つながらない権利とは?日本でも法制化?導入事例やメリット・デメリット

最終更新日時:2023/08/03

働き方改革

つながらない権利とは

テレワークの普及により新たに注目され始めた「つながらない権利」。現代の働き方において必要とされる「つながらない権利」とは、一体どのような意味として使われているのでしょうか。本記事では、そんな「つながらない権利」について詳しく解説します。

つながらない権利とは?

つながらない権利とは、勤務時間外の連絡に対して、一切対応せず拒否する権利のことを意味します。

ポイントとしては、組織に対して勤務時間外の電話やメール送信などを禁止するものではなく、あくまで時間外に受けた連絡に対して、「社員個人」が対応を拒否することにあります。

このつながらない権利は、フランスにおいて従業員数50人以上の企業を対象に、勤務時間外の「従業員の完全ログオフ権」を定義した法律が2017年1月に施行されたことにより、世界的に注目されるようになりました。

昨今、日本国内においても、つながらない権利が働き方改革の推進につながると考えられており、その取り組みへの動きが活発化しているのです。

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日本でも高まる法制化への声

つながらない権利は、フランスにおいては2017年に法制化されていたり、ベルギーでは2022年2月より公務員に対して適応されたりと世界各国で活発化しています。

その後の世界各国の動きを見てみると、つながらない権利を支援する対策を講じる企業もあれば、逆に働き方の柔軟性を損なうとして反対の立場を示す企業も存在するなど、賛否両論の議論が白熱しています。

日本においては、現時点で法制化には至っていないものの、働き方改革の一環として、効果が期待できるとされている点や、テレワーク環境におけるストレスの緩和などの観点から、つながらない権利の法制化については、肯定的な意見も多く、法による規制を望む声も高まる傾向にあるといえます。

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つながらない権利の侵害となること

つながらない権利の侵害となる行為は下記のようなものがあげられます。

  • 終業後の夜間にメールや電話の対応をする
  • 休日にメールや電話の対応をする
  • 長期休暇中に連絡を取る

なお、このようなつながらない権利の侵害は、社員間で行われることが多く、表面化せずに発見するのが難しいのが特徴と言えます。

つながらない権利を導入するメリット

つながらない権利を導入することで、企業にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。ここでは、そのメリットについて詳しく解説します。

社員のモチベーション向上が見込める

つながらない権利を促進することで、社員は仕事外の時間をしっかりと休養に充てることができます。

いつでも仕事の連絡に応じなければならないといった精神的なプレッシャーは、時として、身体的な疲労よりも仕事のモチベーションに悪影響を及ぼすことがあります。

そのため、つながらない権利によって社員が心身ともに休める時間が保証されることで、仕事へのモチベーションが向上するだけでなく、リフレッシュした状態での仕事は集中力を保つ上でも効果的です。その結果として、生産性の向上も見込めるといえるでしょう。

ハラスメントの対策になる

つながらない権利の導入は、ハラスメントの防止にも一定の効力があると考えられます。

テレワークやリモートワーク中に起こるハラスメントであるリモートハラスメント(リモハラ)は、これらの働き方が急増したことから、今や多くの人が経験しているハラスメントであるといわれています。

主に。必要以上の監視、常にカメラをONにしておくことを要求するなどがリモハラに該当しますが、早朝・深夜を含む業務時間外の頻繁な連絡なども、頻度や時間帯などによっては、リモハラやパワハラとして捉えられてしまうこともあります。

また、注意しておきたいのが、ハラスメントは、行った本人に「嫌がらせ」の意図がなかったとしても、「相手の受け取り方」によってハラスメントになってしまう点です。

そのため、このようなハラスメントの発生リスクを避ける意味でも、つながらない権利の導入は有効といえるのです。

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つながらない権利の導入における問題点

つながらない権利のメリットについてご説明したところで、つながらない権利には、問題点やデメリットはないのかといえば、そうとは限りません。

ここでは、その問題点についても確認してみましょう。

休日に連絡を取ることができない

当然ですが、つながらない権利の環境が整備されれば、勤務時間外においては、社員と連絡をとることは難しくなります。

しかしながら、つながらない権利は、誰から見ても緊急性の高い即対応すべきトラブルにも、時間外であれば対応しないことを明言するものではありません。

基本的にあくまで日常的な業務時間外の不要不急の連絡を抑止する点にその重要性があることを忘れないようにしましょう。

業務の効率が低下してしまう

職種や勤務状況によっては、どうしても業務時間外に社内への連携&連絡が集中してしまう場合もあるでしょう。そのようなケースにおいては、つながらない権利によって、業務のスピード感が落ちてしまうことは否めません。

つながらない権利を適切に運用していくには、全社において業務連絡や連携を業務時間外に行えるような体制を整える必要があるといえるのです。

このような体制やカルチャーが、組織内で整備されるまでの間は、業務のスピード感や業務効率が低下してしまうこともあります。

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つながらない権利を守らない会社のリスクとは?

次に、つながらない権利が確保されない組織において発生するリスクについてもご説明します。どのような問題が発生してしまうのか、それぞれを細かく確認しておきましょう。

労働時間と見なされてしまうリスク

社員がいつでも対応できる状態であり、かつ対応すべきであるといった風土が蔓延しているようであれば、その時間が「労働時間」とみなされてもおかしくはありません。

適切な労働時間の管理がされていなければ、労使間のトラブルを招くだけでなく、労働基準法などの各種労働関連法令に違反し、罰則が科せられるケースもあります。

パワハラにつながってしまうリスク

つながらない権利が守られることがパワハラなどのハラスメント抑止につながるように、これらが守られていない環境においては、逆に、いつでもつながる環境がハラスメントの温床となってしまうことがあります。

勤務時間外でも対応することが当たり前の文化が組織に根付いてしまっていれば、社員は断れずに対応するしかない状況となるでしょう。

さらにそれが、上司からの連絡であれば、断ることで不利益を被るのでは?と不安になってしまいます。これらの行為がパワハラであるとみなされても仕方ありません。

このような状況は、多くの社員にとっては「働きやすい」環境とは言い難く、離職率の悪化にもつながってしまいます。

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つながらない権利の導入で会社が行うべきこと

実際、つながらない権利の組織への導入は、どのように進めるべきなのでしょうか。

せっかく導入したけれども効果がなければ意味がありません。気をつけるべき点の内容を押さえて実行しましょう。

つながらない権利の保障を明示する

つながらない権利の導入には、「つながらない権利を保障する」としっかり社員に明示することが大切です。

また、その際には、価値観はさまざまであり、つながらない権利を好意的に受け止める人もいれば、否定的な受け取り方をする人もいることを理解しておく必要があります。

否定的な意見が目立つような状況においては、実験的な範囲や方法にて開始し、その効果や変化を社員とともに実感しながら進めることも重要です。

教育や研修をしっかり行う

「いつでもつながる状態」について、社員が共通の問題意識を持っていなければ、つながらない権利を導入しても定着には至らないでしょう。

そのため、事前につながらない権利の目的や必要性を全社にて共有すること、いつでもつながる状態がなぜ問題なのかなどについても意識を統一するための教育や研修を行う必要があります。

「何が問題なのか」「どのようなメリットがあるのか」「どのように進めるのか」は、必ず全社員への情報共有を徹底するようにしてください。

つながる必要のない体制を整備する

つながらない権利の確保を円滑に進めるには、業務時間外に連絡が発生しない体制、つまりつながる必要のない体制を整備する必要もあるでしょう。

具体的には、各業務の進行スケジュールや人員配置の見直しなどが挙げられます。また、連絡は業務時間内にするものといった企業風土の醸成には、つながらない権利を経営陣やマネジメント層が率先して行使することも大切です。

適切な労働管理を実施する

先にお伝えしたように、つながらない権利は緊急性の高い案件やトラブルにも時間外であれば対応しないことを認めるものではありません。

そのため、社員側は緊急性の有無に関わらず行使するものではないことを理解し、企業側も、緊急時であっても相手に配慮した連絡をすること、また、対応した時間は適切に労働時間として管理することが求められます。

あくまで労使双方の信頼関係のうえで、成り立つ権利であることを認識しておきましょう。

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物理的につながらなくても良い状態を作る

組織の風土などから、どうしても任意でのつながらない権利の確保が難しい場合などは、物理的につながらない状態を作ることも手段の一つです。

「携帯電話へのメール転送を廃止する」「休暇中は仕事用の電話はオフにすることを社内外に告知しておく」といった方法が挙げられます。

ただしこの場合は、本人および組織において属人化の解消やマニュアル化の徹底などを進め、「休み中はつながらなくても困らない状態」にしておく必要があるでしょう。

日本におけるつながらない権利の導入事例

続いて、つながらない権利の日本での導入事例をご紹介します。

株式会社イルグルムの事例

株式会社ロックオンは、マーケティングの効率化事業を展開する会社です。同社は2012年から1年に1度、9日間にわたって社内からの電話やメールでの連絡を断つ「やまごもり休暇制度」を導入しました。

つながらない権利を全社を上げて支援することにより、心身のリフレッシュを促すだけでなく、組織における業務共有化の促進に成功しています。

三菱ふそうトラック・バス株式会社の事例

三菱ふそうトラック・バス株式会社では、2014年12月から長期休暇中には電子メールを受信拒否、自動削除できるシステムを導入しています。

また長期休暇中に社内メールを受信した際には「休暇を頂いています。」と言う旨のメッセージが自動で送付されるシステムとなっており、システムを上手く活用することで、つながらない権利を実行しやすい環境作りを推進しました。

ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社の事例

世界最大級のヘルスケアカンパニーであるジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社は、2015年からグループ4社の全社員において、勤務日の夜22時〜翌朝8時までと休日のメールのやり取りを控えることを推奨しています。

同社では、これらの取り組みを、社員が安心して仕事を行い、さらに家族への責任を果たせる環境を実現するためのものとして位置付けています。

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つながらない権利について理解を深めておこう

世界的なパンデミックの影響により、急速に広まったテレワークという新しい働き方の浸透に伴って、近年、高い注目を集めているつながらない権利について解説しました。

つながらない権利を社内に浸透させるには、社内の環境を整える以上に、社員一人ひとりの意識付けと正しい理解が重要となります。

つながらない権利の導入は、簡単なものではありませんが、ルールや教育を実行するだけでなく、ITツールなどを導入することで、スムーズに浸透させることができるでしょう。

まずは、つながらない権利について理解を深めることが、適切な運用に向けた第一歩となるはずです。

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ビズクロ編集部
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