人手不足の業界・職種とは?原因や企業がとるべき対策
多くの企業で問題となっている、「人手不足」。特に一部の業界において慢性的な人手不足が続いており、人手不足の問題が深刻化しています。本記事では、人手不足が特に厳しい業界・職種、人手不足がおきる原因のほか、人手不足に陥っている企業がとるべき対策を紹介します。
目次
人手不足が深刻な業界とは?
少子高齢化が進む日本では、多くの企業が人手不足に悩まされています。そのなかでも、特に以下の6つの業界は人手不足が深刻であるといわれています。
- 建設・製造業界
- 医療・福祉・介護業界
- 飲食・サービス業界
- 流通・運送業界
- IT業界
- 宿泊業界
各業界における現状や、人手不足の要因を詳しくみていきましょう。
建設・製造業界
建設・製造業界は、職人の高齢化や若手人材の流出が深刻な問題です。国土交通省によると、建設業就業者数は1997年をピークに減少傾向にあり、2020年における29歳以下の割合は約12%。全体の約36%が55歳以上であり、後世への技術継承が途絶えてしまうのではないかと懸念されています。
また、経済産業省が公表している「2022年度版ものづくり白書」によると、製造業においても若年就業者数は減少傾向となっています。
以前より建設・製造業界は「3K(きつい・汚い・危険)」の労働環境といわれてきました。肉体労働であるのに加え、「職人気質な人が多くて指導が厳しそう」「残業が多そう」というマイナスイメージを持たれやすく、若者から敬遠されがちです。しかしながら、相次ぐ災害やインフラの老朽化にともなって建設・製造業界の需要は増しており、人材確保が急がれています。
[出典:国土交通省「最近の建設業を巡る状況について【報告】」]
[出典:経済産業省「2022年版ものづくり白書 第4章第1節ものづくり人材の雇用と就業動向等について」]
医療・福祉・介護業界
厚生労働省が公表している「令和4年版厚生労働白書」によると、医療・福祉分野における就業者数は増加傾向にあります。しかし、それを上回る勢いで高齢化が進行しているのが現状です。2040年に必要とされる医療・福祉就業者は1,070万人なのに対し、確保できるとみられる就業者数は974万人。このままでは医療・福祉就業者が96万人不足すると予想されています。
人の命を預かる医療・福祉・介護業界は、やりがいを感じる人も多い一方、心身ともに負担が大きい職業です。特に医療逼迫となった新型コロナウイルス禍は、退職を決断した医療従事者も少なくありませんでした。また介護業界では賃金も安く、業務内容に見合わないことから離職してしまう人も多いようです。
[出典:厚生労働省「令和4年版厚生労働白書ー社会保障を支える人材の確保ー 概要」]
飲食・サービス業界
飲食・サービス業は慢性的な人手不足に悩まされている業界です。その理由は、フルタイムで働く正社員よりも、パートやアルバイトとして働く労働者の割合が多い点が挙げられるでしょう。パートやアルバイトは短期間で離職する人が多い傾向にあるため、なかなか人材が定着しません。
また飲食店・サービス業は廃業率が高い業界です。特に新型コロナウイルス禍は多くの企業が大打撃を受けました。そのため、「正社員になっても安定的に働けないかもしれない」という不安から、飲食・サービス業への就職を避ける人も少なくありません。
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流通・運送業界
ECサイトが普及したことにより、荷物の流通量は大幅に増加しています。特に外出制限が行われた新型コロナウイルス禍は、配送サービスが大活躍しました。しかしながら、流通量に対して、配送を行うための人員が追いついていないのが現状です。
流通・運送業界の人手不足を加速させた背景には、1990年に国が行った事業規制緩和があります。規制緩和を行ったことで新規事業者が急増し、過当競争を引き起こしました。その結果、ドライバーは低賃金、長時間労働といった過酷な環境下での労働を強いられることになったのです。無理な働き方による離職や若手の流失は人手不足の一因となっており、労働環境の是正が進められています。
IT業界
IT業界もまた、人手不足に悩まされている業界のひとつです。経済産業省が2016年に公表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、2030年には最大約79万人のIT人材が不足することが予想されています。
若者からの人気が高まっているように思えるIT業界ですが、専門知識を有する人材はまだまだ足りません。特に地方におけるIT人材不足が課題となっています。今後もIT化は加速することが予想されており、優秀なIT人材確保の需要が高まっています。
[出典:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果~ 報告書概要版 ~」]
宿泊業界
宿泊業も人手不足が嘆かれる業界です。宿泊業は朝から晩までサービスを提供しなければならないため、シフトが不規則であり、体力面の負担も大きい仕事です。過酷な労働環境であるのに加えて、賃金も高くないことから離職してしまう人が多い傾向にあります。
新型コロナウイルス禍、宿泊業は外出規制や入国制限によって打撃を受け、離職を決断した人もいました。しかしながら制限が緩和され、国内旅行だけでなくインバウンド需要も回復していくことが予想されます。人手不足が解消されないなかで宿泊業の需要が高まることで、今後、宿泊業従事者の負担が増える恐れがあります。
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人手不足が深刻な職種とは?
業種に限らず、以下の職種では人手不足が深刻な課題となっています。
- 会計・経理職
- エンジニア職
いずれも企業を支える重要な職種であり、人材確保が急務とされています。
会計・経理職
人手不足とされる職種のひとつは、会計・経理職です。企業のお金を管理する会計・経理職は、バックオフィス業務のなかでも事業や経営に影響を及ぼす大事な仕事である一方、事業に直接的には関与しない「間接部門」であることから、採用が後回しにされやすい傾向にあります。その結果、専門スキルを扱える社員の高年齢化が進行しているのです。
IT化によって会計・経理業務の省人化も進んでいるため、「将来的に仕事がなくなるのではないか」という不安を抱く人が増えていることも、人材が育たない要因の一つと言えるでしょう。
エンジニア職
AI技術の発展、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進などの影響により、エンジニア職の需要は高まっています。しかしながら、エンジニアは高度な知識が求められるのに加えて、常に新たな技術を習得しなければならず、激変するIT化に対応できる人材の育成が追いついていないのが現状です。
エンジニアは「きつい・帰れない・給料が安い」の三拍子が揃った、3Kの仕事ともいわれてきました。「会社に寝泊りしていて、家に帰れなさそう」というネガティブなイメージから敬遠されてしまうことも人手不足につながっています。
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人手不足になる原因
企業が人手不足に陥る主な原因として、以下の4つが考えられます。
- 少子化・高齢化が進んでいる
- 人材獲得競争が激しくなっている
- 働き方の多様化が進んでいる
- 採用のミスマッチが発生している
少子化・高齢化が進んでいる
日本の企業が人手不足に陥っている大きな原因は少子高齢化です。総務省が公表している「令和4年版高齢社会白書」によると、出生数は年々減少し、それにともない生産年齢(15歳~64歳)も1995年以降減少し続けています。2050年の生産年齢人口は、2021年から29.2%減少した5,275万人になると予想されており、日本全体として労働力不足が課題となっています。
日本全体の人口が減少しているのに加え、都心部への人口流出が続いていることから、特に地方の高齢化が深刻であり、定年年齢の引き上げや多様な人材の活用による人材確保が求められています。
[出典:総務省「令和4年版高齢社会白書 第1部第2章第1節 今後の日本社会におけるICTの役割に関する展望」]
人材獲得競争が激しくなっている
厚生労働省によると、2023年5月の有効求人倍率は1.31倍です。求職者数よりも求人数が多い「売り手市場」の状態が続いています。またグローバル化によって日本人の海外流出も進んでおり、人材確保競争は激しさを増しています。
各企業においても、中途採用や短時間勤務の雇用に注力する、働きやすい環境作りを行うなど、魅力ある職場作りに努めています。その一方、採用活動にまで経費をかけられずに人材確保が進まない中小企業も多いのが現状です。
[出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年5月分)について」]
働き方の多様化が進んでいる
人材確保が難航している背景には、働き方の多様化も関係しているでしょう。多くの人が持つのは、一つの企業で働き続けることをよしとする価値観・仕事観ではなくなっています。転職が当たり前になっただけでなく、組織に属さないフリーランス人口も増加しており、人材確保はさらに難しくなってるのです。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、リモートワークが普及しました。自宅で仕事ができてワークライフバランスを整えやすいことから、多くの労働者に支持されており、新たな働き方として確立されています。ところが、人手不足が深刻な業界の多くはリモートワークができない仕事であるという特徴があり、人材が集まりにくいという実態もあります。
採用のミスマッチが発生している
採用のミスマッチが原因で人手不足に陥っている可能性も考えられます。たとえば、企業のイメージアップを図るために、求職者に会社のメリットしか伝えていない企業もあるでしょう。しかしそれでは入社後にギャップが生じ「自分には合わない」と早期離職を招いてしまいます。焦らずに企業と求職者の相性を見極めることが大切です。
また勤務時間や経験年数などの制限があることで、採用できたはずの人材を逃している場合もあります。企業側と求職者側のミスマッチを防ぐためには、採用前によく話し合い、柔軟な対応ができないかを検討することが求められます。
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人手不足による問題とは?
人手不足は企業にどのような影響をもたらすのでしょうか。人手不足がもたらす問題を解説します。
組織の発展・成長が見込めない
人手が足りないことで、組織の発展や成長が見込めなくなる恐れがあります。組織が成長するためには、サービスの質を向上させる、新たな事業を展開するといった取り組みが必要です。しかし、人手が足りなければ現状の業務を維持することで手一杯となり、新たな施策への着手が難しくなります。新事業の展開だけでなく新人教育も十分に行えなくなるため、業務の質を維持できず、組織の成長が止まってしまうのです。
さらに人手不足が深刻化してしまうと、業務が回らないことで経営が不可能となる「人手不足倒産」に陥る可能性もあります。近年、人手不足倒産は増加傾向にあり、労働力の確保は企業の存続に関わる重大な課題として認識されています。
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1人あたりの業務量が増加する
人員が足りなかったとしても、企業を存続させるためには業務を継続しなければなりません。その結果、人手不足の企業では社員1人あたりの業務量がどんどん増加していきます。
業務量が増えることで、これまで以上に残業時間が伸びたり、休日出勤をしなければならないケースも生じるでしょう。ここで問題となるのが、無理な働き方が募ることで、新たな離職者が生まれやすくなることです。人手不足と離職の悪循環が止まらなくなり、さらに人手不足が加速する結果となってしまいます。労働環境を整えたり、業務効率化ツールや社外の人材を活用するなど、社内リソースの省人化を進める対策が必要となります。
人手不足の企業がとるべき対策
人手不足による問題を解決するためにはどうしたらよいのでしょうか。人手不足で悩んでいる企業がとるべき対策を5つ紹介するので、ぜひ参考にしてください。
- 職場環境・労働条件を改善する
- 業務の自動化を推進する
- 女性・高齢者・外国人を採用する
- 社員の生産性を高める
- ブランディングの強化を進める
職場環境・労働条件を改善する
人手不足を解消するためには、社員が働きやすいと思える職場作りが不可欠です。残業時間や有給取得率のほか、ハラスメントの有無、設備の不備などがないかを確認し、改善を図りましょう。
また近年は、仕事だけでなくプライベートも大切にする「ワークライフバランス」の充実も職場選びの基準となっています。社員のライフプランに合わせた働き方ができるよう、時短勤務やリモートワークを取り入れる、副業・兼業を推進するなどの取り組みが有効です。働きやすい職場作りは、求職者に対するPRにもなるでしょう。
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業務のIT化・省人化を推進する
少子高齢化が進み、人口は今後も減る一方です。そのなか人手不足解消の手段として、各業界において業務の自動化が進められています。たとえば、以下の取り組みがあります。
- 建設業:ドローンによる現場の測量
- 医療:カルテの電子化
- 飲食業:タッチパネル式による注文
- 運送業:宅配ロッカーの設置
- 宿泊業:宿泊者名簿の電子化
政府としても、デジタル機器や情報処理テクノロジーを活用するICT(Information and Communication Technology)化を促進しており、省人化が試みられています。
女性・高齢者・外国人を採用する
人手不足とはいうものの、実際には「働きたくても働ける職場がない」という人はまだまだ多くいるものです。たとえば子育て中の女性の場合、早く社会復帰をしたいけれど、子どもの送り迎えなどの時間的な制約がありフルタイムでは働けないという場合があります。
また、定年を過ぎたあとも健康に動けるという高齢者は数多くいるでしょう。そこで、短時間勤務での雇用を可能にする、定年を引き伸ばすなど、労働条件を見直すことで採用できる人材の可能性が大幅に広がります。
近年は多様な人材を活用する「ダイバーシティ経営」に注目が集まっています。女性や高齢者のほか、障害者や外国人、LGBTQなど、それぞれの人材の価値を活かすことが人手不足解消につながるのです。
▷ダイバーシティとは?基礎知識から重要性・効果・課題・取り組み事例を解説
社員の生産性を高める
社員一人ひとりの生産性を高めることで、人手不足を解消できる可能性もあるでしょう。社員の生産性向上に向けた施策としては以下のものがあります。
- 労働環境の整備
- 業務効率化ツールの導入
- 適正な評価や報酬の設定
- 適材適所による人員配置の見直し
長時間労働や休日出勤が多いと心身が疲弊し、集中力も低下してしまいます。労働環境を見直すとともに、単純作業は業務効率化ツールを導入するなど、省力化に向けた取り組みが有効です。また、業務に対して適切な評価がされることでモチベーションの向上にもつながります。一人ひとりの生産性を向上させることで、労働力不足の解消を目指しましょう。
ブランディングの強化を進める
ブランディングとは企業のイメージや価値を作り上げることです。人材を確保するためには、社会や求職者から良い印象を持ってもらうことが大切です。ブランディングを強化し、求職者に対してPRを行いましょう。
ブランディングの方法としては、ホームページやSNSで積極的に働きやすい環境施策を紹介する、プレスリリースで取り組みを発信するなどがあります。「この会社は働きやすそうだ」と思ってもらえるような取り組みとPRが大切です。
▷人材確保を成功させるには|取り組みの事例や参考にしたいアイデア・定着させる秘訣
自社に最適な対策を講じ人手不足を解消しよう
人手不足といわれる業界の現状や解決策などを紹介しました。人手不足は企業の存続に関わる重大な課題であり、早期かつ迅速な対策を講じる必要があります。
しかしながら人手不足を招いている原因は業界や各企業によって異なります。自社に必要な対策を行い、人手不足解消を図りましょう。
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