【学校】教員の働き方改革が急務!現状の問題点や今後の取り組みについて

最終更新日時:2023/01/23

働き方改革

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世の中で働き方改革が進む一方、教育現場の長時間労働はいまだ改善されず、健康に害を及ぼす可能性のある時間外労働時間を表す「過労死ライン」で働く教員も少なくありません。学校教員の働き方改革が急務となっている今、これらの背景や今後取るべき対策などについて解説します。

学校教員に必要な働き方改革とは?

2016年に働く人の視点に立って労働環境の抜本的な改革を行う「働き方改革」が提唱され、近年では、あらゆる業界や職種において、労働環境の見直しが進んでいます。

しかし、教育現場の働き方は、依然として改善されず、教員の長時間労働は大きな問題となっています

2021年に名古屋大学大学院の教授らが小中学校の教員924名を対象に行った業務実態調査では、小学校教員の51.2%が休憩時間は「0分」と回答。中学校教員の47.3%も「0分」と答え、学校教員の過酷な労働環境が明らかになりました。

学校教員の労働環境が社会問題に発展している昨今、教育現場ではどのような働き方改革が期待できるのでしょうか。

[出典:日本教育新聞「教員半数「休憩時間ゼロ」内田・名大教授ら調査」]

学校教員における現状の問題点

教育現場で起きている主な問題点は以下の3点です。

  • 多忙な労働環境
  • 教員の不足
  • 時間外労働の多さ

ここからは、これらの内容に焦点を当てて一つひとつ見ていきましょう。

多忙な労働環境

例えば小学校の教員は授業や授業準備、事務処理など、さまざまな業務を一人でこなさなければなりません。一人の教員が担当する業務は相当量で、1日辺りの平均労働時間は11時間を超えています。

授業が終わった後も事務作業や保護者対応などの業務を抱え、運動会や遠足といった学校行事が重なれば、その準備にも追われます。

さらに中学校の教員は部活動の顧問を任されることもあり、放課後も生徒の指導を担い休日は試合の遠征などで生徒を引率することもあります。

部活動に力を入れている学校ではGWや長期休暇にも練習や試合などの活動が行われるため、教員が休める時間がとても少ないのが現状です。

2016年に文部科学省が、小学校教員8,951名と中学校教員10,687名を対象に行った調査によると、小中学校ともに、教員の1日辺りの勤務時間は平均11時間を超えていました。

労働基準法では、原則として1日の労働時間の上限を8時間までと定めているため、その基準よりも3時間以上多い実態が明らかになっています。

働き方改革などを実施して、根本的な対策を講じない限り、平均11時間以上にもなる学校教員の労働時間を削減することは難しいでしょう。

表:教諭の平均的な勤務の状況

小学校中学校
定められている就業時間8:15~16:45
出退勤時刻の平均7:30~19:017:27~19:19
1日あたりの学内勤務時間11時間15分11時間32分
1年間の有給休暇平均取得数11.6日8.8日

[出典:文部科学省「教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について(概要)」]

教員の不足と激減する採用倍率

かつては人気の職業の一つであり、難関とも言われた学校教員の採用ですが、その採用倍率は、2000年度の13.3倍から2021年度には3.9倍まで低下しています。この20年で教員の採用倍率は、実に1/3以下にまで激減しているのです。

その背景としては、教育現場に対して、いわゆるブラックな職場であるといったイメージが定着してしまったことも要因の一つといえるでしょう。

長時間労働の常態化やモンスターペアレントへの対応、給与の引き下げなどネガティブな報道が目立ち、教員を志す人が減少していることが考えられます。

また、団塊世代の教員の定年退職も重なり、全国的な教員不足が深刻化しています。2021年に文部科学省が発表した調査では、全国1,897の学校で2,558人の教員が不足していることが明らかになりました。

教員の雇用には基本的に教員免許が必要なため、他の職種とは異なって募集を掛けても応募者がすぐに集まるということはありません。採用倍率が2倍を下回っている地域もあり、労働環境の改善や雇用の促進を含めた働き方改革が緊急課題となっています。

表:令和3年度始業日時点での教師不足の状況

不足不足率不足が生じている学校数不足が生じている割合
小学校1218人0.32%937校4.9%
中学校868人0.4%649校7.0%
高校217人0.14%169校4.8%
特別支援学校255人0.32%142校13.1%
合計2558人0.31%1897校5.8%

[出典:文部科学省「「教師不足」に関する実態調査」]

[出典:文部科学省「令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント」]

過労死ラインに達する勤務時間

昨今、業務量の多さなどが原因で学校教員が過労死に至る報道が散見されますが、多くの教員の労働時間が過労死ラインに達していることが大きな問題となっています。

労働基準法によって定められている労働時間は、原則として1日8時間・週40時間です。しかし教育現場では、1週間に50時間以上勤務する小学校教員が74.6%。中学校になると89%の教員が週50時間以上の長時間労働を余儀なくされています。

また、月に80時間以上の時間外労働が過労死ラインのひとつの目安とされていますが、これを1週間で換算すると20時間。ここに労働基準法で定められた40時間を足した60時間の労働時間が、1週間の過労死ラインのひとつの基準となります。週60時間以上労働する教員は小学校で26.2%、中学校では57.7%に達しているのです。

過労死ラインは、厚生労働省が定めた病気や死亡のリスクが高まる時間外労働の基準値でもあります。このラインを越えると、脳血管疾患や心臓疾患を発症するリスクが2〜3倍以上になるとの研究結果も発表されています。

取り返しのつかないことになる前に、学校教員の労働環境を整えることが急務です。企業に、残業時間の削減や従業員の健康管理に努める取り組みが求められているように、教育現場も例外ではありません。

この状況が改善されない限り、過労によって休職や退職に至る教員が増加し、教員不足に拍車が掛かることが危ぶまれます。

表:小学校教員の1週間あたりの学内総勤務時間数の抜粋

勤務時間割合
50~55時間未満24.0%
55~60時間未満24.4%
60~65時間未満16.3%
65~70時間未満9.9%
合計74.6%

表:中学校教員の1週間あたりの学内総勤務時間数の抜粋

勤務時間割合
50~55時間未満14.8%
55~60時間未満16.5%
60~65時間未満17.0%
65~70時間未満14.0%
70~75時間未満10.9%
75~80時間未満7.3%
80時間以上8.5%
合計89%

[出典:文部科学省「教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について(概要)」]

学校教員の労働時間が増加している原因

学校教員の長時間労働が減らない原因は、主に以下の3点です。

  • 課外活動での指導
  • 事務作業の増加
  • 時間外労働の把握の難しさ

課外活動での指導

中学校の教員が部活動の指導に費やした平均時間は平日が41分で土日は2時間9分。10年前と比較するとこの指導時間は増え、土日に関しては1時間以上増加していることが文部科学省の調査で明らかになりました。

生徒と触れ合う時間の持てる部活動の指導にもやり甲斐はあるでしょう。しかしながら、平日だけでなく休日にも時間を費やさなければならないことが、教員にとって重い負担になっていることも事実です。

また、競技経験や運動経験が無いにもかかわらず、教員不足を理由に顧問を命じられることもあり、スキルの不足などによる心理的な負担を抱えている教員も少なくありません。

教員の時間外労働を減らし、心身の健康を守るためにも専門的な知識や技術を持つ外部人材の積極活用が求められます。

[出典:文部科学省「教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について(概要)」]

負担になる事務作業

学校教員の長時間労働が常態化する背景には、事務作業が多いことも理由にあげられています。

教員の労働環境について調査するOECD国際教員指導環境調査(TALIS)は、日本の教員の事務作業が参加国の中で最も長いとする調査結果を報告しています。

参加国の平均は週2.7時間ですが、日本の小学校教員は5.2時間で中学校教員が5.6時間。日本の教員が倍近い時間を事務作業に割いていることがわかりました。

教員の仕事時間は参加国中で最も長く、人材不足感も大きいことを示すグラフ

[出典:文部科学省「OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)2018報告書」(p.14)

事務作業には、テストの採点や通知表の記入など成績処理に関する作業のほか、業務日誌や報告書の作成などさまざまな業務があります。

これらを一人でこなすにはまとまった時間を必要とし、教員が主とする教育以外の業務の負担が課題になっています。

時間外労働の問題

教育現場では、いまだに出退勤の確認を目視や点呼で確認している学校も多く、時間外労働が正確に把握されていないケースは少なくありません。そのため実際の労働時間と、勤怠管理の記録に乖離が見られることも珍しくないのです。

また、最近まで公立学校の教員には、時間外労働や休日労働の手当が支給されていませんでした。公立学校に勤務する教員の給与に関する法律、「給特法」により、原則として教員の時間外労働が禁止されていたからです。

教員の平均残業時間が月8時間だった1971年に制定されたこの法律は前時代的で、現代の多忙な教員の実態とは大きくかけ離れていました。

2021年に給特法が改正されると、時間外手当の支給が認められるようになりましたが、労働時間が1日10時間で週52時間以内であることや、連続勤務日数が6日であることなど細かなルールがあり、適用が限定的になっています。

学校教員に必要な今後の取り組みとは?

長時間労働の是正や業務効率改善に必要な取り組みは以下の4点であると考えられています。

  • 正確な労働時間の把握
  • 業務の効率化
  • 専門の指導員の採用
  • 業務体制の見直し

ここでは学校教員が子どもたちと接し、本来の業務である教育に携わる時間を確保するために、どのような取り組みが有効かを具体的に説明します。

正確な労働時間の把握

教員の働き方改革を進めるために有効なのが、勤怠管理システムの導入です。このシステムは労働時間や残業時間、有給休暇の取得状況など労務管理に関する情報を一元管理できるツールです。

データの入力や集計などをシステムが管理するため、これらの作業が不要となることで教員の負担も軽減されます。

管理者も、このシステムの利用で教員の勤労状況や長時間労働の有無などを把握しやすくなるため、健康管理や勤務状況のアドバイスなどがしやすくなるといった効果も生まれます。

業務の効率化

長時間労働が常態化し、冒頭に述べたように休憩時間がない教員が半数もいることを考えると、生徒への指導と事務作業を教員が一人で行う今の体制の限界と考えても不自然ではないでしょう。

教員の業務量を減らすためにシステムやツールを導入することも一つの選択肢です。実際に、スケジュールの管理などをデジタル化し、教員間の情報共有を促進することで、年間50時間の業務削減につなげることができたとの報告もあります。

また、文書作成などはテンプレートを共有することにより作業時間を大幅に削減したり、日常的な小テストのオンライン化による採点業務の自動化も事務作業の負担軽減に大きな効果があると考えられます。

このようなツールをうまく使うことは、事務作業をはじめとする教員の負担を軽減し、労働時間の削減に直結するでしょう。

専門の指導員の採用

外部の人材を採用して部活動の指導を依頼したり、地域の学習塾に週末の補修を任せることなどで教員の負担を削減することも教員の働き方改革の有効な手段となります。

教員は放課後や休日にプライベートな時間を確保しやすくなるでしょうし、生徒にとっても、豊富な知識や技術を持つ人材から指導を受けられるので、パフォーマンスのアップにつながります。

教員でなければ対応できない業務以外は外部の指導員を頼ることも、教員の業務負担の軽減につながるでしょう。

業務内容の見直し

時間外に行っている事務作業のなかには、単なる習慣として行っている作業もあるはずです。改めて本当に必要な業務かを見直し、それを不要と判断した場合は、業務自体を廃棄することも大切です。

働き方改革を進めるポイントは、業務の方法だけでなく業務量を見直す点にもあります。これまで続けてきた業務には何らかの意義があるでしょうし、そのやり方を変えることには賛否両論あるかもしれません。

しかし、人や予算、そして時間などに限りがあることを考えると、業務に優先順位をつけていく必要があります。

学校教員における働き方改革の具体例4選

各地の小学校と中学校で成功した教員の働き方改革の事例を4件ご紹介します。

  • 茨城県の中学校
  • 熊本県の中学校
  • 岡山県の小学校
  • 群馬県の小学校

今後働き方改革を進める上での参考として、ぜひご活用ください。

事例1.茨城県の中学校

茨城県の旭中学校では、教員の働き方改革を推進するため、部活動の指導員として、一定のスキルや経験を持つ外部の人材を積極的に活用しています。

その結果、平日の放課後や休日の試合で教員が生徒に同行する必要がなくなり、月15時間以上の時間外労働時間の削減に成功しています。

また、定期テストの作成を外部業者に依頼することで、約12時間の労働時間の削減も達成しています。

事例2.熊本県の中学校

熊本県の長嶺中学校では、プロジェクトチームの設立による業務の効率改善を実施。アプリ・シェア・スマート・リノベの4チームを結成し、デジタル技術の導入や校内スペースの有効活用を図りました。

また、タブレットの利用やペーパーレス化の促進による業務効率の改善にも取り組んでいます。さらに、校務データや文書の共有によって、担当者しか業務について把握できていない状態である属人化の防止にもつなげています。

事例3.岡山県の小学校

岡山県の早島小学校では、教科担任制の取り組みを実施。教員のスキルに応じて特定の科目を任せ、授業の質の向上と教員の業務負担軽減の両立を図りました。

生徒指導に関しては、学級担任と学年担任を設け、学級担任と相性が合わない児童に対応できるように、双方の不安を軽減するサポート体制を確立しています。

教科担任制と学年担任の導入により、児童の学習意欲向上や教員のワークライフバランスの改善に成功しています。

事例4.群馬県の小学校

群馬県の坂上小学校が実施したのは、状況に応じた教員の配置人数の最適化です。坂上小学校は1学年5人程度と少人数であるため、低学年・中学年・高学年で一斉に体育の授業を行っています。

また、音楽教諭の免許を持つ教員に全学年の音楽の授業と特別支援学級の担任を任せる一方、教務主任と加配教員が他の授業を担当する形を取り、労働時間のバランスを調整しました。

結果として1日1時間の空きコマを作り、事務作業に充てる時間の確保を実現し、さらには、専門的なスキルを持つ教員に授業を依頼することで、授業の質の向上と教員のストレス軽減にも効果があったとしています。

学校・教員の早急な働き方改革を実現すること

今回の記事では以下の4点について解説してきました。

  • 学校教員における現状の問題点
  • 労働時間が増えている原因
  • 今後必要な取り組み
  • 働き方改革の事例

学校教員の長時間労働が問題となる中、今後は業務体制の見直しや業務を効率化するツールの導入、そして外部人材の活用などを積極的に行って働き方改革を進めていくことが、子どもたちの教育環境を整えることにもつながっていくでしょう。

本記事では学校教員の実情について触れてきましたが、前述の名古屋大学の教授が行った学校教員の調査では、回答者の8割を越す教員が「教師の仕事は魅力がある」「仕事にやりがいを感じる」と答えています。

その一方で、6割の教員が「この2年ほどの間に教師を辞めたいと思ったことがある」とも回答。現役の教員は「やりがいはあるものの教職をすすめることができず、辛い現実」と話します。

学校教員の採用倍率の低下が問題となる中、有能な教員を採用することの重要性も指摘されています。教育現場の働き方改革を実践し、さまざまなクオリティを高めることは、子どもの教育や日本の未来にも直結することです。

学校教員のライフワークバランスをよりよくすることが、これからの社会を育んでいくといっても過言ではないでしょう。

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