ユニバーサルデザインとは?具体例や種類・7原則を紹介

最終更新日時:2023/10/17

ダイバーシティ

ユニバーサルデザインとは

都市再開発のベースとなる考え方として取り組みが進められるユニバーサルデザインですが、具体的には、何を指す言葉なのでしょうか。本記事では、ユニバーサルデザインの種類や7原則について、具体例とあわせて紹介します。

ユニバーサルデザインとは?

ユニバーサルデザインとは、「ユニバーサル」の言葉が持つ普遍的という意味どおり、年齢や性別、国籍、能力などに関係なく、すべての人が利用しやすいデザインを意味する言葉です。

また、ユニバーサルデザインは、単に「見た目」だけを指すものではなく、モノやコト、建物の設計・構造など、ありとあらゆる人が平等に使える「使い勝手」という意味合いで用いられています。

ユニバーサルデザインの歴史について

ユニバーサルデザインはもともと、1963年にデンマークで生まれた「ノーマライゼーション」という考え方に端を発しています。ノーマライゼーションとは、「障がい者が、特別な環境や施設のみに隔離されることなく、みんなで一緒に暮らせる社会を目指しましょう」という考え方です。

その後、幼い頃の病気が原因で電動車いすを利用していた、米国ノースカロライナ州立大学の教授であり、建築家のロナルド・L・メイス教授が、1980年代に「ユニバーサルデザイン」を提唱し、広めていったと言われています。

当時のアメリカでは、すでに「バリアフリー」が浸透しつつあり、階段へのスロープの設置などが進んでいました。しかし、この考え方では、階段などの「バリア」ができるたびに、それらを解除するための特別な取り組みが必要になります。

そこで、「最初からできるだけ多くに人たちにとって使いやすいデザインにするべきである」としたのが、メイス教授が提唱した「ユニバーサルデザイン」です。

その後、1990年にアメリカで制定された「障害を持つアメリカ人法」によって、障害を持つ人々でも公共交通機関や公共施設を使いやすいものにしていく取り組みが始まりました。

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国内におけるユニバーサルデザインの取り組み

日本でも、1994年に障害者の就労を支援するための法律「ハートビル法」の制定を皮切りに、2005年に国土交通省が「ユニバーサルデザイン政策大綱」を発表するなど、心のバリアフリーにも配慮した建築への対策が広まっていきました。

また、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催にあたっては、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」が掲げられるなど、ユニバーサルデザインを広めていく取り組みは現在でも続いています。

インクルーシブデザインやバリアフリーとの違いとは?

ユニバーサルデザインと混同されがちな、インクルーシブデザインやバリアフリーについて、その違いも詳しく確認しておきましょう。

インクルーシブデザインとは?

インクルーシブデザインとは、ユニバーサルデザインと同様に「すべての人々が利用できるデザイン」を目指す点においては共通していますが、そのアプローチが大きく異なります。

たとえば、ユニバーサルデザインでは、車いすの人と歩行者が、同じ出入り口を利用できるデザインを目指します。

一方、インクルーシブデザインは、それぞれのニーズや能力の違いを考慮に入れ、「それぞれに適したデザインを提供する」ことを目指すものです。視覚障がい者を考慮した音声読み上げ機能、聴覚障がい者への字幕や手話など、ニーズに合った昨日の提供は、インクルーシブデザインの一例といえるでしょう。

つまり、ユニバーサルデザインは「すべての人が同じように使える」を目指し、インクルーシブデザインは「すべての人が自分に合った方法で使える」を目指す、という違いがあります。

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バリアフリーとは?

バリアフリーとは、特定の人々にとっての障害を排除したデザインのことです。たとえば、階段を昇り降りするのが難しい車いすの人に配慮し、階段にスロープを設けて昇り降りしやすくすることなどをバリアフリーと呼びます。

バリアフリーが「特定の人々にとって使いづらい」ものに工夫を加えて使いやすくすることであるのに対し、ユニバーサルデザインはデザインプロセスの初めから「すべての人々が使いやすい」デザインを念頭に置いている点が異なります。

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ユニバーサルデザインの7原則とは?

ユニバーサルデザインの7原則とは、すべての人にとって使いやすいデザインを目指すうえでの基準となる考え方を示したものです。

それぞれの概要などを詳しく見ていきましょう。

[出典:国立研究開発法人建築研究所「ユニバーサルデザイン7原則」]

1.誰にでも公平に利用できること

誰もが利用できる作りになっていること、手に入れるのが容易なことという意味です。

原則1の中で定められたガイドラインは次の通りです。

【ガイドライン】

1a.誰もが同じ方法で使えるようにする:それが無理なら別の方法でも仕方ないが、公平なものでなくてはならない。

1b.差別感や屈辱感が生じないようにする。

1c.誰もがプライバシーや安心感、安全性を得られるようにする。

1d.使い手にとって魅力あるデザインにする。

具体例としては、自動ドアや段差のない歩道などが挙げられます。どんな人でも自動ドアの前に立てば扉が開き、段差がなければ歩道を移動できることにより、障がい者の方が特別扱いされていると感じることなく、自然に利用できることが特徴です。

2.使う上で自由度が高いこと

2つ目の原則は、利用者の好みや特性に寄り添った使い方ができる自由度の高いデザインであることです。

【ガイドライン】

2a.使い方を選べるようにする。

2b.右利き、左利きどちらでも使えるようにする。

2c.正確な操作がしやすいようにする。

2d.使いやすいペースに合わせられるようにする。

具体例として、利き手にかかわらず両方の手で使えるハサミや、目が不自由な人でも楽しむことができる表面に凹凸が施されたルービックキューブなどが挙げられます。また、壁の両側に複数の高さの手すりをつけた階段も、利き手や身長のにかかわらず利用しやすい設計を目指した、原則2を満たすユニバーサルデザインの一例といえるでしょう。

3.使い方が簡単ですぐわかること

原則3では、使用するうえで理解力や練習などを必要としないシンプルなデザインであることを定めています。

【ガイドライン】

3a.不必要に複雑にしない。

3b.直感的にすぐに使えるようにする。

3c.誰にでもわかる用語や言い回しにする。

3d.情報は重要度の高い順にまとめる。

3e.操作のためのガイダンスや操作確認を、効果的に提供する。

代表例としては、家電製品やシャンプーとリンスのボトルデザインなどが挙げられます。

家電製品は、電源、強弱の調整などのスイッチ表示がわかりやすく、初見でもある程度マニュアルを見ずに使用可能です。シャンプーとリンスはボトルに突起が施されており、目が不自由な方でも取り間違えることがないように工夫されています。

4.必要な情報がすぐに理解できること

原則4では、個人の持つ知覚能力にかかわらず、誰もが製品の情報を理解できるデザインが求められます。

【ガイドライン】

4a.大切な情報を十分に伝えられるように、絵や文字、手触りなど異なった方法を併用する。

4b.大切な情報は、(例えば大きな文字で書くなど)できるだけ強調して読みやすくする。

4c.情報をできるだけ区別して説明しやすくする(やり方が口頭で指示しやすくなるように)。

4d.視覚、聴覚などに障害のある人が利用しているさまざまなやり方や道具でも、情報がうまく伝わるようにする。

具体例としては、電車モニターの多言語表示や多言語アナウンスのほか、ピクトグラムは、イラストや記号により、言語の壁を超えて誰もが情報を理解できるユニバーサルデザインの最たる例といえるでしょう。

5.うっかりミスや危険につながらないデザインであること

原則5は、使用時のミスで危険を招かないようなデザインであることを意味します。

【ガイドライン】

5a.危険やミスをできる限り防ぐ配慮をすること:頻繁に使うものは最もアクセスしやすくし、危険なものはなくしたり、隔離したり、覆うなどする。

5b.危険なときやミスをしたときは警告を出す。

5c.間違っても安全なように配慮をする(フェイルセーフ)。

5d.注意が必要な操作を、意図せずにしてしまうことがないように配慮する。

たとえば、電子レンジは、使用中に扉を開けた場合、自動停止するようになっており、電気ポットの電源コードはマグネット式の接続で、コードに手や足を引っ掛けた時も簡単に外れ、電気ポット本体の転倒による火傷のリスクを回避できる設計になっています。

6.無理な姿勢をとることなく少ない力でも楽に使用できること

原則6では、使用者の身体へ負担がかからないデザインであることを定めています。

【ガイドライン】

6a.自然な姿勢のままで使えるようにする。

6b.あまり力を入れなくても使えるようにする。

6c.同じ動作を何度も繰り返すことを、できるだけ少なくする。

6d.体に無理な負担が持続的にかかることを、できるだけ少なくする。

具体的には、レバー式の水道の蛇口や自動販売機などがあげられます。

レバー式の水道の蛇口は、力を込めてひねる蛇口とは違い、少ない力で水を出すことが可能です。自動販売機は、かがまずに商品が取れるように工夫された製品もあり、原則に沿ったユニバーサルデザインの一つといえます。

7.アクセスしやすいスペースと大きさを確保すること

原則7では、すべての利用者が快適に利用できるスペースと、大きさが確保されていることが重要であると定められています。

【ガイドライン】

7a.立っていても座っていても、重要なものは見えるようにする。

7b.立っていても座っていても、あらゆるものに楽に手が届くようにする。

7c.さまざまな手や握りの大きさに対応する。

7d.補助具や介助者のためのスペースを十分に確保する。

駅やショッピングモールなどにある多機能トイレや車いすマークの駐車場スペースなどが、原則7に該当するユニバーサルデザインの具体例として挙げられるでしょう。

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ユニバーサルデザインの種類

ユニバーサルデザインには、大きく分けて2つの種類があります。

「モノ」に関するユニバーサルデザイン

「モノ」に関するユニバーサルデザインとは、建物や製品において誰もが使える設計を意味します。また、使用説明などを読まずとも、一目で使い方の分かるボタンレイアウトなどもこれに含まれるでしょう。

たとえば、多機能トイレや自動ドア、エレベーターなどのボタンは、多くが「ひと目で使い方が分かる」デザインになっています。

「情報」に関するユニバーサルデザイン

情報に関するユニバーサルデザインには、誰もが欲しい情報にたどり着けるインターネット上のアクセシビリティ、文字だけでなく、図表、イラスト、アイコンなどを使って、複雑な情報の視覚的な理解を助けるデザインなどが挙げられます。

大きくて見やすいフォントや配色、ボタンとわかりやすいようなデザインに工夫したりなど、使いやすさとわかりやすさを重視したユニバーサルデザインにすることが大切です。

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ユニバーサルデザインの具体例

最後に、実は意外と身近にあるユニバーサルデザインの具体例を紹介していきます。

シャンプー・リンスの容器

シャンプー・リンスの容器には、シャンプーボトルにのみ、ボトルの側面もしくは上部分に、小さな突起がついています。これは目が不自由な人や目を閉じていても、シャンプーとリンスの区別がつくようにデザインされたものです。

ペットボトル・アルコール飲料の缶

ビールや酎ハイなどは、アルコール飲料と清涼飲料の区別がつくよう、缶の飲み口部分に「おさけ」や「ビール」という点字表記がつけられています。

また、ペットボトルには握力の弱い人でも扱えるよう、ボトル部分にくびれを作る、表面に凹凸をつけるといった工夫が施されています。ペットボトル・アルコール飲料の缶は、ユニバーサルデザインによって、目の見えない人や力の弱い子ども、高齢者でも扱いやすいように細かな配慮が行き届いていることが特徴です。

ノンステップバス

バスの床面を低く設計し、停留所の地面との段差を極力少なくしたバスをノンステップバスと呼びます。小さな子どもや昇り降りの難しい高齢者、松葉杖をついている人、キャリーバッグなど大きな荷物を持っている人でも安全に乗降できるようにするための設計です。

また、ノンステップバスについている補助スロープを使用することで、さらにスムーズな乗降が可能です。

エレベーター・エスカレーター・階段

階段に併設された緩やかなスロープ、車椅子ユーザーや視覚障害者も利用しやすいように配慮されたエレベーターのボタン位置やデザイン、速度の違うエスカレーターなどもユニバーサルデザインの一例です。

特に、エレベーターの「開」「閉」ボタンは、押し間違いによる事故が起きないよう、文字ではなく矢印のイラスト表示になっています。

自動ドア

自動ドアもユニバーサルデザインの代表例の一つです。大人、子ども、老人、障害の有無などに関係なく、ドアに近づくことでドアが開閉します。また、両手が荷物などでふさがっていてドアが開けられない人にも配慮されている点もポイントです。

自動販売機

自動販売機にもユニバーサルデザインが取り入れられています。誰もが手の届く商品ボタン位置、かがむことなく飲み物を取り出せる高めの取り出し口などがあげられます。ちょっとした違いではありますが、これらの工夫によってさまざまな人がストレスを感じずに利用可能です。

公衆電話・トイレ

自動の開閉ボタンで操作できるスライド式の扉、広い個室スペースや便座の周囲に設置された手すりなど、さまざまな人々の利用を想定していることがわかります。

また、公衆電話にもユニバーサルデザインが取り入れられています。スライド式の扉、ダイヤルボタンの点字など、使いづらさを感じる人が出ないような工夫が凝らされています。

ピクトグラム

ピクトグラムとは、直感的に意味を理解できるシンプルな絵文字や記号のことです。トイレのマークや非常口、歩行者用の信号など、ピクトグラムは、生活のあらゆるシーンで活用されています。

日常で何気なく目にしているものではありますが、ある人々にとっては大きな助けとなる、便利なユニバーサルデザインの一つです。

センサー式蛇口

センサー式蛇口は、手を近づけただけで自動的に水が出る仕組みです。握力が弱い人にとって、ひねるタイプの蛇口は、水を出すだけで一苦労ということもあります。

センサー式であれば、握力の弱い子どもや高齢者でもストレスフリーに利用可能です。

両利き用商品

両利き用商品もユニバーサルデザインの一つです。

たとえば両利き用のハサミは、右利きの人だけではなく左利きの人も不自由を感じずに使用できます。同じく両開きの冷蔵庫やドラム式洗濯機なども、利き手に影響されずに使えるほか、家の間取りを気にすることなく使えるユニバーサルデザインといえるでしょう。

紙幣

紙幣も目の不自由な人が、紙幣の種類を識別しやすいように、指の感触で識別できるマークがつけられているなど、ユニバーサルデザインが施されてます。

また、2024年度上半期に発行される新紙幣では、文字の大型化や紙幣ごとの識別マークの位置変更など、従来以上に判別しやすいさまざまな変更が加えられる予定です。

浴室

シャワーヘッドの位置が変えられる設計や、浴槽への出入を助ける手すりの設置なども、ユニバーサルデザインの一例です。そのほかにも、浴室には、床には滑りにくい素材が使用される、水がたまりづらい構造になっているなど、高齢者や子どもが安全に使用できるよう、転倒事故を防ぐためのさまざまな配慮が施されています。

音響・時間表示信号機

音響式信号機は、信号が変わった際に鳥の鳴き声などの擬音やメロディを流し、目の不自由な方でも信号が変わったことがわかりやすいように工夫されています。

また、時間表示される信号機では、青信号や赤信号の点灯時間や待ち時間が視覚的にわかるため、無理な横断を防いだり待ち時間のストレスを軽減したりすることが可能です。

ダイバーシティとは?基礎知識から重要性・効果・課題・取り組み事例を解説

ユニバーサルデザインの必要性を理解し取り組みを推進しよう

ユニバーサルデザインは、スロープ付きの階段、ピクトグラムや両利き用商品など、身近な設備やモノを思い浮かべてみると、意識していなくても生活の中に広く普及していることがわかります。

自分自身が、気づかないうちに、ユニバーサルデザインに助けられていることもあるでしょう。多様性への配慮に注目が集まる中で、ユニバーサルデザインが担う役割は今後もさらに大きくなっていくはずです。

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