SaaSのビジネスモデルの特徴とは?本質や成長戦略に必要な考え方・メリットとデメリット
近年世界でも急拡大しているSaaS市場。しかし、どのようなビジネスモデルで展開されているのか、ご存知の方は少ないのではないでしょうか。本記事では、そんなSaaSのビジネスモデルについて、特徴やメリットなど詳しく解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
SaaSとは?
SaaS(Software as a Service)とは、ベンダーが提供するクラウドサーバー上のソフトウェアをユーザーがインターネットを通じて利用することです。
SaaSには次のようなメリットがあります。
- サーバーやアプリケーション、データベースなどのシステムをユーザー側で準備する必要がない
- 個々の端末にソフトウェアをインストールする必要がない
- 個々の端末でデータを保存する必要がない
- パソコンだけでなく、モバイル端末に対応していることが多い(マルチデバイス対応)
- 複数人で同時に利用できる
- 環境構築にかかる導入コストを抑えられるため、低コストでサービスの利用を開始できる
- ソフトウェアのアップデートはベンダーが行うため運用管理の負担を抑えられる
上記のように数多くのメリットがある一方で、ユーザーニーズに応じた細かいカスタマイズはできないといったデメリットもあります。
SaaSは、以下のような普段使っているクラウドサービスで提供されています。
- Google Workspace(メール、カレンダー、チャット、ドライブ、ドキュメント、スプレッドシート、スライドなど)
- Salesforce
- Chatwork
- 弥生会計オンライン
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PaaS・IaaS との違い
クラウドサービスの利用には、以下のような分類があります。
- SaaS(Software as a Service)
- PaaS(Platform as a Service)
- IaaS(Infrastructure as a Service)
SaaSは前述した通り、ベンダーが提供するクラウドサーバー上のソフトウェアをユーザーがインターネットを通じて利用する方法です。
一方、PaaSはクラウド上のプラットフォームを利用するサービスで、IaaSはクラウド上のコンピューティングリソースを利用するサービスです。
SaaSとPaaS、IaaSは、ユーザーの運用・管理範囲(責任範囲)が違います。例えば、SaaSはアプリケーションまでサービス化して提供されるもので、PaaSはアプリケーション開発に必要なミドルウェアまで、IaaSはシステム構築に必要なインフラまでベンダーから提供されます。
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SaaSの歴史
SaaSの歴史は、1998年頃に普及したASP(Application Service Provider)がベースになっています。そもそもASPとは、インターネットを通じてアプリケーションを提供するものです。
ASPおよびSaaSは、いずれもインターネットを通じてアプリケーションを提供するものです。
[引用:総務省 国民のための情報セキュリティサイト「ASP・SaaSとは?」より]
▷【解説】FaaSとは?利用するメリットやCaaS・PaaS・IaaSとの違い
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SaaSビジネスモデルの特徴
SaaSビジネスモデルの特徴は次のとおりです。
- 顧客との長期的な関係性を構築
- 膨大なユーザーデータの活用
- フリーミアム戦略の採用
それぞれ確認していきましょう。
長期的な顧客の維持が目標
Saasのビジネスモデルとしては、ほぼ全てのサービスがサブスクリプション型であり、利用しているユーザーと関係性を長期的に構築するのが特徴です。
そのため、一度登録した顧客に対しては提供側からコミュニケーションをとり、関係性を構築するための働きかけが重要になるでしょう。
膨大なユーザーデータの活用
SaaSビジネスは、膨大なユーザーデータを取得できるので、そのデータをサービスの改善に活用します。
前述のとおりSaaSビジネスはユーザーの継続利用によって行動や評価といったデータを取得しやすい点が特徴です。
その分、SaaSビジネスでは取得したユーザーデータをもとにサービスを常に改善し続けることが求められます。
フリーミアム戦略の採用
フリーミアム戦略とは、サービスの基本的な機能を無料にする一方で追加機能などのオプションは有料で提供する仕組みです。
また、機能の利用回数や速度などユーザーの利便性にかかわる特性を制限したうえで無料で提供し、制限緩和のためには有料プランへの登録が必要といった仕組みもフリーミアム戦略の一つです。
フリーミアム戦略はユーザーのSaaS利用に対するハードルを下げられ、多くのユーザーを獲得しやすいというメリットがあります。
SaaSビジネスモデルのメリット
SaaSビジネスモデルが普及しているのは、利用するユーザー側だけではなく、提供する企業側にとってもメリットがあるためです。
ここからは企業側のメリットについて紹介していきます。。
安定した収益が得られる
SaaSビジネスモデルは、一度ユーザーを獲得すると一定額の収益が定期的に得られるというメリットがあります。
もっとも、ユーザーの解約状況によっては収益が安定しない場合もあります。ただし、これまでサービスを利用したことのない新規顧客を獲得するよりも、一度はサービスに興味を持った既存顧客の解約を抑えるほうが容易と考えるのが一般的でしょう。
したがってSaaSビジネスモデルは、売り切り型のビジネスモデルと比べて収益が安定します。
▷SaaSビジネスにおける重要指標となる主要KPIとは?計算式も解説
リリース後も定期的に改善ができる
SaaSビジネスモデルは、ユーザーに提供するサービスを半永久的にブラッシュアップできることがメリットです。
売り切り型のビジネスモデルの場合、顧客は販売時点の性能や特性を利用し続けることになります。
一方で、SaaSはメンテナンスなどの事情を除けば、ユーザーが利用を継続しながらサービスをブラッシュアップすることが可能です。
通常顧客と大型顧客の両方を同時に獲得できる
SaaSビジネスモデルでは、通常顧客と大型顧客の両方を同時に獲得できます。
例えば、サービスの提供プランを段階的に区分することで個人から大企業まで幅広い顧客を同時に獲得できます。
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事業を急成長させることができる
SaaSビジネスモデルは、事業を急成長させることができる点も大きなメリットです。
例えば、マーケティング効率化SaaSを提供する株式会社FLUXは、たった1年間で顧客数が約2.5倍、従業員数は約3倍の95人に拡大するなど、事業・組織ともに急成長を実現しました。
そもそもSaaSの市場規模が拡大しているので、SaaSビジネスモデルは客観的に見て急成長が可能なビジネスモデルと評価できます。
SaaSビジネスモデルのデメリット
メリットの多いSaaSのビジネスモデルですが、デメリットがあるのも事実です。
メリットとデメリット双方を把握し、SaaSビジネスモデルの理解につなげましょう。
資金回収に時間を要する
SaaSビジネスモデルは、資金回収に時間がかかります。例えば製造業など他のビジネスモデルであっても、機械設備などの初期投資が発生するうえに製造・販売にかかるコストがかかるため、同じようなことがいえます。
しかしSaaSビジネスモデルでは、特にその点が意識される傾向にあるようです。SaaSの場合、一般的にサブスクリプションモデルを採用していることから、ユーザーがSaaSを継続的に利用しない限り初期投下資金の回収は見込めません。
また、フリーミアム戦略を採用するSaaSでは、ユーザーはSaaSに魅力や必要性を感じて上位プランに移行しなければ収益は見込めないことになります。
SaaSの構築と提供にはコストが発生するため、この初期コストを回収するためにはより多くのユーザーの獲得と継続利用が求められるでしょう。
継続的なアップデートが必須
SaaSは継続的なアップデートが必須です。
売り切り型のビジネスであれば、表面上は売って終わりという考え方もされます。
しかし、SaaSの場合はユーザーに継続利用をしてもらうことこそが収益源なので、業界のトレンドやユーザーニーズの変化、法改正などにも対応することが必要です。
長期的な顧客サポートが必要
SaaSはユーザーが使いづらいと感じると解約される可能性があるため、長期的な顧客サポートが必要です。また、競合SaaSが自社よりも優れていると感じられると乗り換えられる可能性もあります。
競合にユーザーが流れてしまわないためにも、高品質な顧客サポートを長期的に推進することが求められます。
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SaaSビジネスモデルで重要な5つのKPI
SaaSビジネスモデルで重要な5つのKPIとして、次のような指標が挙げられます。
- ARR
- MRR
- CAC
- LTV
- Churn
いずれもSaaSビジネスの特性を把握し、競合他社との比較をするためにも欠かせない指標です。
どのように算出され、どのような意味を持つ指標なのか理解しておきましょう。
1.ARR
ARR(Annual Recurring Revenue)とは、1年間あたりの経常利益を指す言葉であり、Saasをはじめとした、サブスクリプションサービスの成長性を把握する指標として用いられるケースが多いです。
なお、年間の指標を計算できるものの、一時的な収益はARRに含まれていないので理解しておきましょう。
MRR(月間経常収益)を12ヶ月分(ARR=MRR×12)かければ算出できます。
▷ARRとは?SaaSビジネスにおいて重要な理由や正しい計算方法を解説
2.MRR
MRR(Monthly Recurring Revenue)は、1ヶ月あたりの経常利益を指す言葉であり、毎月の売り上げをチェックする上Fでの重要な指標となります。
なお、Saasの導入にあたっての初期費用やコンサル費用はMRRには含まないので注意しておきましょう。
計算式は(MRR=月額料金×ユーザー数)で、ARRと同様にSaaSビジネスの収益性や規模を示します。
▷MRRとは?SaaSビジネスの重要KPIとなる理由や計算方法を解説
3.CAC
CAC(Customer Acquisition Cost)とは、1ユーザーを獲得するために要したコストのことで、顧客獲得単価とも呼びます。なお、ユーザーを獲得したチャネルによって、Organic CAC・Paid CAC・Blended CACの3種類に分けられます。
計算式は(CAC=ユーザー獲得コスト/新規ユーザー数)で求められます。
4.LTV
LTV(Life Time Value)とは、1ユーザーから生涯を通じて獲得できる収益の平均値のことで、顧客生涯価値と呼ばれる指標です。LTVの計算式はさまざまですが、基本的な式は(LTV=ARPA×平均継続期間)になります。
なお、LTVの数値が高ければ高いほど、一人のユーザーが長期的に利用しているとなるため、良い傾向と考えて良いでしょう。
▷SaaSの指標KPI「LTV」とは?重要性や計算方法・CACとの関係を解説
5.Churn
Churnとは、失った有料ユーザー数のことです。なお、ある時点の有料ユーザーに占める一定期間のChurnのことをChurn Rate(解約率)と呼びます。
例えば、前月末時点の有料ユーザー数が100で当月1ヶ月間のChurnが5だった場合、Churn Rateは5.0%になります。
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SaaSビジネスモデルの成長戦略に必要な考え方
SaaSビジネスの成長戦略に必要な考え方として、次の4つが挙げられます。
- 戦略的な料金プランの設定
- 徹底した顧客データの活用
- 顧客の育成
- 長期的な視点での資金管理
戦略的な料金プランの設定
SaaSの成長には、戦略的な料金プランの設定が必要です。仮に同様の機能を提供するSaaSがあった場合、ユーザーはより安いプランを選ぶと考えられます。
しかし、料金を安く設定すればユーザーは増えますが収益は上がりません。一方で、料金を高く設定すれば収益は上がると見込まれるものの、ユーザーの獲得が難しくなります。
そのため、SaaSを成長させるためには競合SaaSの料金プランと比較しながら、自社SaaSの強みを生かした料金プランの設定が必要と言えます。
徹底した顧客データの活用
SaaSビジネスの成長には、徹底した顧客データの活用が必要です。
どの業種においても、顧客との関係が重要であることは言うまでもありません。しかしSaaSビジネスは、顧客との継続的な関係こそ収益源であることから、顧客との関係構築の重要性は特に高いといえます。
そのため顧客の悩みやニーズに寄り添うためにも、顧客データを収集し課題解決やサービスの改善に向けて徹底したデータ活用が成長に欠かせない要素といえるでしょう。
顧客の育成
SaaSにおいては、顧客の育成も成長のために欠かせません。顧客の育成というと、見込み客に対して継続的にコミュニケーションを取ることで検討度合い(見込み度合い)を育成して契約につなげるリードナーチャリングがあります。
SaaSにおいてもその意味合いは変わりませんが、無料ユーザーを有料ユーザーに育てることも顧客の育成です。
そのためSaaSの利用を開始したばかりの無料ユーザーがどのような悩みやニーズを持っているのか把握し、ユーザーのSaaS利用価値を向上して成功に導くカスタマーサクセスの考え方が一層求められます。
顧客データの活用をしながら顧客の成功に向けて併走することで、有料ユーザーを増やすことができるでしょう。
▷SaaS企業におけるマーケティング戦略とは?よくある課題と解決策
長期的な視点での資金管理
SaaSビジネスを成功に導くためには、長期的な視点で資金管理をすることが重要です。SaaSは初期投資が必要で、その初期投資をいつまでに回収するかが課題になります。
そのため、資金調達時にはより具体的にユーザーの獲得と利用継続に向けた戦略を立てておくことが求められるでしょう。
仮に資金調達に成功したとしても、資金計画を立てておかなければ資金繰りに苦しむことにつながりかねません。
SaaSビジネスモデルの本質はカスタマーサクセスへの移行
SaaSビジネスモデルは、従来のビジネスモデルとは異なる特徴が多くあります。
特に大きい特徴といえるのが、売り切り型ではなく、ユーザーに継続的に利用してもらうことが収益につながるという点です。
そのためには、SaaSはユーザーと積極的にコミュニケーションを取り、ユーザーの成功に向けて併走することが求められます。
ぜひこの記事をSaaSビジネスモデルの理解に役立て、よりSaaSを知るきっかけにしてください。
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