残業時間を正しく管理するには?知っておくべきルールや運用方法
企業課題の1つである勤怠管理。日本社会に根深く残る残業時間の問題は近年の働き方改革により解決の兆しが見られますが、未だ多くの課題が残されています。本記事では、残業時間を正しく管理するためにはどうしたら良いのか、知っておくべきルールや運用方法をあわせて解説します。
監修者 内川 真彩美 いろどり社会保険労務士事務所代表 特定社会保険労務士 成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。 その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。 前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。情報発信にも力を入れ、執筆・セミナーなどの実績も多数あり。 公式HP:いろどり社会保険労務士事務所
目次
そもそも残業時間とは?
そもそも残業時間には、「法定時間外残業」と「法定時間内残業」の2種類が存在します。それぞれの定義と算出方法は以下のとおりです。
法定時間外残業
労基法では、労働時間の上限が明確に定められており、労働者を「1日8時間、週40時間を超えて」働かせてはなりません。
この法律で定められた労働時間の上限を「法定労働時間」と呼び、法定労働時間を超えた労働時間を「法定時間外残業」と呼びます。
「従業員を働かせていい上限時間が決まっているのだから、それを超えた労働時間は違法となるのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、1日の労働時間が法定労働時間をオーバーしたからといって即日処罰対象となるかというとそうではないのです。それは、36協定を出すことによって免罰されるためで、36協定を出していない場合の残業は違法となります。
法定時間外残業に対しては、割増率25%以上の割増賃金が支払われます。
法定時間内残業
企業が定めた労働時間を超過し、なおかつ法定労働時間内に収まる時間での残業のことを「法定時間内残業」と呼びます。
法定労働時間は労働時間の上限を意味するため、法定労働時間内であれば企業は労働時間を何時間に設定しても問題はありません。この企業によって定められた労働時間を「所定労働時間」と呼びます。
たとえば、所定労働時間が7時間の企業において8時間働いた場合、「1時間の法定時間内残業」をしたことになります。そして、さらに残業が長引き、総労働時間が10時間となった場合は、「1時間の法定時間内残業 + 2時間の法定時間外残業」となります。
ここで注意しなければならないことは、労基法における「時間外労働(残業)」は、法定時間外残業のことを指し、法定時間内残業のことではありません。
そのため、先述の割増賃金に関しても、対象となるのは法定労働時間をオーバーした労働時間に対してです。
所定労働時間が8時間未満である企業においては、時間外労働が法定時間内か法定時間外かによって残業代の算出方法が変わってくるため、混同しないようにしましょう。
このように、法定時間外残業と法定時間内残業の2種類の違いを明確に理解しておくことは、適切な残業時間管理のために必要な第一歩です。また、労働者が不利な条件下で長時間労働を課せられないために、時間外労働に関する協定を使用者と労働者間で締結することが義務付けられています。
「労働基準法36条の規定により時間外労働・休日労働協定」と名付けられたこの協定は、通称「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
法定労働時間を超えた残業や休日労働は、この36協定を労働基準監督署に届け出て受理されなければ認められません。
もしも企業が36協定を締結することなく、法定時間外残業や休日労働をさせている場合、使用者は「6ヶ月以上の懲役または30万円以下の罰金」に処せられるため、必ず提出しましょう。
【出典:e-Gov法令検索「労働基準法」】
【出典:東京労働局「労働基準法 割増賃金編」P1】
【出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の限度に関する基準」】
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残業が発生する原因
長らく日本社会において問題視されながらも改善されない「長時間労働」の問題解決の糸口を見出すため、人事に関する研究・調査を行うパーソル総合研究所が調査を実施しました。
「職場の残業発生メカニズム」と名付けられたレポートによると、残業は大きく4つのメカニズムによって引き起こされていると考えられます。
- 集中
- 感染
- 麻痺
- 遺伝
各メカニズムについて詳しく見ていきましょう。
1.集中
残業は、優秀な人材に「集中」する傾向にあります。仕事においてスピード感が求められる昨今においては、即戦力となる高いスキルを持った優秀な人材に仕事を振る方が、効率的に物事を進められるためです。
個人スキルの高低と残業時間の長さの相関関係を表した同調査では、個人スキルの高い人ほど残業時間が長いという結果が出ています。
また、マネジメント層に対して、「仕事のアサインをどのような基準で行っているか」を尋ねたところ、6割超が「優秀な部下から優先して仕事を割り振る」と回答しました。
残業を減らそうと個人が努力をしてスキルを上げても、スキルが高まった分さらに仕事を割り振られて、残業が増えてしまうという構造が定着してしまっているのです。
加えて、近年は「管理職への業務集中」も問題視されています。これは、働き方改革の一環として残業を抑制する気運が高まったことにより、上司が部下に対し仕事のアサインを遠慮するようになりました。その結果、皺寄せが上司である管理職に及んでいるのです。
「働き方改革」「ノー残業」といったスローガンだけが一人歩きしてしまい、残業が集中する構造の強化を誘因しているのです。
2.感染
「周りの人が残業していると何となく帰りづらいため一緒に残業する」という具合に、残業は「感染」します。これは日本社会特有の企業や組織における風土・特性が大きく影響しているためです。
「帰りづらい」という同調圧力が組織内に「感染」することで、どんどん無意味な残業を生み出しているのです。この同調圧力は若い世代ほど感じやすく、上司が残っている間は帰れないと感じる傾向にあります。
前項で上司は、部下の残業を抑えるために業務を抱え込んで残業時間が増える傾向が強まっていると述べました。
上司が部下に配慮した結果残業しているにもかかわらず、同調圧力によって上司が帰るまでは何となく残業するという負のループの構図を見て取ることができます。
▷【重要】勤怠管理で知っておくべき労働基準法の基本ポイントを解説
3.麻痺
従業員の幸福度や会社満足度、ワークエンゲージメントは、法定労働時間を大幅に超過して働き続ける超・長時間労働により「麻痺」することが明らかになっています。
それは、日本固有の終身雇用・年功序列神話に基づく企業への帰属意識によるものと考えられます。
こなした仕事の「量」や残業の「量」が昇給基準として組織に浸透していることで、量をこなせばこなすほど出世に近づくという期待が大きくなるのです。
本来、仕事に対する幸福度ややる気は、残業時間が長くなればなるほど低下する傾向にあります。
しかし、残業時間が月60時間を超えたあたりから、幸福度や満足感が再び高まり始める傾向があることが同調査で発見されたのです。
同調査で顕在化された「長時間労働により、幸福度や満足感を感じている人」は、自身の心身の健康を顧みることなく、さらなる高評価を得るために残業を重ねてしまいがちです。
このような「麻痺」した状態の超過労働の放置は、従業員の心身の健康を守るという企業が負うべき社会的責任を果たしていないことにつながってしまいます。
4.遺伝
残業を肯定的に捉える姿勢は、「遺伝」します。これは、残業文化全盛時代に新卒入社を経験した世代が現在上司となり、部下や組織に自分の経験した残業を良しとする文化を伝えているためです。
同調査にて、部下の残業を増やしやすい上司の属性を調査した結果、残業を増やす上司は「(自分が)若い頃にたくさん残業していた」という経験を持っているということが明らかになっています。
上司世代が新卒社員だった頃は、「残業は当たり前」「終電・タクシー帰りも日常茶飯事」で、残業すればするほど「良い社員」と考えられていました。
そのため、このような世代の上司は残業習慣を部下に対しても求め、「時間をかけて仕事をする部下を評価する」「自分の仕事が終わっても職場に残る」といった傾向が顕著に現れています。
残業を良しとした考え方が遺伝することで、同調圧力が生まれ、その結果、部下の残業時間増加につながっているのです。
これらの残業を助長するメカニズムは相互に干渉し合っており、どれかひとつだけを解消するということは困難です。
無意味な残業が生まれやすい土壌が出来上がっている組織や企業においては、低賃金を理由に、残業代で生活費を補填するために残業するといったケースも少なくありません。
残業時間の適切な管理は、コスト管理という視点においても企業経営に深く関わってくるため、これらの問題は早急に解決することが必要です。
【出典:パーソル総合研究所「職場の残業発生メカニズム─残業習慣の「組織学習」を解除せよ」】
▷勤怠管理システムで改善できる5つの課題とは?スムーズな導入方法も解説
残業が発生する原因は1つとは限りませんし、会社が同じだからといって全部署で原因も同じとは限りません。残業の原因が違えば、当然残業を減らす方法も変わります。企業内あるいは部署内で「何時間の残業が」、「なぜ発生しているのか」を丁寧に分析することが、残業時間を減らす第一歩とも言えるでしょう。
時間外労働に関するルールの設定
時間外労働に関するルールの設定をしましょう。残業の温床となっている組織や企業の風土・文化を改善するためには、明確なルール作りと社内全体への浸透が必要不可欠です。
ルールをしっかりと設定しておくことで、サービス残業や不要な残業の抑制、残業時間の削減につながります。
また、残業の減少により、従業員の心身の健康維持にもつながるでしょう。
ルールの設定においては、以下の3つの観点を取り入れることで、スムーズにルール作りを進められます。
- 就業規則の明確化
- 残業時間の明確化
- 申請方法の明確化
就業規則の明確化
就業規則の明確化をしましょう。時間外労働に関するルールの設定で、まず着手しなければならないことが、就業規則の整備です。
就業規則の役割は、企業と労働者の守るべき権利や果たすべき義務について定めることです。労働者が企業に対し「労働」を提供し、その対価として企業が「賃金」を渡すという構造の健全性を維持することにあります。
時間外労働の管理は、従業員の心身の健康と共に勤怠管理や賃金の算出に大きく関わる要因です。
そして勤怠・労務管理上の遵守事項や賃金の算出方法は、勤務形態や雇用形態によって異なるため、労働時間に関するルールは各勤務形態・雇用形態ごとに設ける必要があります。
どのような働き方をしている人であっても、就業規則には所定労働時間や残業、休憩や休日に関するルールをしっかりと明記しておかなければなりません。
残業時間の明確化
残業時間の明確化をしましょう。就業規則にて定めた労働時間に関するルールに基づき、残業時間に関するルールをより掘り下げて設定しておくことが大切です。
何時から残業とみなされるのか、残業の申請にはどのような条件が必要なのかなど、従業員によって解釈が変わらないようにルールを設定しておきます。
加えて、内容や条件に抜け漏れがないかも注意しながら進めていきましょう。
申請方法の明確化
申請方法の明確化をしましょう。残業申請の方法は、できるだけシンプルでわかりやすく、申請作業によって業務が妨げられないことに注意して設定します。
これは、就業規則やルールをしっかり定めていても、「申請方法が複雑」「申請の必要性が感じられない」などの理由から申請手続きが浸透しないケースが少なくないためです。
そのため、申請方法や申請手順は誰が見ても理解できるような形で示されなければなりません。
▷勤怠管理システムを導入する目的と効率化によるメリット8選
就業規則や労働条件通知書への割増賃金率の記載誤りには注意しましょう。誤って高い割増率を記載してしまうと、その割増率での支払いを求められてしまいます。(誤って低い割増率を記載したときには、労基法で定められた割増率で計算した金額の支払いが求められます。)また、所定労働時間が8時間未満の労働者がいる場合には、法定内残業の割増賃金の支払有無はきちんと明文化しておきましょう。
残業時間に関するルールの運用方法
残業時間に関するルールの運用方法ですが、残業時間のルールは作成して完了ではありません。
きちんと社内で運用し、全ての従業員に周知徹底させる仕組みづくりをしなければ、残業時間を適切に管理することはできません。
ここからは、ルールを運用していくにあたって有効な3つの方法について解説していきます。
労働時間管理に限った話ではありませんが、新しいルールを定着させるには時間がかかります。根気強く、繰り返し周知・教育を行っていくことが重要です。また、なぜこのルールが必要なのか、なぜ勤怠管理システムを入れるのかなど、従業員に「なぜ」の部分を納得してもらえるとよりスムーズに運用が進む傾向にあります。
ルールの周知
ルールの周知をしましょう。残業は全ての従業員に関係する事柄であるため、従業員一人ひとりに、その必要性を理解してもらい、スムーズな運用に協力してもらう必要があります。
経営層からパート社員に至るまで全員に周知するためには、能動的に運用してもらえるよう、説明会やセミナーを開催することも一つの方法です。
そして、残業に関するルールは、運用開始時だけに限らず、運用が開始した後も定期的に社内に周知し、浸透する取り組みを継続させることが大切です。
残業習慣が深く根付いている部署であるほど、ルールの運用がなかなか定着しません。そのため、念入りに啓蒙と周知徹底を行いましょう。
タイムレコーダーの活用
タイムレコーダーの活用をしましょう。タイムレコーダーは、労働時間が可視化されることで、組織全体に時間に対する意識づけを強化するとともに、管理工数削減に役立ちます。
自己申告制の勤怠管理では、正確な労働実態を把握することが難しいことから、正確な給与計算や人件費算出ができません。
また、労働実態が可視化されても、従業員本人たちに長時間労働に対する意識が欠けていれば、改善行動を促しても上辺のスローガンだけで無駄に終わってしまいます。
タイムレコーダーは、労働時間の把握・管理における基礎を担う重要な管理ツールであるため、残業の管理体制構築においては、真っ先に取り入れるべきツールです。
カードを挿入して打刻するアナログタイプと、スマートフォンなどのデバイス上で打刻できるデジタルタイプのタイムレコーダーがあります。それぞれの職場の事情や特性に合った方法を選ぶと良いでしょう。
▷タイムレコーダーで勤怠管理!失敗しない選び方とおすすめ商品11選
勤怠管理システムの活用
勤怠管理システムの活用をしましょう。様々なメーカーからリリースされている勤怠管理システムは、適正な労働実態の把握と管理のために、積極的に活用すべきツールです。
勤怠管理システムにより、クラウド上で勤怠実績集計から各種申請・承認、有給休暇などを一括で管理し、人事担当や管理職の業務工数を削減することができるためです。
また、従業員の働き方がデータとして可視化され、クラウドで管理することで、経営層や部門責任者との共有が容易になります。その結果、より迅速な現状把握と問題への対処が可能となるでしょう。
管理業務の効率向上に貢献するだけでなく、手動によるタイムカード打刻や自己申告において、問題視されていた虚偽申請などの人為的操作の防止にもつながります。
▷【最新比較】おすすめ勤怠管理システム15選!失敗しない選び方も解説!
必要に応じた再検討
必要に応じた再検討をしましょう。2022年現在において、働き方改革に関する取り組み推進は継続されています。
また、コロナ禍を経て働き方の多様化に拍車がかかったことから、勤務・雇用形態、労働時間に関する制度は今後も改正が続くことが予想されます。
そのため、世論の高まりや法改正の兆候が見られた場合は、その都度、現行のルールが現状に即した内容になっているか見直しを行うようにしましょう。
加えて、年度初めの組織改編などのタイミングでも、ルールを見直し再検討し適宜修正するPDCAサイクルを回し、ルールが形骸化してしまわないように注意することが大切です。
勤怠管理が不十分な場合の経営リスク
勤怠管理不十分による経営リスクにも注意しましょう。企業が従業員に対して法律で定められた基準以上の労働を強いることは、労基法に抵触する恐れがあります。
適切な勤怠管理を怠ることで、企業に対しては具体的にどのようなリスクを被る可能性があるのでしょうか。
- 罰則がかされる
- 退職率の増加
- 生産性の低下
- 企業イメージダウン
罰則がかされる
罰則がかされることに注意します。36協定や労基法に準じた形で勤怠管理を行わなければ、雇用主である企業の使用者に対し罰則が課せられます。
違反対象となるのは、主に残業、深夜労働、休日労働に対して、適正な割増賃金が支払われていないケースです。
ただし、割増賃金を支払っていれば何時間でも残業や休日労働をさせてもいいという訳ではありません。割増賃金を支払っていても、以下の2つの条件を「共に」満たしていなければ、罰則対象となります。
- 1ヶ月間の残業時間と休日労働時間が100時間未満であること
- 直近の6ヶ月間における各月の残業時間と休日労働時間の合計時間を元に「2ヶ月平均」から「6ヶ月平均」までを算出した際、すべての期間において平均時間が80時間以内に収まっていること
「割増賃金の支払い」と「残業時間の上限の厳守」。
この2つのいずれかが満たされていない場合、労基法第119条に基づき「6ヶ月の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が課せられるのです。
【出典:e-Gov法令検索「労働基準法」】
退職率の増加
退職率の増加も重要なポイントです。若い世代を対象とした仕事に対する意識調査において、正社員で働くことを辞めた理由として「労働時間や休日・休暇の条件がよくなかったため」との回答が、男女共に約3割を占めるという結果が出ています。
この調査結果が表している通り、働き方改革の推進によって若い世代では残業を避ける傾向が高まっています。
「残業や休日出勤は当たり前」「有給休暇は病気の時に使う」などの前時代的な企業や組織の風土は、若手社員の定着を阻害し、離職を促す要因となるリスクとなっているのです。
【出典:厚生労働省「若年者雇用対策の現状等について」】
生産性の低下
生産性の低下も注意すべきことの一つです。残業時間が適正に管理されないことで、従業員各々の、ひいては組織・企業全体の生産性は大きく落ち込むことが予想できます。
労働時間が可視化されておらず、労働実態が曖昧であることで、不要な残業が発生しやすくなるためです。
企業イメージダウン
企業イメージダウンにもつながりかねません。インターネットが企業活動に及ぼす影響力が増大する昨今においては、企業のブランドイメージもSNSや口コミサイトなどへの投稿によって一晩で失墜する可能性を常にはらんでいます。
企業のOBや現役の従業員によって投稿された、福利厚生や給与、労働条件などの内部情報を元に企業を比較できる口コミサイトの台頭により、このリスクはますます高まっているといえるでしょう。
さらに、働き方改革推進によって問題視されるようになった事象として有名な「時短ハラスメント」も、企業の評価を下げる要因として忘れてはいけません。
残業の削減を意識しすぎるあまり、本当に必要性があって残業をしている従業員に対し、「まだ帰らないの?」「残業はするな」などの時短勤務を強要する姿勢をとってしまっては逆効果です。
いずれにせよ、ネット上で公開された情報によって企業の価値や評価が大きく左右されるリスクに対しては、危機感を持って取り組む必要があります。
残業時間についての注意点
残業時間についての注意点があります。近年、新しい働き方として注目を集めている「フレックスタイム制」や「裁量労働制」を導入している場合、勤怠管理においてはいくつかの注意が必要です。
フレックスタイム制の勤怠管理について
まずフレックスタイム制を導入している場合、勤怠管理においては以下の点に注意しなければなりません。
- 就業規則等への規定と労使協定の締結が必要
- 法定労働時間が賃金の精算期間(ほとんどの場合1ヶ月)単位で設定されるため、残業時間に関する取り扱いが通常と異なる
- 精算期間における総労働時間と実労働時間との間に過不足が生じた場合、それに応じた賃金の支払いが必要
フレックスタイム制は、精算期間における総労働時間を設定しておけば、日々の出退勤時刻や勤務時間は従業員の意志で決定できます。
そのため、従業員ごとに勤務スケジュールが異なり、流動的に変更することも多くなります。そのため、法律上の観点からだけでなく、実務の観点から効率的かつ適正に勤怠管理ができる方法を検討する必要があるでしょう。
▷フレックスタイム制における正しい勤怠管理とは?重要性や注意点も解説
裁量労働制の勤怠管理について
次に、裁量労働制を導入している場合の勤怠管理における注意点は以下のとおりです。
- 就業規則等への規定と労使協定の締結
- あらかじめ設定した「みなし労働時間」に対し実労働時間が増減しても、給与には反映しない
- みなし労働時間を法定労働時間以上に設定した場合は、超過分に対する残業代を給与に反映させる
- 法定休日は、少なくとも週1日、または4週を通じて4日以上付与する必要がある
裁量労働制は、労働時間に対してではなく成果に対して給与が設定されるため、勤務時間や出退勤時刻は本人の裁量によって自由に設定することができます。
そのため、通常の「残業」という概念がなく、勤怠管理も本人の裁量に委ねられる部分が多くあることから、長時間労働や休日・深夜労働が常態化するリスクをはらんでいます。
勤怠管理システムを活用して出退勤時間を打刻するなど、勤務実態をしっかり把握することが、裁量労働制の勤怠管理においては非常に重要なポイントとなるのです。
【出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」】
【出典:東京労働局「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」】
勤怠管理を正しくして労働環境を改善しよう
適正な勤怠管理は、企業の労働環境向上を図る上で核となる要因です。従業員の労働時間が可視化されることにより、ポジティブな効果が次々と芋づる式に生み出されることが期待できます。
今回解説したルールや運用方法を参考に正しい勤怠管理を行い、従業員の生産性やモチベーションが高まる労働環境の整備を進めてください。
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一言で「残業」と言っても、法定内残業か法定外残業かの区別は実務上とても重要です。また、この記事では触れられていませんが「休日労働」も「所定休日労働」か「法定休日労働」かで扱いが異なってきます。似たような言葉が多いですが、これらの違いを正しく理解しておきましょう。