最低賃金とは?形態別の給与計算方法や違反していないか確認する方法を解説
厚生労働省で紹介されている全国の最低賃金は時間単価なので、時給制以外の給与形態では最低賃金の計算が必要です。日給制や月給制における最低賃金の正しい計算方法の解説だけでなく、最低賃金法に違反した場合にどのような処罰等があるのかなどを詳細を解説します。
監修者 天野 美由紀 天野社会保険労務士事務所 代表 会計事務所、中小企業の総務経理部門の総責任者を経て、在職中に社会保険労務士資格を取得し独立開業に至る。 会社員時代にメンタル不調で退職せざるを得ない事象を幾度か経験し、職場環境がいかに重要であるか痛感する。1日の大半を過ごす場所でもあるため、人材の定着を重視し、働く環境を整えるサポートに注力している。また実務の経験を活かし、会計や税務を含めた多角度からの役員及び従業員の退職金制度設計や賃金制度設計、社会保険料最適化のプランを提供している。
目次
最低賃金とは
地域ごとに定められている最低賃金は、最低賃金制度という最低賃金法に基づいてその金額が決められています。これによって決められた賃金以上の金額を支払わなければいけないことが法律で定められています。
仮にこの最低賃金以下の金額で給与の支払いが行われると、足りていない差額分を後から支払う必要があります。給与形態によって変わる最低賃金の計算方法にも解説するので、参考にしてください。
地域別最低賃金
最低賃金の中には二種類あります。まず地域別最低賃金は、各都道府県で働いているすべての従業員と会社に適用されるものです。
正社員や派遣社員、パートやアルバイトといった雇用形態に関わらず、すべての方が同じ地域別最低賃金を定められます。
特定最低賃金
もう一つの特定最低賃金は、すべての会社ではなく、特定の産業にのみ設定されている最低賃金です。基幹的労働者を対象とされており、地域別最低賃金よりも高い金額水準で最低賃金を決めるようになっています。
特定最低賃金は、特定の産業の中でも適用されない場合もあるため注意が必要です。事前に特定最低賃金が適用されるかどうかを確認してから最低賃金の計算を行うようにしましょう。
適用されない条件として、18歳未満または65歳以上で、雇入れ後に一定期間未満の技能習得中、もしくはその他の該当産業に特有の軽易な業務に従事している場合は、特定最低賃金の適用外です。
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最低賃金の給与計算方法(形態別)
雇用形態を問わず決められている最低賃金は、賃金の支払い方は雇用形態によって日給制や月給制などの種類があります。
この賃金の支払い方法によって、最低賃金を計算する仕方も変わってきます。計算には労働時間を使用するので、日頃からの勤怠管理をしっかり行っておきましょう。
日給制
まずは日給制からの紹介をしていきます。日給制は一日単位での賃金が定められており、一日の所定労働時間から時給を割り出せるようになっています。
特定最低賃金が日額の設定で適用されている際には、日給自体を特定最低賃金と比較もできます。最初に、産業別に設けられている特定最低賃金が日額何円で設定されているのかを確認しましょう。
特定最低賃金の計算方法は次のとおりです。
日額の特定最低賃金 ÷ 一日の労働時間 = 時給
この計算式で日額の特定最低賃金の時給を把握できるので、算出できた時給が地域別最低賃金よりも下であれば、地域別最低賃金を適用して給与の支払いが行われます。
地域別最低賃金で日給の計算をする時は次の式で日給を算出していきます。
地域別最低賃金 × 一日の労働時間 = 日給
この計算で自分の日給を把握できます。ただし、時給が地域別最低賃金よりも上の場合は、こちらの式で計算する必要はありません。
また、特定最低賃金が設けられていない場合は、地域別最低賃金からそのまま日給を算出してください。
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月給制
給与の支払いが月給制になると、給与の内訳には従業員ごとに支払われる各種手当が付与されます。まずは支給される給与の中から、最低賃金の対象にならない手当などを除いていく必要があります。
通勤手当や時間外手当などは、一人一人の従業員によって金額に差異が発生する手当となるので、主に基本給や職務手当などが最低賃金の対象です。
仮定として、基本給を150,000円、職務手当を30,000円、年間の所定労働日数を250日とします。
これによって、最低賃金の対象となっている金額は180,000円となり、時給換算した計算式が以下になります。
(180,000×12か月)÷(250日×8時間)=1,080
こうして算出された時給が特定最低賃金よりも上であれば、最低賃金額以上の給与が支払われていることが分かります。
完全歩合制
労働時間に応じて賃金の支払いが行われる日給制や月給制の固定給とは違い、仕事の出来高や業績に応じた賃金の支払いがされるのが歩合給です。完全歩合制ではこの歩合給のみの賃金支払いがされます。
完全歩合制は個人事業主以外用いることができないので、通常の従業員には完全歩合制が適用されないため注意してください。もし従業員に完全歩合制を適用してしまうと、労働基準法違反にあたるので気を付けましょう。
完全歩合制で最低賃金の対象とされるのは、歩合給として支払われている賃金のみなので、計算も月給制のようにややこしくはありません。
完全歩合制の最低賃金の計算方法は以下の通りです。
歩合給 ÷(1か月の所定労働時間+時間外労働)= 時給
これによって算出された時給が地域別最低賃金や特定最低賃金よりも下だと、最低賃金法の規定に違反していることになります。金額が決められた最低賃金より下なら、金額が高い方の最低賃金の設定を適用します。
仮に最低賃金が800円、特定最低賃金が900円、算出された時給が750円であった場合は、特定最低賃金のほうが適用されます。
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複数の給与形態
会社によっては、給与形態が複数のものを組み合わせている場所があります。複数の給与形態を取っている場合の最低賃金の算出方法を紹介していきます。
日給×月給
まずは日給と月給の場合です。日給と月給の最低賃金の対象となる基本給が分かれば計算はしやすくなります。月給の基本給から、最低賃金の対象外になっている項目を事前にはぶいておくことで計算も簡単に進められます。
日給と月給を組み合わせた時の給与形態による計算方法は次のとおりです。
- 日給の基本給 ÷ 8時間 = 時給A
- (月給の最低賃金対象の手当額×12か月)÷(年間所定労働日数×8時間)= 時給B
- 時給A + 時給B = 最低賃金
日給と月給の時給をそれぞれ算出し、最終的に2つの時給を足した金額が最終的な時給となります。
固定給×歩合給
固定給と歩合給で給与形態が決まっている場合、まずは月の総支給額の中から、固定給と歩合給がそれぞれ何円かを把握しましょう。
会社で決められている一か月の平均所定労働時間と、時間外労働も用いて以下のような計算式で最低賃金の算出をしていきます。
- 固定給 ÷ 1か月の平均所定労働時間 = 時給A
- 歩合給 ÷(1か月の平均所定労働時間+時間外労働)= 時給B
- 時給A + 時給B = 最低賃金
最後の計算式は日給と月給の時と同様で、固定給と歩合給で算出した時給を足して最低賃金を出します。
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給与計算における最低賃金に関する注意点
最低賃金法によって賃金の最低限度が定められ、最低賃金の金額が決められています。雇用主側と従業員側双方が最低賃金を把握していないと、きちんと最低賃金以上の金額が支払われてるか、判断がつきません。
地域別最低賃金と特定最低賃金の金額を把握したうえで、給与の金額を決めるようにしましょう。もし最低賃金を下回ったままの給与で支払いが続けられると、法律違反となってしまいます。
最低賃金の確認方法として、厚生労働省が発表している地域別最低賃金の全国一覧を閲覧することで、全国の最低賃金を把握できます。注意してほしいのは、最低賃金がすべて時間単価で設定されているという点です。
時給制での賃金支払いであれば、給与との比較もしやすく、最低賃金以上の支払いがおこなわれているかの確認もやりやすいです。
ただ、日給制や月給制などは、時間単価に換算してからでないと、最低賃金との比較ができません。時給制以外の給与形態である時は、これまでに紹介した計算方法で、時間単価を算出しましょう。
最低賃金法の適用除外
最低賃金は全国に設けられていますが、最低賃金法の適用除外となる方もいます。次の条件に当てはまる方は、労働能力やその他の事情を考慮することによって、厚生労働省令で定める率を最低賃金額に乗じ、減額した額が適用されます。
最低賃金法の適用除外にあてはまる方と一般の労働者を同じ最低賃金にしてしまうと、事業主が新しい従業員の雇用ができなくなる場合があります。
そうしたことを防ぐために、この適用除外の制度が設けられています。
- 精神又は身体障害によって著しく労働能力の低い方
- 試用期間中の方
- 職業能力開発促進法に基づいた職業訓練を受ける者のうち、一定の方
- 所定労働時間が特に短い方
- 軽易な業務に従事している方
- 断続的労働に従事している方
1の条件の対象者は、あくまでも精神や身体障害が原因となっている方なので、本人の不器用さによって労働能力が低いという方は、最低賃金の適用除外にはあてはまりません。
2の試用期間についてですが、会社の就業規則や労働契約に試用期間について何か定められていないと、適用除外の許可を与えられないため注意が必要です。
4の条件は少し分かりにくいかもしれませんが、所定労働時間が特に短いというのは、その会社の一般労働者の所定労働時間の3分の2以下があてはまります。
3分の2以下となっている方が該当するため、適用除外となるかどうか従業員の労働時間の確認をしておきましょう。
最低賃金の対象外
減額制度となる適用除外の他にも、最低賃金には対象にはならない賃金があります。対象外となる賃金はいくつか種類があり、次のものが最低賃金の対象外となります。
- 臨時で支払われた賃金
- 1か月を超えた期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超えた時間の労働に対して支払われている賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外に労働した時に支払われる賃金(休日割増賃金など) 午後10時か午前5時までの期間の労働に支払われる賃金のうちで、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当や通勤手当、および家族手当
まずは従業員と賃金について、それぞれ対象となるのかならないのか、きちんと判断出来ているかがポイントになります。対象とならない賃金でも、やや細かい決まりがあることもあります。判断が難しい場合は専門家にご相談することをおすすめします。
最低賃金制度を違反した場合
勤め先が設定している賃金だからといって、最低賃金以上の金額がきちんと支払われていることにはなりません。
故意ではなくとも、最低賃金法に違反してしまっている可能性はあるため、自分で最低賃金以上の給料が支払われているかを確認をしておくことで、法律違反をしていないことを明確にできます。
もし会社側が最低賃金法に違反している場合は、すぐに差額分を従業員へ支払わなければいけません。最低賃金を下回っていることで発生した差額分の支払い義務が生じるのは、最大で過去5年分です。(当分の間は3年)
最大で過去5年分と決められている理由は、労働基準法によって賃金請求権の消滅時効時間が5年となっているためです。(当分の間は3年)この差額分が支払われず、最低賃金額に満たない給与しか支給されていない場合は、最低賃金法に則った罰則が課せられます。
罰則の内容は、地域別最低賃金額が支払われない際は50万円以下の罰金、特定最低賃金額以上の賃金額が支払われない際は30万円以下の罰金となっています。
違反してしまった場合は罰金のみならず、様々なリスクが発生します。行政指導の対象となったり、未払賃金請求を受けたりします。賃金請求権の消滅時効が延びたこともあり過去の請求分も多額になるケースもあります。うっかりでは済まされませんのでご注意ください。
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最低賃金を理解して正しく給与計算をしよう
最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があります。今回紹介した計算方法を活用することで、企業が設定した給料が最低賃金を下回っているか確認できます。
給料が最低賃金を下回っていると最低賃金法に違反していることになるため、給料を支払われた時に一度計算してみてください。
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「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があり、両方適用される場合は高い方の最低賃金となります。この最低賃金より低い時給で支払いをしていると罰則の対象となり、会社にとってはリスクしかありません。毎年10月1日に変更されますので必ず確認するようにしましょう。