インボイス制度は経理に影響する?変更点や求められる対応について

最終更新日時:2023/10/04

経理アウトソーシング

インボイス制度と経費

2023年に導入が予定されているインボイス制度。しかし、実際にどのような対応が必要になるのかわからないという経理担当者の方も多いでしょう。そこで本記事では、インボイス制度による変更点や求められる対応、経理への影響などを解説していきます。

経理に影響するインボイス制度の概要とは?

インボイス制度とは「適格請求書等保存方式」のことです。

経理担当者のなかには、具体的にどのような制度なのか知りたいと考えている方も多いのではないでしょうか。ここではまず、インボイス制度を導入した背景や適用開始時期といった概要について解説します。

インボイス制度の導入背景

インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除に対応した方式のことです。インボイス制度が導入されると、登録番号や適用税率、消費税額などの必要な情報を満たした請求書を発行する必要があります。

このインボイス制度が導入た背景には、消費税率の引き上げと軽減税率の導入が関係しています。2019年10月に消費税が10%になった一方で軽減税率が導入され、8%と10%の2種類の消費税がそれぞれの適用条件に応じて課されるようになりました。

旧制度で採用していた「区分記載請求書等保存方式」の請求書では、どの消費税率を何にかけたのか正確な数値を判別することが難しかったため、適用税率を区分して記載できる「適格請求書等保存方式」を採用することとなったのです。

インボイス制度の適用はいつから?

インボイス制度は、2023年10月1日より適用が開始されます。インボイス制度を利用するためには、適格請求書発行事業者の登録を済ませなければなりません。適格請求書発行事業者として登録する際は、税務署にインボイス発行事業者の登録申請書を送付する必要があります。

また、インボイス制度の適用が開始されると、現行の様式の請求書は使用できなくなります。制度の適用が開始される10月1日までに、適格請求書等保存方式で請求書を作成できるよう、準備を進めておきましょう。

インボイス制度とは?いつから?変更点や対応すべきことについて解説

インボイス制度の導入で経理に求められる対応

インボイス制度を導入するためには、さまざまな手続きが必要になります。インボイス制度をスムーズに導入するためにも、どのような対応をすべきなのか、あらかじめ確認しておきましょう。ここでは、インボイス制度が適用された場合の経理業務について解説します。

適格請求書の発行

適格請求書とは、個人事業主が取引先に対して、正確な税率・税額を伝えるための書類のことです。適格請求書には以下のような項目を記載する必要があります。

  • 適格請求書発行事業者の氏名
  • 適格請求書発行事業者の登録番号
  • 取引年月日
  • 取引内容
  • 適用税率
  • 消費税額
  • 書類の交付を受ける事業者の名称

今まで使用してきた「請求書等保存方式」や、現行の「区分記載請求書等保存方式」では、上記のすべての情報を記載することができません。そのため、新たに適格請求書を作成する必要があります。制度適用開始日までに、請求書や帳簿のフォーマットを変更しておきましょう。

区分記載請求書の項目変更

現行の「区分記載請求書等保存方式」と新制度の「適格請求書」の記載項目には、以下のような違いがあります。

区分記載請求書適格請求書
  • 発行者の氏名/名称
  • 取引年月日
  • 取引内容
  • 取引金額
  • 交付を受ける者の氏名/名称
  • 軽減税率の対象品目であること
  • 税率ごとに合計した対価の額
  • 発行者の氏名/名称
  • 取引年月日
  • 取引内容
  • 取引金額
  • 交付を受ける者の氏名/名称
  • 軽減税率の対象品目であること
  • 税率ごとに合計した対価の額
  • 税率ごとの消費税額と適用税率
  • 登録番号

適格請求書には、「税率ごとの消費税額と適用税率」と「登録番号」が追加されています。これらの情報が記載されていない請求書は、適格格請求書として認められません。新しいフォーマットを用意する際は、上記2つの記載欄の漏れが発生しないよう注意しましょう。

適格請求書発行事業者への登録

インボイス制度に対応するためには、適格請求書発行事業者への登録が必須です。消費税の課税事業者、あるいは課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になった者のみがインボイス制度を利用できます。

適格請求書発行事業者への登録は、2023年3月31日までに済ませる必要がありました。ただし、現在でも登録申請を出すことは可能です。また、制度開始日後に登録申請をする場合でも、登録希望日(提出日から15日以降)を記載すれば、希望した日から登録を受けることができます。

税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、適格請求書発行事業者への登録を済ませましょう。窓口やe-Taxで提出するか、郵送で送るかの3つの方法の中から選択できます。

経過措置期間の把握

インボイス制度の経過措置とは、免税事業者との取引によって課税事業者が受ける負担を軽減するための措置です。

インボイス制度が導入されると、適格請求書発行事業者が発行した適格請求書を用いない限り仕入税額控除を適用させることができません。そのため、適格請求書発行事業者以外と取引をしている企業・個人は、経費計上できなくなる費用が増えて、税金の負担額が増加する恐れがあります。

この負担を軽減させるために、インボイス制度適用開始から6年間は、免税事業者との取引においても一定額を控除できるよう経過措置が設けられています。

  • 2023年10月1日〜2026年9月30日:80%控除
  • 2026年10月1日〜2029年9月30日:50%控除
  • 2029年10月1日〜:控除なし

ただし、経過措置はあくまでインボイス制度が浸透するまでの暫定的な措置です。2029年10月1日には経過措置も終了します。

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インボイス制度が経理に与える影響

インボイス制度が開始されると、経理業務にどのような変化が生じるのでしょうか。ここでは、インボイス制度が経理に与える影響を紹介します。

複雑になる経費精算

インボイス制度が導入されると、適格請求書発行事業者が発行した請求書にしか仕入税額控除が適用されなくなります。

取引先が適格請求書発行事業者なのか、免税事業者なのか、適格請求書を発行してくれているかといった点を確認する必要があります。チェックする項目が増えるため、経費精算業務にかかる負担も増加するでしょう。

また、税金の計算方法も現在の制度と異なるため注意しましょう。現行制度では、請求書の品物ごとに経費精算・端数処理を行えます。しかし、インボイス制度導入後は1インボイスにつき、税率ごとに1回ずつ端数処理をしなければなりません。

さらに、消費税においては従来通りの「割戻し計算」か「積み上げ計算」を選択できるようになります。現在のやり方に比べると経費精算が複雑になるため、適切な対応を取り業務の負担を軽減しましょう。

経理業務を効率化する方法とは?経理業務の課題や事例・効率化させるステップ

必要になる記載事項の確認

現行の「区分記載請求書等保存方式」と新制度の「適格請求書」では、記載が必要となる項目に違いがあります。適格請求書には、「税率ごとの消費税額と適用税率」と「登録番号」を追記しなければなりません。

適格請求書発行事業者との取引の際は、請求書に必要項目が記載されているかどうか必ずチェックしましょう。今まではそこまで厳しく請求書を確認する必要はありませんでしたが、今後は請求書チェックの時間と手間がかかるため、経理業務の負担が増えるものと予想されます。

煩雑化する可能性が高まる経理業務

取引先が多い場合、適格請求書発行事業者だけでなく免税事業者とやり取りすることもあるでしょう。適格請求書発行事業者への支払い費用は経費に計上できますが、免税事業者への支払い費用は経費に算入できません。そのため、それぞれが発行する請求書の規格に応じて経理の計算をする必要があります。

経理業務が頻雑化すれば、経理担当者の業務負担が増加するでしょう。また、スキルや知識のある人に業務が偏ると、業務が属人化するという点にも注意が必要です。業務が属人化してしまうと、他の人では仕事を進められなくなるため、休職や離職が発生した際に経理業務が滞る恐れがあります。

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インボイス制度に上手く対応するためのポイント

インボイス制度適用開始後は、経理業務が頻雑化するおそれがあります。ここでは、インボイス制度にスムーズに対応するためのポイントを3つ紹介します。ポイントをおさえて適切に対応しましょう。

簡易インボイスとの違いを確認する

簡易インボイスは、適格請求書の記載項目を簡易的にさせた書類です。一部の事業者にのみ認められた請求書の規格で、「レシート」や「領収書」などが簡易インボイスに該当します。簡易インボイスを交付できる事業者は以下の通りです。

  • 小売業
  • 飲食業
  • 旅行業
  • 写真業
  • タクシー業
  • 不特定多数と取引する事業
  • 駐車場業(不特定多数を対象に営業している場合のみ)

このような業種においては、請求書を記載する際に以下の項目の省略が可能です。

  • 書類の交付を受ける事業者の氏名/名称
  • 税率ごとに区分した消費税額または、適用税率のいずれかひとつ

簡易インボイスも利用が可能な場合は、適格請求書と簡易インボイス両方の請求書を作成できる環境を整えておきましょう。

事前に新たなルールを整備しておく

インボイス制度が開始されると、取引先に適格請求書発行事業者と免税事業者が混在することとなります。会計処理を分けて行う必要が出るため、経理業務の頻雑化が予想されます。

そのため、事前にどのように対応するかルールを作り、社内で共有しておくことが大切です。必要に応じて、マニュアルを作成しておくとよいでしょう。マニュアルが完備されていれば、インボイス制度に関する知識が乏しい従業員でもスムーズに対応できるようになります。

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インボイス制度に対応できる会計ソフトを導入する

インボイス制度の導入に向けて、会計ソフトを変更するのも方法のひとつです。とくに、クラウド型の会計ソフトであれば、税制度が改正されるたびに自動的に設定が変更され、自社で対応する手間を削減できます。

また、紙媒体で業務を行っている場合、書類の作成や確認にかかる時間が短縮され、浮いた時間をコア業務に回せるようになります。業務の効率化だけでなく、企業の生産性向上も見込めるでしょう。

今後は、電子帳簿保存法も厳格化されます。時代の流れに即して、順次業務のデジタル化を進めておくことが大切です。

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インボイス制度による変更点を押さえて事前に対応しよう

適格請求書は、税金の内容を明確にするための重要な書類です。適格請求書発行事業者の作成した適格請求書でなければ、仕入税額控除を適用することはできません。

今後は適格請求書発行事業者と免税事業者に分けて経理業務を進める必要があり、経費精算業務は頻雑化するでしょう。そのため、会計ソフトの導入や新たなルールの整備などを行いながら、インボイス制度にスムーズに対応できるよう準備を進めておくことが大切です。

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