フラット型組織とは?メリット・デメリットや事例・課題の解決方法について
管理階層が重層化しているピラミッド型組織とは反対に、階層を簡素化した組織を「フラット型組織」と呼びます。組織形態にはほかにもさまざまな種類がありますが、今回はフラット型組織に焦点を絞り、特徴やメリットについて解説します。
・フラット型組織とは、管理職を少なくして役職による階層を簡略化した組織形態のこと
・フラット型組織には、ティール組織とホラクラシー組織の2種類に分けられる
目次
フラット型組織とは?
フラット型組織は、管理職と呼ばれる中間層(部長や課長など)を減らし、階層を簡素化した組織形態です。管理職をはじめとする複数の階層がある組織と比較すると、組織構造が平面的であることが、フラット型組織という呼び名の由来です。
フラット型組織は、通常管理職に集まる権限が社員に分散されるのが特徴です。これによって、社員は裁量権を持って業務に取り組むことができ、意思決定が迅速化します。
フラット型組織には、主にティール組織とホラクラシー組織という2つの種類があります。
ティール組織
ティール組織は、上司やリーダーが業務の指示・管理を行わなくても、社員が目標達成に向けて協働し、成長していく組織のことです。フレデリック・ラルー氏の著書「ティール組織」がきっかけとなり、注目を浴びるようになりました。
ティール組織はメンバー間に上下関係がなく、市場の要求や社会の変化によって日々進化する組織の存在目的に適応し続けることから、「生命体」とも呼ばれています。
組織の心理的安全性に配慮しながら、社員一人ひとりが自身の役割に沿ってセルフマネジメントを行い、それぞれのパフォーマンスを最大化することがティール組織の特徴です。
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ホラクラシー組織
ホラクラシー組織は、業務の役割(ロール)を起点に権限を移譲し、編成されたチーム(サークル)が能動的に活動する組織のことです。ブライアン・J・ロバートソン氏が、自身がCEOを務めるソフトウェア会社で実践した組織モデルをベースに提唱し、世の中に広まりました。
ホラクラシー組織にはホラクラシー憲法と呼ばれる厳密なルールがあり、その内容に基づいた意思決定を求められるのが特徴です。このことから、意思決定権が組織内に分散するものの、ティール組織と比べて自由度が低い傾向にあります。
▷ホラクラシー組織とは?メリット・デメリット、ティール組織との違いをわかりやすく解説
フラット型組織が注目される理由
近年は顧客ニーズの多様化や技術のコモディティ化をはじめ、ビジネス環境が目まぐるしく変化しています。このような状況下で競合他社に後れを取らないためには、変化に迅速かつ柔軟に対応するだけでなく、イノベーションの創出による優位性の確立が不可欠です。
しかし、従来のピラミッド型の組織構造では、変化への対応とイノベーションの創出を両立することが困難でした。この打開策として、経営と現場の間にある中間層を削減し、経営の判断と現場の行動をスピーディに進められるフラット型組織に移行する企業が増えているのです。
フラット型以外の組織構造について
組織構造はフラット型以外にも複数あり、重視するポイントによって選ぶべき構造が異なります。ここでは、主な組織構造として以下の4種類を解説します。
- ピラミッド型組織
- 職能別組織
- 事業部制組織
- マトリクス組織
ピラミッド型組織
ピラミッド型組織は、ティール組織とは対照的に中間層を重層化し、トップダウンの指揮系統で指示・管理する組織のことです。
人による管理に重きを置いており、管理職の目が届く人数に応じてチームを区切ります。これにより、本部・部・課などの重層的な管理が行われるのがピラミッド型組織の特徴です。
▷ピラミッド型組織とは?特徴やメリット・デメリット、フラット型組織との違い
職能別組織
職能別組織は、営業・マーケティング・経理・人事など、ポジション単位で部署が分かれている組織のことです。
専門的な知識・スキルを持った集団ごとに部署が編成されるため、最小限のコミュニケーションで効果的に活動できるのが特徴です。一方で、製品・サービスの種類が増えると運営の難易度が上がり、コミュニケーションが希薄であることを要因に、関係性が悪化するというリスクを抱えています。
事業部制組織
事業部制組織は、事業やエリア、担当商材などに応じて事業部を分けて運営する組織のことです。
事業部の基準に応じて担当領域を特化できるため、専門性を高めつつ、組織として身軽に動ける特徴があります。一方で事業部ごとに独自の指揮系統で運営されることから、全社的な連携が難しく、組織トップを起点としたリソースの再分配などの経営判断を実行しづらい点がデメリットです。
マトリクス組織
マトリクス組織は、職能別、事業別などの複数の要素を組み合わせた組織のことです。社員は職能に応じた組織に所属しながら、特定の事業・プロジェクトも兼務するため、マトリクス組織では複数の目標を同時進行で追うことができます。
一方で、社員が2つの組織に所属する兼ね合いで指揮系統も2つ存在することから、「どちらの指示を優先すればよいか」という点で混乱が生まれやすいのがデメリットです。
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フラット型組織を採用するメリット
フラット型組織は階層が平面的になるという特徴によって、トップダウン系統の組織構造と比べていくつかのメリットがあります。
社員が責任感を持てる
管理職の権限を社員に移譲するため、フラット型組織では権限に応じて裁量の度合いが高まります。これによって、社員一人ひとりの責任感が増し、主体的な言動が生まれやすくなるのがフラット型組織のメリットです。
社員が責任感を持つと、自己成長に対するモチベーションが高まります。新しい知識やスキルを積極的に習得するようになるため、生産性や創造性の向上を期待できるでしょう。
意思決定がスムーズになる
フラット型組織は階層が少ないことによって、情報伝達にかかる時間や工数が減ります。また、権限の移譲により社員の裁量で意思決定できる範囲が広がるため、上司の承認を必要としないシーンも多いでしょう。
承認を必要とするケースであっても、階層を通過するタイミングで情報が変質する可能性が低く、意思決定がスムーズになるのがフラット型組織のメリットです。
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組織のコミュニケーションが活発化する
権限の移譲によって上司と部下の壁が薄まり、社員が自身の意見を発言しやすくなるのもフラット型組織のメリットです。加えて、中間層が削減されると経営層との距離が近づくため、発信したアイデアが反映されるチャンスも増えていくでしょう。
役職や年齢に関係なくフラットなコミュニケーションを取れるようになるため、さまざまな視点や知識を持った社員との交流が活発化します。
フラット型組織の採用によるデメリット
フラット型組織には複数のメリットがある一方で、この組織構造だからこそのデメリットも存在します。メリットにばかり目を奪われてしまうと、組織に対してマイナスの影響を与える可能性もあるため、注意が必要です。
組織を俯瞰できる人材が育たない
フラット型組織は中間層の削減で社員の裁量権を拡張する反面、組織を俯瞰するポジションが不在となるデメリットがあります。そのため、組織全体を俯瞰し、状況に応じてバランスの取れた対応ができる人材が育ちにくいのです。
また、組織を俯瞰できる人材がいないと、社員が自身の業務に集中しすぎて連携が弱まるだけでなく、自己評価に偏りが生まれる可能性も出てきます。
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個人のスキルに依存しすぎてしまう
フラット型組織には社員の主体性を重視する性質があり、個人のスキルが組織の成果に大きな影響を及ぼします。そのため、結果的にスキルによる格差を生みやすいこともフラット型組織のデメリットです。
フラット型組織ではスキルの高い人に負荷がかかりやすく、スキルの低い人が成長機会を得にくくなります。つまり、スキルの偏りや不足が発生し、組織全体の効率性や柔軟性が損なわれるリスクがあるのです。
業務状況を把握しにくい
フラット型組織は自由度が高い反面、社員一人ひとりの業務状況を把握しにくいというデメリットもあります。中間層が行っていた情報共有やフィードバックがなくなるため、業務の進捗や成果、直面している課題が不明瞭になり、社員のモチベーションに影響を与えやすくなるのです。
このデメリットは組織の規模が大きくなるほど起きやすく、中間層の不在によって経営層の負担も増加する傾向にあります。
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フラット型組織で起こりうる課題の解決方法とは?
スキルの偏りや社員のモチベーション低下が起き、フラット型組織の強みをうまく活かせない状況に陥った場合、早急な課題解決が必要です。ここでは、3つの具体的な解決策をご紹介します。
定期的に研修を実施する
フラット型組織の課題解決には、定期的な研修が効果的です。
- 役割や目標を明確化するための導入研修
- スキルの専門性を高める業務研修
- ロールモデルの提示によるキャリア開発
これらの研修を定期的に実施することで、社員は自身の責任範囲を理解し、成果や成長に対するモチベーションを向上させることができるでしょう。自社のリソースでの研修実施が難しい場合は、eラーニングの導入や外部講師を招いたセミナー開催もおすすめです。
連携を取りやすい職場環境を整える
フラット型組織で個人のスキルに依存しないためには、連携を取るための土台づくりが重要です。
- 定期的なミーティングの実施
- ツールによる業務状況の可視化
- 業務に関する標準的なマニュアルの作成
- 協働の後押しにつながる評価制度の整備
- 交流を促進するカジュアルなイベントの開催
こうしたコミュニケーションの機会を提供することでスキルの偏りを防ぎつつ、連携しやすい職場環境を整えていきましょう。
少しずつ組織構造を浸透させる
従来の組織形態からフラット型組織に一気に移行してしまうと、役割の認識や責任の所在が不明瞭になるリスクがあります。そのため、社員の意識改革やスキルの向上を進めながら、部門やプロジェクト単位など、まずは対象を限定し、段階的にフラット型組織に移行することが重要です。
段階的に移行を進めた方が、経営層やスキルの高い人に負荷が集中した場合の対処が容易です。また、社員の抵抗感や混乱も減らせるため、モチベーションの維持にもプラスに働くでしょう。
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フラット型組織を取り入れた企業の事例
フラット型組織への移行によって生まれる課題は、組織の規模や価値観などによっても異なります。そのうえで、他社がどのような課題に直面し、それをどのように乗り越えたのか気になる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、従来のピラミッド型組織からフラット型組織への移行を決断した2社の事例をご紹介します。
GCストーリー株式会社
屋外広告物のデザインや施工を手掛けるGCストーリー株式会社は、ピラミッド型組織からフラット型組織に移行する際、マネジメント層からの反発が起こりました。さらに、連携先や相談先を見失うという声が出たため、現場の実態を知ることが急務となっていました。
そこで同社が採用したのが、社内アンケートです。これを通じて具体的な課題を特定することでPDCAを回し、課題解決を少しずつ進めていきました。また、この経験を活かしてエンゲージメントサーベイを半年に1回行い、社員の内的な成熟度や不安の実態などを調査しています。
成長機会の提供としては、新入社員の研修担当に人事以外の社員を採用することにしました。実体験を踏まえて研修内容をチューンするという過程を経て、自発的な成長を促しています。加えて、社内外の研修への参加促進にも力を入れており、社員一人ひとりが好きな研修に参加できるよう、1人あたり5万円の研修を支給しているのも特徴です。
[参照元:HRTrendLab「「ヒエラルキー」からフラットな「ティール」組織へ。GCストーリーが取り組んだ組織改革」]
株式会社ロジック
住宅の設計や施工を手掛ける株式会社ロジックは、創業期からピラミッド型組織に違和感を覚えており、フラット型組織への移行を検討していました。
当初はすべての役職の廃止など、ドラスティックな施策が多く実行され、抵抗感を示して退職する社員が十数人も出ていました。社内に混乱が生まれ、施策を行うほどに離反者が増えるという悪循環に陥っていたのです。
そこで同社は、マイナス面も含めて経営状態をオープンにしました。これによって、当事者意識を持つ「HPO」と呼ばれるハイパフォーマンス集団が主体的な意思決定を実行し始めたのです。HPOの主体性は周囲に伝播していき、意識改革につながりました。
[参照元:アチーブメントHRソリューションズ「フラット型組織への転換事例 苦難の先に確かな手ごたえ」]
フラット型の構造は組織階層を減らしたい企業に向いている
意思決定プロセスが冗長になり、変化に対する適応力が下がっている企業にとって、フラット型組織への移行は効果的といえるでしょう。フラット型組織の特徴である中間層の削減と権限の移譲によって社員一人ひとりの主体性が高まると、意思決定プロセスの迅速化やイノベーションの創出にもプラスの影響を与えやすくなります。
一方で、個人のスキルに依存する側面があるため、組織内での業務状況の可視化や育成プログラムによる専門スキルの習得などを通じて、組織のコミュニケーションを活性化させる仕組みを整えることが重要です。
本記事を参考に、フラット型組織の特徴を効果的に活用し、組織の活性化につなげてください。
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