経理部門が行う原価計算とは?重要性や実務で活かすための方法

最終更新日時:2023/08/01

経理アウトソーシング

経理の原価計算

経理業務の1つに、会社の利益確保に重要な原価計算という作業があります。具体的にどのような業務なのか、正確に把握できていない方は少なくありません。今回は、経理部門が行う原価計算について、重要性や実務で活かすための方法を解説します。

原価計算とは?

原価計算とは、特定の製品を製造するためにかかった費用を算出することです。原材料の仕入れや機械での加工、品質検査など、さまざまな工程を経て1つの製品が完成します。

製品の販売価格や値下げ幅は、完成までにかかった総費用に基づいて設定されています。適切に設定しなければ、利益率が不安定になってしまうでしょう。製品原価の把握は、安定した収益を確保するためにも重要です。

また、仕入先変更や新たな外注先との契約など、原価率削減に向けての取り組み内容を明確化する目的もあります。原価計算は製造業やプラント建設、システム開発などの自社設備を保有する企業のほか、個別案件が多い企業で重要視されています。

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原価計算に関する要素

原価計算を構成する要素は、以下3つに分類できます。

  • 材料費
  • 労務費
  • 経費

材料費・労務費・経費は原価の3要素と呼ばれており、原価計算を行ううえで基本となる考えです。

材料費

材料費は、製品製造に必要な材料や部品調達にかかる費用です。原材料費や買入部品費が該当します。光熱費や工場消耗品費、消耗工具器具備品費など、工場で原材料や部品を加工する際に生じる費用も含まれます。

種類概要具体的な項目
原材料費製品の製造に必要な原材料の仕入れにかかる費用
  • アルミニウム
買入部品費取引先から仕入れた部品購入費にかかる費用
  • コンデンサ
  • スイッチ
  • トランジスタ
  • 基板
  • モーター
  • チップ
燃料費製品製造の機械稼働にかかった費用
  • ガソリン代
  • 灯油代
  • オイル交換代
工場消耗品費製造工程で必要な商品のち、購入金額が少額な商品にかかる費用
  • 軍手
  • 潤滑油
  • サンドペーパー
消耗工具器具備品費耐用年数1年未満または1年以上で、購入金額が10万円以下
  • キャビネット
  • オフィス用デスク
  • オフィス用チェア
  • インパクトドライバー
  • 圧力計

労務費

労務費とは、製品製造の工程を担う労働者にかかる費用です。従業員に支払う毎月の給与や残業代、交通費などの人件費全般が該当します。厚生年金や各種保険料なども、計上先は労務費です。

労務費に分類される費用を以下の表にまとめました。

種類概要具体的な項目
賃金(給与)製造現場やオフィスなど、製造部で働く労働者へ支払う費用
  • 基本給
  • 時間外労働費
  • 深夜残業代
  • 休日残業代
雑給アルバイトやパートなど、時給制で働く方へ支払う費用
  • 基本給
  • 時間外労働費
  • 深夜残業代
賞与手当雇用形態を問わず従業員へ支払う各種手当や賞与
  • 夏季賞与
  • 冬季賞与
  • 臨時賞与
  • 家族手当
  • 住宅手当
退職給与引当金将来支払われる退職金の積み立て費用
  • 退職給与引当金
法定福利費社会保険料や労働保険料の自社負担分を計上
  • 健康保険
  • 介護保険
  • 厚生年金
  • 雇用保険

経費

経費とは製品製造で生じた費用のうち、材料費と労務費に分類されない費用のことです。経費計上の電気代や水道代などは、材料費にあった「燃料費」と混合されやすいため注意しましょう。電気代や水道代は「測定経費」となりますが、文字通りメーターで測定可能なためです。

似て非なる費用の性質に気をつけて、経費に分類される項目をチェックしておきましょう。

種類概要具体的な項目
測定経費使用量が測定可能な経費
  • 電気代
  • 水道代
  • ガス代
支払経費費用の用途が明らかな経費
  • 外注加工費
  • 旅費交通費
  • 通信費
  • 修繕費
  • 福利厚生費
月割経費数ヶ月分の費用をまとめて支払う経費
  • 減価償却費
  • オフィス及び工場賃料
  • 保険料
  • OA機器のリース代
  • 租税公課
発生経費費用を支払う必要性はないが、経費として計上が必要
  • 材料棚卸減耗費

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経理部門における原価計算の重要性

原価計算は、さまざまな業務を進めるうえで非常に重要です。経理業務でいうと、貸借対照表や損益計算書など財務諸表の作成と深く関連します。原価計算の正確性は、各種書類の完成度に大きな影響を及ぼすためです。

財務諸表は、自社の経営状況や販売実績をステークホルダーへ開示する重要な書類です。投資額や融資可否を判断する材料となるため、高いレベルでの正確性が求められます。

製品別の原価を正しく把握していないと、利益確保が可能な販売価格がいくらかを判断できません。費用削減の見込みがあるかわからない、製造にかかる正しい費用を計算できないといった問題にもつながるでしょう。コスト管理の根本が崩れ、経営維持にも支障をきたす恐れがあります。

円滑な経理業務にとってはもちろん、経営そのものを正常に保つためにも原価計算は重要です。

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経理部門において原価計算を実施する目的

原価計算を行う目的は以下の5つです。

  • 財務諸表作成
  • 価格計算
  • 原価管理
  • 予算管理
  • 経営基本計画作成

経理業務の一環であり、販売価格の設定や経営計画の立案といった事業運営を左右する要素もはらんでいます。原価計算の目的を理解すれば、いかに重要な業務であるかを認識できるでしょう。

財務諸表作成

原価計算の主目的の1つに、財務諸表の作成があります。財務諸表は株主や投資家、金融機関などへ自社の経営状況や今期の販売実績を開示するための資料です。財務諸表の結果をもとに、ステークホルダーは投資額の算出や融資可否の判断を下します。

経営状況や販売実績を正確に伝えるには、完成度の高い財務諸表の作成が必要です。貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書は財務三表と呼ばれ、特に重要な書類とみなされています。財務三表の正確性を高めるには、原価計算を正しく処理しなくてはなりません。

価格計算

価格計算は、自社で製造した製品をどのくらいの値段で販売するかを決める作業です。原価計算の目的であり、利益に直結する要素といえるでしょう。安定した収益性が望める販売価格の設定には、原価計算が不可欠です。原価を把握できていないと、販売価格や値下げ幅を適切に設定できません。

原価管理

原価管理とは実際の製品原価と目標原価を比較し、ギャップが生じている原因を可視化する作業です。原価計算は、原価管理の正確性を担保し無駄を省くために行います。原価計算で費用を把握すると、削減できる箇所を突き止めやすくなるでしょう。

原価率削減に向けた取り組みを始めるには、原価計算によって現状の製品原価を正確に算出することが重要です。

予算管理

原価計算を行わないと、予算編成のための計画を立てられません。予算編成に必要な製品原価と目標利益を捉えることも、原価計算の意図に含まれるのです。

予算編成の取り組みには、経費削減に向けた仕入先や外注先の変更なども挙げられます。予算の無駄を省く観点からも、原価計算が重要な働きをするのです。

経営基本計画作成

経営基本計画を掲げるのにも、原価計算の必要性があります。原価計算の数値を計画内に組み込むことで、説得力が増すのです。「5年後までに利益を2倍」「3年後までに売り上げを2倍」など、具体的な数値目標の要となります。

経営基本計画は、企業方針を中長期的に示す重要なプランです。原価計算によって製品別の原価や利益率などを把握していないと、達成可能な目標を立てられません。現場の状況を反映した現実的な目標設定のためにも、原価計算が欠かせないでしょう。

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目的に応じた原価計算の種類

原価計算の方法は、以下の5種類から選択できます。

  • 標準原価計算
  • 実際原価計算
  • 直接原価計算
  • 総合原価計算
  • 個別原価計算

製品原価を正確に把握するためにも、目的や生産形態に応じて原価計算の方法を使い分けることが重要です。

標準原価計算

標準原価計算とは、製品ごとに材料費や労務費、経費を目安金額として算出する方法です。事前に算出した標準原価と実際の原価を比較し、製造工程上の無駄を可視化する狙いがあります。

標準原価計算の目安金額は、過去のデータや市場調査の情報を参考にして決めます。標準原価と実際の原価を比較すれば、コストカットなどの改善策も実施できるでしょう。

実際原価計算

実際原価計算とは、製品を製造するうえで実際に発生した費用を集計し、原価を計算する方法です。広告宣伝費や荷造運賃など、販売や管理にかかった費用も原価に含めます。

実際原価計算は製品別の原価を正確に算出できるため、財務諸表を作成する際に活用されます。実際の費用が出てからしか計算できないため、データ集計には時間がかかる点を認識しておきましょう。

直接原価計算

製造原価のうち、変動費だけを原価として計上する方法が直接原価計算です。製造原価を固定費と変動費に分類し、変動費だけを計算することで原価率や利益率を的確に算出します。

直接原価計算は、短期的なプロジェクトや営業計画を立てる際に適した手法です。製品別に変動費のみを算出することで、費用削減や利益率改善を図ります。

総合原価計算

総合原価計算とは、合計原価を生産数で割る計算方法です。一定期間内に作った製品の総原価と総数から算出するため、特定の製品を大量生産する企業に適しています。製品1個にかかる平均原価を比較的簡単に計算可能です。

総合原価計算は、さらにいくつかの種類に分類されます。等級やデザインごと量産される製品は、それぞれ適した総合原価計算を用いるケースがあるのです。

個別原価計算

製品別に原価を算出する計算方法に、個別原価計算があります。受注生産品やオーダーメイド品など、少量多品種の生産形態を採用する企業に適した手法です。

取引先によって依頼内容や単価が異なる場合、案件ごとに原価を算出しなければなりません。製品は製造指図書に沿って作られることから、原価計算も該当資料に則して計算しましょう。

個別原価計算は利益率の低い製品が一目でわかるため、収支改善に向けた対策を立てやすくなります。

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実務での原価計算の方法

原価計算を行う際は、以下の順番で製品原価を算出します。

  1. 費目別原価計算
  2. 部門別原価計算
  3. 製品別原価計算

費目別原価計算で3要素を直接費と間接費に分類し、部門別原価計算で間接費を部門ごとに算出する流れです。双方の費用が確定したら、製造指図書を参考に製品別原価を計算します。

1.費目別原価計算

費目別原価計算は材料費・労務費・経費を直接費と間接費に分類し、原価を算出する方法です。直接費とは、製品の製造に直接関わっている費用です。原材料費や従業員へ支払う賃金、外注加工費用などが直接費に該当します。

一方、間接費とは製品の製造に間接的にかかった費用のことです。工場消耗品費や減価償却費、光熱費など、工場運営で生じる費用全般が間接費に該当します。

費目別原価計算の仕訳例を以下の表にまとめました。

借方金額貸方金額摘要
材料費50万円買掛金50万円製品の製造に使う原材料を掛仕入
労務費100万円未払費用100万円〇月分の給与や手当、福利厚生費
経費60万円未払費用60万円〇月分の各種経費
製造間接費30万円材料30万円〇月分に仕入れた材料のうち、間接材料を振替
製造間接費60万円労務費60万円〇月の労務費のうち、間接労務費を振替
製造間接費10万円経費10万円〇月の経費のうち、間接経費を振替

製品別の原価算出を目的としているため、製造部以外に所属する従業員の給与や手当、退職金などは除外します。また、材料や労務費などの費用科目を細分化しすぎると、集計に時間がかかるため注意しましょう。

2.部門別原価計算

部門別原価計算は、間接費として分類した費用を部門別に振り分けるために行う計算です。部門別原価計算によって、どの作業工程でどのくらいの費用がかかっているか、正確に把握できます。

部門別原価計算を実施した場合の仕訳を以下の表にまとめました。

借方金額貸方金額摘要
製造間接費(加工部門)15万円製造間接費30万円間接材料費を加工部門、組立部門、梱包部門に配賦
製造間接費(組立部門)10万円
製造間接費(梱包部門)50,000円
製造間接費(加工部門)35万円製造間接費60万円間接労務費を加工部門、組立部門、梱包部門に配賦
製造間接費(組立部門)15万円
製造間接費(梱包部門)10万円
製造間接費(加工部門)50,000円製造間接費10万円間接経費を加工部門、組立部門、梱包部門に配賦
製造間接費(組立部門)30,000円
製造間接費(梱包部門)20,000円

材料や部品の場合は各部門の使用量、光熱費は工場内での専有面積で分けるなど、科目ごとに柔軟な対応が必要となります。

3.製品別原価計算

直接費と各部門別に振り分けた間接費を合計し、1製品ごとに割り振った費用が製品別原価です。直接費・間接費を仕掛品勘定へ振り替えたあと、製造指図書をもとに仕掛品を製品別原価として振り分ける計算を行います。

直接費・間接費の仕掛品勘定への振替仕訳からみていきましょう。

借方金額貸方金額摘要
仕掛品210万円材料費50万円〇月分直接材料費用
労務費100万円〇月分直接労務費用
経費60万円〇月分直接経費

表:間接費を仕掛品勘定へ振替

借方金額貸方金額摘要
仕掛品100万円製造間接費(加工部門)55万円〇月分間接費用(加工部門)
製造間接費(組立部門)28万円〇月分間接費用(組立部門)
製造間接費(梱包部門)17万円〇月分間接費用(梱包部門)

仕訳が終わり次第、製品別の製造指図書をもとに製品原価を算出します。月初仕掛品と月末仕掛品を考慮し、各製品の製造工程が終わっている部分までの原価を算出してください。仕訳例を以下の表にまとめました。

借方金額貸方金額摘要
製品1100万円仕掛品310万円費目と製造間接費に分け、製造指図書ごとの原価を集計する
製品280万円
製品3130万円

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企業にとって経理部門の原価計算は必要な業務

原価計算は、価格計算や原価管理を行ううえで不可欠です。製品の原価が正確にわからなければ、適正な販売価格や値下げ幅を設定できません。費用削減の見込みがあるかも判断できず、収支改善に向けた有効な対策を立てるのが難しくなります。

原価計算には標準単価計算や実際原価計算、直接原価計算などさまざまな種類があり、生産方式や目的に応じた使い分けが重要です。部門別、製品別の計算といった実践的な方法も参考に、原価計算を正しく理解しておきましょう。

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