人事考課とは?意味や目的・人事評価との違い、導入方法をわかりやすく解説

最終更新日時:2024/02/26

人事評価システム

人事考課とは

社員の成績・能力を査定する「人事考課」。変化の著しい現代社会において、モチベーションを高く維持し、業務に取り組むためにも、公平かつ公正な人事考課が必要です。本記事では、人事考課の意味や目的、人事評価との違いや導入方法などをわかりやすく解説します。

この記事の要約

・人事考課とは社員の業務成績やスキル、勤務態度などを総合的に評価し、昇進や給与などを決定する制度
・人事考課には、「業績考課」「能力考課」「情意考課」などの基準がある

人事考課の意味とは?

人事考課とは、社員一人ひとりの業務成績や能力、態度などを評価し、その結果をもとに昇進や給与、研修の必要性などを決定する制度のことです。

人事考課は、社員が自己のキャリアプランを考え、スキルアップを図るうえでの指針となります。また、組織全体の人材配置や、育成計画を効果的に進めるための重要な手段としても活用されています。

頻度としては、1年に1回や四半期・半期に1回など、企業ごとに定めて定期的に行うことが特徴です。人事考課は、公平かつ客観的な基準に基づいて行われることが重要であり、その過程で社員とのコミュニケーションを深められるメリットもあります。

人事考課と人事評価の違いとは?

人事考課と人事評価は、どちらも社員を評価する制度という点では大きな違いはありません。

しかし、一般的に人事考課は、主に社員の過去の業績や行動、態度などを評価し、「給与や昇進」などの判断基準となることが特徴です。人事評価は、社員が将来どのように成長し、組織に貢献できるかを評価して、「育成・能力開発」を行う際の判断基準となります。

人事考課の歴史

人事考課は、どのような歴史を辿って変遷してきたのでしょうか。ここからは、人事考課の歴史を詳しく解説します。

〜1980年代

1980年代までの人事評価や人事考課は、主に上司による一方的な評価が中心でした。この時期の人事考課は、主観的な観点から評価されることが多く、定量的な指標や客観的な評価基準の導入は限られており、業績との連動性も低いことが特徴です。

また、基本的には年功序列制で給与や役職が決まっていたため、社員のモチベーション低下や不公平感を招くことも少なくありませんでした。そこで、1960年代後半頃に能力や実績によって決定される「職能給」が導入され、1970〜1980年代には個人の能力に基づいた人事評価がトレンドとなりました。

1990年代〜2000年代

バブル崩壊後の1990年代から2000年代にかけて、人事考課制度は大きな転換期を迎えました。これまで一般的だった年功序列は、人件費の高騰や人材獲得競争が始まったことから維持が難しくなったため、個人の仕事の成果を評価する「成果主義」が取り入れられるようになったのです。

成果が重視されることで社員間の競争が生まれ、生産性の向上や人材育成が加速しました。しかし、成果主義は職場環境の悪化や社員のストレス増加など、さまざまな弊害がありました。

そこで、2000年代には目標管理(MBO:Management by Objectives)の考え方が普及し、社員と上司が共同で目標を設定し、その達成度を評価する方法が広まったのです。また、360度評価など、複数の評価者による評価を取り入れることで、客観性と多角的な視点からの評価ができるようになりました。

2010年〜

2010年以降、多くの企業が人事評価制度の改定を行い、新たな人事評価制度を模索しているといえます。

特に近年では、社員のエンゲージメントやワークライフバランスの重視が増加しています。継続的なフィードバックやキャリアプランのサポート、社員の幸福度を考慮したアプローチが取り入れられるようになりました。

また、ITツールの進化により人事業務も効率化され、リアルタイムでのパフォーマンス追跡やデータ駆動型の評価が可能になり、社員と管理者の間のコミュニケーションもより効果的になっています。

人事考課を導入する目的

ここからは、人事考課を導入する目的を3つ紹介します。

公平かつ公正な評価や待遇決定を行うため

人事考課を導入する最大の目的の一つは、すべての社員に対して公平かつ公正な評価と待遇決定を保証することです。社員の業務成績や能力、貢献度を客観的かつ一貫した基準で評価し、それに応じた報酬や昇進を決定します。

透明性の高い評価基準によって、社員自身が評価結果に納得しやすく、不公平感を減少させる効果があります。また、正当な評価を受けることで社員のモチベーションを高めて、組織全体の生産性向上にもつなげることが可能です。

企業目標・ビジョンを共有するため

人事考課を導入するもう一つの重要な目的は、企業の目標やビジョンを組織全体に共有し、浸透させることです。

企業理念やビジョンに基づいた評価基準を設けて、組織の目標達成に向けた個人の貢献度や行動を評価することで、社員は自身の仕事が企業の大きな目標にどのように寄与しているかを理解できます。これにより、社員の目標意識が高まり、企業のビジョンに対する共感とエンゲージメントを深めることが可能です。

結果として、組織全体が一丸となって目標達成を目指す文化が育まれます。

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組織全体を活性化させるため

人事考課の導入によるもう一つの目的は、組織全体の活性化です。

人事考課を通じて、社員の潜在能力を発掘し、適切な位置づけや育成を行うことで、各個人の能力を最大限に引き出すことが可能になります。また、公正な評価体系は社員間の正の競争を促し、組織内での刺激となるのです。

さらに、定期的なフィードバックにより社員は自身の成長を実感しやすくなり、これがモチベーションの向上につながります。結果として、組織全体の活性化とともに、持続可能な成長を支える基盤が築かれます。

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人事考課の評価項目・基準

人事考課では、社員の業績、能力、態度など多岐にわたる項目を基準に評価します。ここからは、人事考課の評価項目・基準を詳しく解説します。

業績考課

業績考課とは、社員が達成した成果や業務の成績を評価する方法です。具体的には、設定された目標達成度やプロジェクトの成功度、売上高、生産性の向上など、数値で測定可能な成果を中心に評価します。

業績考課は、目標に対する個人の貢献度を明確にし、組織の目標達成に向けたモチベーションを高める効果があります。また、社員は自身の成果が直接的に認められることから、公平性を感じやすくなるでしょう。

能力考課

能力考課は、社員が持つ専門知識やスキル、問題解決能力、コミュニケーション能力など、職務遂行に必要な能力を評価する方法です。単に業務の結果だけではなく、その達成のためにどのようなスキルや知識が活用されたか、また仕事に取り組む態度や協調性も重視されます。

能力考課を通じて、社員の個々の強みや改善が必要な領域を特定し、それに基づいた研修やキャリア開発の機会を提供することも可能です。

情意考課

情意考課は、社員の仕事に対する態度やモチベーション、チームワークやリーダーシップといった対人関係スキルを評価する方法です。具体的には、同僚や顧客との関係構築、職場での積極性や責任感、倫理観や職業倫理の持ち方などが評価の対象となります。

情意考課は、組織内の良好な人間関係の構築や、ポジティブな職場環境をつくるための重要な指標となります。この考課を通じて、社員は自己の対人スキルや態度に対するフィードバックを得ることができ、個人の成長につながるのです。

人事考課のメリット

人事考課は、社員と企業の成長を促進する有効なツールです。適切に実施された場合、多くのメリットをもたらします。ここからは、人事考課の大きなメリットを2つ紹介します。

社員・企業の相互理解を深められる

人事考課を実施することで、社員と企業の間での相互理解が深まります。人事考課を通じて、社員は自分の仕事が組織の目標にどのように貢献しているかを理解し、一方で企業も社員の期待やキャリア目標についてより深く知ることが可能です。

定期的なフィードバックと目標設定のセッションによって、社員は自分の強みと改善点を認識し、企業は適切な人材配置や研修の機会を設けられます。このように、相互理解の促進は、より良いコミュニケーションと信頼関係の構築に寄与します。

モチベーション・エンゲージメントが向上する

人事考課は、社員のモチベーションと組織や仕事に対するエンゲージメントを高める効果があります。個人の成果に対する正当な評価は、社員が自分の仕事に対してより責任を持ち、達成感を感じることを可能にします。

また、個々の成長とキャリアプランへの支援を通じて、社員は自分が企業にとって価値ある貢献をしていると認識し、これが職場での積極的な態度と高いエンゲージメントに繋がるのです。さらに、公平で透明な評価プロセスは公平感をもたらし、社員の満足度と忠誠心を向上させます。

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人事考課のデメリット

人事考課には、いくつかのデメリットも存在します。ここからは、人事考課のデメリットを2つ紹介します。

費用・時間がかかる

人事考課の実施は、費用と時間を要する点がデメリットです。人事考課に用いるシステムの設計、評価者の訓練、実施とフィードバックのプロセス、そしてその結果の分析と改善策の実行には、多くのリソースが必要です。特に中小企業やリソースが限られている組織では、このコストが負担となることがあります。

さらに、時間がかかるプロセスは日常業務に影響を与えることもあり、結果的に組織の生産性に悪影響を及ぼす可能性もあります。このように、効果的な人事考課を実施するためには、コストと時間のバランスを適切に管理する必要があるのです。

柔軟な人材開発ができなくなる

人事考課の枠組みが厳格すぎると、個々の社員の特性やニーズに合わせた柔軟な人材開発が難しくなることがあります。一律の基準や評価項目に基づいた考課では、社員の多様性や個性を十分に考慮できないことがあり、結果的に社員が持つ潜在能力や創造性を引き出す機会を逃してしまうことがあるのです。

また、革新や変化に対応するための柔軟性が失われ、組織としての成長機会を制限してしまう恐れもあります。このような事態を避けるためには、型にはまりすぎた評価基準を設けないように工夫しましょう。

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人事考課を実施する際の流れ

人事考課の流れを理解することで、より効果的な人材管理が可能になります。

ここからは、人事考課を実施する際の流れを詳しく解説します。

評価基準の設定

評価基準を設定する際には、業務の性質、組織の目標、社員のキャリアパスを総合的に考慮する必要があります。具体的で公平かつ達成可能な基準を設定することが重要であり、その基準が明確でなければ、評価の信頼性や受け入れが得られません。

評価者の主観によって評価にムラが生じないように、客観的に判断できる基準を設けることが大切です。具体的な評価項目は、企業理念や経営戦略などに基づいて設定するとよいでしょう。

また、業務成績だけでなく、能力、態度、チームへの貢献度など、多面的な観点から構成することも意識しましょう。

目標設定

目標設定では、社員と上司が共同で行うことが望ましいです。SMART(具体的、測定可能、達成可能、関連性、時間的に限定された)原則に基づいた目標を設定し、個人の成長と組織の目標の双方が達成できるようにしましょう。

具体的には、業務成績など可視化できる目標(定量評価)と、業務知識やスキル、チームワークなどの可視化できない目標(定性評価)に分けて設定するのがおすすめです。目標設定は、社員が自身のキャリア目標について積極的に考え、それを組織の目標と整合させるためのプロセスとなります。

自己評価

自己評価は、社員が自身の業績、成果、改善点を振り返る機会となります。自己評価を通じて、社員は自身の強みと弱みを客観的に分析することが可能です。

評価者の評価と自己評価に大きな差が生じないように、あらかじめ評価シートを作成して活用するとよいでしょう。評価の大きなズレによるモチベーション低下を防ぎ、より正確な評価が行えるようになります。

評価者による評価

評価者による評価では、設定された評価基準と目標に基づき、社員の業績を公正に評価します。評価者は、あらかじめ定めた公平な評価基準によって評価を行い、主観的な意見が評価に影響を与えないように注意しなければなりません。

また、評価は社員の成長を促進するためのものである点を念頭に置き、建設的なフィードバックを行うことが重要です。

フィードバック

フィードバックは、人事考課の中でも重要なプロセスです。ここでは、評価の結果を社員に伝え、具体的な改善点やより成長するために伸ばせる点を伝えます。

フィードバックは対話の形式で行い、社員が自身の評価について理解し、質問や疑問をその場で評価者に尋ねられるようにしましょう。また、悪い点だけではなく良い点も伝えて、社員のモチベーションを低下させないように工夫することも大切です。

フィードバックを通じて、社員と評価者間の信頼関係を深め、継続的な成長を促します。

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人事考課に役立つ評価手法

人事考課には、社員のパフォーマンスを評価し、組織の成長を促進するためのさまざまな手法が存在します。

ここからは、人事考課に役立つ評価手法を4つ紹介します。

コンピテンシー評価

コンピテンシー評価は、社員の行動特性をもとに評価を行う方法です。社内でパフォーマンスが高い社員が持つ知識、スキル、態度などの能力をモデル化して評価基準を定めます。

コンピテンシー評価を活用することで、成果が高い人が行う行動特性に沿って評価・分析が行えるため、より効率的な人材育成が可能です。また評価基準がより具体的になるため、評価者の主観によって評価にブレが生じず、一貫性を持って評価できます。

バリュー評価

バリュー評価は、社員が企業の価値観や文化をどの程度体現しているかを評価する手法です。企業の核となる価値観に基づき、社員の行動や態度を評価します。

この評価が人事考課に役立つ理由は、単に業績の数値だけではなく、組織として大切にしている価値を実践しているかを重視することで、組織文化の強化と社員のエンゲージメントの向上を図れる点にあります。

また、企業が理想とする行動規範や人物像が具体的に共有できるため、社員の意識や団結力を高められる点もメリットです。

目標管理制度(MBO)

目標管理制度(MBO)は、社員と上司が共同で具体的な目標を設定し、達成までを管理する手法です。明確な目標設定と定期的なフィードバックを通じて、社員の自律性を高められます。

また、達成すべき目標や期限などが明確になるため、人事考課における評価の客観性と公平性も高められる点がメリットです。

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360度評価

360度評価は、上司、同僚、部下などからフィードバックを収集することで、社員のパフォーマンスを多角的に評価する手法です。

この評価が人事考課に役立つ理由は、一人の社員に対する多様な視点からのフィードバックを得ることで、よりバランスの取れた評価が可能になり、自己認識の向上とパフォーマンスの改善に役立つためです。評価者による一方的な評価にはならないため、公平さや客観性が保てます。

新評価制度「ノーレイティング」へ移行する企業が増加?

近年、従来の人事考課制度からランク付けを行わない「ノーレイティング」への移行を選択する企業が増加しています。

ノーレイティングでは、数値やランクなどで社員を評価せず、上司と部下で1on1ミーティングなどを行い、フィードバックや目標設定をもとに評価を行います。社員間の競争よりも協力を促し、よりポジティブな職場環境を生み出すことが可能です。

しかし、上司による主観的な評価になってしまう恐れもある点に注意しなければなりません。従来の人事考課制度であれば、公平な評価が実現できる点が大きなメリットです。

人事考課は今でも多くの企業で、公平な評価制度かつ人材の持つ能力を最大限に高められる手法として取り入れられています。

人事考課によって社員の能力を最大限に引き上げよう

人事考課は、社員の能力を見極め、それを最大限に引き上げるための重要なプロセスです。公平で透明性のある評価基準の設定、目標の共有、定期的なフィードバックを通じて、社員一人ひとりの成長を促すことが可能です。

公平な評価は社員のモチベーション向上にもつながり、企業全体の生産性向上に貢献します。変化するビジネス環境の中で、社員の能力を伸ばし、企業の目標達成を目指すためには、人事考課の効果的な運用が成功の鍵となります。

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