電子契約の法的効力とは?担保する仕組みや導入時のよくある疑問を解説
電子契約は業務の効率化やコストの削減に便利ですが、トラブルが起こった際の法的効力に不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。本記事では、電子契約の法的効力を担保する仕組みや法律の他、よくある疑問の解決策などもご紹介します。ぜひ電子契約サービス導入の参考にしてください。
目次
電子契約の法的効力を担保する仕組み
従来、ビジネス上で契約をする際には、紙の契約書に署名や押印をして締結していました。しかし近年は、社会のデジタル化や働き方の変化により電子契約を導入する企業も増えています。
このような動きの背景には、働き方改革の推進や電子契約の法的環境が整ったことなどがありますが、一方で、電子契約の法的な有効性やシステムの安全性を疑問視する企業も少なくありません。ここでは、電子契約の有効性や仕組みや契約をする際の注意点などについて解説します。
(1)電子署名
紙の契約書で契約を締結する際には、主に以下の2点を証明するために、署名や押印をしています。
- (契約当事者が)契約内容に合意したこと
- その契約書が原本であること(改ざんされていないこと)
そして、電子契約において、上記の証明として用いられているのが「電子署名」です。電子契約では、電子署名をすることで、契約の「本人性」と「非改ざん性」を担保しているのです。
電子署名には「当事者型電子署名」と「立会人型電子署名」があります。それぞれにメリットとデメリットがあるので、電子契約を導入する前に違いを理解しておくことが大切です。
当事者型電子署名
契約を締結する当事者本人が電子署名を付与する電子契約の方法が、「当事者型電子署名」です。
・当事者型電子署名の仕方
認証局で証明書の発行を申請します。本人を証明するために必要な書類を提出し、認証局によって本人確認が行われたのち、電子証明書が発行されます。この一連の作業は、早くて数日、場合によっては1ヶ月ほどかかります。
・当事者型電子署名のメリットとデメリット
電子証明書は、認証局による厳正な審査をもって発行されるため、なりすましによる契約の締結といった不正を回避することができ、安心して利用できます。その点から、法的な効力も立会人型電子署名と比べて、高いとされている点がメリットです。
ただし、電子証明書の発行は時間だけでなくコストがかかること、また、当事者型で電子契約を行うには、相手型も同様のサービスを利用している必要があるなどのデメリットがあります。
立会人型電子署名
電子契約サービスを提供する事業者が「立会人」となって、電子署名を付与する電子契約の方法が、「立会人型電子署名」となります。
・立会人型電子署名の仕方
立会人型では、契約当事者の依頼のもと、サービス事業者がメール認証によって本人確認と、当事者双方の合意を確認したのち、立会人となるサービス事業者が、電子署名を付与します。
・立会人型電子署名のメリットとデメリット
本人名義の電子証明書を発行しなくてよいので、その分費用と手続きの時間を省くことができます。しかし、本人確認は、メール認証のみのため、なりすましのリスクを完全に排除することは難しく、当事者型電子署名と比較すると、本人であるかどうかの真正性が劣ってしまう点がデメリットです。
▷電子契約における立会人型と当事者型の違いは?各メリットや選ぶ基準を解説
(2)電子証明書
印鑑が本物であると証明する印鑑証明書と同様に、電子署名が本物であることを証明するのが電子証明書です。電子証明書の発行と登録は、電子契約で本人確認をすることを目的に行われています。
電子証明書には2種類ある
電子証明書には「民間認証局が発行するもの」と「公的認証局が発行するもの」の2種類があります。2つの電子証明書の違いは、次の通りです。
・民間認証局が発行する電子証明書
民間認証局には、戸籍や住民票、免許証などの身分証や書類によって本人確認を行う「認定認証業務」と、本人確認を必要としない「特定認証業務」があります。「認定認証業務」には実印と同じ信頼性がありますが、「特定認証業務」は信頼性が劣り、その信頼性は依頼する民間認証局によって異なるので、注意しなければなりません。
・公的認証局が発行する電子証明書
公的認証局が発行する電子証明書は公的個人認証サービス(JPKI)といい、マイナンバーカードに搭載されるのが特徴です。
▷電子契約書の作り方とは?作成するメリットや仕組み・注意点を紹介
(3)タイムスタンプ
電子契約の法的な有効性を担保する仕組みとして、電子署名のほかに「タイムスタンプ」といったデジタル技術があります。このタイムスタンプは、必ず第三者機関である時刻認証業務認定事業者が発行するものを使用しなければなりません。
電子署名とタイムスタンプの違いは、以下の通りです。
- 電子署名:契約の「だれが」「なにを」を証明する
- タイムスタンプ:「いつ」「なにを」を証明する
つまり、タイムスタンプの付与によって、電子文書がある時刻以降に「存在」したことと、その時刻以降に文書の内容が改ざんされていない「非改ざん性」を証明する仕組みとなっています。
電子契約に関する法律と主な規制内容
安心して電子署名を利用し、正しく電子契約書を管理できるように、電子契約を導入する際には関連する法律と、主な規制内容を理解しておくことが大切です。
なお、電子契約に関する法律は制定以降、度々法改正が実施されているものもあります。常に新しい要件を把握しておくようにしましょう。
ここでは、電子契約に関する法律でよく知られている、「電子帳簿保存法」「電子署名法」「e-文書法」の3つに絞って、それぞれの特徴と規制内容を見ていきます。
(1)電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は1998年に制定された法律で、主に国税に関わる帳簿や書類を電子化して保存する際のルールを定めています。そのほか、電子取引に係る電子データの保存についても、この電子帳簿保存法に要件が記載されているため、それらの条件を満たす必要があります。
ちなみに、これまで国税関連の帳簿書類を電子化して保存する際には、管轄の税務署へ事前に申請し承認を得る必要がありましたが、2021年の法改正(2022年1月1日施行)により、現在は、この事前承認が不要となっています。
▷電子帳簿保存法の基本知識を解説!データ保存要件や法改正のポイントとは?
(2)電子署名法
「電子署名」の有効性や利用方法などを定めた法律です。電子署名法が制定されたことで、電子署名の付与による電子契約の法的な有効性や証拠力が認められるようになりました。
ただし、電子契約の完全性を高めるには、電子署名だけでなく、タイムスタンプも必要であると覚えておくと良いでしょう。
(3)e-文書法
2004年に制定された法律で、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の2つから構成されます。
この法律により、今まで保管してきた紙の契約書をスキャンし、データ化して保存することが認められるようになりました。
電子帳簿保存法との違いは、対象となる文書の範囲にあります。主に国税関連の帳簿や書類の電子化を定めた電子帳簿保存法に対し、e-文書法では、さらに広く法定保存書類全般の電子化について定めています。具体的には、国税関連書類の他、建築図書や人事関連、医療関連の情報などが対象となっています。
▷電子契約に関連する重要な法律まとめ!ポイントをわかりやすく解説!
導入前に知りたい電子契約の注意点
電子契約の導入は、さまざまなメリットが期待できますが、その一方で、導入する際にはいくつかのデメリットや注意点もあるので知っておきましょう。電子契約を導入する際に注意しておきたい点は以下の4つです。
(1)業務フローの変更に手間がかかる
電子契約に切り替えることで業務の効率化が図れますが、導入する際は今までの業務フローを変更する必要があります。
新しいルールを制定したり担当者を決めたり、業務フローの変更には手間がかかってしまいがちですが、手を抜くと業務に支障が出てしまい、移行途中で断念することにもなりかねません。
電子契約が社内で定着するためには、事前準備を念入りに行い、必要であれば社内教育やセミナーなども実施して社内周知を徹底しておくことが大切です。
(2)電子契約を結ぶには取引先の同意も必要
電子契約によって契約を締結することに対して、必ず取引先から同意を得る必要があります。ただし、日本では、ハンコ文化が根強く残っている影響もあり、電子契約の導入に否定的な企業も少なくありません。実際に、同意を躊躇する企業も多いのが現実です。
また、当事者型の電子契約であれば、相手方もシステムを導入する必要があり、費用的な負担が発生する点も、電子化に踏み切れない理由のひとつでしょう。
実際に、費用がかかることがわかると断られるケースも少なくありません。スムーズな契約締結に向けては、仕組みや法的な有効性の説明だけでなく、費用面についても十分に事前説明を行っておくことが重要です。
(3)なりすましのリスクがある
なりすましとは、第三者が本人になりすまして契約を行うことです。非対面での契約が可能となる電子契約においては、この「なりすまし」による不正は十分注意しなければなりません。
特に、初めての取引先の契約においては、なりすましのリスクがさらに高くなりがちです。電子契約サービスを選ぶときは、厳重な本人確認が必要となる電子署名を利用できるものを選ぶようにしましょう。
▷電子契約における本人確認の重要性となりすまし防止への対策について
(4)相手の契約締結権限を確認する
電子契約は非対面で行うため、契約締結権限がない社員が無断で契約を交わすリスクが否定できません。この場合もなりすましと同様、未然に防ぐための対策が必要です。
相手の契約締結権限を確認する方法としては、次のようなものがあります。
- 契約締結権限者を書類やメールで事前に知らせてもらう
- 契約締結権限者の事前情報と電子署名を付与する人のメールアドレスを照合する
なお企業において契約締結権限を持つのは、原則として代表取締役です。それ以外の社員が締結する場合は、代表取締役から権限委譲がなされているかについても確認しましょう。
▷電子契約に印鑑は本当に不要?書面契約との違いや電子印鑑のリスクを解説
電子契約の導入時のよくある疑問
ここでは、電子契約を導入する際のよくある疑問についてを5つご紹介します。
(1)契約書はなんのために作る?
契約書を作成する目的は、契約したことを証明する点にあります。
実は、法的には契約締結に際して契約書は不要であり、口頭でも契約を成立させることが可能です。しかし実際には、ビジネス上の契約は、条件や権利、義務などの詳細を記載する必要もあることや、言った、言わないなどのトラブルを避けるため、契約書を交わすのが一般的でしょう。
契約書を作成し、双方が、電子署名や署名・押印などで合意の意思表示をすることにより、単なる取り決めではなく証明力のある契約にすることが可能です。
(2)電子契約と紙の契約で法的効力に差がある?
電子契約と紙の契約では、原則として法的効力に大きな差はないと考えることができます。
ただし、どちらの契約方法においても、契約の法的な有効性や証拠力を示すには、契約成立の原則である「契約締結を申し入れた意思表示と、それに対し相手側が承諾したこと」を証明できなければなりません。
そのため、電子契約では必ず関連する法令に従ってデータを取り扱い、電子署名やタイムスタンプを付与する必要があります。さらに、法的効力を重視するのであれば、本人確認が厳しい当事者型の電子契約システムを選ぶこともポイントです。
(3)一方が紙での署名、もう一方が電子署名でも大丈夫?
一方が紙での署名、もう一方が電子署名でも契約の締結に問題はありません。
電子契約が行われるようになってまだ間もないので、一方が紙の署名でもう一方が電子署名になってしまうことも考えられます。法律上は、契約の方法よりも双方の契約締結意思が重要視されるため、民法の観点からいえばこのような契約でも有効です。
取引先が電子契約を導入していない場合は、紙の契約書を取引先用に1通作成し、自社の契約書は電子データで作成し電子契約で同意してもらいましょう。または、紙の契約書を取引先用に1通だけ作成し、自社はコピーを電子化して保存しておく方法も可能です。
(4)電子契約できない取引はある?
電子契約ができない取引があるので、事前に確認しておかなければなりません。業種によっては契約を交わす場合に、紙の契約書を作成し交付することが義務となっている契約もあるため注意が必要です。
2022年1月現在、以下の書面は電子契約ができず、紙の契約書が必須となります。
- 定期借地契約書と定期借家契約書
- 宅建業者の媒介契約書
- 不動産売買で必要となる重要事項証明書
- マンション管理などで作成する委託契約書
- 任意後見契約書
- 訪問販売などで交付する書面
ただし、これらの契約書面も、すでに年内(2022年)に、電子化が認められることが決まっているものもあります。上記に取り扱う可能性のある契約の種類が含まれている場合には、電子化の施行時期などに関して、事前にしっかりと確認しておきましょう。
▷電子契約できない契約書とできる契約書の違い|できない理由と電子化の秘訣
(5)電子サインを使う際の注意点は?
電子サインを使う際は、必ず事実を証明できる証拠をとっておくことが大切です。
電子証明書の発行を必要としない電子サインは、電子署名と比較すると証拠力が劣る点を理解した上で、利用しなければなりません。
電子サインを用いて契約を交わす場合は、念のため契約を締結したことを証明できる証拠を可能な限り確保しておきましょう。証拠となり得るものとしては、取引先とやり取りをしたメールなどが挙げられます。
電子契約は要件を満たすことで法的効力を発揮する
ご紹介したように、電子契約でも「電子署名」を付与すれば、法的な有効性や証拠力を持つことができます。ただし、電子契約にはデメリットもあるので、導入する際は電子契約の知識を深め、事前準備をしっかりとしておくことが大切です。
電子契約は、事務作業の軽減や管理の簡略化、コストの削減などのさまざまなメリットが得られるシステムです。契約にかかるコストを削減して業務の効率化を図りたい場合は、電子契約の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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