MRRとは?SaaSビジネスの重要KPIとなる理由や計算方法を解説
SaaSビジネスにおいてMRRという言葉がよく使われています。MRRは重要な指標のため、企業を分析するためにも理解しておくことが必要です。本記事では、MRRとは何を表しているのか、SaaSビジネスの重要KPIとなる理由や計算方法とあわせて解説します。
目次
MRRについて
まずは、MRRの概要と計算方法について具体的に解説していきます。
MRRとは?
MRR(Monthly Recurring Revenue)は、日本語で「月間経常収益」と呼ばれます。MMRを一言で表現するなら、「毎月繰り返し得られる収益」のことです。そのため、初期費用や追加購入といった、一時的に発生する売上は含みません。
サブスクリプションサービスの普及にともない、ユーザーの定期的な支払いが売上全体に大きな影響を与えるようになりました。そうした背景もあることから、MMRは事業の安定性や成長率を見る上で重要な指標と言えます。
サブスクリプションサービスの規模は2020年度は8,692億4,400万円、2021年度は9,615億5,000万円と拡大を続けており、今後も成長し続けると予測されています。そのため、SaaSビジネスを展開する企業の事業分析をする上で、MRRの重要性は今後も増していくと予想されます。
[出典:日本経済新聞社「矢野経済研究所、サブスクリプションサービス市場に関する調査の結果を発表」]
MRRの計算方法
MRRは顧客あたりの平均収益に顧客の総数をかけることで算出できます。式で表すと以下のとおりです。
- MRR = 平均月額料金 × 顧客数
また、契約期間が異なる場合は、以下のように契約月数で割ることで、月額になおして算出できます。
- MRR = 月額利用料 × 顧客数 ÷ 契約月数
その他にも、前月のMRRを基準とし、増収分を足して、減収分を差し引くという方法もあります。
- MRR = 前月MRR + (New MRR + Expansion MRR) - (Downgrade MRR + Chum MRR)
New MRRとExpansion MRRは、前月と比べた増収分の数値です。Downgrade MRRとChum MRRは、前月に比べて減収した数値になります。
それぞれの意味について、次項で詳しく解説していきましょう。
▷SaaSビジネスにおける重要指標となる主要KPIとは?計算式も解説
MRRの種類
先に触れた通り、MRRは大きく分けて4種類に分けられます。
- New MRR
- Downgrade MRR
- Expansion MRR
- Churn MRR
いずれもSaaSビジネスの成長性を分析する上で、重要な指標となっています。以下、一つずつ解説していきます。
New MRR
New MRRとは、新規顧客から得られるMRRのことです。たとえば、ある月に新規顧客5人が月額1,000円のサービスの利用を開始した場合、New MRRは5,000円になります。
New MRRは事業の成長性を判断するための指標として用いられます。そのため、新規事業やサービス開始初期といった、新規顧客が急速に増える時期に特に重要です。
また、New MRRは新規顧客獲得のための費用対効果の検証にも利用されます。たとえば、広告を使って宣伝をおこなった際に、獲得した新規顧客と広告費を比べることで、投資対効果を見ることができます。
Downgrade MRR
Downgrade MRRとは、下位プランにダウングレードするなどして、月々の取引額が低下した顧客のMRRのことです。
Downgrade MRRでは減少分を計上します。たとえば、先月10,000円のプランに加入していた顧客10人が7,000円の下位プランに変更した場合、Downgrade MRRは30,000円です。そのため、Downgrade MRRの値が低いほど収益性が高いと言えます。
Expansion MRR
Expansion MRRとは、上位プランに変更するなどして、月々の取引額が増加した顧客のMRRです。
Expansion MRRは増額分を計上します。たとえば、先月6,000円のプランに加入していた顧客10人が10,000円の上位プランに変更した場合、Expansion MRRは40,000円です。
Expansion MRRが増加するということは、多くの顧客がサービスで成功体験を獲得できたと考えられます。そのため、Expansion MRRはカスタマーサクセスを見る上で重要な指標となります。
Churn MRR
Churn MRRは、当月に解約をした顧客のMRRのことです。解約MRRとも呼ばれています。Churn MRRが高いほど、解約による売上の低下が大きいと言えます。
継続的な利用が前提となっているサブスクリプションサービスなどでは、解約率の上昇は極めて深刻です。そのため、Churn MRRの値が高い場合は、早急な対策が必要となります。
MRRとARRの違い
MRRと似た用語として、ARRがあります。両者における大きな違いは、「対象とする期間」です。ARRはAnnual Recurring Revenueの略称で、日本語では「年次経常収益」と訳されます。
SaaSビジネスのようなBtoCのビジネスモデルでは、月単位での契約が一般的です。対して、BtoBの場合は年間契約が多いため、ARRが用いられます。自社のサービス形態に応じて、ARRとMRRを適切に使いわける必要があります。
▷ARRとは?SaaSビジネスにおいて重要な理由や正しい計算方法を解説
MRRがSaaSビジネスで重要KPIとなる理由
SaaSビジネスにおいて、なぜMRRが重要なKPIとなるのでしょうか。その理由を3つご紹介します。
企業評価の基準となるため
MRRは企業の価値を測るための基準となります。SaaS型のビジネスモデルでは、MRRが事業の状態を表す指標となるからです。
MRRはNew MRR、Downgrade MRR、Expansion MRR、Churn MRRと4つの種類がありますが、事業の段階に応じて注目される指標は異なります。
新事業の立ち上げ時などは、成長性を見るためにNew MRRが重要です。事業が成熟すると、Downgrade MRR、Expansion MRR、Churn MRRが注目されるようになります。
MMRは投資家にとって重要な判断材料となるため、資金調達を必要とするSaaS企業にとっては、さらに重要なものとなるでしょう。
予測に役立つため
MRRの数値は事業の将来を予測する上で役に立ちます。SaaSビジネスのような定額のサービスは、毎月の売上が安定するという特徴があります。
そのため、現在のMMRの数値から、将来的な売上予測が可能です。このような予測は事業計画、キャッシュフローの予測などに活用できます。
成長度合いを把握するため
MRRを利用することで、事業の成長性を把握できるようになります。MRRは月ごとの推移を確認できるため、事業の成長過程を確認するのに役立ちます。
特に、New MRRやExpansion MRRは成長の加速度が可視化できるので、注目されやすい数字です。事業の成長性は投資家がまず注目する数値なので、特に注意を払うべきでしょう。
MRRが活用される場面
MRRが活用される場面を具体的に2つご紹介します。
企業分析の指標
MRRは企業の成長性を把握するための指標なので、企業分析の際にも有用です。
また、ビジネス成長の健全性を示すSaaS Quick RatioというKPIの算出にも、MRRが利用されます。SaaS Quick Ratioの計算式は以下のとおりです。
- SaaS Quick Ratio = (New MRR + Expansion MRR) ÷ (Downgrade MRR + Churn MRR)
このように、SaaS Quick Ratioは増収分(New MRR + Expansion MRR)と減収分(Downgrade MRR + Churn MRR)の比率を表しています。SaaS Quick Ratioの目安は以下のとおりです。
1未満 | 成長性が低く、ビジネスが縮小中 |
---|---|
1以上〜4未満 | ゆるやかに成長しているが、縮小する危険がある |
4以上 | 好調に成長している |
MRRは減収分が大きくても、増収分が損失をカバーしてしまうため、不健全な状態に気づけない可能性があります。対して、SaaS Quick Ratioは増収分と減収分の比率で表されるため、ビジネスの健全性を確認できます。
このように、企業分析のためにMRRは幅広く利用されているのです。
投資家の判断材料
MRRは投資家の判断基準としても利用されます。投資の判断基準として、投資家は「成長性」「効率性」「継続性」の3つの視点から分析をおこないます。
MRRはこの中の「成長性」を見るための指標です。それまでの企業の成長過程と、これからの成長予測を見る上で、MRRは欠かせない要素なのです。
ただし、前述の通り企業の成長段階によって、投資家が重視する指標は変わってきます。事業の立ち上げ時は新規顧客の増加の指標となるNew MRRが注目され、事業が安定期に入ると、顧客ロイヤリティの計測指標ともなり得るExpansion MRR、Downgrade MRR、Churn MRRが注目されるようになります。
また健全性を評価する際にはSaaS Quick Ratioも有効なため、SaaSビジネスの拡大に伴い、投資の上でMRRは無視できない要素になっています。
各MRRを向上させるためのポイント
4つのMRRは、それぞれ向上させるアプローチが異なります。押さえておくべきポイントを解説します。
New MRRのポイント
New MRRを向上させるには、新規顧客の増加のためにマーケティング・セールスの施策を講じます。方法として、ターゲット層の再検討、新しい媒体での広告活動、などが考えられるでしょう。
また、広告活動だけでなく、オウンドメディアを構築したり、プレスリリースを積極的に配信するなど、潜在的な顧客にリーチする方法は数多くあります。効果的な施策をおこなうことで、新規顧客獲得にかかる費用を抑えつつ、New MRRの増加が可能です。
Downgrade MRRのポイント
Downgrade MRRを改善するためには、下位プランに移行する顧客を抑える必要があります。
下位プランに移行する原因はさまざまですが、上位プランで十分なカスタマーサクセスが得られなかったことが考えられます。そのため、サービスの質の向上を目指しましょう。
ヒアリングやユーザーの行動分析などを通して、ユーザーがサービスを使いこなせるようにオンボーディングを実施したり、ユーザーサポートを強化する、などの方法が有効です。
Expansion MRRのポイント
Expansion MRRを向上させるためには、アップセル・クロスセルを促進する必要があります。
アップセルは顧客が上位プランに移行すること、クロスセルは現在のプランに加えて新しく商品を購入したり、サービスを利用することです。
アップセル・クロスセルを促進するには、顧客ロイヤリティの向上が重要です。顧客ロイヤリティを向上させる方法には、ヒアリング、顧客体験(CX)の向上、優良顧客の優遇、といったものがあります。
また、上位プランを利用することに対して「お得感」を出すことも有効です。下位プランと上位プランの差額分以上のメリットを提供し、そのメリットを顧客にアピールしましょう。
Churn MRRのポイント
Churn MRRを改善するためには、サービスの問題を発見し改善に努めなくてはいけません。問題点の発見には、解約した顧客へのアンケートが有効です。
たとえば、解約理由が「使い方がむずかしい、わからない」といったものであれば、オンボーディングを実施したり、ユーザーが理解しやすいデザインにしなければなりません。
ユーザーが「他によいサービスがあった」ために解約した場合には、競合他社と差がつけられている可能性があります。類似サービスを調査し、自社サービス改善の参考にしましょう。
MRR活用の注意点
MRRを活用する上で、見落としがちな注意点がいくつかあります。
1つ目は、「定額サービスでもユーザーや期間によって金額に変動がある」という点です。たとえば、初月無料や初年度割引といったキャンペーンをおこなった場合は、ユーザーごとにバラつきがでます。
この場合は、実際の請求額で計算する必要があります。また、将来予測はキャンペーン終了後の支払料金を加味するなどの調整が必要になるでしょう。
2つ目は、「一時的な売上はMRRの計算に含めない」という点です。MRRは継続的な支払いに注目するものなので、初期費用や追加での購入など継続性が期待できない売上は明確に分けるようにしましょう。
3つ目は、「実際の支払い日時に注意する」という点です。利用者からの支払いが遅れてしまった場合は、実際の支払いが翌月になる場合があります。このようなケースでも、継続的な支払いが期待される場合は、その月の売上として計上することが一般的です。
MRRは継続的な売上の指標となるため、実際の会計収益とは考え方が異なるという点を忘れないようにしましょう。
MRRはSaaSビジネスにおいて重要な評価指標
定額サービスが一般的なSaaSビジネスでは、MRRは事業の分析・予測のために重要な指標です。これまでの事業の成長過程、これからの将来予測、ビジネスの健全性など、MRRから得られる情報は数多くあります。
また、経営戦略、投資の判断など、MRRは幅広い場面で利用されています。サブスクリプションサービスのようなビジネスモデルは今後も拡大すると予想されるので、MRRについてしっかりと理解を深めておきましょう。
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