経理業務における内部統制とは?重要性や取り組むべき課題
経営目標を達成するためには内部統制の整備・運用が欠かせません。企業の会計不正などの不祥事がクローズアップされる昨今、経理業務における内部統制の強化が求められています。本記事では経理業務における内部統制とは何か、重要性や成功のポイントとあわせて解説します。
目次
内部統制とは?
内部統制とは、企業が健全・効率的に事業活動を行うために必要なルールや仕組みのことです。具体的には、取締役(会)・監査役(会)・社内規定・承認システムなどが相互的に機能し、組織全体の指揮・監督機能を発揮する仕組みそのものを指します。
過去に企業の会計不正や機密情報の漏えいなど内部統制の不備による不祥事が相次いだことを受けて、2006年6月に金融商品取引法(金商法)が制定されました。そのなかで上場企業とその子会社、関連会社を対象とした内部統制のルールとしてJ-SOX(日本版SOX法)が規定され、2008年4月1日から現在に至るまで運用されています。
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内部統制の目的
内部統制の目的は、金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」で定義されています。内容を要約すると以下の4点です。
- 業務の有効性・効率性を高める
- 財務報告の信頼性を確保する
- 事業活動にかかわる法令遵守の促進
- 資産の保全を図る
それぞれの目的は独立したものとしながらも、企業の健全・効率的な事業活動を支えるものとして相互に関連している、と言及しています。1つずつ詳しく見ていきましょう。
業務の有効性・効率性を高める
内部統制を整備することで、業務遂行に必要な人・物・お金・時間といった資源を、より効率的に有効活用できるようになります。
迅速な情報共有や指揮命令の伝達、ITシステムの活用を通じて、事業活動の目的をスムーズに達成することにつながるでしょう。
財務報告の信頼性を確保する
財務諸表をはじめとする企業の財務情報は、株主の投資判断や取引先の与信管理などに大きな影響を与えます。
内部統制を通じて財務情報の透明性・信頼性が確保できると、対外的な信頼性向上につながり、企業としての評価も高まるでしょう。
事業活動にかかわる法令遵守の促進
内部統制を整備することで法令違反のリスクを軽減でき、企業の信頼性・価値向上につながります。
過去の度重なる不正や不祥事の事例から、法令遵守に対する社会の関心は日を追うごとに高まっている傾向にあります。企業がなんらかの法令に違反して社会的信用を失うことがないよう、内部統制の面からも法令遵守の促進が不可欠です。
資産の保全を図る
企業の事業活動に欠かせない資本は、正当な手続きによって取得され、適切に活用されることが重要です。
企業の資産には人的資源・知的財産・顧客データなどの無形資産も含まれます。万が一これらの資産が不正利用された場合は、企業としての信用を失うだけでなく、事業継続にまで影響する可能性があります。
情報のデータ化が進むにつれ、内部統制による資産の適切な保全・管理の必要性はさらに高まっていくでしょう。
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内部統制の基本的要素
前述の4つの目的と同様、内部統制の基本的要素についても、金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」のなかで定義されています。
内部統制は、以下6つの基本的要素で構成されています。
- 統制環境
- リスクの評価と対応
- 統制活動
- 情報と伝達
- モニタリング
- IT(情報技術)への対応
統制環境
統制環境とは、内部統制の目的を果たそうとする企業風土や組織の体質を指し、ほか5つの要素の基盤となる基本的要素とされ、以下のようなものが該当します。
- 誠実性・倫理観
- 経営者の意向・姿勢
- 経営方針・経営戦略
- 取締役会・監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会の有する機能
- 組織構造・慣行
- 権限・職責
- 人的資源に対する方針と管理
リスクの評価と対応
リスクとは、組織目標の達成を阻害する可能性がある要因を指し、外的リスク・内的リスクの2つに大別されます。
- 外的リスク:天災・盗難・競争の激化・社会情勢の急変 など
- 内的リスク:不正行為や違法行為の発生・会計ミス・システムの不具合 など
上記のようなリスクの発生可能性や頻度などを評価・分析し、解決すべきか回避すべきかを判断して適切に対処する必要があります。
統制活動
統制活動とは、適切に業務が遂行されるための方針や手続きのことで、権限の付与・職務の分掌・業務内容の明確化などの仕組みづくりが該当します。
たとえば、ひとつの決裁に複数人の承認を必要とするルールを整備すると、従業員同士でお互いの業務を監視・牽制する効果が働きます。このような仕組みを整備することで、不正やミスの発生を軽減・防止できるでしょう。
情報と伝達
情報の伝達とは、必要な人に必要な情報が適切に届くことや、情報が受け手に正しく伝わる体制づくりを指します。社内における情報伝達・共有はもちろんのこと、株主や監督機関などの社外への報告・開示も含まれます。
情報の伝達はほかの要素とも密接にかかわるため、非常に重要な要素と言えます。企業としてどのようなシステムや仕組みを主軸に運用するかがポイントとなるでしょう。
モニタリング
モニタリングとは、内部統制が適切に機能しているかを継続的にチェック・評価するプロセスを指し、以下の2つに分類されます。
- 日常的モニタリング:日常業務のなかで行われるダブルチェック・ルールの見直 など
- 独立的評価:経営者・取締役会・監査役・内部監査部門などによるチェック
内部統制は継続的に監視され、不備や不正が発見された場合は是正される必要があるため、事前に方針・対応・手続きなどについて定めておくと良いでしょう。
IT(情報技術)への対応
ITへの対応とは、組織の内外のITに適切に対応することを指します。
ITが適切に組織に浸透することで、ほかの5つの要素をより効率的かつ有効的に機能させることにもつながります。一方で、どんなに便利なITを導入しても、システムトラブルなどが発生すると組織の内外に大きな影響を及ぼします。
業務にITを活用するとともに、ほかの内部統制の機能を高められているかが重要なポイントとなるでしょう。
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経理業務における内部統制の重要性
内部統制の4つの目的のうち、経理業務において果たすべき目的は、「財務報告の信頼性を確保すること」と「資産の保全を図ること」の2つです。
社会全体から見ても、企業の不適切な会計処理が年々増加傾向にあります。不適切な会計処理には意図的でないミスと意図的な不正があり、意図的な不正の多くは「粉飾」と「横領」です。このような不正を未然に防ぐ意味でも、経理業務における内部統制への取り組みは非常に重要と言えます。
企業のお金の管理は経理部門が担っているため、お金にまつわる内部統制は経理部門が中心となって取り組んでいく必要があるでしょう。
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経理業務における内部統制の取り組むべき課題
経理業務における内部統制には、取り組むべき3つの課題が存在します。
1つ目は経営者による不正です。内部統制は経営者自身が整備するため、経営者の不正を内部統制で防止するのは非常に困難です。経営者が従業員に指示して不正を行う場合も同様で、内部統制だけで防止するには大きな課題が残ります。
2つ目は海外支社やグループ会社による不正です。海外支社は物理的に距離が離れているため、なかなか管理の目が行き届かない傾向があります。また、グループ会社は管理体制が独立していて全貌が把握できなかったり、そもそも親会社の評価対象に含まれていなかったりします。
3つ目の課題は時間経過による仕組みの形骸化です。ITの進化や法改正の影響など、経理を取り巻く環境は刻々と変化し続けています。導入当初の仕組みでは現環境に対応しきれない部分も出てくるため、定期的な見直しが必要です。
経理業務における内部統制にはこのような課題が内包されています。自社に該当するものがあれば別途体制を見直し、対策を講じる必要があるでしょう。
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経理業務における内部統制成功のポイント
経理業務における内部統制を成功させるためのポイントを6つ紹介します。
内部統制システムを構築する
経理業務における内部統制では、業務レベルでの内部統制システムを構築するのが効果的です。内部統制システムの基本的要件は以下の3点です。
- 業務を分担すること
- ダブルチェックの体制をつくること
- 承認者を設定すること(複数人にするとなお良い)
不正が起こる大きな要因のひとつとして、組織のお金の管理を1つの部門(または一人の担当者)で完結してしまう体制が挙げられます。
業務を分担する、ダブルチェックを行う、承認者を設定するなど、関係者が増えることでお互いの業務の監視・牽制が期待できるでしょう。
不正防止対策を見直し強化する
経理業務における不正を防止するためには、現場レベルで具体的な防止策を講じる必要があります。たとえば以下のようなものです。
- 取引の処理は2人以上で行う
(例)発注担当と検収担当を分ける - 同一事項の取引記録は2か所以上で行う
(例)金銭出納帳と得意先台帳・仕入先台帳の記録を別々の担当が行う - 切手・印紙・商品券などの換金性のある商品は購入者と管理者を別々にする
鍵付きの場所に保管し、管理簿で購入・使用の出入りを管理する - 売掛金の回収は銀行振込のみで行うことを徹底する
- 領収書は自社オリジナルの雛形を作成し、使用する
複写式の領収書の場合は、予め全てに連番を打っておく
書き損じは、×印などをつけ領収書控えとともに残す - 定期的に帳簿棚卸・実地棚卸を実施し、差異の発生原因を調査する
このように、不正が発生しにくい環境づくりに加えて、早期発見が可能な仕組みを構築することが重要です。
J-SOX3点セットを作成する
J-SOX対象企業では、以下の3点セットと呼ばれる書類を作成して業務や会計処理の流れを可視化するのが一般的です。
- 業務記述書
- フローチャート
- RCM(リスク・コントロール・マトリックス)
作成方法の決まりは特にありませんが、作成手順の例を簡単に紹介します。
- 各部門へのヒアリングや、業務マニュアル・社内規程などの資料をもとに、業務記述書とフローチャートの草案を作成する
- 現場部門の担当者に内容を確認してもらいながら、リスクコントロールを設定していく
- 作成した業務記述書とフローチャートをもとにRCMを作成する
評価基準を見直す
不正防止を強化したい場合は、評価基準を見直すのも効果的です。
たとえば評価者が部長職1人だけだった場合、評価者と被評価者が共謀して不正を働いた場合は発見が非常に困難になります。そのため、評価は2人以上で行うのが基本です。
また、評価基準に360度評価を導入する方法も有効です。同僚や部下などからも評価されることになり、監視の目を増やすことにつながります。
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内部統制チームを作る
社内に内部統制チームを編成するのもひとつの方法です。
仕組み・ルールとしてチェック体制を整えても、部門の管理者が徹底しなかった場合や評価に直結しない場合は形骸化しやすい傾向にあります。内部統制チームを作ることで仕組みやルールの実施・評価・最適化などが業務化され、形骸化の防止につながります。
チームは組織のCFO(最高財務責任者)がトップとなり経理部門のスタッフで編成されるのが一般的ですが、ほかの部門からもメンバーを選出するのが望ましいでしょう。
経理業務をシステム化する
経理業務をシステム化することで、不正やミスの発生防止に高い効果が期待できます。
人手による作業はどんなに気をつけていてもミスが発生するうえ、改ざんの余地を発生させてしまいます。経理業務をシステム化できれば、計算処理はシステムが自動的に行い、書類の作成・変更の履歴も残り、ミスと改ざん両面の防止につながります。
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経理業務をシステム化し内部統制を強化しよう
経理部門は内部統制を行ううえで非常に重要な役割を担っており、「財務報告の信頼性を確保すること」と「資産の保全を図ること」の2つの目的を達成することが求められます。
内部統制は直接的に利益を生むものではないため軽視されやすい傾向がありますが、経理上の不正や些細なミスが組織全体に大きな影響を与えることは珍しくありません。場合によっては、企業の社会的信用が失墜し、存続が危ぶまれるような事態に発展することも考えられるでしょう。
業務のDX化が叫ばれる昨今、経理業務のシステム化は急務と言えます。積極的に活用して内部統制強化につなげていきましょう。
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