管理職になりたくない人が多い理由|メリット・デメリットを解説
出世レースや出世競争といった言葉があるように、会社員の宿命のテーマでもあったはずの出世ですが、現代では「管理職になりたくない」と考える人の割合が急増していると言われています。なぜ管理職への出世が敬遠されるようになってしまったのでしょうか。
目次
日本は「管理職になりたくない人」が多い国?
日本は諸外国と比較して、管理職になりたい人の割合が圧倒的に低い傾向にあります。
パーソル総合研究所のグローバル就業実態・成長意識調査(2022年)によると、日本の管理職になりたい人の割合は、全体の19.8%という結果が出ています。この割合は、調査対象国18カ国中、最下位の18位であり、1位で90.5%のインド、2位で87.8%のベトナムと比べて大差となったほか、17位オーストラリアの38%と比べても、20%近く離れていることがわかります。
では、なぜ日本人は管理職になりたくないのでしょうか。年代や性別などに分けて、管理職になりたくない具体的な理由を見ていきましょう。
[出典:パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」]
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【40代】管理職になりたくない理由
経験とキャリアを積み、管理職の「メイン層」の年代とも言える40代の会社員においても管理職になりたくない人が増えています。責任の重さとそれに見合うメリットがないと考える、その理由を、詳しく紹介します。
責任が重くなってしまうため
管理職になると、管理するチームや部署全体の仕事の責任を負わなければなりません。部下のミスやトラブルも自分の責任として対応する必要があるため、負担が大きくなります。また、業績や目標に対する達成率も管理職の責任になるため、チームのパフォーマンスを上げるための行動も求められるでしょう。
自分の仕事以外にメンバーの状況にも気を配り、フォローする大変さや、部署全体の業績を問われるストレスなどを考えると、管理職になりたくないと感じてしまうようです。
40代になって管理職になるメリットがない
管理職になると基本給が上がったり役職手当がついたりと、手取り給与が上がります。しかし、役職によっては、労働基準法における時間外労働の適用外となることから、残業代がつかなくなる場合があります。そのため、働き方や会社の給与体系によっては、期待したほど大きく年収が上がらないこともあるでしょう。
自身の仕事に加えて、部署の業績やメンバーの仕事状況の管理など業務量が増え、労働時間も長くなりやすい一方で、それに見合った給与が得られないと感じるようであれば、管理職になりたくないと思うのも無理はないでしょう。
また、ビジネスパーソンの仕事観が変化し、出世を目指すよりも、プライベートとのバランスを重視する人が増えているのも理由だと考えられます。
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【女性】管理職になりたくない理由
女性の社会進出が進むなかでも、管理職への昇格となると、二の足を踏んでしまう女性は少なくありません。代表的な3つの理由を詳しく見ていきましょう。
育児や家事との両立が難しい
テレワークやフレックスタイム制など、ワークスタイルが多様化した中で、育児や家事との両立がしやすい働き方の選択が一般化しつつあります。しかし、管理職となると、メンバーの都合との調整が必要になることも増えるでしょう。そのため、家庭との両立に不安を抱いたり、実際に難しくなってしまうことも少なくありません。
共働き世帯が増えるなか、子どもの体調不良や行事などで休んだり早退したりしにくくなるのは困るという懸念から、管理職にはなりたくないと消極的になってしまうようです。
女性管理職者が少なくイメージがわかない
ロールモデルとなる女性管理職者が少なく、自分がポジションについた際の働き方のイメージが湧きにくいのも、管理職になりたくないと感じられてしまう理由の一つです。
男性の育児休業取得など、男性の家事・育児への参画が進められているものの、女性の担う割合がまだまだ大きいのが現実です。そのような状況では、管理職の男性においては、仕事優先のライフスタイルを維持できている人が多く、参考にしにくいというのが本音でしょう。自身のライフイベントとキャリアを両立する働き方がイメージしにくく、「自分にはできなさそう」という心理的なハードルが高くなってしまうのです。
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管理職になる自信がない
ワークライフバランスの実現が難しいと感じたり、目標や参考となる女性管理職がいないことによって生まれる心理的なハードルの高さは、自信の欠如にもつながっていきます。
特に、管理職になるためにはリーダーシップや問題解決力、意思決定力など、メンバーを率いる力が必要となります。しかしながら、リーダーのあり方は多種多様なはずであり、カリスマ的なリーダーもいれば、寄り添いながらチームを率いるリーダーもいるでしょう。しかし、特に女性の管理職によるロールモデルが少ない中では、自分が管理職になったときのリーダー像が見えず、自信を持てない傾向にあるようです。
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【若者】管理職になりたくない理由
続いて、若い層のビジネスパーソンが管理職になりたくないと考える理由についても見ていきます。
仕事よりもプライベートを充実させたい
近年の「仕事重視よりもプライベートとのバランス」を好む仕事観の変化は、若者においてより顕著な傾向にあります。
実際に、株式会社リクルートキャリアが実施したアンケートにおいて、20代が仕事に対して重視する項目には、「プライベートの時間を十分に確保できること」が最も重視する項目として挙げられ、プライベートを犠牲にする働き方は望まない人が多数いることが見受けられます。
このように現代の若者は、出世して仕事中心の生活を送るよりも、プライベートを充実させながら働きたいと考える傾向が強いのです。
[出典:株式会社リクルートキャリア「若手の中途採用・転職意識の動向」]
副業をして効率よく働きたい
キャリアの積み方が変化した点も、管理職を望まない若者が増えた理由の一つになっています。
一つの会社で一生働き続けることを美徳とする価値観は薄れ、自分のキャリアやスキルアップを見据えた転職や副業を選ぶ人は少なくありません。企業においても、このような風潮は歓迎されつつあり、近年は多くの企業で副業が解禁され、本業以外の仕事を持つことは、珍しくなくなっています。
そのような状況で、自分がこなすべき実際のタスク以外のマネジメント業務が発生する管理職は、イレギュラーな対応も多く、負担が大きいことから、必ずしも魅力的な選択肢ではなくなっているのです。
仕事の専門性を高めたい
「出世よりも専門スキル」を求め、現場でのスキルアップを望む若者が多いのも理由です。
管理職になると部下のマネジメントやチームとしての組織運営が主な業務となることから、現場での顧客対応やスキルを生かした実務に携わる機会が少なくなるため、仕事の専門性を高める機会が減るのです。
管理職に魅力を感じない傾向が強くなったこともあり、出世よりも自身の専門性を高めることに価値を見出し、職業スキルを追求する傾向が高まっています。つまり、仕事に対する価値観が「管理職として組織の階層を上ること」から「自己の成長」や「専門性の高揚」に向かってシフトしているのです。
管理職になる能力・適性がないと感じる
若者に限ったことではありませんが、管理職になる能力や適性がないと感じることも理由の一つです。
管理職になると、チームを率いる指揮者としてのリーダーシップが求められます。メンバーとのコミュニケーションでは、傾聴力や人間性を必要とする場面もあるでしょう。さらに、今後を左右する大きな決断を迫られることも少なくありません。
スキルに自信がないと、自分には適性がない、管理職になりたくないという思いが強くなります。また、中には周囲を巻き込んで働くよりも、一つの業務に愚直に取り組むのが好きな人もいます。このようなタイプは管理職になりたくないと思いやすいでしょう。
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管理職になるメリット
「管理職になりたくない」という意見が増える中で、管理職になるメリットも存在します。代表的な3つのメリットを紹介します。
価値のある仕事ができる
管理職になると、一般社員とは異なり、事業計画の決定や実行などさまざまな面で決定権が与えられます。そのため、自分の責任で意思決定をし、チームやプロジェクトを動かす機会が増えるでしょう。つまり管理職は、プロジェクトの成功や組織の業績アップなどにダイレクトに貢献する仕事ができるのです。
この管理職に求められる決定権を価値と捉えるか、負担と捉えるかは人それぞれであり、前者であれば、周囲や組織にとって具体的な価値を生み出していると実感できます。
また、上司として育成した部下の成長を感じられたときの喜びはひとしおです。組織に貢献する人材の育成にも携われるのはメリットといえるでしょう。
今後のキャリア形成の第一歩になる
管理職は、誰でもなれるポジションではありません。そのため、管理職経験で培ったマネジメント経験は、ビジネスパーソンとしての価値を高めてくれる結果となります。高い評価は、好条件でのヘッドハンティングなど、転職する際の強みにもなるでしょう。
また、管理職の仕事内容は経営シミュレーションにもなるため、経験をもとに、起業したりフリーランスに転向したりすることもできます。管理職になると、さまざまなキャリア選択ができるのもメリットといえるでしょう。
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固定給がアップする
基本給や役職手当などの固定給がアップする点も、管理職になるメリットです。
労働基準法における「管理監督者」にあたる場合は、時間外労働や休憩、休日などの規制適用外となり、残業代などの割増賃金は支給されなくなります。その一方で、経営者と一体的な関係にある重要な職務として判断されるため、賃金や賞与なども相応の待遇をするよう定められています。
そのため、管理職になると月々の固定給や賞与などがアップし、年収が上がるでしょう。
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管理職になるデメリット
管理職になるメリットを確認したところで、デメリットについても見ていきましょう。
責任が増える
管理職になると、自分以外のことに対しても責任を負わなければなりません。たとえば、部下が取引先とトラブルを起こした場合や業務中にけがをした場合、部署内の残業時間が多い場合などは、すべて管理職の責任において相応の対応や改善策を講じることになります。
また、部署全体の業績の良し悪しも、管理職の責任が問われるでしょう。管理職としての意思決定が部下の動きを左右し、部署全体の成果に直接つながるからです。このように、責任を負う場面が増えるのは、管理職になるデメリットといえます。
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人間関係が複雑になる
管理職になると、以前の上司や年上の社員が部下になったり、同期入社の社員が部下になったりなど、人間関係が複雑になることもあるでしょう。
そのような場合においても、業務指示やマネジメントはしなければなりません。立場が変わることで、今までと同様の関係維持が難しくなるなど、人間関係のストレスが発生する可能性があるのです。
プライベートの時間を確保しにくくなる
プライベートの時間を確保しにくくなるのも、管理職になるデメリットです。
部下の育成や決済業務、プロジェクト管理や各種トラブルの対処といった管理職におけるマネジメント業務の負担は、多くの場合、予想以上に大きいものです。そのため、「自分の仕事は定時の時間外に行う」という管理職は少なくありません。このようなケースでは、休日に仕事をこなすこともあるでしょう。結果として、プライベートの時間が削られてしまうことになるのです。
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管理職を打診された際の円満な断り方
管理職になるメリットや、自分のキャリアパスと照らし合わせた結果、管理職の昇進を断りたいと考える方もいるでしょう。しかし、断ることによって会社内での人間関係が気まずくなってしまう事態は避けたいものです。ここからは、昇進のオファーを円満に断る方法を紹介します。
プライベート・家庭を優先したいと告げる
プライベートを優先したい、あるいは、家庭の事情がある場合は、その旨を正直に伝えるのがベストです。
「育児・家事とのバランスを重視したい」「介護があるため難しい」という理由であれば、上司も納得しやすいでしょう。ただし、どんな理由であっても、昇進のオファーに対する感謝の気持ちを表すとともに、丁寧な伝え方を心がけることが重要です。
自信・スキルがないと告げる
自信やスキルがないことを理由に、管理職への昇進を断ることも可能です。
ただし、オファーされたということは、会社側は、十分なスキルや能力があると判断したということになります。その経緯を踏まえた上で、自分自身では、具体的にどのような点において、能力やスキルが足りていないと感じているのかを、しっかり伝えるようにしましょう。
業務に専念したい・現状に満足していると告げる
現場の業務に専念したい、あるいは、現状に満足していることを理由に昇進を断るケースもあるでしょう。
このような場合も正直に伝えるのが一番ですが、成長意欲がないと認識されてしまうような伝え方は避けた方が無難です。
例えば、「業務に専念したい」は、自分のキャリアパスを共有しつつ、専門性の高いスキルを磨くため、もっと現場で業務にあたりたいといった風に伝えます。また、「現状に満足している」は、現在の業務に大きなやりがいを感じているなどの伝え方をしましょう。言葉一つの違いで、相手の印象も大きく変わるはずです。
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管理職になるメリット・デメリットを良く理解し最良の選択をしよう
仕事観やライフスタイルが多様化し、会社員であっても、必ずしも出世したいと考える人ばかりではなくなっています。
管理職になりたくない人にとっては、デメリットばかりが目につきますが、管理職になるメリットがあるのも事実です。そのため、メリットとデメリットの両方をよく理解したうえで、管理職になるか否かを選ぶことが重要です。
もちろん管理職にならないという意思は尊重されるべきであり、本人の自由です。しかしながら、社会人のマナーとして、上司からの打診を断る際には、ここで紹介した「円満な断り方」を参考に、ぜひ丁重な対応を心がけてください。
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