中小企業におけるテレワーク推進の課題とは?導入率や成功事例を解説

最終更新日時:2022/05/18

テレワーク

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政府が推進に向け積極的に取り組んだこともあり、導入を進める企業が増えたテレワークですが、中小企業においては、いまだ順調に進んでいるとはいえないのが現状です。本記事では、中小企業におけるテレワーク導入が遅々として進まない理由や課題、導入するメリットのほか成功事例についても詳しく解説していきます。

中小企業のテレワーク導入率は依然として低い現状

新型コロナウイルス感染症対策をきっかけに、テレワークという働き方は、急速に社会に浸透しました。

しかし、テレワークの導入に際しては、地域や業種にバラツキが見受けられる現況もあります。特に企業規模別でテレワークの実施率を見た場合には、企業規模が小さくなるにつれて実施率が下がり、従業員数が「10~100人未満」の企業における実施率は、「10,000人以上」の企業の半分にも満たないという結果となっています。

[出典:内閣府「令和2年度年次経済財政報告」]

中小企業のテレワーク導入が進まない理由

中小企業のテレワーク導入が進まない理由には、「テレワークに移行できる業務がない」「生産性が低下してしまう」「取引先とのコミュニケーションが取れない」といった理由が挙げられています。また実情としては、テレワークに向けての改革を推進する人材不足や、コスト面の問題といった要因も大きく影響しているでしょう。

ここでは、テレワーク導入の歯止めとなってしまっている、課題や理由を詳しく解説します。

1.テレワークできる業務が少ない

対面でのやり取りが必要となる、医療や美容業界、飲食などの接客販売業といった職種のほか、作業に特殊な機会を用いるような業務においては、当然ながら、テレワークの導入は困難となってしまいます。

このような業種の中小企業では、どうしてもテレワークに移行できる業務が限られてしまい、結果として、テレワークの導入を見送る形となってしまうでしょう。

2.経営層がテレワークの必要性を理解していない

テレワークへの移行が難しい業種や業務があることは事実です。しかし、中小企業でのテレワーク導入が推進されない理由には、経営者がテレワークの必要性やメリットを理解せず、テレワークの実施に取り組もうとしないといった実態も存在しています。

テレワークへの移行には、予算確保や管理体制の再構築などが伴うため、経営層によるコミットメントが必須となります。そのため、経営者がテレワークに対して難色を示している場合などは、どうしても実施が困難となってしまうでしょう。

3.生産性・効率が落ちると考えている

中小企業がテレワークの導入をためらう理由には、コミュニケーションの取りにくさや、目の届く範囲で勤務実態を把握できないことから、業務効率に不安を感じやすいといった点も挙げられます。

現に、テレワークにより生産性が低下したと感じている企業は存在しています。その一方で、テレワークの実施により、一定の結果や評価を得ている企業があるのも事実です。

そのため実際は、テレワークが抱える問題がネックになっているのではなく、それらの解決を模索する思考に至らないことが、課題になっているといえるでしょう。

4.テレワークできる環境が整っていない

テレワークの導入にあたっては、勤怠管理や業務管理などのシステム化、つまり組織全体のデジタイゼーションが必要になってきます。

DXといった組織の改革には、システム導入に向けた予算確保はもちろんのこと、システム化による環境整備を円滑に進めることのできる人材も必要です。

しかし、多くの中小企業においては、このようなDXを実行できるIT人材が社内に在籍しているケースは少なく、遅々としてテレワーク環境が整えられないのが現状です。

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中小企業がテレワークを導入すべき3つのメリット

導入にあたり解決すべき課題を抱えるテレワークですが、テレワークの導入により、中小企業が得られるメリットも多々あります。

そこでここでは、テレワーク導入による3つのメリットについて詳しくみていきましょう。

1.人手不足が解消できる

高齢化社会やスキルやキャリアのミスマッチを背景とした、人手不足は、年々、深刻化の一途を辿っています。

しかし、十分なスキルとキャリア、働く意欲があっても、子育てや介護などの個人の事情により就業を諦めてしまっている人たちが一定数いることも実態として存在します。そのため、ワークライフバランスが取りやすいテレワークを導入することで、このような人材の雇用が可能になるのです。

また、オフィス出勤を前提としない業務であれば、求職者と採用側の双方において、居住地に寄らない求職・採用活動ができるようになります。国内はもちろんのこと、世界各国から優秀な人材を確保することも可能になるでしょう。

2.コスト削減につながる

会社を経営・運営するにあたり、一番の課題はその運用に伴うコストです。その中でも人件費はコストがかかり、人を採用すればするほど、売り上げを上げていかないといけない状態でした。正社員を増やして、売上げを上げる成長型の働き方は固定費がかかるのも一つの課題でもありました。

すでにテレワークの活用に着目している企業は、この事については理解していることでしょう。セミナーや勉強会などで、コロナ時代になり経営スタイルを見直すことの重要性が叫ばれています。本記事をご覧になっている読者の皆様も危機感を感じていると思います。

テレワークの導入はコストを大幅に削減します。出勤をすれば人件費以外にも、消耗品など多くのコストがかかり、固定費は大きくなります。

しかし、テレワークで働きたい人のほとんどは、「出社だけ」ができない人たちです。多少時給や給与が下がっても、在宅で働けるメリットの方が大きいため、この固定費や人件費が下がり、コスト削減にも繋がるのです。

3.補助金や助成金の対象となる

テレワークの導入にかかる費用については、以下のような、国や自治体が実施する補助金や助成金といった制度の対象となる可能性があります。受給にあたっては各要件を満たす必要があるため、利用を検討するのであれば、必ず事前に申請方法や要件を確認するようにしてください。

上記のような国が実施する金銭的な支援のほかにも、専門のコンサルタントによるテレワーク活用に向けた支援が無料で受けられる「テレワーク課題解決コンサルティング(東京都)」など、各自治体が独自の支援制度を設けている場合もあります。

これらの制度の要件を満たすようであれば、積極的に活用すると良いでしょう。

中小企業のテレワーク推進のポイントと課題

中小企業に限ったことではありませんが、テレワークを導入する際には、相応のコストと手間がかかります。また、課題の洗い出しをせずに、単に業務のシステム化を進めた場合、システムや業務フローが機能せず、予算を掛けたにもかかわらず、テレワーク化が頓挫してしまうといったケースも珍しくありません。

ここでは、テレワーク移行後も円滑に業務を遂行するための、導入時のポイントについて説明します。

1.テレワークの必要性を理解する

新型コロナウイルス感染症をきっかけに、急激に拡大したテレワークという働き方は、とりわけ「仕事=オフィス」が至極当然としてきた年齢層にとっては、受け入れ難い部分があるのも当たり前といえるでしょう。

しかしテレワークは、非常時に事業活動を継続するための臨時的な対策だけではなく、「少子高齢化対策」「優秀な人材確保」「コスト削減」「ワーク・ライフ・バランスの向上」「柔軟な働き方による生産性の向上」といったさまざまなメリットを、雇用側と雇用される側の双方が得られるものです。

そのため、テレワークの導入、そして、導入後の成功に向けて、テレワークの実施は一過性の取り組みではなく、長期的な視点での企業の成長に必要不可欠な取り組みであることを理解しておく必要があります。

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2.デジタルツールの利便性を理解する

テレワークの導入をきっかけに業務のシステム化を進めるのであれば、現状の課題を棚卸しした上で、システム化だけでなく業務の改善も同時におこなうのがポイントです。そのためには、各デジタルツールの機能を十分に理解しておく必要があるでしょう。

また、ツールの搭載機能を精査するのはもちろんのこと、既存システムと連携可能かどうかも重要なチェック項目です。さらに、勤怠管理や給与計算など、親和性の高い業務間で連携できるシステムを選ぶことで、テレワークにおいても業務効率を落とさない環境づくりが実現できるでしょう。

デジタルツールへの理解の有無は、テレワーク導入を成功へと導く大きな要素の一つといえます。

3.テレワーク導入をけん引するIT人材の確保

テレワークの導入に際し、デジタルツールによって業務や管理体制を変革していくには、自社事業や業務に対する理解だけでなく、ITに関する知識も必要となります。

本来であれば、DX化などによる経営戦略の策定や発展を見据えた上で、デジタル人材やIT人材と呼ばれる、IT領域の深い知見を持った人材を社内に確保しておくことが理想といえます。しかし、このような人材は、現時点で特に人手不足が顕著な状況にあるのが現実です。

人材の確保や育成には、時間を要することも多いため、早期の対策が難しいようであれば、外部のコンサルティングを活用するのも良いでしょう。

4.業務によってテレワークが導入できないか検討する

先にお伝えした、医療や美容業界、サービス業や配送業といったテレワークが難しい業種や業界においても、担当する業務によっては、テレワーク化が可能な場合もあります。

実際に、小売業において店長職の社員に在宅ワーク制度を適用し、プライベートとの両立がしやすくなったことから女性の管理職比率を向上させた事例もあります。

テレワークの可能性を検討せずに、「出社を常識」としてしまうのではなく、まずは社員に対し「テレワーク可能な業務があるか」「周囲に邪魔されず集中したい業務があるか」などの調査をおこないましょう。その上で、業務単位でテレワークが可能な領域がないか検討されることをおすすめします。

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中小企業のテレワーク導入の成功事例

ここでは、テレワークの導入によりテレワーク導入の成功事例についてご紹介します。中小企業がテレワーク導入の際、導入のメリットやポイントをおさえることが大切ですが、実際の成功事例を見ることで、より導入のイメージがしやすくなります。

本記事では以下3社の成功事例をご紹介します。

[出典:総務省「令和元年度テレワーク先駆者百選 取り組み事例」]

株式会社Agoop

ソフトバンクグループの子会社として、情報サービス事業を展開する株式会社Agoopでは、2018年から、主に在宅勤務をメインに、テレワーク勤務制度を本格導入。テレワーク環境における施策を繰り返し、2019年からは、社員の選択肢を場所を問わないテレワークに拡大しました。

同時に、さまざまな立場の社員がテレワークを実施しやすいようITCツールを用いたコミュニケーションツールや会議ツールの強化も実施し、テレワーク導入を推進しています。

その結果、社員の通勤ストレス軽減によるワークライフバランス向上のほか、地方移住を希望する社員の支援へとつなげています。さらに、地方移住後も自然の中でリフレッシュした働き方を叶えつつ、ITCツールを駆使した働き方により、都内のオフィス勤務時と遜色ない業務の遂行や生産性を実現しました。

岩井コスモ証券株式会社

全国各地の33事業所にて金融商品取引業を展開する岩井コスモ証券株式会社では、まずは営業職員を対象に順次、タブレット端末や録音機能付携帯を導入。同時に直行直帰や在宅勤務制度など、プライベートと仕事の両立をサポートする「就業規則」を整備したことで、ハード・ソフトの両面からテレワークを推進しました。

また、組織にテレワークを浸透させるため、会長CEO自らが直接社員へ働き方改革の意義を説明したり、幹部職員が率先してテレワークを活用したりした点も特徴的であるといえます。

その結果、育児や介護といった個人の事情を抱える職員の多様な働き方を可能にしました。具体的には、母親の介護ができるようになり、家族との大切な時間を過ごせるようになったといった事例や、家庭の事情で退職した職員が可能になったなど、ワークライフバランスの向上だけでなく、人材の確保や離職の防止といった成果を上げています。

株式会社ウチダシステムズ

オフィス、学校、福祉施設の空間構築、場づくり、関連機器の販売などをおこなう株式会社ウチダシステムズでは、外部のテレワークコンサルティング会社による支援を受けながら、テレワーク環境の整備と推進を実施しました。

専門コンサルの指揮のもと、軽量モバイルPCの配布や、ICT環境の整備、クラウドツールの導入などを順次実行。さらには、シェアオフィスも導入し、テレワーク環境の充実を図っています。

その結果、営業の移動時間の削減による業務時間の最適化により、生産性の面で一定の成果を得ています。また、テレワークの懸念点の一つである、希薄になりがちなコミュニケーションの課題においては、チャットツールやWEB会議の積極的な利用により、課題の解消を図っています。

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中小起業のテレワーク導入は部分的に始めるのが鍵

本記事では、中小企業において、テレワークの導入が推進されない理由や、導入する際のポイントなどをお伝えさせていただきました。

確かに、接客業や医療機関、配送業などの業種においては、全ての業務をテレワークに移行することは不可能かもしれません。

しかし、そのような業種においても、業務単位でのテレワーク化が可能な領域は多々残っており、その場合、実質的な問題ではなく、経営層の意識やテレワーク化を実行できる人材がいないといった課題が障壁となっているケースも少なくありません。

成功事例からも分かるように、テレワーク化に成功した企業においては、まずは部分的に実行し、その効果を実感した上で、徐々にテレワークの範囲を拡大しながら、働き方改革を実行しています。

そのため、まずはここでお伝えしたテレワークの必要性やメリットを理解した上で、成功事例に倣い、部分的な範囲のテレワーク化から始めてみてはいかがでしょうか。

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