SaaS・クラウド・ASPの違いとは?正しい定義やPaaS・IaaSとの比較
よく耳にするIT関連ワードとしてSaaS・クラウド・ASPがありますが、これらの意味や違いをきちんと理解しているでしょうか。本記事ではSaaS・クラウド・ASPの違いや、SaaSとよく比較されるPaaS・IaaSについて解説します。
目次
クラウド・SaaS・ASPとは?
はじめに、クラウド・SaaS・ASPそれぞれの特徴を説明していきます。
(1)クラウドとは?
クラウドは、ユーザーがインターネットを通じて利用するサービス形態のことです。パソコンやスマホ、タブレットなどのデバイスさえあれば、特別な準備をしなくてもサービスを利用できるのがメリットのひとつです。
クラウドの語源は諸説あります。IT技術者がネットワークの向こう側を表すときに使う雲(cloud)マークが由来となっているという説や、群衆を意味するcrowd(クラウド)に由来して生まれた言葉とも言われています。
(2)SaaSとは?
SaaS(サースまたはサーズ)は「Software as a Service」の略称で、クラウドを利用してソフトウェアをユーザーに提供するサービスのことです。
すでに完成したサービスを利用できるため、ユーザーは環境整備やシステム開発・保守の手間がかかりません。メールサービスのGmail、オンラインストレージのDropbox、グループウェアのサイボウズOfficeなど、種類は多岐にわたります。
インターネットに接続さえできれば気軽に利用できることから、テレワークの急速な普及に伴い、利用者も増加傾向です。企業にとって利便性の高いサービスといえる一方で、サービス提供側によるトラブルやセキュリティ問題によってデータが紛失したり、顧客情報が流出するリスクもゼロではありません。
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SaaS・PaaS・IaaSの違い
SaaSと似たものとして、PaaS(パース)、IaaS(イァース)という言葉があります。これらの違いを一言で表すなら、「どこまでをサービス事業者に任せるか」という点です。
SaaSは、すでに完成したソフトウェアを利用する形態です。システムやアプリケーション開発のプラットフォームもサービス事業者によって準備されているため、ユーザーは即座にサービスを利用できます。
一方で、サービス事業者がアプリケーションまで管理しているため、カスタマイズ性が低く、サーバー障害のようなトラブルに対してユーザー自身が対応できない点が挙げられます。
PaaS(パース)は「Platform as a Service」の略称で、アプリケーション実行用のプラットフォーム機能を提供するサービスです。サービス事業者はサーバーソフトウェア、OS、ハードウェア、設備を管理します。
管理を事業者に任せることで、ユーザーは人的リソースを節約しながらアプリケーションの導入と運用に注力できます。SaaS同様、管理を任せている領域をユーザーが手を加えることはできず、細かなチューニングは困難です。
最後に紹介するIaaS(イアース)は、「Infrastructure as a Service」の略語で、仮想マシンを提供するクラウドサービスのことです。サービス事業者はハードウェアや設備を管理し、ユーザーはOS、アプリケーションなどを自由に導入できます。
IaaSは自社でサーバーを設置するオンプレミス型と比較されます。オンプレミス型に比べて、機器代、電気代のようなランニングコスト、設置スペースを節約できるのがメリットです。
SaaSやPaaSに比べて自由度が高いものの、保守・運用面で作業負担が大きいという問題があります。このように、SaaS、PaaS、IaaSはサービス事業者の担当領域が異なります。どの形態を選ぶかは、実現したい目的と人的コストから判断するとよいでしょう。
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(3)ASPとは?
SaaSと似たものに、ASPがあります。ASP(エーエスピー)は「Application Service Provider」の略称で、インターネットを通じてアプリケーションを提供するサービス事業者を意味します。最近ではサービスそのものや提供形態をASPと呼ぶことも一般的になりました。
ASPの一例としては、クラウドサービスのiCloudやWebメールのGmailなどが挙げられます。現在では個人向け・企業向けの幅広いASPが存在し、日々の作業効率化をもたらしています。
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クラウド・SaaS・ASPはどんな関係性なのか
クラウド・SaaS・ASPは同じ文脈で語られることが多いため、しばしば意味が混同されます。それぞれにどのような違いがあり、どのような関係性を持っているのか、詳しく見ていきましょう。
(1)クラウドはSaaS・ASPのベースとなる
クラウドは、インターネットを通じてユーザーがサービスを利用する技術や仕組みを指しています。対して、SaaSやASPはクラウド技術を利用して提供されるサービスのことです。つまり、SaaSとASPはクラウドの一種といえるでしょう。
(2)SaaSとASPの違い
SaaSとASPは非常に似ており、同じ意味だと認識している人も少なくありません。両者の大きな違いは、SaaSはソフトウェアを意味し、ASPはサービス事業者を含んだ包括的なものを意味する、という点です。
また、SaaSとASPは、マルチテナントかシングルテナントか、という技術的な違いもあります。マルチテナントとは事業者が提供する1つの環境を、複数のユーザーで共有する形態です。対して、シングルテナントはユーザーが1つの環境を専有する形態を指します。
一般的に、ASPではシングルテナントを採用しています。一方、マルチテナントはSaaSの登場に伴い採用された方式であるため、SaaSではマルチテナントが必須技術要素の一部といわれています。これが両者の違いです。
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SaaSの特徴「マルチテナント」
前述のように、SaaSはマルチテナントを採用し、多くのユーザーにサービスを提供できる環境を用意している点が特徴です。
ここからは、マルチテナントとはどのようなものなのか、メリットとあわせて解説します。
(1)マルチテナントとは?
マルチテナントとは、事業者が用意するサーバー、アプリケーション、ネットワークといった環境を複数のユーザーで共有するモデルのことです。環境を共有することで、ユーザーは手軽に、安価にサービスを利用できます。
有名なものとしては、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、楽天市場が挙げられます。
(2)マルチテナントのメリット
ここでは、マルチテナントを利用するメリットを4つ紹介します。
#1: スムーズな環境構築が可能
マルチテナントは、事業者が用意したシステムをそのまま利用できます。そのため、1からシステムを構築するのに比べて、スムーズな環境構築が実現可能です。このメリットにより、導入に必要な人的コストを抑え、時間を節約できるという効果が期待できるでしょう。
#2: システム運用が不要
マルチテナントでは、システムの運用・保守はサービス事業者がおこないます。そのため、運用・保守のために自社のリソースを割く必要がありません。また、自社にシステム運用がおこなえる人材がいなくても利用できるため、人材不足で悩んでいる企業でも気軽に利用できる点がメリットです。
#3: 低コストなシステム導入
マルチテナントは、複数のユーザーが同じ環境を利用する形態です。そのため、サービス事業者は環境構築作業の工数、運用・保守費用といったコストを抑えられます。
また、リソースをユーザーに応じて適時振り分けるので、リソースの無駄が発生しにくいメリットがあります。このような理由から、ユーザーは低コストながら最新のサービスを導入できるのです。
#4: 機能がシンプルであることが多い
機能が比較的シンプルなことも、マルチテナントの特徴です。複数のユーザーが同じ環境を利用するため、利用方法はある程度画一的になります。
そのため、高度な設定が難しくなる一方で、設定の複雑化を防いでくれる側面もあるのです。また、機能がシンプルであるため、短期間で利用方法を習得できるメリットがあります。
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ASPの特徴「シングルテナント」
ASPは主にシングルテナントを採用しており、ユーザーが自由に使える環境を提供しています。ここからは、シングルテナントとは何か、どんなメリットがあるのかをチェックしていきましょう。
(1)シングルテナントとは?
ユーザーが1つのシステムを専有する方式をシングルテナントと呼びます。他のユーザーと環境を共有しないため、独自の設定を加えたり、リソースを専有できるのが特徴です。
(2)シングルテナントのメリット
シングルテナントを利用するメリットは、主に4つあります。それぞれ詳しくみていきましょう。
#1: サービスのカスタマイズが可能
シングルテナントでは専用の環境が提供されるため、ユーザーの要望に沿ったカスタマイズが可能です。
マルチテナントでは他のユーザーと環境を共有しているため、機能がある程度制限されてしまいます。一方、シングルテナントは他のユーザーの都合を加味する必要がないため、そのような制限はありません。
#2: セキュリティの安全性が高い
マルチテナントは多くのユーザーが同じサーバー内に同居しているため、攻撃対象になるリスクがその分高くなります。シングルテナントは独立した環境下でサービスを利用できることから、セキュリティ問題に巻き込まれるリスクを軽減可能です。
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#3: データの移行が簡単
マルチテナントの場合、環境の仕様が固定されていることから、システム設定やデータ形式、データ転送方法など、さまざまな要因でデータ移行が難航する可能性があります。
一方、シングルテナントであれば、データや転送元の環境に合わせて設定を変更できるため、データ移行が比較的容易です。
#4: 個別の環境を構築するため最適化できる
シングルテナントでは、ユーザーは環境を自分仕様に最適化できます。マルチテナントでは他ユーザーと環境を共有することから、環境の変更ができません。
そのため、導入アプリケーションと環境が合わず、パフォーマンスが低下する可能性も考えられます。シングルテナントで自社に特化した環境を整えることで、社内全体の業務パフォーマンス向上が期待できるでしょう。
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違いを理解して業務に適したサービスを見つけよう
インターネットの発達とスマートフォンの普及などにより、クラウドの利用が拡大を見せています。近年のテレワークの増加に伴い、場所の制限なく利用できるクラウドサービスの需要は今後も高まることでしょう。
SaaS・クラウド・ASPという言葉は混同しやすいものですが、それぞれの違いを理解し、どのような関係性を持っているのか把握することが、クラウドの導入効果を高めます。
まずは本記事で紹介したそれぞれの特徴を確認し、そのうえで自社にふさわしいクラウドサービスを探していきましょう。
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