医療業界におけるRPAの導入事例|主な活用例や効果・導入時のポイントを解説
さまざまな業界において導入がすすむRPA。医療業界も他業界と同様にRPAの必要性が叫ばれ、実証実験を実施したり実際の業務に導入されたりと、普及が進んでいます。本記事では、医療現場においてRPAが必要とされる理由とは何か、導入による効果や事例をあわせて解説します。
目次
医療機関においてRPAが必要とされる理由
RPAとは、Robotic Process Automationの略称で、ロボットによって業務を自動化するシステムです。主にパソコンで行われるルーチンワークを自動化するため、さまざまな業界で活用されています。
ここからは、医療機関でRPAが必要とされている理由について詳しく見ていきましょう。
医師・看護師の不足
日本の人口当たりの医師数は、OECDの中で5番目に低く、医師不足が深刻化しています。看護師については、養成数は十分足りているものの離職者数の多さが指摘されています。
その理由としては、医師や看護師の労働環境自体が過酷であることや、結婚や育児との両立が難しいことなどが挙げられるでしょう。また、コロナ禍以降は医療機関への応募者数も減少しています。
RPAを活用すれば、医師や看護師がおこなっていた繰り返し業務を自動化できます。それにより、医療スタッフの時間を節約でき、より多くの患者の対応をしたり、専門的な業務に集中できたりするため、RPAの必要性が高まっているのです。
[出典:OECD「図表でみる医療 2023」]
[出典:厚生労働省「コメディカルの不足」]
医療・介護需要の拡大
日本では高齢化が急激に進んでいて、2040年頃には65歳以上の人口がピークになることが予想されています。それにより医療や介護の需要も拡大していくとみられ、体制の見直しが必須です。
医療や介護の現場は、ルーティン業務が多くあり、手間や時間がかかっているのが現状ですが、単純作業の自動化ができれば、その分リソースを増やせるでしょう。医療・介護の業界では、需要の拡大に備えて、RPAの導入による自動化が積極的におこなわれています。
[出典:厚生労働省「医療提供体制を取り巻く状況」]
働き方改革の推進
働き方改革によって、2024年の4月から時間外労働時間の規制が始まりした。そのため、時間外労働を年間で960時間以下に抑えなければなりません。この基準は、医師・看護師の不足や医療・介護需要の拡大を考えると、働き方を変えない限り守るのが難しいとされています。
こうした背景から、過酷な医療現場における業務時間の見直しや業務効率化が推進され、DXの需要が高まっているのです。RPAは、業務の自動化によって時間の削減や効率化に役立つため、医療現場からの注目が集まっています。
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医療機関におけるRPA導入の効果
ここでは、医療機関にけるRPA導入の効果を具体的に解説します。
医療従事者の負担軽減
医療現場でRPAを導入すると、医療従事者の負担を軽減する効果があります。医療従事者は日々多くの業務に追われ、診療や患者対応に専念する時間が限られています。
しかし、RPAを導入することで、以下の3つのような業務を効率化することが可能です。
- 電子カルテへの記録
- 患者への説明・合意形成
- 診断書の作成
なお、厚生労働省の調査結果によると、電子カルテへの記載は93分、患者への説明・合意形成は82分、診断書の作成は36分の時間を費やしていることがわかっています。つまり、RPAで業務を自動化すれば、1日の業務時間を3時間ほど確保することが可能となり、医療従事者の負担軽減につながるのです。
[出典:厚生労働省医政局「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」]
予約患者の来院率改善
RPAの診療予約システムを用いることで、予約患者の来院率改善につながる効果が期待できます。たとえば、予約確認の通知メールを自動送信すれば、予約日時を忘れるなどのリスクを防止が可能です。
また、病院側が患者の予約情報や来院履歴を自動収集し、カルテに反映すると、来院状況を把握できたり、患者の来院状況から改善策を考えたりすることもできます。
人為的ミスの防止
RPAによって、人為的ミスの防止が期待できるでしょう。医療機関においては診療情報の入力や医薬品の受け渡しなどの繰り返しの作業が多くあり、これらを人の手でおこなうと作業が煩雑になるだけでなく、ミスも発生しやすくなります。
このような繰り返し作業をRPAに任せることで、正確な情報の入力や管理が可能になるため、人為的ミスを防止することにつながるのです。
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人材の有効活用
医療機関における定型業務や事務作業をRPAで自動化すれば、医療従事者は専門性の高いコア業務に専念することが可能です。医療機関では、患者への診療や治療などの主要業務に加え、大量の書類処理や事務作業が必要とされています。このような大量の事務作業をRPAで代替することで、医師や看護師は治療に注力できるようになり、医療サービスの質の向上にもつながるでしょう。
また、予約や診療情報の入力作業を自動化できれば、受付スタッフの人数を減らすことができます。RPAの導入によって各業務の自動化が進むことで、全体的な人員配置の見直しをおこなえるため、人件費の削減も期待できるのです。
医療機関におけるRPAの活用事例
医療現場におけるRPAの活用事例を業務別に紹介します。RPAを実際に活用している事例を把握することで、自社の課題と照らし合わせながら比較検討ができるでしょう。
医療事務業務
まずは、医療事務業務でのRPAの活用事例について紹介していきます。
レセプトの作成
医療機関が保険会社にレセプトを送付する際、一定のルールに従ったデータ入力が必要です。
RPAなら、医師の診察情報や患者のデータを自動的に抽出した後にレセプト用の書式に整形し、必要な情報を自動入力してくれるため、診療報酬算定においても精度が高まります。
受付・予約情報の管理
受付業務においては、患者情報の入力や初診・再診の判断、診療科・医師の予約などの業務をRPAで自動化できます。一方予約情報管理では、患者の予約変更やキャンセルなどの煩雑な業務をRPAに任せることが可能です。
たとえば、患者からの電話やWEB予約での受付情報を自動で取り込んで予約情報を管理したり、手作業でおこなっていた紙ベースの予約システムをデジタル化したりすることで、より正確な予約管理ができるでしょう。
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医療・薬事・看護業務
次に医療・薬事・看護業務のRPA活用事例を紹介していきます。
医療書類の作成
処方箋・紹介状などの医療書類作成業務は、RPAの活用で自動化が見込めます。具体的には、患者情報を確認し、診療報告書や処方箋などの文書を自動生成したり、患者情報のデータベース化によって次回受診時の診療に活用することも可能です。
医薬品情報の転記
RPAは、医薬品情報の転記作業に活用できます。たとえば、処方箋や施設内での医療行為に関する情報を自動収集し、患者の医薬品履歴を更新することが可能です。
また、医薬品情報が記載された文書をスキャンし、必要な情報を自動的に抽出するといった活用方法もあります。
医療品の管理
医薬品の管理は正確さと迅速性が求められる業務です。RPAは、医薬品の入出庫管理や薬剤の棚卸し、医薬品の期限管理などに活用できます。
また、医薬品の在庫数量を自動で把握して業務担当者に通知するなど、医薬品の新規発注の迅速な対応も可能になるでしょう。
検査結果の確認
RPAは、検査結果の確認にも活用されています。具体的には、検査結果をPDFファイルから抽出して、必要な情報をExcelファイルに入力したり、異常値の検出や必要な処置を選択するプロセスを自動化したりすることが可能です。また、検査結果が異常な場合は、必要な追加検査を予約するための手順を自動化することもできます。
患者の統計調査
医療業務において、患者の数値データを集計する統計調査は重要な業務の一つです。RPAを活用することで、医療機関のデータベースから患者の情報を抜き出し、指定された条件に沿って集計することができます。
グラフや表に変換することも可能になったため、正確かつスピーディーに統計がとれるようになりました。
手術件数の抽出
RPAは、手術件数の抽出を自動化することが可能です。具体的な手順は、EMR(Electronic Medical Record)から手術関連の情報を取得し、必要な項目を抽出するプログラムを作成します。
その後、RPAでプログラムを自動実行し、抽出された情報を集計するという流れです。このように、RPAを活用することによって、看護業務における手術件数の管理を効率的におこなえます。
病床の管理
病床管理においても、患者の入退院手続きや病室清掃業務、医療器材の管理など、さまざまな業務にRPAが活用されています。
入退院手続きで患者の情報をシステムに入力する手間を省いたり、病室清掃の際には、RPAが自動で清掃スタッフに指示を送って清掃作業を効率化できたりするのです。また、病床数の確認や患者の状況報告、ベッド配置の調整など、繰り返しのタスクの自動化に活用されています。
クリニカルパスの管理
クリニカルパスにおいても、RPAの活用が進んでいます。たとえば、患者の問診票から必要な情報を自動で電子カルテに反映させたり、検査結果の入力を自動化したりするのに活用されています。また、患者のバイタルサインなどの情報を定期的に監視することも可能です。体温や血圧などの情報が自動的に集められるため、看護師の業務効率が向上します。
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総務・人事業務
医療現場の総務・人事業務では、勤怠管理や給与管理の自動化にRPAが活用されています。従業員の勤務時間や勤務状況のデータ入力作業、入職・退職時の手続きや必要書類の作成など、勤怠管理に関する業務の自動化が可能です。
そのほかにも、給与管理業務に含まれる給与計算や賞与の計算、休暇申請や経費精算などの申請プロセスも自動化が可能なため、業務の効率化に貢献できるでしょう。
経理業務
RPAは受注書・請求書の処理、月次・年次レポートの作成など、医療現場の経理業務にも活用できます。具体的には、請求書の読み取りやデータ入力をしたり、支払いに必要なデータを自動で抽出し、支払い金額の計算や承認フローなどを自動化するといったことが可能です。
また、RPAによって、利益や損失の収集から財務報告書作成もできるようになるので、いままで時間がかかっていた経理業務の時間と手間の削減にもつながります。
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医療機関におけるRPAの導入事例
ここからは、医療現場におけるRPAの導入事例を7つ紹介します。
東京歯科大学市川総合病院
東京歯科大学市川総合病院は、511もの病床数を有しており、経営課題の解決や単純作業の軽減、働き方改革推進のためにRPAを導入しました。導入したのは医療事務を担当する医事課と放射線科、カルテのチェックをおこなう診療情報チームの3箇所です。
特に放射線科では「CT・MRI検査前におこなうeGFRチェック」に時間を要していたそうです。eFGRチェックとは、CT・MRI検査の前日に腎機能の指標であるeFGR値を確認することで、毎回電子カルテの予約一覧をリスト出力する必要がありました。多い日だと1日約40件を抽出し、毎回約1時間ほど作業に費やしていましたが、RPAの導入によって抽出作業を自動化することで、作業時間を5分に短縮することに成功しています。その結果、放射線技師が本来の業務に集中できるようになりました。
同院ではそのほかの業務も自動化を進めており、現在は9体のロボットを活用しています。
[出典:オープン株式会社「東京歯科大学 市川総合病院」]
名古屋大学医学部付属病院
名古屋大学医学部付属病院は、人手不足や過重労働といった医療業界全体の課題を解決するべく、RPAを導入しました。それまでは、医師から紙ベースで報告される勤務時間を手作業で計算しており、その作業時間は1枚約2分、毎月400枚ほどを計算していたといいます。その後は計算作業をRPAで自動化し、年間160時間の削減に成功しました。
パイロット開発分を含めて21体のロボットを作成し、すべての事務部門にRPAを展開しています。その結果、業務の削減時間は9,800時間を見込んでおり、業務の効率化が進んでいます。
[出典:オープン株式会社「名古屋大学医学部付属病院」]
東京慈恵医科大学付属病院
東京慈恵医科大学付属病院は、医療事務の効率化による働き方改革の推進に向け、RPAを活用した研究を行いました。医療業界では、医師の間接業務を事務職員へ移管することで、業務負担を軽減するタスクシフティングが検討されています。しかし、事務職員の業務負荷が高いほか、人員不足の影響もありタスク・シフティングの実現は難しいと考えられていました。
そこで、まずは事務職員のタスクを軽減するためにRPAを導入したのです。この研究では、「外来患者数報告業務及び未作成」と「未承認の退院サマリ抽出業務」のロボットを構築し、ロボットによる業務代替の所要時間を計測しました。その結果、事務職員が業務を行う場合と比較して、約90%の業務時間削減効果が得られたそうです。
[出典:オープン株式会社「慈恵大学がRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用」]
滋賀医科大学医学部付属病院
滋賀医科大学医学部付属病院は、2019年からRPAの導入に向けたプロジェクトをスタートしています。各部門からプロジェクトの担当者を集め、実践的なロボット開発に挑むなか、薬剤部では「電子カルテから患者の検査値情報等を一括で自動抽出するロボット」を開発しました。
これまで同院では、電子カルテから患者のデータを手書きでメモするなど、アナログな方法で情報収集をおこなっていましたが、RPAの活用によって薬剤師の書類作成業務の大幅な削減が見込まれています。
[出典:オープン株式会社「滋賀医科大学医学部付属病院」]
倉敷中央病院
倉敷中央病院は、使用中の医療システムの動作環境要件が厳しいため、他のシステムとの連携ができず、転記作業が発生する事態に悩んでいました。1日約30件のデータの転記に4時間以上の時間をかけていることを問題視し、同院はRPAの導入を決定します。
導入後はRPAが夜間に自動処理を済ませてくれるため、職員は翌朝の結果確認作業をするのみになったそうです。結果として、年間960時間の時間削減に成功したうえに、時間外労働の削減にもつながりました。
[出典:日本電気株式会社「倉敷中央病院」]
奈良県総合医療センター
奈良県総合医療センターは、医療従事者の長時間労働を解消し、創出した時間を医療技術の習得に使いたいと考えていました。そのためには定型業務の自動化が必須だったため、RPAの導入を決めたのです。当初は事務業務への導入を検討していましたが、のちに医療職でもRPAを活用できるとわかり、大きな効果が見込めそうな7つの業務に導入しました。その中の一つが臨床検査部のリスト作成です。
臨床検査部のリスト作成とは、超音波検査を受ける患者の前回の所見を手作業でリストにまとめるもので、RPA導入前は2〜3時間もの作業時間がかかっていました。しかし、導入後は10分ほどでリスト化できるようになり、大幅な時間削減につながっています。また、RPAを導入した7業務だけで、年間約1,000時間の時間削減効果が見込まれることがわかっています。
[出典:NTTコミュニケーションズ株式会社「奈良県総合医療センター」]
信州大学医学部付属病院
信州大学医学部付属病院は、厚生労働省が開発し、全国の医療機関に導入した「HER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)」の運用を効率化するため、RPAを導入しました。このシステムは、医療機関の事務負担を軽減することを目的にしている一方で、感染者の情報を抽出・集計し所定の様式記入する作業は医療従事者がおこなう必要があったそうです。
そこで、同院はRPAを活用し、電子カルテなどからの情報収集、システムへの入力、入力結果の報告という一連の作業を自動化しました。そのほかにも、消耗品の受発注や会計処理などさまざまな業務を自動化し、2018年から2020年度までに通算4559時間の削減に成功しています。
[出典:リクルートワークス研究所「病院事務を精緻に効率的に、RPAを活用して事務員の業務時間縮減を実現(信州大学医学部附属病院)」]
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医療機関でRPAを導入する際のポイント
ここでは、医療機関でRPAを導入する際のポイントを2つ紹介します。
事前に運用体制を整備する
RPAは業務を自動化するツールですが、指示されたことしか実行できないため、人間による適切なコントロールが欠かせません。そのため、RPAを導入する際は、あらかじめ運用体制を整備しておく必要があります。業務の棚卸で自動化する業務を明確化したり、マニュアルを作成したりするなどして、スムーズに運用できる体制を整えておきましょう。
トラブル時の対策を決めておく
RPAを運用していると、想定外のエラーが起こり業務に支障をきたすことも考えられます。トラブルが発生したときに業務を滞りなく進めるためには、RPAの運用に関する知識やスキルを持った人材を確保する必要があるでしょう。
また、社内に専門知識を持った人材がいない場合は、サポート体制が充実しているツールを選ぶのもおすすめです。
RPAを導入し医療機関が抱える課題を解決しよう
医療従事者の不足や医療・介護の需要拡大など、医療現場はさまざまな課題を抱えています。RPAを導入すると定型業務を自動化できるため、業務効率化につながり医療従事者の負担を軽減できるでしょう。
さらに、人為的なミスも減少し、修正対応などの余計な業務も増えずに済みます。本記事で紹介した事例やポイントを参考にし、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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