は数値化しづらい項目ではありますが、定性的な評価基準を設けることで従業員の努力を評価でき、モチベーションの向上などにつながります。
▷人事評価制度の作り方|作る際のポイントや手順、成功・失敗事例を解説
人事評価制度の目的・基準を周知する
人事評価制度の目的や基準は、評価担当者だけでなく従業員にもしっかり周知しましょう。
評価基準が不透明だと、従業員は自分への評価の正当性を理解できず、評価担当者と従業員の理解に相違があるとトラブルにも発展しやすくなります。また、目的が曖昧のままに評価を行うと、評価が昇進や昇給に反映されず、従業員の不満が高まってしまいます。したがって、人事評価を形骸化させないためにも、目的や基準を明確化することが重要です。
社内の全員で人事評価についての概要を共有したうえで、透明性の高い人事評価を実行しましょう。
人事評価について弁護士に相談する
会社が設置した評価基準が法律に違反していないか、従業員に不当な評価基準ではないかを確かめる際には、弁護士に相談することをおすすめします。
従業員の処遇に対する規則は、労働基準法などで既にある程度定められています。知らないうちに法律違反をしている場合もあるため、法律の専門家である弁護士からのアドバイスを受けることで、評価制度を改善できるでしょう。
ただし、弁護士に依頼すると依頼費用が発生します。しかし、不服申し立てから裁判に発展した場合には、さらに多額の費用がかかるものです。未然にトラブルを防ぐためにも、事前に弁護士と相談しながら評価制度を整備しておきましょう。
評価者の評価スキルを向上させる
公正な評価を行うためには、評価者の評価スキルを高めることも大切です。評価基準に基づいた客観的な評価ができるよう、評価者に対して指導や研修の機会を設けましょう。
社内の評価基準や評価方法だけでなく、評価エラーが発生することでどのようなリスクがあるのかを十分理解してもらう必要があります。社内での教育が難しい場合には、外部研修を活用してもよいでしょう。
同時に、評価者が主観で評価することによる評価エラーを発生させないために、会社側でも仕組み作りをしなくてはなりません。評価基準を明確化する、定量的な数値で判断するなどの工夫が必要です。
▷人事評価エラーとは?種類や及ぼす影響・対策方法をわかりやすく解説
日頃から積極的にコミュニケーションを取る
評価者と従業員の間で普段からコミュニケーションが取れていないことは、人事評価トラブルの要因の一つになりえます。
たとえば、業務中にほとんどやり取りをしたことのない上司から低い評価を付けられたら「本当に自分のことを分かっているのだろうか」と従業員は不信感を抱くでしょう。また、正当な評価であったとしても、納得を得づらくなります。
評価を理解してもらいトラブルを防ぐためには、評価者と従業員が日頃からコミュニケーションを取って信頼関係を築くことが大切です。
フィードバックを充実させる
従業員に対して「Cランク」などの評価結果しか伝えていない場合は、フィードバックの充実化を意識しましょう。
評価結果だけでは、なぜそのランクを付けられたのかが分からず、従業員は不満を抱きやすくなります。しかし、評価に至った経緯や理由を丁寧に伝えると同時に、ランクアップに向けて改善点のアドバイスを交えれば、評価内容を前向きに捉えてもらえるでしょう。
人事評価のプロセスを第三者がチェックする
人事評価を現場の評価担当者に丸投げにせず、適切な評価が行われているかどうかを、人事部門などの第三者が確認しましょう。
確認内容は、評価の経緯や理由が適切か、従業員に対して適切なフィードバックが行われているかなどです。もし、不適切な人事評価が行われていると判断した場合は、評価者に対して指導を行う必要があります。
人事評価を適切に行い不服申し立てを防ごう
本記事では、人事評価の不服申し立てが発生する原因や対策について解説しました。一般的に、人事評価に対して不満を抱いている従業員は少なくありません。そして、従業員に対する不当な人事評価は、不服申し立てに限らず、従業員のモチベーション低下や離職を引き起こすリスクがあります。自社の人事評価制度を再確認し、適切な人事評価を実行しましょう。
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