人材戦略とは?目的や企業事例・参考にすべきフレームワーク、戦略の立て方
企業の経営目標を達成するためには欠かせない人材戦略。しかし、人材戦略とはどのような取り組みなのか分からず、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。本記事では人材戦略について、目的から参考にすべきフレームワークまで徹底解説していきます。
目次
人材戦略の目的とは?
人材戦略の目的は、企業の掲げる経営目標を達成するために必要な人事面での戦略です。たとえば、社員の確保や育成・適切な人員配置などが人材戦略に関わってきます。企業の求めるスキルや能力がある人物像を育成することで、経営目標の達成に活用します。
人材戦略に似た言葉の戦略人事は、事業ごとの目標達成が目的で人材業務を担う取り組みが違う点です。人材戦略では人材を有効活用し、今後の組織に関わる重要な取り組みを行います。
人材戦略と人事戦略の違い
人材戦略と似た意味を持つ言葉として、人事戦略があります。人事戦略とは、人事に関わる業務上のオペレーションで発生する課題を特定・改善して生産性を高めていくことを指します。
一方で、人材戦略は企業の経営目標を達成することに重点を置いているため、規模や範囲で異なると言えるでしょう。
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人材戦略の重要性
人材戦略は、優秀な人材の確保や育成した人材の能力を最大限に引き出せる配置を行い、人材の定着化を図る上で重要です。なぜなら1社で勤め上げる終身雇用が崩壊し、企業の中途採用が活発化しているからです。そのため企業は、社員の定着を向上させるためにもスキルを最大限に活かせる部署への配置や業務で社員のモチベーションを高めなければなりません。
他にも、優秀な人材を定着させ離職防止のためには、就労条件の見直しが必要です。また、社員のスキルや経験を人事部が把握することで戦略的な能力開発を行う、タレントマネジメントの浸透なども重要です。
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人材戦略の4つの要素
企業の経営目標を達成する上で重要となる人材戦略には主に4つの要素があります。ここでは、それぞれを詳しく解説します。
1.採用
人材戦略の中でももっとも重要な要素が採用で、企業が求める人物像にマッチするスキルの人材を採用することで企業への貢献が期待できます。
しかし、優れた人材を採用しても自社で活躍できるとは限りません。事前に自社とマッチする人物像を具体的にすることで、より自社にあう優秀な人材の採用ができます。
2.育成
採用がうまくいっても、企業に属する人材には育成プロセスが必要です。いくら優秀な人を採用しても、能力を発揮できなければ意味がありません。
育成には時間やコストはかかるものの、社員のスキルが伸びると企業への貢献度が高まります。研修だけでなく資格取得のサポートや自己啓発などの社員教育制度を充実させ、社員が学べる環境を整備しましょう。
3.配置
採用と育成を行っても、社員が適切な部署に配置されなければ意味がありません。適材適所への人材配置をおこなうことによって、その人材が持っている能力を最大限に引き出すことができます。
適切な配置とは、欠員のいる部署に配置することではありません。社員の能力を最大限発揮できる部署はどこなのか考えるためにも、人員配置には特に注意してください。
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4.定着
採用から育成・配置を適切に行ったら、社員の定着を目指しましょう。定着率が低いと採用や育成にかかるコストが無駄になってしまい、企業としても大きな損失につながります。
人材の定着を目指す上では、日常的な業務でのストレスや不満などを抱えないためにも、会社全体でフォローしてあげるのが重要です。業務の中でやりにくさを感じていないか・ボトルネックになっている部分がないかなどをヒアリングしましょう。
また、社員のエンゲージメントを向上させる意味でも福利厚生を充実させるのも大切です。どのようなサポートが従業員のためになるのか考えて環境を整備していきましょう。
人材戦略の4つのステップ
では実際に、人材戦略はどのような立て方をすればいいのでしょうか。ここでは、4つのステップで解説します。
1.経営戦略の理解を深める
経営戦略は人材戦略の基盤であり、経営戦略を正しく理解できていなければ、適切な人材戦略も策定できなくなります。そのため、人材戦略を決める前に企業の掲げる経営戦略への理解を深めることが重要です。
企業の掲げる目標数値や課題などのデータを収集することで、客観的な視点で経営戦略を理解できます。より効果的に経営戦略を理解するなら、組織マップの作成もおすすめです。
組織マップとは、戦略目標を達成するためのアクションを図で表したものです。組織マップを作成すれば、新しい課題や既存の課題整理などが容易に行えます。
2.自社に必要な人物像の特定
経営戦略を達成するために必要な人物像を特定し、持っている経験やスキルなど自社で活躍できそうな人物像を予め策定しておいてください。
事前に人物像を定義することで適切な人事採用ができます。また採用時期や採用人数なども細かく設定しておくと、より効果的な人材戦略が立案できます。
3.課題の把握・目標設定
自社の抱える課題の把握と人材戦略を通じた目標設定も重要な要素です。課題が把握できていなければ、必要な人材が不明確になります。また人材戦略の目標設定がなければ、採用や育成も曖昧になってしまいます。そのため現状と目標のギャップを明確にし、溝を埋められる人材の選定が必要です。
正しい現状を把握できなければ、目標設定も的確に行えません。理想を持つのは大事ですが、現状を把握して目標設定を行いましょう。
4.実現プロセスの設計
採用活動の見直し・育成フローの刷新・人材配置のアプローチ変更など、配置する実現プロセスを設計しましょう。実現プロセスの設計で重要な点は、現状を踏まえた上で現実的な取り組みを行うことです。経営目標など大きな目標に偏ると、取り組みが現実的ではなくなります。
人材戦略で参考にすべきフレームワーク
人材戦略では、企業の課題や状態を分析し、認識することが重要です。ここでは、人材戦略で参考にすべきフレームワークを3つ紹介します。
ロジックツリー分析
ロジックツリー分析とは、大きな目標に対して必要となる要素を分解して分析する方法です。たとえば1年後に従業員を50人増やすと考えた場合、目標達成に必要な要素を分解します。要素分解していけば、求人サイト経由の採用で〇人、エージェントからの紹介採用で〇人など、目標達成における戦略の立て方にも大きく役立つでしょう。
ロジックツリー分析のメリットは、問題の発見が容易に行える点です。ロジックツリー分析で全体像を把握すれば、原因の根本が早期に発見できます。また議論する中で論点がずれても、ロジックツリー分析を行えば全体像を共有できるため、ずれが見つかりやすい点もメリットです。
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SWOT分析
SWOT分析は縦軸に「内部環境/外部環境」を置き、横軸に「強み/弱み」を置いてそれぞれの掛け合わせで自社の現状分析を行うフレームワークです。主観では見えてこない課題・問題の洗い出しに役立つため、客観的な立場で分析したい場合に便利な手法といえるでしょう。
SWOT分析を行うためには、目的を明確にし前提条件を整理した上で多くの社員から意見を聞くことが重要です。社員の意見を聞くことで、共通認識が持てるため社員の意識改革にもつながります。
TOWS分析
TOWS分析は脅威・機会に対し、強み・弱みを組み合わせて分析するフレームワークです。クロスSWOT分析とも呼ばれ、SWOT分析で可視化した要素を組み合わせることでより具体的な戦略を策定できます。
TOWS分析は、自社にとって今後有効な経営戦略や事業戦略を作成する際に用いられます。
TOWS分析では企業の置かれている現状認識だけではなく、人材戦略の妥当性なども検討が可能です。よりロジカルに戦略検討を行いたい場合には、有効なフレームワークです。
人材戦略でフレームワークを活用する際のポイント
フレームワークを活用するポイントは、あくまでも手段だと認識することです。
人材戦略で達成したいことを念頭に置き、フレームワークで導き出した分析結果を戦略に活かすためにどうすればよいか考えることで効果を最大限に発揮できます。そのためフレームワークは、あくまでも人材戦略を打ち出す際に活用できる思考の枠組みと捉えておきましょう。
人材戦略への取り組み方
人材戦略を立てるだけでは効果を最大限に発揮できないケースもあるため、効果を最大化するための取り組みについて紹介していきます。
タレントマネジメントを実践する
従業員ごとのスキルやバックボーンなどを管理するためのタレントマネジメントを実施することにより、適切な人材配置や能力開発に取り組むことができます。
また、タレントマネジメントを実践することで従業員のモチベーション向上にも寄与するので、離職率の低下・エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
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多様な人材を採用する
人材戦略に取り組む上では多様性(ダイバーシティ)を意識して、様々なバックボーンを持つ多様な人材を採用する必要があります。
性別や国籍、年齢などに偏らず、様々な人材を雇用することにより、多角的な視点を持つことにつながり、労働環境の改善やビジネスの拡大などにつながるでしょう。
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プロフェッショナル人材戦略に取り組む
プロフェッショナル人材戦略は内閣が推進を支援している戦略であり、民間の人材ビジネス事業者を通して企業・プロフェッショナル人材のマッチングをサポートしてくれます。
プロフェッショナル人材は一般的な従業員とは異なり、一段上の視点から会社の成長戦略・プロジェクトの推進を担い、企業の成長に大きく貢献してくれるでしょう。
人材戦略の活用に成功した企業事例
国内企業の中には、人材戦略を有効活用し経営戦略達成に成功した企業事例があります。ここでは2社を紹介するので、自社の状況を踏まえて確認してください。
楽天グループ株式会社
楽天グループでは、Back to Basics Projectという採用・育成・定着を柱にしたプロジェクトを2017年より打ち出しています。
採用では、国籍・性別・宗教を問わず採用し、女性のキャリアサポートを行っています。育成では、研修制度の充実や1on1ミーティングの実施など、環境を整備しました。また定着では、フレックスや在宅勤務制度などさまざまな価値観で働く社員の考えを取り入れています。
参照元:楽天グループ株式会社「人材戦略」
ソニー株式会社
ソニー株式会社では、人材を「個」としてフォーカスした人材戦略を行っています。Attract(人材獲得)・Develop(人材育成)・エンゲージメント(Engage)の3つを、人材戦略共通のフレームワークとして設定しているのです。
Attractでは個人の挑戦や実力主義での評価など「個」を評価し、Developでは部門の垣根を越えた社員同士の交流などを打ち出しています。また、Engageでは社員の意識調査を積極的に実施し、組織改善に役立てることに成功しました。
参照元:経済産業省「企業の人材戦略に関する発信の好事例集」
人材戦略の重要性や目的を押さえておこう
本記事では、人材戦略の目的やフレームワーク・成功した事例などを紹介しました。人材戦略とは、企業の目標達成に必要な人事面での戦略です。
人材戦略では、採用・育成・配置・定着の4つの要素が重要です。特に採用は、優秀な人材だけでなく自社とミスマッチがないかの確認を行いましょう。人材戦略で活用できるフレームワークや実際の企業事例を参考にして、ぜひ自社の人材戦略に役立ててください。
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