廃業とは?倒産・閉店・休業との違い、手続きや回避する方法を解説

会社や個人が事業を辞めることを「廃業」と言いますが、倒産や閉店と意味を混同している方も多いのではないでしょうか。本記事では、廃業とはどのような状況を指すのか、似た言葉との違いや手続きの方法と併せて解説します。回避するための行動も紹介するので参考にしてください。
目次
廃業とはどのような状況?
廃業とは、経営者が自分の意志で事業や経営を辞め、それを消滅させることです。
廃業をする際は、会社組織を解散させる手続きまたは会社の財産を精算する手続きが必要なため、ある程度の期間と計画性が必要です。
会社に負債がない、または少ない場合は3か月〜半年程度で手続きを終えられますが、負債や債権者への対応が多い場合は数年かかるケースも珍しくありません。
国内の廃業状況のデータ
株式会社帝国データバンクの調査によると、2016年〜2022年の7年間における休廃業・解散率は以下のとおりです。
年 | 休廃業・解散率 |
2016年 | 4.14% |
2017年 | 4.09% |
2018年 | 3.99% |
2019年 | 4.02% |
2020年 | 3.83% |
2021年 | 3.76% |
2022年 | 3.66% |
おおむね4%前後で推移していますが、金融機関をはじめ、官民一体の伴走支援策が行われており、データの後半は休廃業・解散率の低下に一定の成果が出ていることが伺えます。
[出典:株式会社帝国データバンク「特別企画:全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022 年)」]
企業が廃業する理由とは
企業が廃業する場合、どのような理由があるのでしょうか。ここでは廃業の主な理由を4つ解説します。
後継者が確保できない
止まらない少子高齢化の影響もあり、後継者が確保できないことを理由に廃業する企業が増えています。
2021年に公表された帝国データバンクの調査によると、同年の後継者不在率は61.56%にも上っています。近年はこのような問題を解決しようと積極的に事業継承支援としてM&Aマッチング支援などが行われており、徐々にではあるものの後継者不在率に改善が見られています。
[出典:帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)」]
人手不足
人手不足が原因で事業運営が困難となり、やむなく廃業している企業もあります。
2024年に公表された帝国データバンクの調査によると、正社員の人手不足企業の割合は52.6%でした。働き方改革に伴う法改正により人手不足が懸念されている建設・物流・医療業界では、人手不足企業が約7割に上り、深刻な状況が伺えます。
[出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年1月)」]
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経営状態の悪化
経営状態の悪化も廃業する企業に多いパターンです。理由はさまざまですが、一度赤字経営に陥ると立て直しは困難になる傾向があります。
また、状況によっては立て直しを図ろうとすることでさらなる状況の悪化を招く可能性もあるため、傷が浅いうちに撤退の判断を下す経営者も少なくありません。
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将来への不安
近年においては、将来への不安から廃業を選択する企業も増えています。
特にIT分野に代表されるテクノロジーの進化・変化が著しく、短期間で生産工程や業務フローが大幅に変わってしまうケースも珍しくありません。
また、出口の見えない人手不足を乗り切るために、自動化やロボット化を進めている業界もあります。場合によっては仕事や事業そのものがなくなってしまうかもしれないという不安から、自主的に廃業してしまうのです。
倒産・閉店・休業との違い
廃業は法律上で定義されている言葉ではないため、「倒産」「閉店」「休業」などと混同されがちです。ここでは、廃業と比較したそれぞれの違いを解説します。
倒産との違い
廃業と倒産は、自主的に事業・経営を終了するか、やむを得ず終了するかが異なります。
廃業は、資金的な問題に限らず自らの判断で事業・経営を終了することから、「自主廃業」とも呼ばれています。
一方、倒産は債務超過や業績不振などによって経営に行き詰まり、事業継続が困難な状況を指します。倒産に至る経緯から、債務を抱えている場合は支払いが滞ったり、完済できなかったりするケースが一般的です。
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閉店との違い
閉店とは、運営している店舗を閉めることです。閉店は「その日の営業を終了する場合」と、「倒産・廃業などによって店舗を終了する場合」の両方の意味で用いられます。
実店舗とネットショップ(ECサイト)の区別はありませんが、廃業と同様の意味で「閉店」が用いられるのは、事業者が1店舗しか運営していない場合に限られます。つまり、複数の店舗を運営していてそのうち1店舗のみを閉店する場合には「廃業」とは言いません。
休業との違い
廃業は企業・事業の消滅を意味し、休業は企業や事業を残したまま、一時的な活動停止を指します。
休業は税務署・労働基準監督署・各自治体に休業届を提出する必要がありますが、廃業に比べて手続きが容易である点が特徴です。
なお、休業中は利益が発生しないため、法人税・所得税・住民税など、利益に連動する税金は原則としてかかりません。
廃業するメリットやデメリット
廃業する際のメリット・デメリットをそれぞれ解説します。
廃業のメリット
廃業の主なメリットは「経営のプレッシャーから解放されること」と「資金が残ること」の2点です。
経営のプレッシャーから解放される
廃業をする大きなメリットは、経営にまつわるさまざまなプレッシャーから解放されることです。経営は思考と判断の連続で、経営者には常に大きなプレッシャーがつきまといます。
具体的には以下のようなものです。
- 資金繰り
- 将来の見通し
- 経営戦略
- 後継者問題
- 債務問題
- 責任問題
廃業にはそれなりの手間や時間がかかりますが、会社と事業そのものが消滅するため、上記のようなことに頭を悩ませる必要がなくなります。
資金が残る
企業・事業の状況にもよりますが、廃業は経営者の手元に資金が残りやすいと言えます。早めに廃業を選択することで債務拡大を防止し、借入金や退職金などを払い切れる可能性が高くなるでしょう。
仮に債務超過や業績不振によって倒産の道を歩んだ場合、手元に資金が残らないどころか、債務の完済すら困難になってしまいます。
廃業のデメリット
廃業は決して前向きな出来事ではないため、複数のデメリットが存在することも理解しなければなりません。主なデメリット4つについて解説します。
従業員が失業する
廃業により従業員が失業してしまうのは大きなデメリットと言えます。
会社が消滅する時点で従業員は全員退職しなければならず、全員が失業後すぐに次の仕事が見つかるとは限りません。失業・無収入の期間が長引けば生活にも大きな影響が出てしまうため、経営者に対する不満につながる可能性があります。
そのため、場合によっては再就職支援を実施することも必要になるでしょう。
取引先に影響を与えてしまう
これまでの取引先にも少なからず影響を与えてしまいます。取引先は廃業した自社に代わる取引先を探し、また新たに時間をかけて関係を構築していく必要があるためです。
廃業による影響は決してポジティブなものではないため、長年付き合いがあった相手だったとしても、良好な関係を維持するのは困難な場合が多いでしょう。
これまで取り組んできた事業を失う
これまで取り組んできた事業、それに伴う実績やノウハウ、許認可、培ってきた人間関係などをすべて失ってしまう点も大きなデメリットです。
どんな会社でも、さまざまな出来事や苦労を乗り越えてきた集大成と言えます。思い入れがあればあるほど、それらが失われることに喪失感を覚えるかもしれません。
別の事業に活かせる可能性もありますが、新たな事業に合わせてカスタマイズしたり、新たな法人の設立に手間や時間がかかったりします。
廃業費用が発生する
廃業にあたって、以下のような費用が発生する点もデメリットです。
- 解散登記:30,000円
- 清算人登記:9,000円
- 清算結了登記:2,000円
- 国の機関紙官報による公告:1行につき3,589円
このほかにも、債務がある場合はその返済費用、従業員がいた場合は給与や退職金などを支払う必要があります。廃業しても支払い義務が残る費用もあるため、廃業前にしっかり確認のうえ考慮すべきでしょう。
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廃業する際の5つの手続き方法
ひとくちに廃業といっても、手続き方法には複数の選択肢があります。ここでは代表的な廃業の手続きを5つ解説します。
1.通常清算
通常清算は、資金面に大きな問題がなく、自主的に廃業する際に採用される手続きです。資産が負債を上回っている場合は問題なく実施でき、早めに清算することで資産を残せる可能性も高くなります。
ただし、債務超過などの理由により債務を完済できない場合は通常清算を行えないため、注意が必要です。
2.特別清算
特別清算は、債務超過などにより通常清算を行えない場合に選択する、倒産手続きのひとつです。完済できない債務について、債務者との相談や裁判所の許可によって債務の一部を免除してもらうよう求めることになります。
手続きは裁判所監督のもと、「協定型」「和解型」のいずれかの方法で清算人を中心に実施されるのが一般的です。
3.破産
破産も特別清算と同様、倒産手続きのひとつです。ただし、裁判所から破産手続きを行う「破産管財人」が選任される点で特別清算とは異なります。
破産管財人とは、当該企業の破産手続きにおいて、財産を管理・処分できる権利を有する者で、申し立てを行った裁判所が管轄する地域の弁護士が選任されるのが一般的です。債権・債務の整理に経営者はほとんど関与できず、株主や債権者の同意は不要で、破産管財人の判断に委ねられます。
会社に資産が残る場合は弁済に充てられますが、負債が残ってもその企業には支払い能力がないため、企業とともに債務も消滅します。
4.経営者保証
事前に経営者保証を設定している場合は、経営者保証に基づく債務整理を行うケースもあります。
経営者保証とは、経営者自身が会社の連帯保証人となることで金融機関から融資を受ける方法です。企業が倒産して融資の返済が困難な場合、連帯保証人である経営者個人が債務を返済する必要がありますが、個人の資産で補えるケースは稀です。
このような場合に、中小企業庁と金融庁が定めているガイドラインに則って、経営者の自宅や生計費に使用する預貯金などを残して債務処理を行える場合があります。
5.私的整理
私的整理とは、裁判所を通さず経営者と債権者で個別に交渉を実施する方法です。
私的整理は非公開で行うことも可能で、社会に広く知られることなく廃業を完了できるメリットがあります。一方、経営者自身が債務の免除や支払猶予などの交渉を行う必要があり、難航することも多いため、専門知識を有する弁護士を通して交渉を進めるのが一般的です。
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廃業手続きの流れ
代表的な廃業手続きである通常清算を行う場合、具体的な流れは以下のとおりです。
- 株主総会で解散を決議する
- 清算人を決定する
- 債権の整理・届出を行う
- 財産目録・貸借対照表を作成する
- 残余財産の現金化・債権の回収で資金調達を行う
- 債務がある場合は弁済を行う
- 残余財産がある場合は株主に分配する
- 決算報告を行う
- 清算結了の登記申請を行う
なお、特別清算や破産など、実施する廃業手続きによって内容や流れが変わるため注意が必要です。
廃業を回避するには?
廃業を回避したい場合の3つの選択肢について解説します。
M&Aを活用した事業承継
M&Aを活用した事業承継を行うことで廃業を回避できる可能性があります。売却先が事業を継続して運営していくことになるためです。
廃業はノウハウを含む企業そのものの消失を意味し、金銭的にプラスになることはありませんが、M&Aで事業を売却した場合はノウハウなどが残り、収入になる可能性もあります。また、従業員の雇用を維持できることも大きな利点です。
近年はM&Aに特化した仲介サイトやサービスが増えているため、廃業を回避したい場合は積極的に検討すべき選択肢と言えます。
事業後継者の育成
事業後継者を育成することで廃業を回避できるケースもあります。
特に、親族経営を続けてきたものの親族に継ぎ手がいない場合などは、役員や従業員といった第三者に承継するのもひとつの方法です。事業承継税制による国の支援策も用意されているため、親族経営にこだわらない場合は検討してみるとよいでしょう。
事業の再建を図る
債務超過や経営不振が廃業を検討する原因になっている場合は、事業の再建を図る道もあります。
民事再生などの再建型手続きの他、専門的なコンサルティングサービスを受けたり、新事業を育てたりすることで経営を立て直せる場合があります。
事業の再建を支援する融資や補助金などもあるため、廃業を回避したい場合に検討したい方法のひとつです。
国が実施している事業承継支援
国が実施している事業承継支援の取り組みを2つ紹介します。
納税が延期・免除される「事業承継税制」
事業承継税制とは、事業承継を目的として後継者が取得した株式等一定の資産について、課税される贈与税・相続税の納税猶予を受けられる制度です。さらにその後、一定期間要件を満たし続けることで猶予された税額が免除されます。
円滑に事業承継ができるよう、通常よりも贈与税・相続税の負担を軽減する制度で、現在は個人向けの事業承継税制も用意されています。
[出典:国税庁「事業承継税制特集」]
経費に補助金が支払われる「事業承継・引継ぎ補助金」
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継にかかる費用や、事業統合・再編を行うための費用に対して補助金が支給される仕組みです。
事業承継・引継ぎ補助金には以下3つの類型があり、上限額と補助率は以下のとおりです。
- 経営革新事業:上限600万円または800万円、補助率2/3または1/2
- 専門家活用事業:上限600万円、補助率2/3または1/2
- 廃業・再チャレンジ事業:上限150万円、補助率2/3
事業承継・引継ぎ補助金には規模の制限がなく、条件さえ満たしていれば小規模事業者や個人事業主も対象になる点が特徴です。
[出典:事業承継・引継ぎ補助金事務局「事業承継・引継ぎ補助金」]
廃業の意味を理解して最適な選択を取ろう
経営者が自らの意思で事業や経営を終える廃業。後継者不足や労働者不足など、さまざまな理由で毎年4%前後の企業が廃業を選択しています。
廃業にはいくつかの種類があり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。ただし、これまでに積み上げてきたノウハウや実績が消滅してしまううえ、従業員全員が失業してしまうなどのデメリットは共通です。
廃業を検討する理由にもよりますが、M&Aや事業の再建などを支援する制度があり、それらに取り組むことで廃業を回避できる可能性もあります。廃業の意味や種類を正しく理解して、最適な選択肢を取りましょう。
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