産休中の給与計算はどうする?手当や支給条件・期間について徹底解説
出産前後に産休を取得しようと考えている方も多くいらっしゃると思います。長い休暇が取れる利点がある反面、給与が発生しないという問題があります。産休中に受給可能な手当金について知っておきたいという方に向けた記事となっているので、ぜひ参考にしてみてください。
監修者 天野 美由紀 天野社会保険労務士事務所 代表 会計事務所、中小企業の総務経理部門の総責任者を経て、在職中に社会保険労務士資格を取得し独立開業に至る。 会社員時代にメンタル不調で退職せざるを得ない事象を幾度か経験し、職場環境がいかに重要であるか痛感する。1日の大半を過ごす場所でもあるため、人材の定着を重視し、働く環境を整えるサポートに注力している。また実務の経験を活かし、会計や税務を含めた多角度からの役員及び従業員の退職金制度設計や賃金制度設計、社会保険料最適化のプランを提供している。
目次
給与計算における産休とは?
労働をしたことで支払われる給料は、毎月の給与計算によっていくら支払われるのかが算出されます。
給与計算と一言にまとめても、計算されるのは労働時間に見合った日給や時給の金額だけではありません。従業員ごとに計算される保険料や手当などはもちろんながら、労働しない休日についても給与計算には関わってきます。
従業員によっては産休に入った場合の給与計算は通常時とは異なります。どのような支給内容になるのか解説していきます。
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産休の期間
そもそも産休とはいつまでを示すのでしょうか。産休とは、出産の準備期間である産前休業から、産後回復するまでの産後休業の期間を合わせた休暇期間が産休として含まれます。
基本的には、出産予定日の6週間前から、出産後の8週間までが産休となります。
しかし、産前休業は任意での取得ができるようになっているので、出産予定日の6週間前から産休に入るための開始日を自由に決めることができます。
ただ注意が必要なのが、産後8週間の休みについては、法律で決められているため変更ができないという点です。
8週間は必ず休むことが決められているため、8週間経っていないのに職場へ復帰するということはできません。また、産後休業を延ばすこともできないため気を付ける必要があります。
産休の条件
産休を取るための条件は特に規定がありません。企業に勤めている妊婦の方は、誰でも産休をとることができます。
職業形態がアルバイトやパートでも産休は取れます。雇用形態や就業期間などは産休を取るための条件には関係しないので心配ありません。
産休の取得方法
産後休業のほうは義務となっているので、取得のために必ず申請しなければならない、といった決まりはありません。
しかし、産前休業をとるためには会社側へ申請をする必要があります。
出産予定日の6週間前に申請することが望ましいですが、突然体調が崩れる可能性や人事の変更などを見越して、余裕をもっての申請をしておくことをおすすめします。
また、産前休業を申請する時には、産後休業の同時申請も行うことができるので、申請を一緒に済ませておくと手間をはぶくことができます。手続き内容は企業によって細かく決められているため、事前に申請方法を確認しておきましょう。
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産休中は原則給与が支払われない
原則として産休中・育休中には給与が支払われることはありません。会社によっては金銭的なサポートが定められているケースがあるものの、全体としてはごく少数です。
なお、公務員の場合は産休中は有給休暇の扱いとなるので、給料が通常とおり支払われます。産休の期間にボーナスが発生する月がある場合も欠勤減率が適用されることはないため、ボーナスも含めた給与が支給されます。
これ以外にも、公務員は共済組合から出産費や出産費附加金が支払われます。自治体にもよりますが、出産祝い金が支給される場所もあります。
ただし、公務員は一般企業で受け取ることのできる出産手当金の支給がされません。共済組合からも出産手当金の制度が設けられていますが、こちらは会社からの手当金が出ないことを支給条件とされています。
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産休中の社会保険の扱い
毎月の給与計算では、従業員へ支給される金額の中から差し引かれる控除として、社会保険料が含まれています。
産休中の給与が支払われていない時に社会保険料が差し引かれると、給料自体がマイナスになってしまうため、産休中の社会保険料は免除の扱いとされます。
免除期間は、産休に入った月から産休終了予定日の翌日の月から前月までです。ただし、免除になっているからといって被保険者資格がなくなるわけではないので心配はありません。
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産休中の住民税の扱いは?
控除の中に含まれるのは社会保険料だけではなく住民税も同じです。
毎月の給与から差し引かれるものですが、住民税の場合は前年度の収入をもとにして計算されるので、産休中でも引き続き控除として差し引かれていきます。
通常は給与から差し引かれ、会社に住民税を納付してもらう特別徴収という方法ですが、産前休業に入る時は個人で住民税を納付する普通徴収に切り替えることもできます。
普通徴収に切り替えることで自分の好きな時に住民税を納付できるため、納付期限までであれば、資金に余裕がある時に納めることができます。
給与計算における産休中の手当
給与が支払われない産休中では、手当金が給与の代わりとなる収入源です。
しかし、手当金はそれぞれ金額や支給の時期が変わってくるので、それぞれの手当金の内容について事前に把握しておきましょう。
手当金はどれだけもらうことができるのか確認しておくことで産休に入る時でも慌てずに対処できます。手当の内容や振り込み時期などを紹介していくので、産休の際に活用してください。
出産育児一時金
出産育児一時金は公的医療保険から支払われ、出産時に支給されます。
子ども1人につき50万円の手当金が支払われ、振り込みが行われるのは、出産育児一時金を申請してから1か月から2か月後になります。(産科医療保証制度未加入の医療機関の場合には子ども1人あたり48.8万円)
出産育児一時金の中には、三つの支払い方法があり、以下の方法が設けられています。
- 直接支払制度
- 受取代理制度
- 産後申請
受取代理制度の申請は、出産予定日の2か月前までに行わなければいけないので、申請期限を間違えないようにしましょう。
直接支払制度は、医療機関が公的医療保険に直接申請を行う方法になっており、受取代理制度は医療機関の代わりに自分が申請手続きを行います。
産後申請の場合は出産にかかる医療費をすべて自分で支払った後、公的医療保険に後から請求する方法です。出産育児一時金の申請期限は出産した翌日から2年間と定められているので、申請忘れがないようにしましょう。
出産育児一時金については、ほとんどの病院が直接申請を行ってくれますので、申請を忘れるケースは少ないでしょう。ただ出産手当金は申請用紙に病院の証明が必要になりますので事前に準備して入院時に持参できるようにしておくとよいと思います。
出産手当金
出産手当金も出産育児一時金と同様に公的医療保険から支給されます。出産手当金でもらえる金額の計算方法は以下のとおりです。
支給の開始日以前の12か月間の各標準報酬月額の平均額÷30日×(2/3)
これをもとにして算出された金額が、出産予定日の42日前から産後の56日まで支給されます。
出産手当金は出産に伴って収入が中断する人に対するための制度であるため、女性にしか支給されません。配偶者となる男性には支給されないため注意しておきましょう。
育児休業給付金
育児休業給付金は雇用保険から支給がされます。
育児休業給付金は産休中ではなく、育児休業中に受け取ることができる手当金なので、産休中には受け取ることができません。
もらえる金額の計算方法としては次のとおりです。
休業開始時賃金日額×支給日数×67%
育休中に支給されるので、産後58日後から赤ちゃんが1歳になるまでの間が支給期間となります。
児童手当
児童手当も育児休業給付金と同じで産休中ではなく育休中に支給される手当金で、0歳から中学校卒業までの児童を養育している親へ支給されます。
児童手当を受け取るための申請方法は、子供が生まれた際に住民票のある市町村へ認定請求書を提出する必要があります。もし別の市町村へ引っ越した際は、15日以内に手続きを済ませなければ受給できなくなるので注意してください。
また、児童手当の受給を続けるためには、毎年6月に現況届を提出しなければいけません。この提出を忘れてしまうと支給されなくなるので、申請を忘れないようにしましょう。
産休中の給与計算の方法
産休に入っていると労働時間に伴った給与の支払いは行われませんが、住民税などの控除が行われるので給与計算は行う必要があります。
産休に入ったことで受給できる手当金があるので、その金額の計算をします。
産休に入った月の給与計算
産休に入ると健康保険料や介護保険料、厚生年金保険料や雇用保険料といったものが免除されるため、総支給額から差し引かれるのは住民税だけとなります。
産休に入ってからの給与計算は以下のとおりです。
- 総支給額=基本給+各種手当-欠勤控除
- 支給額=総支給額-控除額(住民税のみ)
産休が終了した月の給与計算方法
産休が終了した月の給与計算の方法も、産休に入った月の計算方法と同じです。保険料も免除制度が適用されているので、この制度が終わるまでは保険料の控除は行われません。
産休中の給与計算の方法で注意する点は、産休に入る月と復帰する月です。社会保険料の免除開始と免除終了が何月分からなのか、また当月控除なのか翌月控除なのかにより、それぞれ免除と再開のタイミングが異なりますのでご注意ください。
パート・派遣の産休手当は?
雇用形態に関わらず産休を取ることはできますが、産休中にもらえる手当がパートや派遣社員ももらえるのか疑問に思う所でしょう。
出産手当などは雇用形態によってもらえるのかどうか、詳細について触れていきます。
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出産手当金
出産手当金は産休に入る誰もが取得できるものとして労働基準法によって定められているため、パートや派遣社員の方も手当の受給ができます。
ただ、出産手当金が受給されるかは、健康保険の被保険者として加入しているかどうかで決まります。配偶者の扶養に入っていることで会社の健康保険に加入していない場合は、出産手当金は支給対象外です。
育児休業給付金
育休中に支給される育児休業給付金もパートや派遣社員といった雇用形態の場合でも、受給の条件を満たすことで支給することができます。
受給条件とは以下の通りです。
- 同じ会社で一年以上の雇用がされている。
- 育休が終了した後、引き続き雇用が見込まれている。
- 子供が1歳6ヵ月までの間に労働契約が満了しないこと。
この条件を満たしていることで育児休業給付金を受給できます。
従業員側は育休後に職場へ復帰することが育休取得のための前提条件となっているので、育休後に退職を決めている場合は育休を取得できません。
会社によっては産休や育休の取得者の前例がないことで、人事担当者が制度を正しく理解できていないことがあります。その際は最寄りのハローワークや健康保険組合へ問い合わせて、制度の確認を取ってみましょう。
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産休中は手当金をもらうための申請を忘れずに行おう
産休を取っている間は給与が発生しないため、家計にも大きな影響が出てしまいます。給与の代わりに受給できる手当金を得ることで、産休や育休の期間の資金を手に入れることができます。
手当金は申請手続きや申請のための条件が設けられているので、手当金をもらう前に申請内容について把握してから手続きを行いましょう。
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一部の企業を除き、産休中は労働をしていないので、ほとんどの企業では給与が支払われません。ただ収入減に対する一定額を補填する公的な制度がありますので、安心して出産を迎えるために事前に手続を調べておきましょう。