地方自治体におけるRPAの導入状況|具体的な事例や導入に失敗しないためのポイント
政府が生産性向上のために導入を支援しているRPA。企業もRPAの導入を急いでいる昨今ですが、地方自治体のRPA導入状況は一体どのようになっているのでしょうか。本記事では、そんな地方自治体でのRPAの導入状況について、活用事例や注意点など詳しく解説していきます。
目次
地方自治体のRPAの導入状況
2021年度における地方自治体のRPA導入状況は、都道府県で91%、指定都市で95%と高水準です。しかし、その他の市区町村は29%と都道府県や指定都市よりも大きく導入率が低いことがわかります。
しかし、導入予定や導入検討中の市区町村を含めると約62%で、半数以上がRPAの導入を検討している状況です。このことから、多くの地方自治体はRPAの導入に前向きなことがわかります。
参照元:総務省「自治体におけるAI・RPAの活用促進」
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地方自治体がRPAを活用するメリット
地方自治体がRPAを活用するメリットは、主に以下の4つです。
- 業務効率の向上
- 人的ミスの防止
- 人手不足の解消
- 住民の満足度向上
それぞれ具体的に解説します。
業務効率の向上
RPAは人間よりも早いスピードで業務処理を行えるため、業務効率の向上が図れます。特にRPAは定型業務や単純作業が得意です。
また、完全に自動化できない業務も一部自動化するなどすれば、生産性の向上が期待できるでしょう。職員は、空いた時間を活用しコア業務に注力したり残業時間を削減したりと、RPAは少ない人員で業務を回せ業務効率の向上が見込まれる点がメリットです。
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人的ミスの防止
RPAは事前に設定した作業手順通りに動作するので人的ミスの防止につながります。ヒューマンエラーが起こらないため、一定の品質で確実に作業を行なってくれます。
地方自治体の場合、民間企業と比べると特にミスが許されない業務が多いため、何度もチェックしなければならないことがあるでしょう。
人的ミスを防止するためにも、RPAの導入は地方自治体にとってメリットといえます。
人手不足の解消
地方自治体は限られた職員で業務を行なっているため、それぞれの業務が過多になっている場所もあります。しかしRPAを導入すれば、単純作業や日々の定型業務を自動化できるため人手不足の解消につながります。
新たに採用や教育の必要がないRPAは、人手不足の解消になるといえるでしょう。
住民の満足度向上
RPAによって日々の業務が効率化すると、本来やるべきコア業務にリソースを使えるようになります。各種施設の設備を整えたり街づくりに注力することで、住民の満足度向上にもつながるでしょう。
また、チャットボットを活用した問い合わせ対応やWeb申請などをRPAで自動化すれば、職員のリソースを使わずに住民へよりよいサービスの提供が可能です。このようにRPAをうまく取り入れることで、職員だけでなく住民にとってもメリットがあります。
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地方自治体がRPAの導入でできること
RPAを導入するメリットは分かったものの、どのように地方自治体に導入するか分からない方もいらっしゃるはずです。地方自治体がRPAの導入でできることは、主に以下の3つです。
- データ入力業務の自動化
- データ集計業務の自動化
- データ照合業務の自動化
それぞれ具体的に解説します。
データ入力業務の自動化
RPAを導入することで、データ入力業務の自動化が可能です。自治体のデータ入力業務は、住民票や戸籍の入力、予算管理や施設予約など多岐にわたります。
データ入力は単純作業ですが、住民票や戸籍など重要な情報を扱うため、万が一ミスをすると住民への不信感につながります。実際に、住民票の抹消作業を誤ったため年金の支給が遅れたという事例もあるほどです。しかしデータ入力業務をRPAで自動化すれば、職員の負担軽減やミスのない業務処理がおこなえます。
データ集計業務の自動化
RPAは、データ集計業務の自動化にも活用できます。地方自治体では、住民票データや産業統計データなど、さまざまなデータの集計業務が必要です。しかし、集計する種類やデータ量が膨大なため、作業に時間がかかったり誤入力が起きやすかったりします。
集計業務は単純作業なので、RPAが得意な分野です。RPAを導入すれば作業時間を短縮し正確な作業がおこなえるため、集計データの信頼度も向上するでしょう。
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データ照合業務の自動化
自治体のデータ照合業務の自動化にも、RPAを活用できます。データ照合業務は、住民情報や税金の支払い・児童手当の受給資格者検証など、自治体が扱う多くの事務手続きにおいて欠かせません。大量のデータを取り扱うことが一般的であり、労力がかかるためミスが起こりやすい業務といえます。
RPAを導入すると、データ照合業務のミス防止が可能です。他の人員を使ってダブルチェックをする手間がなくなるため、職員の業務負担を軽減できます。
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地方自治体がRPAを導入するまでの流れ
ここからは、地方自治体がRPAを導入するまでの流れを解説します。
導入の検討
まずはRPAの導入を検討します。チェックすべき項目は、主に以下の4つです。
- RPAによって効果を上げられる業務があるか
- 対象業務は自動化が可能か
- 費用対効果が期待できるか
- 運用体制はどのようにするか
地方自治体の場合は、データ入力・集計・照合業務にRPAを導入でき、定型業務や単純作業などの自動化も可能です。
費用対効果は、対象業務を自動化することでカットできる人件費などのコストと、RPA導入にかかる費用を比較してください。導入費用には、サーバーの設置費用やライセンスコスト・環境整備にかかる手間なども含まれます。費用対効果を確認せずにRPAを導入すると、マイナスになる可能性もあるので注意してください。
なお、RPAは運用を開始してからが本番です。運用がうまくいかず、思うような成果を上げられないこともあります。必ず導入の検討段階から導入した後のイメージを持っておくようにしましょう。
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導入企画の立案
次に、導入目的を明確にしてRPAを導入する業務を決定し、具体的な業務フローを設計します。業務フローを設計したら、適切なRPAツールを選定しましょう。
さまざまなRPAツールがあるため、ニーズに沿った機能があるものや適切な値段設定のものを選ぶことが重要です。無料トライアルができるRPAツールだと、使い勝手を確かめてから導入できるので導入後の失敗リスクを低減できます。
▷RPAの運用ルールはどう決めるべき?運用方法と失敗しないポイント
運用環境の整備
RPAの導入や運用を効果的に行うための環境を整備します。まず整備すべきなのはシステム環境であり、具体的には、ロボットが動作するためのパソコンやサーバー・セキュリティ対策やネットワーク環境などです。
また、RPAの導入や運用を担う専門家の育成・確保や、社内体制の構築もおこなってください。他にも、障害が起きたときの体制なども決めておきましょう。地方自治体の場合、職員にITの専門家がいない可能性もあるため、RPAツールのベンダーや外部の専門家に依頼するのがおすすめです。
運用・保守
RPAを本格的に導入したら、稼働が停止したりエラーが起きたりしないように、適切に運用するために保守する必要があります。また、メンテナンスやワークフローの改善、バックアップの取得なども必要であり、業務プロセスの見直しも必要です。
RPA運用・保守は専門知識とスキルが求められるため、対応が困難な場合はRPAベンダーや外部の専門家への支援依頼を検討してください。
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地方自治体がRPAの導入で課題となること
導入することで人材不足の解消や業務効率の向上などさまざまなメリットがありますが、課題になることもあります。
RPAを推進する人材が少ない
RPAの導入には、業務フローを可視化したりロボットに業務を覚えさせたりするなどの作業が必要です。また、複雑な業務の自動化やシステム連携はITの知識がないと難しいため、RPA人材を確保しなければ導入が難しいでしょう。しかし、RPAを推進するための人材の確保をしたり職員を育成したりするにはコストや時間がかかるため、導入に踏み切れない地方自治体は多いのも現状です。
また、途中で担当者が部署移動してしまい、他に対応できる人材がいなくなる可能性もあります。引き継いだ職員がRPAを理解していなければうまく管理できなくなるため、RPA人材を数名確保することをおすすめします。
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データの電子化が進んでいない
現在、多くの地方自治体では書類が紙ベースで管理されています。しかし、RPAの導入を進めるにはデータの電子化が必要です。データを電子化するには多くの時間と手間がかかるため、RPAを導入できずにいる地方自治体は多くあります。
なお、データ電子化だけでなく、データの標準化や整備も課題です。地方自治体は多くの業務を抱えており、業務ごとに使用するデータやフォーマットが異なることがあります。このように、RPAの導入にはデータの電子化や標準化など、事前に環境を整えることが必須です。業務量が多いと環境整備に使えるリソースがなく、RPAを導入できないことがあります。
セキュリティ対策が整っていない
地方自治体では、住民の個人情報を多く取り扱っています。不正アクセスや情報漏えいを防ぐためにも、セキュリティ対策の確認が必要です。特にRPAは、導入に伴って新たなセキュリティリスクが発生する可能性もあります。たとえば、攻撃者がRPAプロセスに侵入してデータを改ざんしたり、機密情報を盗み出したりすることも考えられるのです。
セキュリティリスクを軽減するには、RPAのアクセス権限の制御や安全なネットワーク環境の構築、定期的なセキュリティ監査などが必要です。また、職員へのセキュリティ教育など、多くの手間やコストがかかります。そのため、セキュリティ面を課題としてRPAの導入に踏み切れない地方自治体は多いです。
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地方自治体がRPAの導入で失敗しないための注意点
地方自治体がRPAの導入で失敗しないための注意点は、以下の3つです。
- RPAツールは慎重に検討する
- 異常事態に備えたフォロー体制を整える
- スモールスタートを意識して導入する
それぞれの注意点をよく理解したうえで、慎重にRPAの導入を進めてください。
RPAツールは慎重に検討する
地方自治体がRPAの導入に失敗しないためには、どのRPAツールを導入するかが重要です。職員の中にはITリテラシーが低い人もいるため、専門知識が必要なものや操作が難しいものを選ぶと、一部しかRPAを使いこなせない可能性があります。したがって、専門的な知識がない人でも使いやすいRPAツールを選ぶようにしてください。
最近ではトライアル期間を設けているRPAもあるため、使用感を確かめたうえで本格的な導入を進めるのがおすすめです。また、導入目的に沿った機能が備わっているか、高セキュリティで信頼性が高いかも見極めながら導入ツールを検討してください。
異常事態に備えたフォロー体制を整える
RPAの不具合によって正常に動作しなくなると、さまざまな業務が滞ってしまいます。場合によっては住民にも迷惑がかかる場合もあるでしょう。
職員の中にRPAに対応できる人材がいれば問題ないですが、ITに詳しい人がいない場合はその後の対処が円滑に進まない可能性があります。そのため、サポートが充実しているRPAツールの選定が重要です。
導入前後にサポートはあるか、もしものときはすぐヘルプ要請ができるかを確認し、フォロー体制を整えたうえでRPAを導入してください。
スモールスタートを意識して導入する
地方自治体で行う業務は、作業でミスが起きると広範囲に影響が出るおそれがあります。たとえばRPAを役所全体で一気に導入した場合、設定ミスや不具合などが起きると通常のサービスにも影響がでる可能性があるでしょう。
そのため、RPAはスモールスタートを意識して導入してください。焦って導入を進めるとミスが発生しやすいので、まずは一部の部署で簡単な作業を自動化することからスタートし、検証や現場の意見を聞き取りしながら導入範囲を広げていきましょう。
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地方自治体がRPAを導入した実際の活用事例
ここでは、地方自治体がRPAを導入した実際の活用事例を紹介します。自治体の活用事例を参考にしながら、RPAの導入方法を検討してください。
千葉県市川市の事例
千葉県市川市では、窓口対応や膨大な事務処理対応に追われており、繁忙期は時間外勤務が常態化している点が課題でした。そこで各課でRPAを導入し、業務効率化を図っています。
たとえば、こども福祉課は児童手当年金情報や住民税の照会業務・子ども医療返納額の内訳作成業務などにRPAを活用し、年間で約500時間の削減が見込まれています。
東京都多摩市の事例
多摩ニュータウンの中心地として発展してきた東京都多摩市では、市職員の業務負担の増加によって新アイデアの考案や能力発揮が難しくなっていることが課題でした。そこで、解決の一助になることを期待してRPAの実証実験に着手しています。RPAと同時にOCRとAI-OCRも採用し、「RPA単体」「RPA+OCR」「RPA+AI-OCR」の3パターンで検証をおこないました。
RPA単体は児童手当や所得移動入力業務、RPA+OCRは保育園入所申請書の入力業務、RPA+AI-OCRでは法人設立届出書の入力業務に導入しています。その結果、時間外削減効果はそれぞれRPA単体は17%・RPA+OCRは62%・RPA+AI-OCRは14%になりました。RPAの実証実験は職員の働き方を見直すきっかけとなり、本格運用と人材育成を進めています。
愛知県大府市の事例
職員の時間外労働が常態化していた愛知県大府市は、定型業務が職員の業務時間を圧迫していました。そのため、定型業務の効率化を目的にRPAを導入し、実証実験を行なっています。
保健医療課の「年金特徴開始通知作成業務」と、高齢障害支援課の「要介護データ処理・手紙作成業務」などで、時間削減の効果が見込まれています。実証実験対象の3業務をすべて合わせると、年間で160時間超の削減効果があります。
富山県南砺市の事例
富山県南砺市は4つの市庁舎があり、機能が分散していました。しかし、2020年7月に市庁舎の統合が計画されていたため、組織の再編や業務の見直しを課題と考え、定型業務の自動化ができるRPAに関心を持ちました。
RPAの導入にあたって適用したい業務を募集し、集まった30業務の中から「業務の発生頻度」「シナリオ構築の難易度」「時間外削減効果」の3つを判断基準に分析を行いました。その結果、こども課と会計課の4業務に絞って実証実験を始めています。
繁忙期に実証実験を行なった会計課では、税金収納消し込み業務に1日33.5分、年間で154.1時間かかっていました。しかし、RPA導入後は1日4分、年間で18時間と88%の時間削減に成功しています。実証実験を行なった4業務は、全部で407.9時間と約56%の削減効果が出ています。
地方自治体でもRPAの導入は進んでいる
都道府県や指定都市では、すでに90%を超える地方自治体でRPAを導入しており、その他の市区町村も検討中も含めて約62%がRPAの導入に前向きです。そのため、今後ますます地方自治体のRPA導入は進むと考えられます。
RPAは、業務効率の向上や人的ミスの防止・人手不足の解消など、職員にとってメリットが大きいシステムです。また職員の空いたリソースを住民サービスの向上などコア業務に使えるため、住民の満足度向上効果も期待できます。ただし、導入にはRPA人材の確保やデータの電子化・セキュリティ対策など対応すべきことが多いです。導入課題をどう解決するかも考えたうえで、RPAの導入を検討してみてください。
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