SaaS事業におけるプライシング戦略の基本と思考プロセスについて
他の業界と比べても、注目度が高くなっているSaaS事業のプライシング。プライシングは、多くのSaaSスタートアップが日々試行錯誤している重要な項目です。本記事では、そんなSaaS事業におけるプライシング戦略について詳しく解説していきます。
目次
SaaS事業におけるプライシング戦略とは?
SaaS事業におけるプライシング戦略は、将来のSaaSビジネスの土台になる重要な要素のひとつです。
製品やサービスの価格設定を感覚的に行うのではなく、綿密な調査や分析のもとで立てた計画であり、プライシング戦略の有用性が、SaaS事業で近年注目されています。
ここでは、SaaS事業においてプライシング戦略が注目されている理由について紹介します。
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SaaS事業でプライシング戦略が注目されている理由
SaaS事業におけるプライシングの注目度は、他事業と比較しても極めて高いといえるでしょう。
海外のベンチャーキャピタルを中心に、プライシングの効果や成功事例がシェアされていることが考えられます。
実際、プライシング戦略の具体的な効果を示す情報があります。
「継続的に見直す企業のユニットエコノミクスが11.1xに対して、見逃さない企業は1.7xと、大きな差が生まれている。」
「価格設定によるマネタイズを1%向上させると、利益率は12%も改善する。これはリテンションの約2倍、顧客獲得の約4倍の利益率改善効果がある。」
引用:Pricing Studio「SaaSプライシング戦略|SaaS事業に適した価格戦略」より
上記のような効果が証明されたことで、SaaS業界でプライシングが急速に注目されるようになりました。
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SaaS事業の代表的な料金体系・4つのプライシングモデル
ここではSaaS事業の代表的な料金体系と、プライシングモデルについて紹介します。
SaaSの料金体系は基本的にサブスクリプションになっており、主に4種類の料金体系があります。
- 定額プランニング
- 従量課金制プライシング
- 階層型プライシング
- フリーミアム
それぞれ紹介します。
1.定額プライシング
「1価格」「1プロダクト」のモデルを定額プライシングといいます。著名なサービスとしては、ショッピングカートに残っている商品を検知して通知し、ネットショップの売上に貢献する「CartHook」やドキュメント共有サービスの「esa」などがあります。
メリットは課金体系がシンプルで売りやすく、顧客も料金体系を理解しやすい点です。一方、ユーザー層によってプランの最適化を図りづらい点がデメリットです。
2.従量課金制プライシング
従量課金制プライシングとは、使用時間やユーザー数などの「利用した量で課金額が決まる」モデルです。
ユーザーの利用状況に応じて単価が確定し請求されるので、金額に対して納得感があります。またユーザーの利用状況によっては、サブスクリプションより多くの金額を請求し収益の最大化につながります。
一方でサービス前に課金のタイミングを設置できないことや、事前に収益予測する難易度が高い点がデメリットです。
3.階層型プライシング
階層型プライシングとは、ユーザー層に応じて提供する機能の数などを設定し価格プランを複数設定するモデルです。カスタマーサポートルールの「CallConnect」「Frehdesk」などで採用されています。
セグメントごとに最適な価格を届けやすく、利用状況に応じてアップセルがしやすいものの、複数のプランがあるためにプランの選択でユーザーを迷わせてしまう点がデメリットです。
4.フリーミアム
フリーミアムは、無料プランと有料プランの2つの段階に分類し運用するモデルで、基本的な機能は無料で使えるものの容量や機能などを追加して利用するには課金が必要です。
フリーミアムを使用することで無料でサービスが利用できるため、初期費用を抑えられ、正しく運用すれば顧客獲得単価を抑えられるので顧客数の増加につながる可能性があります。
しかし、カスタマイズ性が高いので、カスタマーサクセス工数が多くかかるサービスでは、採算が合わない場合もあるため注意が必要です。
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SaaS事業におけるプライシング戦略の基本
プライシング戦略で成果を出すためにも、ここで基本を押さえておきましょう。プライシングは主に3つの観点から考えます。
- Cost-plus方式
- Competitor-based方式
- Value-based方式
それぞれ解説します。
Cost-plus方式
Cost-plus方式(コストプラス法)は、自社の視点で考えることで、かかったコストに一定の利幅を加えた金額を価格とします。
原価を基準として価格設定を行うため、製造メーカーや自動車関連、食品関連などがよく使用する価格設定の方法です。
計算方法は【販売価格=原価(直接費+間接費)+利益】とシンプルで、自社を基準に価格を決めるため市場のリサーチをする必要がありません。
Competitor-based方式
Competitor-based方式(競争志向型価格設定)は、競合の視点で考えることで指標とする競合企業の価格基準から適した価格を検討するアプローチと自社の価格変更を行います。
そのため他社の価格変更を意図的に促し、独自のポジションを築くことが可能です。
Value-based方式
Value-based方式(バリューベースプライシング)とは、顧客の視点で考える方式で顧客が自社製品に感じている価値を基準にして価格を設定します。
サブスクリプション型のビジネスモデルと親和性が高いので、近年注目されている方式です。
また、Value-based方式では、顧客の支払い意欲を考慮して価格設定を行っているため、顧客の支払い意欲に合わせて値上げが可能です。
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SaaS事業にValue-based方式がおすすめな理由
SaaS事業において、Value-based方式がおすすめな理由は2つです。
- 収益を最大化できる
- TRMを拡大できる
それぞれ確認していきましょう。
収益を最大化できる
SaaS事業は、顧客が継続してサービスを利用してくれる分だけ利益が出るビジネスモデルです。Value-based方式では、顧客の支払い意欲をもとに価格設定を行うため顧客に合わせた価格の変更ができます。
そのため顧客の支払い意欲が高くなれば、サービスの価格を上げても解約される可能性は低くなるでしょう。
つまりValue-based方式を使えば、Cost-plus方式やCompetitor-based方式より中長期的に見て収益を最大化できます。
TAMを拡大できる
TAM(Total Addressable Market)とは、実現可能な最大の市場規模を表すマーケティング用語で、新しい商品やサービスでリーチできる顧客層の広さや需要の高さを表します。
TAMは【市場全体の顧客数×獲得額】で算出できますが、Value-based方式にもとづいた従量課金を採用すれば獲得額の上限がなくなります。Value-based方式を活用すれば、獲得額が高まりTAMの拡大が可能です。
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SaaS事業におけるプライシング戦略の4つの思考プロセス
SaaS事業におけるプライシング戦略は、次のような流れで進みます。
- 戦略目標の設定
- ポジショニングの設定
- セールスモデルの設定
- プライシングモデルの設定と検証
プライシング戦略に正解はなく、常に戦略目標の設定から検証を行うサイクルを回す必要があります。
STEP1:戦略目標の設定
まずは、戦略目的の設定を行います。何を目的として、サービスをどの顧客層に販売するのかを明確にすることが大切で、顧客セグメントと経営指標を照らし合わせて不一致がないか確認します。
プライシング戦略における経営指標は3タイプです。
- 売上成長率:短期間での売上成長を最大化
- 市場シェア:市場浸透の加速化
- 利益:利益の最大化
上記の経営指標をもとに、戦略目標を設定しましょう。
STEP2:ポジショニングの設定
プライシング戦略において、ポジショニングの設定は非常に重要です。
顧客の視点に立って価格を設定し、自社ブランドに対して顧客からどのように思われたいのかを洗い出します。SaaS事業におけるポジショニングでよく見るタイプは3つです。
- 機能が充実している
- お得感がある
- 特別感がある
ポジショニングを決める際には、顧客が抱える課題の大きさはどれくらいか、サービス導入でどのような解決を期待しているのかを話し合ってください。
STEP3:セールスモデルの設定
セールスモデルを設定する際は、テスト導入時の情報を活用しましょう。
ターゲットとなる顧客セグメントを獲得できるまでにかかった期間や、セールスで必要なリソースや獲得コスト・体制の予想が大切です。
セールスサイクルには代替サービスの有無も影響しやすく、既にオンプレが入っていたり代替サービスがなかったりする場合にはセールスサイクルが長くなります。
価格とセールスサイクルは相関関係にあるので、価格が高いとサイクルが長くなり価格が低いとサイクルが短くなります。
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STEP4:プライシングモデルの設定と検証
最後にプライシングモデルの設定と検証を行います。
前述したとおりプライシングモデルは、Cost-plus方式・Competitor-based方式・Value-based方式の3タイプです。
顧客や競合企業の情報を集め、収益性やITに振り分ける予算を決めて競合の提供価格をリサーチし、3タイプのプライシングモデルで価格設定を実施します。
価格を決める際に、どの程度のユニットエコノミクスになるのかを各プライシングモデルで検証してください。
SaaS事業のプライシング戦略で価格を見直す際のポイント
SaaS事業のプライシング戦略で価格を見直す際のポイントは4点です。
- 事業フェーズの変化
- 高い売上目標
- 価値の向上
- ターゲットの変更
事業フェーズの変化が価格を見直す際のポイントで、事業フェーズは「立ち上げ期」「成長期」「安定期」です。3つのフェーズごとに、適切なプライシング戦略が変わります。
SaaS企業の多くはスタートアップなので、高い売上目標を達成する必要があり、順調に顧客を獲得できなくても、獲得ペースが落ちてきたときやどれだけ獲得しても売上目標に届かないときは価格の見直しが必要です。
新機能が追加され提供価値が向上するにつれて、価格を変更する余地が出てきます。長期的に見ればこのタイミングでプライシングを見直す企業と、見直さない企業で大きな差が生まれるでしょう。
またターゲットの変更により適正価格も変化するので注視しておくようにしましょう。
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SaaS事業におけるプライシング戦略の成功事例
プライシング戦略の成功事例として、アメリカの大手SaaS企業である「SurveyMonkey」を紹介します。
SurveyMonkeyは価格変更をおこなった背景として、下記の課題を抱えていました。
- 競合他社の価格が変化しているにもかかわらず、自社では価格を変えていなかった
- プロダクトの開発速度が速く、顧客がついてこられなかった
- 顧客の80%が個人的な目的でなく、ビジネスシーンで利用していた
SurveyMonkeyはサービスの拡大に伴い、ユーザーのニーズが多様化していました。開発スピードの早い企業は、この傾向が顕著です。そして価格改定を行った結果、次のような成果が出ました。
- ARPUが14%増加
- 年間プランの利用者が77%から85%まで上昇
- 個人利用から法人利用へのアップセルにつながった
プライシングは収益の最大化に焦点があたることが多いですが、ユーザーのニーズに応えるという観点において貢献が可能です。
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SaaS事業におけるプライシング戦略の基本を押さえておこう
近年、SaaS事業ではプライシングに対する注目度が急速に高まっており、プライシング戦略で望む成果を出すためにも、基本を押さえることが大切です。
SaaSの料金体系は4つあります。
- 定額プランニング
- 従量課金制プライシング
- 階層型プライシング
- フリーミアム
自社のプライシング戦略に合った料金体系を選ぶことが重要です。
またプライシング戦略の基本は、主に3つあります。
- Cost-plus方式
- Competitor-based方式
- Competitor-based方式
どれも押さえておきたいプライシング戦略の基本ですが、そのなかでも「Value-based方式」はSaaS事業でも近年注目されています。上記のプライシング戦略の基本を押さえて、収益の最大化を図っていきましょう。
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