手書きの勤怠管理は違法?問題点や発生するリスク・正しい勤怠管理について
勤怠管理のデジタル化が進む中、依然として手書きのタイムカードを利用している企業も多くいます。勤怠管理を手書きで行うことは必ずしも違法ではないものの、法律上適切な管理方法であると認められない可能性もあるため注意が必要です。この記事では、手書きによる勤怠管理の問題点や正しい勤怠管理の方法について紹介します。
目次
タイムカード・出勤簿の手書きは違法?
タイムカードや出勤簿を手書きで記録することは、違法ではありません。ただし、法律によって企業に対して労働時間の客観的な把握義務が課せられているため、運用方法によっては違法と判断される場合があります。
厚生労働省が策定しているガイドラインでは、原則として下記の方法で記録することが示されています。
その2 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
(ア) 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
(イ) タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
[出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」]
タイムカードも方法の1つとして示されていますが、これはタイムレコーダーなどで打刻したものを想定していると考えられます。
そのため、手書きのタイムカードは客観的な方法とは認められず、従業員の自己申告による勤怠管理と判断される可能性が高いです。また、出勤簿も同様だと考えられるでしょう。
ただし、労働時間を客観的に把握することが難しい場合は自己申告による記録も認められています。そのため、手書きのタイムカードによる管理を行っていても、すぐさま違法とはなりませんが、さまざまな問題点があるので注意が必要です。
▷勤怠管理とは?目的や重要性・管理項目や方法をわかりやすく解説!
手書きで勤怠管理する場合の問題点
ここでは、手書きのタイムカードや出勤簿で勤怠管理をする具体的な問題点を確認していきます。
労働時間の客観的な記録とは認められない
手書きのタイムカードや出勤簿での労働時間の記録は自己申告にあたり、厚生労働省令によって定められた「原則的な記録の方法」としては認められていません。
自己申告による勤怠管理は違法ではないものの、厚生労働省が定める原則的な方法ではないことを理解しておきましょう。
容易に改ざんできてしまう
手書きによる勤怠管理の問題点の1つに、改ざんが容易にできてしまうことがあげられます。遅刻したのにも関わらず、定時の出社時間を記載する、残業を水増しして申告するなど、従業員による不正のリスクがあるのです。
反対に、企業側が残業代の削減や長時間労働の隠蔽のために、従業員の勤怠情報を改ざんしてしまう可能性もあります。
▷勤怠の改ざん・不正打刻は違法!勤怠管理での防止法や対処法まで解説
集計する際の効率が悪くなる
手書きのタイムカードや出勤簿で勤怠情報を管理していると、集計業務がすべて手作業になってしまいます。すべての従業員の出退勤時間を確認し、集計していく作業はかなりの労力が必要です。
また、記入漏れや書き間違いなどがあれば、各従業員へ確認を取った上で修正をしなくてはなりません。さらに、給与計算時には労働時間の集計ミスといったトラブルも起こり得ます。人事・労務のコストを考えると、決して業務効率が良いとはいえないでしょう。
保管・管理に負担がかかってしまう
手書きのタイムカードや出勤簿は、紙ベースの管理になるため書類がかさばります。労働基準法では、タイムカードや出勤簿など、労働関係に関する重要な書類を5年間保管することを定めています。
5年分の書類となれば膨大な量になるため、保管スペースの確保と、場合によっては保管コストも掛かることになるでしょう。また、確認が必要な際にすぐに取り出せるように整理したり、紛失しないように管理担当をつけたりと、大きな負荷がかかります。
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手書きで勤怠管理をするメリット
問題点を挙げてきましたが、手書きで勤怠管理をするメリットもあります。どのようなメリットがあるのか見ていきましょう。
コストを抑えられる
手書きでの勤怠管理を行う最大のメリットは、コストを抑えられる点でしょう。従業員の人数分タイムカードを用意するだけで運用できるので、システムの導入などの必要がなく、大幅にコストを抑えられます。
誰でも利用できる
タイムカードに設けられた項目に沿って記入していけばよいため、誰でも簡単に利用できます。従業員によっては、新しいシステムに抵抗感を示したり、使い方を覚えるのに時間がかかったりする場合もあるでしょう。手書きによる勤怠管理であれば、新たに何かを覚える必要はなく、従業員の負担を軽減できます。
不適切な勤怠管理によって発生するリスク
ここでは、不適切な勤怠管理によって発生するリスクについて見ていきましょう。
給与計算のミス・残業代の未払い
給与計算を行う際は、タイムカードに記載されている情報をもとに計算を行うため、記載内容の間違いや改ざんされたタイムカードでは、支払うべき給与を正しく計算できません。
また、記載内容の信頼性が乏しければ、残業の実態を把握することも難しくなるでしょう。その結果、残業代の未払いが発生し、訴訟などのトラブルに発展する場合もあります。
▷タイムカードで15分単位の計算は違法?正しい勤怠管理と計算方法を解説
労働時間に関する法律違反
労働基準法では、原則として1日8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけないことになっています。36協定を結べば法定労働時間を超えて残業させることも可能ですが、あらかじめ業務の種類や、1日・1か月・1年あたりの時間外労働の上限などを決め、厳密な労働管理を行わなければなりません。
タイムカードに打刻された時間が正確なものかわからない状態では、企業として労働基準法を守れているのか判断ができず、違法な労務管理となってしまっている可能性もあるのです。
[参照:厚生労働省「労働時間・休日」]
[参照:厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」]
賃金支払い5原則への違反
労働基準法第24条で定められている「賃金支払い5原則」では、賃金の支払について「(1)通貨で(2)直接労働者に(3)全額を(4)毎月1回以上(5)一定の期日を定めて支払わなければならない」と規定されています。
勤怠管理が適切に行われていない場合、支払うべき給与の全額を支給できず、賃金支払い5原則への違反となる可能性もあるため注意が必要です。
[参照:厚生労働省「賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。」]
手書きで勤怠管理する際の注意点
手書きで勤怠管理を行っている場合は、厚生労働省が原則として示す客観的な方法への切り替えが理想的です。
しかし、企業によっては費用などの問題で、手書きでの勤怠管理を続けざるを得ないこともあるでしょう。その場合には、ここで紹介する3つの注意点を守ってください。
従業員に記入ルールを徹底させる
まずは、実際に記入を行う従業員にルールを徹底させることが大切です。ルールが決まっていない場合は、次のような項目を定めておくと良いでしょう。
<記入する項目>
- 出勤日/労働日数
- 出退勤の時刻と日別の労働時間
- 時間外労働を行った日付/時刻/時間数
- 深夜労働を行った日付/時刻/時間数
- 休日労働を行った日付/時刻/時間数
<禁止事項の例>
鉛筆は容易に改ざんできるため、使用しない
<記入ミス時の対応の例>
記入ミスをした本人に、ミスした理由や実際の勤務状況などを速やかに確認。その際、労基署の監査において、勤務実績を修正した場合の「不正でないこと」の証拠となる「始末書」も提出してもらう。
ルールを明確にして従業員に徹底させることで、情報の改ざんや記入ミスといったトラブルを防げます。
書類は5年間保管する
従業員の勤怠情報が記録されたタイムカードや出勤簿は、労働関係に関する重要な書類に該当するため、5年間の保管が義務付けられています。
紙ベースでの管理は、書類の量が多く、保管が煩雑になりがちです。紛失しないよう注意するのはもちろんのこと、のちに確認が必要となった際にもスムーズな閲覧ができるよう「年月ごとにまとめる」「従業員ごとにまとめる」など、保管方法を工夫してください。
また、保管場所には特定の従業員しか立ち入れないなどのルールを作り、盗難や改ざんへの対策を行いましょう。
定期的にタイムカード・出勤簿のチェックを行う
厚生労働省のガイドラインでは、自己申告で労働時間を把握する際、企業に以下のことを求めています。
自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
[出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」]
つまり企業は、必要に応じて、従業員が自己申告した労働時間が本当に正しいかを確認する義務があるのです。
タイムカードや出勤簿に記載された勤怠情報と、入退室の記録やパソコンの使用時間などが一致しているかが確認できるチェック体制を整えておきましょう。
▷勤怠管理は今すぐにデジタル化すべき?タイムカード廃止のメリットとは?
勤怠管理は手書きよりも勤怠管理システムがおすすめ
勤怠管理情報の改ざんや記入ミスを防ぐには、勤怠管理システムの導入がおすすめです。ここでは、その具体的な理由をお伝えしていきます。
長時間労働等の防止につながる
手書きでの勤怠管理では、多くの場合、集計時にしか従業員の労働時間が把握できませんでした。そのため、長時間労働が起こるリスクも高かったのです。
一方で、勤怠管理システムは、従業員の残業時間などの勤務状況をリアルタイムで確認できます。労働時間を逐一把握できるため、長時間労働を未然に防げるのです。また、残業が多い従業員に労働時間の超過が起こらないように知らせるアラート機能もあります。
集計作業の業務効率を向上できる
手書きでの勤怠管理では、集計作業はすべて手作業で行う必要がありました。業務フローによっては、タイムカードから何らかの書式やファイルに転記や入力が発生するケースもあるでしょう。
一方勤怠管理システムは、自動で勤怠情報が集計されます。これまでのような手作業での集計が不要になるため、人事の業務効率を上げることができるのです。
勤務形態の多様化に対応できる
テレワークやフレックス制度など、勤務形態の多様化に対して比較的容易に対応できるのもおすすめする理由のひとつです。
テレワークやフレックスタイム制は、従業員にとってはメリットの多い制度ですが、管理する側にとっては、労働時間の正確な把握がより難しくなるというデメリットもあります。
その点、勤怠管理システムを利用すれば、パートやアルバイトなど雇用形態だけでなく、働く場所も選ぶことなく出退勤を記録できるため、さまざまな勤務形態の管理が効率的に行えるでしょう。
ペーパーレス化につながる
勤怠管理システムを導入することで、ペーパーレス化にもつながります。その結果、紙のタイムカードや出勤簿を人数分用意するためのコストや、集計に必要な人件費などのコスト削減も実現できるでしょう。また、保管のためのスペースや管理にかかる手間からも解放されます。
さらに、システム上で全従業員の勤務状況を確認することで、人件費としてどれだけのコストがかかっているのかを把握することも可能です。年度での集計や昨年対比なども簡単に行えるため、経営判断にも役立てることができます。
法改正に自動で対応できる
労働基準法や労働安全衛生法など、勤怠管理に関する法律が改正された場合、管理も法律に則した方法に変えなくてはなりません。
そのためには、法律の変更点を十分に理解する必要があり、社内で使用している書式やファイルの変更作業など、大きな手間と時間がかかります。
勤怠管理システムの多くは、法改正があると、改正後の法律に合うようにアップデートが行われます。そのため自社で対応する必要がなく、すぐに法律に沿った勤怠管理が可能になるのです。
勤怠管理の不正を防止できる
勤怠管理で見られる不正としては、遅刻した時間や終業時間をごまかすといった行為が挙げられます。また、実際は残業していないにもかかわらず、他の残業している社員に打刻してもらったり、長時間労働を隠すために管理者側が改ざんしてしまう場合もあるでしょう。
勤怠管理システムには、生体認証やGPS打刻といった不正を防ぐ機能が搭載されています。また、データの修正履歴が残るシステムもあるため、誰が・いつ・何を修正したかが確認でき、不正の抑止につながるのです。
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勤怠管理システムを選ぶ際のポイント
ここからは、勤怠管理システムを選ぶ際のポイントを紹介します。
導入〜運用にどの程度のコストがかかるか
勤怠管理システムは、導入時の初期費用だけでなく、継続的にコストが発生します。システムを選定する際は、導入や運用にどの程度コストがかかるかを確認しましょう。
また、提供されている機能やサポート、セキュリティに対して妥当なコストであるかを検討することが大切です。導入によって実現したいこととのバランスを踏まえながら、費用対効果に優れたシステムを選んでみてください。
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既存システムと連携できるか
すでに給与計算システムや経費精算システムを導入している企業は、これらのシステムとの連携が可能かを確認することも忘れてはいけません。
連携が可能であれば、勤怠管理と給与計算や経費精算を一元化でき、業務の大幅な効率化が図れるでしょう。
必要な機能が搭載されているか
勤怠管理システムに搭載されている機能は、提供しているメーカーによって異なります。必要な機能は企業によってさまざまですが、どのような方法で打刻を行うのか、残業・有給申請や帳票出力が行えるかについては確認するとよいでしょう。あらかじめ機能の重要度を分けておくと、スムーズに選定が行えるのでおすすめです。
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おすすめの勤怠管理システム
最後に、おすすめの勤怠管理システムを2つ紹介します。
Chatwork勤怠管理
Chatwork勤怠管理は、打刻や労働時間の集計、有休などの各種申請が一括管理できるクラウド型の勤怠管理システムです。PCログデータの取得や、打刻改ざん防止機能によって、勤怠管理における不正を防止できます。
料金は月額制で、システムの運用サポートや労務に関するサポートも料金に含まれているため、初めて勤怠管理システムを導入する企業にもおすすめです。
提供元 | 株式会社ミナジン |
初期費用 | 無料 |
料金プラン | 33,000円/月〜 |
機能・特徴 | タイムカード・打刻・出勤予定(勤務表)の作成・残業申請・有給(休暇)申請・給与ソフト連携・PCログ取得・36協定チェッカー・有給(休暇)取得チェッカー |
URL | 公式サイト |
ジンジャー勤怠
ジンジャー勤怠は、勤務時間の実績確認や承認、自動集計などの業務を効率化する勤怠管理システムです。パソコン・スマホ・タブレット・ICカードと働き方によって最適な打刻方法を選ぶことができます。
誰でも直感的に操作できる打刻画面になっているため、導入後も従業員が戸惑うことなく運用できるでしょう。また、多様な業界での導入実績があることから、企業ごとに最適な運用方法を提案してくれるのも魅力です。
提供元 | jinjer株式会社 |
初期費用 | 無料 |
料金プラン | 月額:440円/1人〜 |
機能・特徴 | 打刻・勤怠管理・まるめ設定・休暇管理・シフト管理・自動集計・出力・ワークフロー・統計・可視化・アラート機能・申請・承認・予実管理・ アプリ連携・スマホ管理画面・英語対応 |
URL | 公式サイト |
勤怠管理は手書きではなくシステムでの運用に切り替えよう
手書きのタイムカードや出勤簿による勤怠管理は、違法ではないもののさまざまな問題点があります。そのため、より正確で効率的な勤怠管理を行うには、勤怠管理システムの導入がおすすめです。
手書きからシステムでの運用に切り替えることで、長時間労働の防止や勤務形態の多様化、法令を遵守した勤怠管理が実現できます。本記事で紹介した選び方のポイントやシステムを参考に、自社に最適なシステムを選んでみてください。
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